助けた女の子に「責任を取りなさい」と迫られてる件 作:萩月輝夜
エリカ達が意気消沈し憤りを見せる中、原作通り呂剛虎がジロー・マーシャルを始末している同時刻。
「ちょ、周さん…この人は?」
「此方の方は私の…先生です。厳つい見た目ですが心配ありませんよ?意外にも優しい人ですので」
夕刻。
都内近郊の喫茶店にてビクビクする一人の少女…第一高校の制服を着用する平河千秋を囲むように周公瑾と白スーツの男が奥の席で会話をしていた。自己紹介を受けた男は目深に被った帽子の下から見える口元は苦笑に変わっていた。
「意外は余計だ周。もう少しマトモな説明は出来んのかお前…」
そう告げる白スーツ姿の男を見る千秋は周が告げた言葉はあながち間違っていないのだろうと判断するのは彼のテーブルの前に置かれたオーダーされたスイーツの数々を見たからだ。周は薄く笑みを浮かべているだけだ。
注文したパンケーキやアイスクリームが添えられたワッフルを豪快に且つ、丁寧に食べる様は彼の性格を表しているだろう。千秋の視線に気が付いたのかワッフルを切っていたナイフの手を止めた。
「ん?何だ食わんのか?ただでさえお前さんは薄くて細いんだからもっと食わないといかんぞ」
「お、大きなお世話よっ」
多少気にしていることを指摘され声を大きくする千秋。
しかし、ここに来たのはただスイーツを食しに来たわけではなかった。
「千秋さん。これを渡しておきます」
「これは…」
テーブルの上に置かれたのは端末のような機械、無線式のパスワードブレイカーと手首に巻き付き装着…ダーツ弾を放つ暗器があった。
「貴女が為すべき事をするために必要なものです。お受け取り下さい」
「…司波、達也…!」
おずおずと手を伸ばしそれを受けとる千秋。心に沸々と沸き上がる泥々とした執念が彼女を狂気へ突き動かす。
事の発端は九校戦での出来事が関係していた。
大会運営の中にCADを細工していた人物がいてそれに姉が担当する選手のCADが仕込まれてしまった、と。
同時に、姉である小春が本来メンバーに入る予定だったのにそれを姉は自分と同じ二科生である司波達也へ譲ったのはきっと不正プログラムを見抜けなかった事を嘲笑い蔑まれた姉を脅して手に入れた立場…「お前は担当選手のCADの不調を見抜けなかった一科生…」と告げ司波達也は自分の威光を高めようとしているのだ、と
「ふむ、それなら…君にこれらを渡しておこう。君の微々たる魔法力でも扱える特性の”呪符”だ。一度きりの使い捨てに成る。ここぞ、という時に使うが良い。それと…これを」
(これは…一体なに?)
差し出された一枚の呪符。そこに描かれている文字や絵は良く見えない…が古式魔法に疎い千秋であってもこの呪符はとてつもなく強いものだと感じておりそれから放たれる禍々しいオーラは威圧感を与える。そして宝石箱に納められた光輝く青い宝石は魔工師を目指す千秋なら理解できた…これは凄まじいエネルギーを放つものだと。
「ふ、ふふふ…あ、ありがとうございました。周さん、帽子のおじさん」
「精々頑張るんだな。小娘」
禍々しいオーラは彼女の心を完全に飲み込んでしまった様で先程のおどおどした雰囲気はどこかへ行ってしまった。
手渡された道具を受けとり不気味な笑いを浮かべ千秋は礼を告げて喫茶店を出ていく。
「しかし…良かったのですか?あれをお渡しして」
先程男が手渡した呪符…カードは知るものからすればとてつもない能力を記すものだった。
「構わんさ。あの小娘の絞りカスの魔法力では起動させるのも手一杯…かもしれん。が、植え付けられた憎悪とはいえその力は爆発的な魔力の糧となる…あの宝石は補助的な意味合いだ。それに、失敗して足を掴ませられる位なら消えてくれた方が良い。それに良いデータを得られるからな。使用したカードとコアは消え去る、文字通り綺麗サッパり、だ…状況証拠は消える。」
人避けの結界を張っているため此方に喫茶店の利用者は誰一人男達の存在に気が付いていない。
「だがまぁ…状況次第では使い道は未だ、あるかもな」
更に乗った最後のワッフルを口に納め紅茶で流し込み一息吐いた。
「それよりも…周、お前は自分の心配をしていろ」
そう告げる白スーツの男は、口元をニヤリと笑みを浮かべた。
「先日あの小娘が失敗した事に関して、陳祥山はお前にネチネチと攻め立てるぞ?」
「心配ありません。あのお嬢さんには此方の素性は話していないのですから。心配される云われはありません」
そもそも此方の素性を話さず一方的な《傀儡》としている少女に此方の素性を聞く余裕など無いのだから、正体がバレるという結論が存在していなかった。
「だと良いがな。日本の諜報部隊は優秀だと聞く。足元を掬われぬようにな」
「それは…此方の台詞、と申し上げておきましょう。”ギデオン”閣下」
扉がしまる音がする。
先程まで男達が利用していた座席には積み重ねられた皿と支払いの伝票、そして代金が残されていた。
◆ ◆ ◆
翌日。校庭では論文コンペティションで使用する機材が完成したことによる試運転とデモンストレーションが行われ人が忙しなく動いていた。
九校戦が武による対抗戦であるが論文コンペティションは知による対抗戦…九校戦よりも人が動くのが多かったりしているらしく事実、技術系クラブや美術系クラブが総力を挙げて携わり、女子有志達が協力者達にお菓子や食事を振る舞う…というのが恒例行事らしい。
デモンストレーションで起動している実験機材を操作する機材の周辺には達也達が居て、その近くにエリカ達が興味深そうにみている姿が確認できた。
一方で朔也と真夜はその光景をみて呟いた。
「これが…魔法師の未来を変える奇跡の実験の第一歩か…凄いねとしか言葉が出てこない」
「これを形にするのは大変そうですが…達也の能力があれば」
「……(やはり、か。ここで達也達の実験を失敗させようと行動を起こすか。だが…あの生徒から発する異様なまでのあれは…?)」
目の前ではデモ用の機材が起動し眩い光を放つと周囲の生徒達は「やった!」や「実験成功だ!」と喜びを見せている。容器の光が収まると興奮の熱が潮を引く。同時にその様子をみていた協力していたクラブの生徒達は持ち場へ戻っていくその中で、異様なまでの憎悪を感じ取った。実験に集っていた生徒達がバラバラに散っていくその雑踏に混ざっていた一人の女子生徒の姿が目に留まった。壬生紗耶香が突如として駆け出したのは、機材を破壊しようとした平河千秋を見つけたからだろう。
それを見た桐原とエリカが驚きながらも一歩先に追いかけ、レオも一歩遅れて駆け出したのを確認した朔也と真夜は顔を見合わせてその後に続いた。
◆ ◆ ◆
きっと奴は自分が学校側に認められるために姉さんを貶めた。そうに違いない…飄々とした顔をして内心では劣っている私たちを嘲笑っているのだ。
取り返しのつかない失敗をすればあのすかした顔が苦悶や絶望する表情に変わる筈、慌てふためく姿を思い浮かべ生気の無い表情の口元が歪んだ。
機材が始動し明滅する光が容器に集約されていくと同時に、周囲を取り囲む愚かな生徒達を内心で嘲笑いながら手渡された無線式のパスワードブレイカーを操作した。
(このEnterキーを押せば全てが狂う…!)
そのEnterキーを押そうとしたその時、此方へ視線へ向けられているのに気が付いた。
(…ちッ!気が付かれた)
観衆の中に此方を見つめる女子生徒…校章の無い二科生だ。
彼女もまた自らの地位に嘆き自分がやろうとしていることを目敏く察知したのかもしれないと蔑みの目を向けた。ここで実行しても良かったが、その女子生徒が此方へ向かってきたのを確認したことで動揺したのかその場を足早に離れた。
「ッ!待ちなさい!」
直ぐ後ろを追いかける足音が響く。
本来運動が苦手な自分だったが今は身体が軽い…まるで獣のような疾駆を体現し駆け抜けた。
後ろから掛ける声がどんどんと小さくなっていったのを確認しながら野外演習場まで走り抜け、肩越しに後ろを顔が見えないよう声を掛けていた女子生徒の姿は此方を見失いそうになっている。
「…あははっ」
だが、ここで千秋は思った。これ程の力を発揮できる
全力で走ったからだろうか肩で息をしているのが分かる。
「…待ちなさい」
「何ですか?」
振り向き固い声で返答する。捉えようによってはふてぶてしい口調だったが、誰も指摘する者はいない。
「貴女、一年生ね?」
「そうですが。そう言う貴女は二年生の壬生先輩ですね」
「ええ。二年の壬生紗耶香よ。貴女と同じ二科生よ」
上級生から言外に自己紹介を要求され、女子生徒は躊躇うこと無く名乗った。
「一年G組、平河千秋です」
背後で続々と立ち止まる足音が聞こえた。
エリカ達が追い付きその様子を窺っていた。
一方で、紗耶香は千秋に手にしている機材がパスワードブレイカーであることを見抜き、自らの経験を重ね辛そうな表情を浮かべ、犯罪に手を染めるのを止めるように告げるが、当の本人はどこ吹く風…寧ろバカにするような表情を浮かべていた。
「それが?どれだけ綺麗事を積み重ねた言葉を投げ掛けようが、犯罪者一歩手前まで行った先輩に何も云われても響きませんね。それに私が何をしようとも赤の他人でしょう。先輩には関係ありません」
取り付く島もない拒絶。しかし、紗耶香は実感のこもった台詞を続ける。しかし、その言葉は目の前の生徒には響かない。反論する言葉は寧ろ嘲笑すら浮かんでおり彼女の恨みが根深いことを知らされた。
「私を使い捨てにしようとしているのは承知の上ですよ。出なければこんなことに手を染めたりしません…私の想いは先輩程度の幼稚な考えで悪い人と手を組む様な人には絶対に分かりませんよ」
再度の強い拒絶に、紗耶香は彼女が説得に応じないということが嫌でも理解できた。
説得は後回しで良い。少し手荒でも彼女を「こちら側」に戻さなければならないとパートナーである桐原とアイコンタクトして取り押さえようと動き出そうとした。相手は武器を持たない武術も出来ないような一般生徒に武道系のクラブに所属している彼女達が負ける筈が無かった…のは想像論であり今の千秋は違っていた。
「ッ!伏せて!」
千秋が僅かな動作で袖口から小さなカプセルを地面へ叩き割ると同時に、エリカがそれに素早く気が付き声を上げる。二人は素早く腕を目前に翳し激しい閃光が彼女達の眼底を焼く。
その閃光の中で視界を保っていられる者がいるのなら、その当事者である千秋の色濃いアイシャドウが遮光塗料であることに気が付いていただろう。
視界を遮られ動けない紗耶香に対して突き出した腕の制服の袖口がキラリと光り、暗器からダーツが飛び出す。
エリカは閃光をうずくまって回避することに成功していた為、どこかで拾った棒切れで飛来するダーツを弾き飛ばす。しかし、割れたダーツの中腹から紫色の煙が広がり、近くにいた桐原が口と花を押さえて踞る。
漂う紫の煙を吸わぬようにしてエリカは内心で舌打ちした。
(神経ガス!?)
武器の携帯を許されない校内では自己加速魔法も満足に使えないエリカでは、相手がどんな武器を仕込んでいるのか分からない状態で突撃するのは危険すぎた。
しかし、その中でそのセオリーを無視して突撃する男子生徒…レオがプロのラガーマンもビックリなタックルを野外演習場の茂みから飛び出し勇猛に突撃していた。
「ッ!?」
突如として出現したレオの登場に驚く千秋。このまま押し倒す勢いで後頭部を打って気を失う…と言うのが本来の歴史だったがそれは
「…ガぁッ!?」
「レオ!?」
飛び込んだレオは逆に千秋に膝を突かされその場に踞ってしまった。
対する千秋は驚く素振りを見せずに暗器を突き出したままの腕を空気を押すようにしてレオは地面へ転がる。
突進してきたレオを逆に押し返したのだ。
「一体何が…!?」
本来ならあり得ない光景だった。
千秋とレオの体格差は子供と大人と言って良いほどだ。
「ふふふ……凄い、これが…力…!」
千秋から紫色のオーラが膨れ上がり、瞳は赤く輝く。目の前に立ち塞がる生徒達は彼女の敵だ。
「私の邪魔をすると言うのなら…貴女達には消えて貰わないと…あの男を…邪魔できないじゃない!」
「げほげほッ……がッ!?」
「桐原くん…ッ!ッ!?」
桐原が倒れ紗耶香が黒い波動に飲み込まれ、苦悶の表情を浮かべ立つことすらまま成らずもがき苦しんでいる。
「この…ッ!………ッ」
その隙を突いてエリカが手にした木の棒で千秋を取り押さえようとするが、逆に凄まじい力で突き飛ばされ意識を失ってしまう。
「あの男を持て囃すような奴は…みんな纏めて…死んでしまえ…!」
その口元が歪み言霊を紡ぎ術式が発動した。
『
その瞬間、憎悪の炎が力に変わり膨れ上がったオーラが弾けたその時、地獄が出現した。
◆ ◆ ◆
「あは…あははははははっ!!!」
『ーーーーーーッ!!!』
千秋の高笑いと同時におぞけ立つ獣の声が野外演習場に轟く。
三メートル近いその獣が四つの足で大地を踏みしめると肥沃した大地は腐り落ち黒く濁っていくが止められない。
倒れる四人へ向け歩き出す闇の獣はその魂を喰らおうと駆け出す。しかし、突如として割って入った衝撃がそれを吹き飛ばした。
『ーーーーッ!』
「まさか…とは思ったが君がそれを使うとは…」
「お前も…私のジャマヲスルノカァ!」
千秋の前には二人の男女…あれも司波達也とつるむ仲間だと判断した彼女の憎悪は膨れ上がり、攻撃へ移行しようとした。が、朔也の放った術式が動きを止めていた。
「…真夜さん、そこで倒れている四人の面倒を見ていてくれないか?」
そこで倒れて気を失っている四名を真夜は移動魔法を使って退避、後ろへ移動させる。
「分かりました。しかしあれは…」
「現代魔法師の天敵、と言って良いかも…」
カード通りの能力ならば現代魔法師…いや、触媒を用いて魔法を使う術者の天敵と言える。
…そんなものを量産できているとするなら厄介どころの話ではないからだ。しかし、それよりも今は目の前の怪物と化した彼女をどうにかしなくてはならなかった。
「一体だれがあんなものを平河千秋に手渡した?一先ず、その出所を聞き出さないと…なっ!」
『ーーーーーーーーーッ!』
千秋の精神状態に呼応するように襲ってきた『インフェルノ・ハデス』。
それを吹き飛ばしながら魔法を発動する…その前にこの状況を他の生徒達に知られるわけにはいかなかった。あの時は廃工場と言う隔離されたフィールドだったが、ここは学校…真由美や克人に追求される恐れがあるためそれは避けたい…ならば、朔也はうってつけの空間へ誘い出すことにした。その意図を理解した真夜は「ご存分に」と告げた。
「…それなら…ここで決めようか!『ゲートオープン、界放』!」
そのワードを呟いた瞬間、先程までの野外演習場とは景色が異なる。
四角く切り立った岩肌の岸壁に囲まれた砂地のような
外部からの干渉を受けず、覗き見される心配もないここは思う存分戦うことが出来る。
朔也も相手が相手なので全力は出せないが。真夜としてはあの小娘に良い灸を据えるには十分だろうと考えていた。
「これが…”バトルフィールド”なのね。固有結界、と言えば良いのかしら。不思議な感覚…」
気を失ったエリカ達へ治療を施し、フィールドの外にある宙に浮かぶ観戦席のような場所に移動し、その様子を真夜は見ていると、人が起きる気配がして後ろを振り返る。
「う、うぅん…ここ、は…?」
「いつつ…ここは?」
目が覚めたのはエリカとレオの二人。桐原と紗耶香は目覚める気配がないようだった。すぐに興味を失い起きた二人へ視線を投げる。
「あら、目が覚めたのね。二人とも。目覚めは最悪かしら?」
「真夜ちゃん…ってさっきの女は!?って…ここ何処?!」
「俺たちさっきまであの女子生徒と…ってここ何処だよ!」
望んだようなリアクションをしてくれた二人に上品に微笑む真夜。
「良いリアクションありがとう二人とも。ここは彼の固有魔法の一つが作り出した空間、と言えば良いかしら」
「こ、これが朔也君の魔法…?」
「一体アイツ、何者なんだ…?」
「さぁて…それは見てのお楽しみ。それにまだ驚くにはまだ早いわよ。ここでのバトルを…目に焼き付けなさい」
そう告げられ、二人はフィールドへ視線を向けた。
「な、なにこれ…!?お前も…消えろッ!」
『ーーーーーーッ!!』
一方、突如として景色が変わったことに困惑する千秋だったが、目の前にいる邪魔者を排除するために死の獣が前肢の爪を此方へ振りかざすのを移動魔法で回避した。そして素早く強化した左足で蹴り上げ距離を取り、左手の中にあるものを握りつぶすような動作をして詠唱した。
彼女がどうなろうが自業自得なのだろうが、情報を教えて貰わねばならないため、死なない程度にダメージを与え生きたまま捕え情報を吐いてもらう必要があった。
そもそも彼女が扱う【
「悪いけど…君のおままごとに付き合っている暇はない…直ぐに終わらせる!こいッ!」
『
同時に朔也が起動させた術式が想子に反応し、牡牛の姿を象った金色の神が出現する。
加速・振動・情報強化の複合魔法であるそれは【激突】と言う固有能力を与えられる。その能力によって【エイドスの限定ロック】が発動する。
標的の個別情報体そのものを魔法式の干渉対象として固定…つまるところ此は相手が移動しようが、他の魔法師が射線に入ろうとも、この【
『ーーーーーーーッ!!』
この効果を受けた魔法である【インフェルノ・ハデス】は攻撃を
そしてこの”バトルフィールド”は魔法を強制的に実体化させる能力があり、現実と違い触れることが難しい魔法へ触れることが出来るのだ。
発動した【金牛龍神】は空気分子の熱振動を爆発的に加速させ、数千度のプラズマと炎の楔を生成する。
その熱量を拡散させずに一点へ突進させるために、牡牛の角のような形状の指向性ベクトルを与える。
産み出された炎の楔が【インフェルノ・ハデス】へ激突した瞬間、対象が持つ「強度(想子密度・事象干渉力の高さ)」の情報を一瞬で読み取る。
「行けッ【
読み取った防御力が、そのまま自身の「熱量」と「推進力」を増幅させるための係数を魔法力に再投入される。
つまり、相手の防御力(格)が高ければ高いほど、この魔法の威力は2倍、3倍と膨れ上がっていく。
しかし、平河千秋が扱う【
『ーーーーーーーーッ!!?』
地獄からの使者の頭上に紫の結晶…シンボルが”一つ”浮かび上がり雄々しき牡牛座の頭上には赤いシンボルが”二つ”出現し【激突】によって吹き飛ばされ荒れた岸壁に叩きつけられ動かなくなる。
”シンボル”は朔也にしか見えない…言わば魔法師としての強さを示すものだ。
千秋の前に立ち塞がる金色の神が雄叫びを上げると打ち倒したシンボルを比べ砕け散り、情報強度の差数分…残ったシンボルが千秋にダメージとして襲いかかり彼女の生命力を砕く。
「ーーーーーーッ!?」
あまりの衝撃によりその場に崩れ落ちた千秋。同時にバトルしていた【
程無くして近づき息があるかを確認し穏やかな寝息が返ってくるのを感じて一安心した。彼女の持ち物を確認するが
「よかった…殺さずに済んで助かった……ってエリカとレオ起きてたのか」
戦闘が終わり”バトルフィールド”が解除され元いた野外演習場に戻ってきた。
拘束魔法によって拘束した千秋を抱き抱えながら戻ると真夜が声をかけた。
「お帰りなさい。…幾らなんでも彼女程度に【金牛龍神】を使うのはやり過ぎではなかったのでは?」
「一撃で沈めるにはあれが手っ取り早かったんだよ。大丈夫、気を失わせる程度に留めたから」
「ならよかったのですが。意識が戻り次第、訊問しましょうか」
「そうだね…」
踵を返して一旦保健室へ連れていこうかと考えていると、ハッと我に返った二人に質問責めにされる。
「ちょ、ちょっと待って今の魔法は…?」
「なんだよ今の魔法!?でかい牛が骸みたいな狼と戦ってたぞ!?」
「あーまぁ…俺の固有魔法ってことにしておいてくれないかな」
質問責めにしてくる二人に対して朔也はどう説明したものかと考えていると真夜が助け船を出してくれた。
「エリカ達?人の魔法を探るのはマナー違反ですよ。それに今はそんなことをしている場合ではないと思うのだけれど」
「…そうよね。ごめん。無神経だったかも」
「俺もすまん…少し気が動転してたかも知れないぜ」
「気にしなくて良いよ。それよりこの子を医務室へ連れていってなんでこんなことをしたのか聞かないとな…」
「エリカ、レオ。起きた二人に肩を貸して上げて頂戴」
「あ、ああ分かった…」「分かったわ」
そう告げるとちょうど意識を取り戻した桐原達と共に医務室へと向かう為野外演習場を後にする。
だが本来人の目が届かない場所での戦闘を平河千秋の目線を借りて見てた者がいた事に気がついていなかった。
「…ほう?”神星魔法”をコアの補助有りと言えども代償無しに使いこなして見せたか」
”アイネプリーゼ”でブレンドコーヒーとアイスを楽しんでいたギデオンが感嘆していた。同時に口元が愉悦に歪む。
「魔法が得意ではない
CADと言った魔法工学が得意だとは情報で知らされていたが、こんなところで使い道があるとは思わぬ拾い物をした。次なる行動のため、熱々のコーヒーを躊躇うことなく一気に飲み干し代金を置いて立ち去った。
「ご馳走になった。コーヒー美味だったぞ」
先程までの邪悪な呟きは店内のBGMに掻き消され、誰の耳にも入らなかった。
◆ ◆ ◆
騒ぎを聞いて保健室へ駆けつけた花音はベッドの上で意識を失った一年生と治療を受けている一年生と二年生の姿を見てため息を吐いたが、その直ぐ近くにいる一校随一のバカップルの姿を見て驚いた。こういった面倒ごとには首を突っ込まないと思っていたのだが、その事に関しても聞きたいことがあったため声をかけた。
「それで…一体何があったの?」
犯罪で使用されるパスワードブレイカーを使用したのを紗耶香が目撃し追跡したは良かったが、武器を持っていなかったとはいえ四人を圧倒したその戦闘力を見て思わず加勢したと説明すると、それでもやりすぎよと言われてしまったが、必要な行動でしたと告げると同時に「俺も風紀委員ですから他生徒が危険な目に遭っていたら助けにはいるのは普通ですよね」と花音は不承不承に頷いた。
その後、保険医である安宿に平河が目が覚めたら知らせてくださいと伝え、エリカ含む五名は保健室を後にした。
「あまり無茶なことはさせないでね?」
人気が失くなった保健室で自分の作業机へ向かいながら肩越しに朔也達へ声を掛けた。
「分かってます。先生。ただ
「さて…先輩達はここを離れた。起きても良いよ」
一方で朔也達は間仕切りで囲われたベッドの上では寝息を立てている千秋…は既に意識を取り戻していた。
「…………」
「はぁ……」
怯えている…訳ではない。此方を睨む?とまでは行かないが此方を敵視しているのは見て取れた。こうなってしまっては話を聞き出すのは難しいだろう。とそう考えるが意識が戻っているのなら
「…ッ…」
「あら…そんなことまで出来るようになったのね」
「コツを掴んだら結構簡単に意識誘導できるようになったからね」
「なるほど…(……意識誘導…催眠…)」
(なんだろう…真夜さんがとてつもなくろくでもない事を考えている気がする)
少し頬を紅く染め真夜が何やら危ないことを想像していたようだったが気にしないことにする。
千秋の瞳を見て暗示させる。『知っていることを話せ』と【
「それじゃあ質問するから…分かる範囲で答えてください」
「…わかりました」
【精神干渉系魔法《セフィロ・アリエス》】を扱うようになって暗示の勝手も分かってきたので、こうして意識がハッキリしていれば意識誘導させることが出来た。
事の発端は姉小春の九校戦でありどこかのタイミングで周公瑾によって暗示、思っていたことを曲解させられ襲撃に至ったのだと知ることになる。だがそれよりも朔也は聞きたいことがあった。
「あの時に使用した魔法は何処で入手したの?そして、誰から渡されました?」
その問いかけは無意味だろうなと思ったが、存外無視できない情報が開示された。
「白いスーツと烏帽子みたいな帽子を被った…三十代後半のおじさん…名前は…ギデ、オン…?」
「…ギデオン?」
「聞いたことも無い名前ね…」
その名前は真夜も聞いたこともない名前だった。無論朔也も作品を通してその名前を知らない…が関連するワードが浮かび上がる。
”カーディナル・サイン””魔族排斥活動”…そして”十二宮Xレア”。
(ギデオン…まさか”カーディナル・サイン”?魔族排斥主義者が魔法師排斥主義者に置き換わってこの世界に?だとすれば相手が十二宮や神星を使うのも納得できる…だが…何故だ?)
名前を知ることに成功したが、予想だにもしない人物がこの魔法科世界に関わっていることに少しだけ気分が重くなったのは朔也だけだった。
◆ ◆ ◆
訊問が終了し再びベッドへ横たわらせる。ついでに催眠を解除したが、念のためと言うことで医療施設へ入院させることが決定した。花音達が安宿に意識が戻ったことを知らされ再び保健室に戻ってきたが、何が起こっているのか事態が分かっていない千秋を怪訝に思いつつも「意識の混濁と精神操作を施されていた」と告げると、花音は「なるほど…朔也君ほどの精神干渉系を扱う子が言うならそうなんでしょうね」と納得を見せてくれた。ここで彼女から聞き出した情報は出さなかった。
そして論文コンペの準備がひとまず終わり、保健室から朔也達が出ると丁度下校時間と被ったのか、エリカとレオ達(恐らくエリカの家でレオが扱きを受けているだろう為)を除く大人数で下校していた。
一昨日襲ってきた犯人が平河千秋であること知らされ、その動機も分かる範囲で知った達也は興味なさそうに返答するが、達也以外はそうは思っていないらしい。
「なる程…そういう動機でしたか」
「なんですか、それ…逆恨みじゃないですか!」
「八つ当たり?」
「八つ当たりせずにはいられなかった…のかもね」
ほのかが憤慨し雫が首を傾げ幹比古が同情していたが、納得できる部分は少なかっただろう。
「それにもう問題ないよ。俺の方で精神操作を解除しておいたし、お姉さんの方にもケアをお願いしておいたから暴走する恐れはないと言って良いかもね」
「なら、放っておいても問題はなさそうだな」
「うん。それよりも面倒なのが周辺をうろちょろしているみたいだし」
そう朔也がぼそりと呟くと、花音と五十里と幹比古がぎょっとして周囲を探る。
不審な人影は見られないが微妙な想子の微かな揺らぎ…五十里と幹比古を感じ取った。
「朔也君、やっぱり達也くんに護衛つけたほうが良いかな」
「いや、大丈夫だと思います。達也ならそこら辺の暴漢を制圧できますし。そもそもこっちを見ているであろう監視者の存在も七草先輩レベルの目の持ち主じゃなければ捉えられないでしょうし…撒き餌さになって貰いましょう」
「それを本人の前で言うか?」
「自然体でいて欲しいってことだよ。身構えていたら逆に捕まえるのも捕まえられない」
変に身構えずに自然体でいて欲しいと言う意味で、朔也は首を横に振った。
九校戦から真夜様を参加させるとしたらどの年代が良いですか?
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十二歳ぐらい(中学生ぐらい)
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十六歳ぐらい(主人公より少し上お姉さん)
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本編(よりは若二十代それで制服を…)