助けた女の子に「責任を取りなさい」と迫られてる件 作:萩月輝夜
池袋の雑居ビルでも横浜中華街の高級ホテルや喫茶店でもない。その中間となる品川の高級料亭の個室にて、四十後半の男と二十五~六歳の男性二人組と同じ年齢のの若者と三十後半の男性が隣り合い向かい合って座っていた。
「申し訳ございません。お待たせしてしまいましたか?」
線の細い若者と筋肉質な男性は今先程到着したばかりで前者は台詞の通り恐縮した態度を見せているが後者はなにも言わずに先んじて座敷に腰を下ろした。
「いえ、我々も今しがた到着したばかりです」
対する最年長の男性の答えは、妥当なものだったが態度は尊大で素っ気ないものだった。
本人はこの場で粗忽で無愛想と言われても気にしないに違いない。そしてその隣に座る精悍な若者は対面に座る男性二人へ口を開かずにじっと座っている。
襖が開き向かい合う長机の上にお猪口と徳利が置かれ仲居が捌けたのを確認すると最年長の男性が口を開いた。
「早速ですが、周先生…例の少女がしくじったようですが」
「陳閣下のご懸念は理解しているつもりです」
周公瑾が陳祥山の威圧感をやんわりと受け止める。
「ですが、此方の情報、素性は何一つ教えておりませんので、情報漏洩の危険性は無いと思われます」
「ほぅ?それでよく協力者へ仕立て上げましたな?」
「あの年頃は情熱的ですから。純粋で自分の価値を示す為、自分へ目を向けさせる為に、多くを聞くより多くを語りたいのです。知るよりも知って欲しいと感じる時期なのですよ」
そう告げる周にギデオンが補足した。
「それにあの小娘は精神干渉系の魔法を使われたとて多くは語らない。いや、語れないと言うべきか。それ知られても良いことしか教えていない。第一高校内でも二科と言う落第者の地位にいるが…利用価値があった。」
「ほう…満足に
お陰で色々なことを教えて貰いましたが、と追記し薄ら笑う周公瑾の表情に陳祥山は少し気味悪そうな目を向けたが念を押す声にはそれはなかった。
「周先生とギデオン…貴方達がそういうのなら大丈夫なのだろう。だが、『万が一』が無いように願いますぞ?」
「心得ております。近日中に様子を見て参ります」
恭しく一礼する満足げに眺め、一方でギデオンの尊大な態度に一瞬眉をひとめたが彼がそういう性格のなのはこの作戦が始まってから知っているのでわざわざ態度に出すのも時間の無駄だな、と感じ一先ず周の態度を見て納得させ机の上に有る呼び鈴を鳴らした。
その光景を隣に座る呂剛虎が鋭い視線を向けているのを二人は気がついていたが周は微かな笑みを浮かべたギデオンは興味を失くし運ばれてきたクリームメロンソーダと餡蜜を味わっていた…その裏側で思案していたのを二人は気がついていなかった。
(恐らく…お前達はあの小娘を消そうとするだろうが…あれには使い道がある。……
目の前の二人が平河千秋を消そうとしているのは彼女の本当の価値を知らないからだろう。
その理由も見せるつもりも説明する気もギデオンには更々無かったが、彼女が入院しているとされる立川病院は魔法大学の息が掛かっている、成らばと引き付けるには十分な”エサ”であるため彼らには役に立ってもらおうと目深に被った帽子の裏側の目を細める。
(それに…あの少年が使う魔法は…間違いなく”本物”だ。代償も無しに”星導魔法”を扱えるとはな……九校戦の時から目を掛けていたが…紫ノ宮朔也、君は素晴らしい…)
先日の光景を思い出す。
凄まじき規格外の”力”を化成体越しに目撃したギデオンの興味は朔也へ向けられていた。
(使い魔に確認させておくことにしよう)
そして再び彼を監視するべく使い魔を飛ばすことを密かに決定していた。
◆ ◆ ◆
翌日。第一高校の昼食時の学生食堂。
無秩序なざわめきが重なりあってカオスな様相を呈していたが食堂の入り口からその利用区画の一角は秩序が生まれていた。
その理由はそこに出現した二人の美少女。
最近その美貌にますますの磨きを見せ少女から大人へ成長を見せる深雪と肉体的にも精神的にも若返り妖艶な色気を無自覚に披露する真夜が並んで登場したことによる影響だった。その後ろにもほのかや雫と言った学内でも人気の高い美少女が伴っているのも原因だが…。
すれ違いざまに人々の注視を浴びるが二人とも表面上は全く気にも止めずに達也と朔也が待つテーブルへ向かった。
「朔也さん。お待たせしました」
律儀にお辞儀をして見せる真夜に朔也は何時ものような微笑みを見せ手を振る。その隣で深雪もお辞儀しつられてほのかと雫も注意深く見なければ分からないほどの深さでお辞儀をしてみてた。
「俺たちが残っているから皆昼食を取りに行くと良いよ。戻ってきたら俺たちが取りに行くから」
「ええ。皆さんは先に昼食を取りに行きなさい。戻ってきたら受け取りに行きます」
席押さえを自ら勝手出た朔也とさも当然のように残る選択をした真夜を見て全員が立ち上がり配膳代へ向かうのを二人は見届け隣り合うように座った。
「…そう言えばエリカとレオの姿が見えませんね。居残り補習でしょうか?」
ふと、真夜がこの場にエリカとレオがいないことに気がつき首を傾げる。
その愛らしい仕草に思わず抱き寄せたくなってしまったがテーブルの下で手を重ねるだけに留め
「ああ。きっとレオは今ごろエリカに昨日の件で
「特別講習…ああ、なるほど。そういうことですか」
『特別講習』の意味を理解した真夜は妖しげな笑みを浮かべた。
きっと今ごろレオはエリカに歩兵としての能力を買われこれから起こるだろう戦闘に向け千葉流剣術の手解きを受けているだろう。
「…そう言えばエリカとレオって恋愛感情有るのかな?」
「なんですか藪から棒に……まぁあれは腐れ縁、と言うか悪友と言う感じのポジションですわね。恋愛感情には発展しなさそうですが」
そう冷静に判断する真夜を見て妙なところでリアリストを発揮しているのに苦笑しているとテーブルの下で手を重ねていた真夜の手が包み込むように握っていたことに気がついた。
深雪が此方へ警戒の視線を向けているのを気がついていない訳ではないので人前でこうして愛情表現をストレートに受けとるわけには行かなかった。
此方へ向いている真夜の表情を見て朔也は頬を緩めた。
(いや…本当に真夜さん可愛いな。今がこれなら大人になったらもっと可愛いんだろうな…)
その朔也の心の声を事情を知っているものが聞いたのなら「いや、大人の姿見とるやろ」とツッコミが入りそうだが詮無き事だった。
そして全員が席に着いて食事を取りながら(達也達は朔也達が食堂クラッシャーにならないように監視している)会話をしていると案の定この場にレオとエリカがいないことに盛り上がり美月や幹比古が一歩遅れて
「ん?幹比古は何を考えたんだ?」
「あら、美月は一体どんなことを想像したのかしら?」
「え、あ、いや…そのっ」
「え、あ、そ、それは…そのっ」
あわてふためく二人の姿を見て既に完成しているカップルは初々しいその反応を見てからかう?までは行かずとも言い笑顔を浮かべている。その様子を見かねて達也と深雪が間に入る…が裏切られた。
「朔也…幹比古が困っている。やめてやれ。うぶなんだ」
「真夜さん。美月が困っていますのでやめて差し上げてください…うぶですので」
「達也!?」
「深雪さん!?」
唐突な朔也達への援護射撃で幹比古と美月は声を揃えて驚いている。それを見ていたほのかと雫は笑っていた。
◆ ◆ ◆
翌日土曜日。
魔法論文コンペティションまで一週間から一日となった。
土曜だが魔法科高校に週休二日と言う文字はなく(祝日は普通に休みで代休はある)朔也と真夜も学生の本分として授業を受けに来ていた(しかしながら既に高校や大学レベルの魔法授業などは彼彼女達にとって見れば釈迦に説法、と言った方がいいかも知れない)。
「ギデオン…と呼ばれた人物を検索を掛けてみたけど出てこない。偽名だったかな」
「かも、知れませんわね…」
ギデオン、と言う名をキーワードに調べたがヒットする人物は複数人いたがどれも魔法とは無関係の地方の社長や役員などと言った別人ばかり。ただ一人、それに該当する人物は戦場カメラマンとして活動していた男は某国の内戦に赴いて取材中、死亡と知った。
「(どれもこれも別人…あの”ギデオン”ではないのか?一人だけがヒットした。それに戦場カメラマン…どう見ても俺が知っているのギデオンと同一か…死亡しているけど。違ったか?)空振り、かな」
人物の名前を教えてくれた平河千秋は結果として洗脳は解除したが後遺症の類いの検査のため魔法大学付属立川病院への入院が決まった。これは原作通りの流れであった。
呂剛虎が始末するためにやって来るだろうがその場に居合わせる千葉修次と渡辺摩利が対処するだろうと放置することにしていた…が不安要素があるため楽観視は出来なかった。しかし、全てに目を向けることは不可能のため放置するしかない。
「貢さん達に潜入した連中の居場所を突き止めないと行けないからこれ以上は無理かな」
「…”フリズスキャルブ”を使いますか?」
「…それは最終手段にしてください」
真夜が提案したが却下した。一先ず、『光導魔法』と『星魂魔法』を扱う人物がギデオンと言う名の人物が知れた、と言うことだけでもよしとしなければ。このギデオンと言う人物と自分が知るギデオンとは別人なのかもしれないと言う考えが出てきた。がそれは一旦棚に置いておく事にしたのはそろそろ約束の時間が近づいてきていたからだ。
「そろそろ野外演習場へ向かわなければならないのでは?」
教室内の時計を見ると約束の時間…克人との約束が有る時間が差し迫っていた。
「っと…もうそんな時間だったのか」
「突然十文字さんから『紫ノ宮を借りていいか?』と言われたときは少し身構えましたが春頃の約束を果たさせようとしていたのですね」
実のところ論文コンペに出場する九校が組織する合同警備隊を指揮するのが十文字克人であり本来なら幹比古だけだったが彼は妙に朔也を気に入り&春先の模擬戦で「手伝えることがあるのなら」と言った手前第一高校のメンバーの実力を上げようと息巻いていたため今回の訓練に半ば強制的に参加させられたことになった。
「十文字先輩なら多少本気でやっても耐えてくれるし逆に助かった…のかな?」
「あの障壁を参考にしていれば大体の敵は対抗できますしね…それでは行きましょうか」
真夜が歩を進める。当然真夜が参加することはなく別の場所で用事が有るため文化系の部室棟へ向かうためだ。
二人並んで歩き程なくして校内を抜け外へ出て其々向かうその時真夜が立ち止まる。
「…少しの間、離れてしまうので」
立ち止まりお互いが向かい合う。
真夜は目を瞑って顎を上に少し突き出す素振りを見せたのを朔也は少しだけ困ったような笑みを一瞬浮かべた。
「大袈裟だなぁ………んっ」
「んっ…」
少しだけ湿った音が響いた。
躊躇うこと無く軽く口づけを交わして演習場へ向かった。土曜の昼過ぎ、ということで生徒の気配は無かった。ここで他の生徒がいなかったのは阿鼻叫喚の辛い光景が広がっていたかもしれない…。
◆ ◆ ◆
学校に隣接する丘を改良して作られた野外演習場。魔法科高校は軍や警察への道へ進む者も多い。
その為このような施設が屋内屋外に、多種多様に充実している。
先日の【冥王神獣】に関しては朔也が素早く異界へ移動したため他生徒に気がつかれることはなかった。また腐り落ちた地面に関しては【戦神乙女】の能力を応用して復活させたため事なきを得ている。
その人工森林の木陰で吉田幹比古は息を殺して訓練相手の上級生を窺い見ていた。
その視線の先にいるのは林間の空けた場所にその姿を晒している。その威容たるや堂々としたものでそれ自体がプレッシャーを与えている。彼らが相手にするのは部活連会頭・十文字克人。今回の論文コンペに向け他校の会合の傍ら自らが先頭に立ち、自らが所属する第一高校の合同警備隊に抜擢された生徒達の士気と実力を高めるために今回の模擬戦が計画されているのだった。幹比古が選ばれたのは九校戦での活躍を見留められたからであった。
もっとも、克人の相手を務めているのは幹比古一人ではない。
開始当初は十対一だった。しかしそれは開始三十分で七人も脱落している。
先ほども木陰から精霊を使って覗いていたときも上級生が竹刀を強化して克人へ斬りかかろうとしたが呆気なく障壁魔法によって吹き飛ばされリタイヤしたのを目の当たりにした。
幹比古の方から何度か遠距離攻撃を仕掛けた程度で、一度も攻撃を食らっていないのにも関わらず、彼は緊張によって汗でびっちょりになっていた。冷や汗で。
しかし、人工森林に潜むのは彼一人ではない。もう一人チャレンジャーがいた。
幹比古は遠く離れた場所から精霊魔法を使って覗いていた。
「やっぱり最硬ですね…十文字先輩!」
「ふっ…当然だ。”十”の名は伊達ではないことを教えてやる…!」
目の前では朔也が九校戦で見せた【
加速魔法や移動魔法を使い朔也はアクロバティックに動き回り対する十文字は振動魔法等で揺さぶりを掛け障壁魔法で追い込んでいくどっしりと構え対極したスタイルで模擬戦を繰り広げていた。明らかに怪我をさせてしまいそうな戦闘だが両者はちゃんと
森林の中で息を殺して窺っていた幹比古。
その光景を見て十文字が放つ強烈なプレッシャーに押し潰されそうになるが同級生の朔也の胆力有る行動に勇気付け始めたのか荒かった呼吸も落ち着いてきていた。目の前の戦闘が繰り広げられる前に気後れしそうになるが…今は自分が得意とする戦いかたをするべきだと、そう奮い立たせた。
片膝を着いて地面の振動を感じとりながら十文字の足取りを視界ではなく気配を感じていた。
幹比古は古式魔法師だ。五感の感受性は現代魔法師よりも鋭くそれを総動員し第六感という曖昧なデータを確実なモノへ組み立てていく。
朔也が放つ【
(今だ…!)
事前に打ち合わせていたのだ。
朔也が遊撃又は囮として本命は幹比古であり九校戦での経験でステルスでの一撃決殺のスキルツリーも伸ばすことにした。その甲斐もあってか策は成功し一歩後ずさった克人を取り囲むように地面が陥没する。
「くっ…!」
精霊魔法を通じて感じた威圧感を体に受けそこから逃げ出す。
その逃走は的確であり現に克人は傷一つ負っておらず彼の防壁魔法によって放った術式は防がれていた。
傷一つ無い克人を見て朔也は彼が傑物であることを再認識した。
「うそでしょ…?」
「これはこれは…」
「お前達もまだまだだろう…?もっと本気で来いッ」
この模擬戦は簡単には終わらなさそうだ、と朔也と幹比古は顔を合わせずともそう理解した。
◆ ◆ ◆
「ほう…」
野外訓練場を使う際に事故が発生しないようにモニターするのを義務付けられており隣接した建物内で確認しているそのモニターを見ながら、摩利が感嘆の声を漏らしていた。
一年生でありながらここに生き残っている、というだけで幹比古の技術に称賛に値した。
彼の技量が一科生、二科生の枠を越えて優秀だということは録画で見せて貰った九校戦”モノリスコード”の試合で確認できている。しかし、実際にこうして戦っているところを目の当たりにすると特異な魔法運用の技能が際立っている。
「達也くんとはまた違った巧さがあるわね。今年の一年生は面白い子が多いわ」
真由美にそう話しかけられ、摩利は皮肉げに唇を吊り上げた。
「どちらかというと二科生の方に見所がある奴が多いがな」
「それは違うわよ。摩利。やはり総合力で勝っている子はやはり一科生に多いわ。今年は個性的な能力を持つ子が多いのが目立つから、そういう印象を受けるだけよ」
「しかし、こいつが他の一年生に比べて『使える』奴であることに間違いない。良い意味で”類は友を呼ぶ”と言ったところか?」
「九校戦を経験して吉田くんは急激に伸びた、って先生方も仰有っていたわね。…紫ノ宮くんが言っていたのはこういうこと、だったわね。こういう良い影響はどんどん広がっていって欲しいんだけど…」
「それでその紫ノ宮だが…本当にあいつ何者だ?」
そう告げる摩利。視線の先に有るモニターに映る克人と
「一般家庭の子供よ。…百家の傍流でも本流でもない、普通の男の子」
困ったように笑ってモニターに映る朔也を見た。
「なんだと…しかし、あの魔法力と技能はどう説明するんだ、」
あり得ないだろう。と摩利が言いたかったのは彼女もまた百家に連なる家のものであり魔法師としての本流に関わっていないのは不可能だった。
「…ええ。分かっている、でもこれが事実。なんでも彼のご家族は非魔法師…彼だけかその才能を開花させたみたいなの」
真由美の表情には申し訳なさそうな色が浮かんでいた。調査する過程で得た情報はショッキングなもの(生まれたときに魔法師の才能があることが判明。後に家族と死別し孤児院で育ち途中で祖父宅に住まいを変えて途中で数年も眠ったままの大事故に巻き込まれた等)を知ったことを説明すると摩利も腕を組み所作なさげに「そうか…」と呟くしかなかった。そして彼女の脳裏には春先にからかい気味に「彼女に詰めて貰っているのか?」と聞いたときに「いえ、一人で暮らしているので自分で詰めていますよ?」と言われたのを思いだし知らなかったとは言え失礼なことを…と反省していた。
「ほんとにね…あんな優しくて人当たりの良さそうな雰囲気だけど…彼、同年代の子と比べると随分と苦労しているみたい。努力の賜物ね」
「…まるで神様が与えた”才能”みたいだな」
そう告げる摩利の言葉はあながち間違いではなかったのだが…それが本当だと指摘できるものは誰もいなかった。
未だ、モニターの先には朔也と幹比古、克人が模擬戦を繰り広げていた。
◆ ◆ ◆
夕方となっても第一高校の構内は活気に満ち溢れていた。
学園祭のような熱気のような…と記したが実際に魔法科高校に学園祭がないのは授業のカリキュラムによる余裕がないためと部外者を校内にいれるのは漏洩と事故の可能性が高いため魔法協会が難色を示したのを現代でもある文部科学省が承認しているため…であるらしいが細かいことは割愛。
九校戦は選ばれた選手だけが活躍するのに対して論文コンペティションは部活動や二科生の垣根を越えて活躍できる準備期間は学園祭にも似た盛り上がりを満喫できる時間であった。
文化系クラブの一年女子が主戦力となって組織されている差し入れ部隊は最後の追い込みに合わせフル稼働していた。普段であれば既に下校している時間帯だが、少女達は今、夕方の弁当の配膳に勤しんでいる。その中には美術部に所属する美月…と何故かいる真夜の姿があった。
「ま、狐坂さん私がやりますから大丈夫ですっ」
「大丈夫よ。これでも料理は得意なのよ?」
お弁当の配膳…といっても簡単な握り飯やサンドイッチ、それに温かい豚汁だがそれゆえに作り手の技量と愛情が問われる品だった。
第一高校の調理室に集まった一年女子の有志達。各々が分担し調理をしていた。真夜が属するグループは握り飯を…と有るが何故ここに真夜がいる理由としては『学生らしいこと』を体験したい為に美月から話を聞いて参加していた。
彼女の見た目…お嬢様っぽいそれにそぐわず?事実、手際は良くその白魚のような手で握られたほかほかのご飯は次々と握り飯へ作り上げていった。
「手際がいい…?」
「流れるようにお握りを量産していく…」
「…さて、ここはもう良いわね。そっちの汁物はどうなっているの?」
「あ、狐坂さん」
「強く炊きすぎよ。このままでは塩気が強くなってしまうわ。幾ら訓練で塩分補給が必要といってもこれでは体に良くないわ。出汁と水を少し足して中火にして。ネギは最後にいれなさい」
支給されたエプロンを着けておにぎりを作っていき数が揃ったタイミングで別で作っていた別班に顔を出して味付けを確認すると少しだけこめかみがピクリと動くのをみて同級生が「ひっ」と小さく悲鳴を上げていた。指摘し味の調整をするという完璧な指示で配膳する料理の指示を出す真夜の姿は女将、と呼ぶにふさわしいものだった。
(真夜さんって…意外とこう言うことに熱心に取り組むですね)
その姿をみて美月は逆に親しみを覚えて無意識に微笑む。
最初は近寄りがたい雰囲気を漂わせていたが九校戦、夏休み…そして今と彼女に感じていた壁はなくなっていた。
そしてその視線に気がついた真夜が振り返った。
「どうしたの美月」
「あ、いえなんでもないですよ?」
咄嗟に話を逸らした美月は自分の作業を再開する。ふと、彼女には気になることがあった。
(…どうして真夜さんの放つオーラの色が達也さんや深雪さんに似ているのでしょう…?)
◆ ◆ ◆
「ナイスファイトだったよ。幹比古」
「はは…最後まで立っていたのは君と十文字先輩だったじゃないか。僕なんて全部転がされていたよ」
「でも、最後まで噛みついていた…死ななきゃ敗けじゃないさ」
克人主催の模擬戦は終了した。結果として最後まで残っていたは朔也、幹比古、そして先輩の沢木だけだった。
選ばれた一年生は二人を除き全滅という結果だったが克人のような現代魔法師の実力を知ることが出来、いい訓練になったと同じ古式魔法を使う朔也の技量を目の当たりにすることが出来て満足だ、と幹比古は思いながら朔也も体を動かしたい、という理由で参加した今回の模擬戦は満足が行くものだった。その後、連携訓練の犯人役にさせられた二人はなし崩しに訓練に参加させられ時刻は既に十六時半過ぎ…訓練があるということで幹比古は醜態を晒さないようにゼリー飲料やサプリメントで腹を満たしていたが空腹を訴えていた。一方で朔也は朝食と昼をきっちりととっていたがそんな醜態を晒さなかった…むしろ今腹が空きすぎて胃が痛いぐらいだったほどだ。
「是非、御馳走になっていきたまえ!」
二人は邪魔にならないように簡単な挨拶をして帰宅しようかとしたが沢木に捕まった。
どうしたものか、と思った矢先に見知った顔が配給部隊にいたのに気がついて素直に頷き相伴に預かることにして朔也は頷いて奥へ迷うことなく歩いていく。その判断を見て幹比古は驚くが此方に向けられた視線に気がつき向くと此方と親しい(と思っている)少女がパッと顔を逸らされるのを見てショックを受けてしまう。そして美月は顔を逸らしてしまったことにばつの悪い笑顔を浮かべた。
武道場の畳に靴を脱いで上がり込んだ朔也が正座すると配膳部隊の女子達が男子生徒達に差し入れの食事パックを手渡しお茶を注いで廻っているのを見ていると目の前に差し入れの食事が出現し受けとるとその食事を差し出してきた女子生徒が隣に腰を降ろす。
「まさか…用事があるから席を外す、とは聞いていたけど…こんなことをしていたんだね」
「ふふふ…驚きました?」
そう告げるのは最愛の恋人である真夜だ。
別行動をすると聞いたときは驚いたが
「「いただきます」」
渡された弁当箱を開くと塩むすびが二つとトレイに乗せられ紙容器に入った豚汁が注がれている。
そのうちの一つを手に取りおもむろに一口、咀嚼する。程よい塩気と海苔の香ばしさ、そして粒立った米が甘さが噛む度に引き立つ。模擬戦終了後のエネルギー消費と塩分補給に体に染みる。真夜が作ったと言うだけで朔也的にはミシュランの星五つを授けたい程だった。
「召し上がれ…………如何かしら?」
そう問われれば味のコメントをしなくてはならないが躊躇うことなく評価した。
「うん。美味しいよ。毎日でも食べたいぐらいだ」
本心からの評価に真夜の表情は小さく花開いた笑みを浮かべた。
「ふふふっ。良かったです」
そう言葉を交わし二人は黙々と食事を進める。
ふと、気がつき真夜へ声を掛けた。
「……真夜さん。あそこを見て」
「?……あら、ふふふっ」
『第一高校の糖度計破壊カップル』はところ構わずイチャつき周囲を生活習慣病に追い込む程の糖分を発生させるが二人は空気を読むことに長けており車座では二人ぴったりと寄り添い時折顔を見合わせ微笑む姿は仲の良い距離感が程よい空気感を生み出していたが朔也達の視線の先には別の光景が広がっていた。
「ありがとう、柴田さん」
「あ、いえっ吉田くん…」
礼を告げた幹比古を見て大袈裟に照れた表情を浮かべる美月の様子を見ていた上級生(ここには同学年はいない)は女子生徒は羨ましそうな視線を向けたりする生徒が何名かいたが野暮な口を出すものはいなかった。そして注がれたお茶のコップを持つ幹比古と美月のお茶を注ぐ手がお互いの手に触れ合った際に慌てて手を遠ざける、と言ったお決まりのシチュエーションが演じられた際に周囲の男子生徒は羨望の眼差しと無言の殺意と喝采が心の中で繰り広げられていた。
「微笑ましいね」
「微笑ましいわ」
とその車座で自分達(幹比古と美月)が先輩達と朔也達に話の肴にされているとは思わなくとも「なんだか変ですね?」と不思議に思うほど感受性は低くなかった。
「「おぉ!」」「「わぁぁぁ!」」
車座に男子と女子の声が響いた。それは目の前で発生した出来事に起案していた。
「あら…」
「あらら…」
程無くして無数の好奇の視線が集中するのを居心地が悪いと感じた美月が立ち上がろうとするが正座するという文化は廃れてしまっており椅子に座るスタイルが一般的になってしまっている。習い事をしている子しか関わりがない為美月はその前者に含まれる。事実、美月は立ち上がった際に足が痺れているのを忘れて縺れさせ転倒してしまう…のを幹比例が素早く立ち上がり受け止めた、のだが…彼の手には其々感触の違うボリュームの有る柔らかさが伝わっていたのは考えるのをあとにしたかっただろうが見ている方としては「やっちまったなぁ…」というのと他の上級生は脳内フィーバー状態になっているだろう。事実、幹比古の右手は美月の腰を抱いており左手はそれから溢れんばかりの柔肉を掴んでいた。
「真夜さん?目の前が真っ暗で見えないんだけど?一部始終が…」
「朔也さんは見なくてよろしいのよ?(あんなに大人しい顔して美月って凄いのよね…朔也さんが目移りしたらその目を”流星群”で潰さなくてはならないのだけど…見ても…目移りしないわよね?)」
「真っ暗だぁ(美月のあのシーンか…見たかったけど真夜さんに「だーれだっ」されてるのでこれはこれで…)」
しかし、その光景を見せまいと真夜が朔也の目を塞ぐように両掌で隠していた。
破廉恥な光景を見せまいと真夜が抵抗した形だ。恐ろしいことを呟いていたが当然朔也には聞こえない。逆に朔也はそれを楽しんでいた。一方ではやり取りが進行していた。
「ご、ゴゴゴゴメンッ!」
「~~~~ッ!」
慌てて手を離し謝罪するが美月は声にならない悲鳴を上げて身を捩りその場に踞る。そして自分がお尻をつき出す恥ずかしい格好をしていることに気がつき立ち上がる…のだが未だ足の痺れが抜けきっていないのを忘れていたのか直ぐ様尻餅をついてしまいそのせいか、スカートが大きく捲り上がってしまいレギンスに包まれた太股が露になり普段のおっとりとした様子からは想像もつかない素早い動作で『女の子座り』に体勢を変えてスカートの裾を押さえた。顔を真っ赤にして上級生が声を掛けるが更に顔を火照らせ、ついぞ再び立ち上がり今度は転ぶことなく武道場の外へ駆け出して行った。
「何ボウッとしているの吉田くん!追いかけなさいッ」
「は、はいぃ!」
美月を後ろから呆然と眺めていた幹比古は突如として上級生の先輩に叱責が飛んで来て慌てて靴を履きレギンスのまま出ていった美月の靴をもって後を追いかけた。その後真夜は朔也から手を離した。
「?もういいの?」
「ええ、吉田くんが美月を追いかけて出ていったわ」
「そっか」
「ええ」
幹比古達が去った後武道館は再び会話により騒がしくなり始めた。
「青春ね…」
「青春だね…」
その光景を微笑ましく食後のお茶を飲み干しながら見ていた。
立ち去った後の武道場でそのスタイルでいる朔也達を見た上級生達は口を揃えて心の中で言ったという。
『いや、なんで君たちご両親みたいなこと言ってるの…?』と…。
魔法科高校は未だ少し平和だった。
感想&高評価よろしければお願いいたします。
九校戦から真夜様を参加させるとしたらどの年代が良いですか?
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十二歳ぐらい(中学生ぐらい)
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十六歳ぐらい(主人公より少し上お姉さん)
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本編(よりは若二十代それで制服を…)