助けた女の子に「責任を取りなさい」と迫られてる件 作:萩月輝夜
横浜中華街の一角。周公瑾が経営する料理店の地下室には、モニターの冷たい光と香炉の煙が満ちていた。
画面に映し出されているのは、前日に発生した平河千秋の暴走、術式の発動…それがあっけない程の幕切れの記録映像だ。
達也への憎悪を増幅されてギデオンが与えた『
「…これが閣下の申し上げていた『光導魔法』の使い手ですか」
モニターを見つめながら周が扇子で口元を隠し、興味深そうに目を細める。
「そうだ…嘗て世界を
白い該当を纏ったギデオンが帽子の下で狂気を孕んだ笑みを浮かべた。
「我々が用いる『光導魔法』はそれを再現した云わば『裏十二宮』と呼ぶべき術式…現にこの術式は生命を糧とする『転生魔法』を併用せねばまともに扱えぬ。あの少年が持つ原点のデットコピーに過ぎん」
だが、とそこで言葉を区切りギデオンは続けた。
「その能力はまごう事なき”真実”だ。模倣が本物を凌駕する、その瞬間こそが”魔法師”という歪んだ人種を排斥する証明となるのだ」
ギデオンが掌を開くと手元で呪符が実体化する。黒の想子が編み込まれ、小さな生物のような化成体への姿を変えていく。
「あの少年は九校戦から目を掛けていたが…観察させて貰おうとしよう。原点の『光導魔法』のより詳細なデータを得るためにも…必要なことだ。もっとも、より詳しいデータを取るのなら対峙するのが好ましいが…」
「陳閣下や呂大人に知られるのは厄介…と」
「ああ。尤も、お前も顧傑への背信行為だがな」
「彼も私を呈のいい駒、としか思っていませんし。身の振り方を考えなくては」
「モノは言いようだな、周よ」
そう言いながら指先を振るうと化成体が音もなく地下室の通気口へと吸い込まれ、横浜の空へ飛び立っていった。
「おや、もう動かされるのですか?今日は日曜日…日本の学生達は羽を伸ばす日ですが…」
「あくまでも情報収集だ。何気無い所に思わぬ情報が転がっているやもしれんぞ?」
程なくして、ギデオンが放った化成体が送る視界のデータがモニターに投影される。
そのモニターには、駅前の商業ビルで朔也へ付き従う少女と仲睦まじく屋外のカフェで談笑するあまりにも平和的で年相応の高校生としての日常があった。
『原点』の持ち主である少年が、これから戦いに巻き込まれることすら脳内から排除して楽しんでいる光景に状況を知らぬ者からすれば侮蔑の笑みすら零れるだろうがギデオンと周はそんなことはなかった。
「ほう…警戒しているな。既にこちらが放った”使い”の存在に気がつくとは。只の優男ではないらしい」
一方で周は朔也ではなくパンケーキを突き出している少女、狐坂真夜と呼ばれた少女の違和感を覚えていた。
(いや、おかしいですね。あの少女の視線…一見、目の前の少年に、夢中になっているように見えて、その想子の指向性は、完全に閣下の放った化成体を捕らえている…?)
周は、真夜の赤紫の瞳が、一瞬だけ化成体とリンクしている視界の向こう側にいる自分達と合わさり嘲笑うように細められたのを見逃さなかった。この狐坂真夜という少女もまた情報が
…まるで作り物のようなプロフィールであったことに周は違和感を覚えていた。
(あの少年といい…この少女も何者なのでしょうか?)
だが、周は覗かれたことに敢えてギデオンに指摘しなかった。
とは言えその事に関しては既に感づいているだろう。
「…さて、周。我々は”器”を回収しに向かうぞ。そろそろ呂剛虎が陳の命令を受け動く頃だ」
「ええ。畏まりました、閣下」
恭しくお辞儀しギデオンの後へ続いた。
◆ ◆ ◆
同日、別時間。
十文字克人との激しい模擬戦や幹比古や美月の初々しいやり取りを見届けた、翌日の日曜日。
横浜国際展示場での論文コンペティションが間近に迫る中、達也は早朝から九重寺での修行、FLTでの聖遺物に対しての諜報戦が繰り広げて、その後に大陸側のスパイとなった先輩とやり取り…と目を回すような多忙の中にいるだろうそんな中。
都内駅前の華やかな商業ビルの一角、施設内ではあるが屋外テラスが併設されているカフェでは、それとは無縁の甘やかな空気が流れていた。
「朔也さん、このパンケーキ、とっても美味しいですよ。はい、あーん」
真夜がメープルシロップが掛かったパンケーキをフォークに刺して突き出してきたのを朔也の口元へ運ぶ。それを拒むこと無く受け入れ食する光景はどこにでも…少し甘々過ぎるかもしれない微笑ましいデートの光景だ。
「そういえば…今日は達也さんがFLTに向かうのでしたね」
「うん。その後学校に戻って論文コンペの作業を行う筈だね…」
八雲に言われFLTへ戻しに行く際に化成体による追尾を受け瓊勾玉に関する謀略を仕掛けられようとしておりその後に企業スパイの手先となった関本によって睡眠ガスで眠らせられるが『再成』を持つ達也には通用せず逆に花音に捕らえられてしまう…がこれもまた必要な流れだろう。
「しかし、どうしてあの者達へ手を貸すのでしょう?正直言って理解できませんわ」
「…擁護するつもりは毛頭ないけど、人間誰しも強い訳じゃない。目先の欲を解放することを優先し後先を考えてないんだ。あの連中はあんな愚かしいことを平気でやるんだ」
未遂で終わったと言ってもあの光景を思い出すだけでも自分の事のように腸が煮えくり返りそうになる。
罰するに値するだろう。一族郎党を根絶やしにしなかっただけ感謝して欲しいものだが。
「…いっそのこと大陸事吹き飛ばして更地にしてしまった方が良かったな」
「朔也さんが私を大切にしてくれているのは分かりましたから落ち着いてください…ね?」
声が少し大きくなっていたようで真夜に窘められてしまった。その事に気がつき反省する素振りを見せる朔也へ微笑む。内心で自分の事に対して怒ってくれていたことに少しの優越感があったことは否定できなかった。
「ごめん。少し熱くなっちゃったよ」
紅茶と甘味を楽しんで会話は所々に挟みながらカフェで過ごす。
しかし、商業ビル内の屋外カフェで休憩していた朔也の二色の瞳が、微かに細まった。
「…真夜さん。感じてる?」
「ええ。酷く不快で、澱んだ視線を感じますわね」
朔也の言葉に真夜もまた、紅茶のカップを傾けながら、微笑みを崩さずに応じる。
感じとるのは事前に召喚している『
「原因は恐らく…」
「先日の件、かな…」
来るだろう、と思っていたが早すぎると朔也は辟易としていた。
原因は直ぐに理解していた。先日、達也を逆恨み
その規格外の”それ”のやり取りを監視されていたのだろう事に迂闊だった…と思ったが致し方ない行動だった。
恐らく此方を覗き見ている化成体はギデオンの配下…大亜連合の工作員が放ったのだろう。
此方を監視するために送られたか、しかし見られているというのは不快極まりなく自分だけなら良いが真夜の正体を知られるわけには行かなかった。
「ここで騒ぎにするのも面倒だね。一度巻いてから…裏路地で処理しよう」
「デートの邪魔をする害虫を退治としましょう?」
二人は何気ない素振りで席を立ち、会計を済ませてカフェを出た。賑わうフロアを歩き、防犯カメラと想子センサーを複合した設備の死角に入るようにしてビル裏の連絡通路へ入る。ここから出ることはなにも不自然ではない。
案の定、周囲の気配に紛れ込んだ化成体が迫って来ていた。
物陰に踏み込んだ瞬間、朔也は振り返ることもなく口元が少し動くと同時にパチン、と指を鳴らす。
刹那、追尾してきた化成体の周囲の空間がロックされ、その身を構成するエネルギー体を『
「それじゃ…デートの続きとしましょうか。真夜さん(そういえば今日、平河千秋の所に呂剛虎が向かうけど渡辺先輩の彼氏…千葉修次さんがいるし大丈夫だろう。遅れを取るとは思わないし)」
「ええ。そういえば、朔也さんと回りたいお店があるのです」
そしてその後、何事もなかったかのように朔也と真夜は腕を組んで再び眩しい秋の日常へ戻って行く。
「分かった。行きましょう」
しかし、この時。朔也の原作知識が悪い方向に作用していた。知っているからこその安堵であり迂闊、と言わざる得なかった。「予想だにしない事態」が東京の別の場所で発生しようとしていたのだった。
◆ ◆ ◆
国立魔法大学附属の立川病院内部。
化成体との視界同調が消されたことによりギデオンの視界はその病院内へ戻った。
病院内には暴対警報が鳴り響く。暴対警報を響かせたのはこっそりと後をつけてきてた周達がわざと発砲させたためだ。
「…消されたか」
「おや、気取られましたか」
「問題ない。…そろそろだ」
「呂大人は足止めをして下さっておりますからね」
「行くか。監視カメラと想子レーダーは」
「既に工作済みです」
周が恭しく頭を下げる。
「いい仕事だ」
物陰に隠れたその視線の先には大亜連合の【人喰い虎】こと呂剛虎が一人の魔法師と対峙していた。
渡辺摩利の恋人でもあり【幻影刀】の二つ名を持つ千葉修次と遭遇し熾烈な白兵戦を繰り広げていたのだ。
呂剛虎がここ立川病院を訪れたのはここの病棟に拘留・入院している平河千秋をギデオン達には知らせず協力者にした千秋からの情報漏洩を恐れて抹殺しに来たのだった…がその事は筒抜けであり逆に利用されていた。
警備員が彼らの元に集うのは時間の問題であり行動を素早く起こさなければならなかった。
「な、なに…?」
同時刻、四階の病室にいた千秋は突如として鳴り響いた暴対警報に驚きベッドの上で身を縮ませていた。
「ナ、ナースセンターへ…」
この状況を知るためにベッドに備え付けられているコールモジュールを起動させ通信するが返答がないことにその不安さを加速させていく。
(なんで…こんなことに…)
元の発端は自らの浅はかさが関係していた。姉が元々内定していた論文コンペのメンバーを同じ二科生である達也が代わりに入ったことに嫉妬していた…とある日、その事を周と呼ばれた青年に声を掛けられ悩みごとをついうっかりと吐露してしまったその際だろう、洗脳を受けあんなことをしてしまったことに後悔を覚えた…が実際に司波達也を羨ましがり妬んでいたのは自覚していた。ここの病院にいるのもそれを漬け込まれてしまい今の状況に陥っていることに嫌悪感を感じていたが…後の祭りだろう。
(まさか…あの時関わった人たちが私を…!?)
その暴漢が自分の命を狙っているのではないか、と千秋は不安に駆られ今すぐにでも叫びここから逃げ出したかったがこの状況をやり過ごすしか無かった。その逆も然り、今暴対警戒しているため病室の扉は全てロックが掛けられており内外の行き来は行えないある意味での”安全地帯”でもあった。
(そう…ここなら安全。きっとやり過ごせば…)
しかし、それは直ぐ様裏切られた。
彼女が一瞬だけ視界を扉から外し戻した瞬間に二つの影が音もなく現れたのだ。
「…ッ!?」
「息災そうだな。小娘」
「……う、あ…………あなた、達は……」
千秋の目の前には仕立てられたスーツを着こなす秀麗な青年、周。そして白スーツと烏帽子のような帽子を被った男であるギデオンが目の前にいたのだ。突然の事にとえも言われない恐怖が込み上げ上手く言葉を発することが出来ずベッドの上で震え怯えるしか出来ない。
それをギデオンが帽子の下から覗き見える瞳が見つめていた。
「い、いや……!来ないで…!」
怯え、壁際に後退し身を縮める千秋はまるで童話の子羊のように震えている。
その姿を視界に納め温度の無いモノを見るような目だ。だが、口元は笑っている。
「喜べ小娘。お前のような不良品でさえも使い道があると身を持って証明してくれた。素晴らしい、実に素晴らしい才能だ、平河千秋。命の代償無しに『神星魔法』を扱えるとはまさに、天性の器だ。小娘、お前の肉体と精神は我々が有効活用してやろう」
「おねえ、ちゃ…!……………。………。」
姉へ助けを求める言葉を最後に千秋の意識は暗闇に閉ざされた。
彼女の意識はギデオンの術式によって強制的に刈り取られ、身体がふわりと浮き上がる。その身体に近づき手を近くに近づけると黒い想子の奔流が集まり一つ呪符が形作られ千秋の中へ入っていく。その直後、青白く禍々しい光が放たれ渦巻きその姿を形成した。
「さぁ…目覚めるがいい。蠍座の巫女よ。その身に宿した『天蠍神騎』の力を発揮して見せるが良い」
『…………』
意識を失っていた千秋、その見開かれた瞳は完全に色を失い感情すら削ぎ落とされた
命令をただ受け付ける端末と化した千秋は命令を行使する。
『…………』
力の一旦を示した後、千秋の身体には術者を示す星座のライン…『蠍座』が刻まれその病人服の上からうっすらと青白い光を放っている。
その光景にギデオンは満足げに笑みを浮かべた。
「ははは…やはり狙った通りだ。周」
「おぉ…やりましたね閣下。思惑は成功しましたようです」
「ああ。この小娘を、我が『カーディナル・サイン』の蠍座の巫女として我が手足となって
そう告げると力の一端を見せた後にフッ、と力の抜けた千秋は糸の切れた人形のように崩れ落ちるのを周が受け止める。
「時間もそうありません。そろそろお暇するとしましょう。流石の呂大人であっても『幻影刀』の異名を持つ千葉の剣士を前に無傷では済まないでしょうし」
抹殺という行動のために密かにやってきていた筈なのに騒ぎを引き起こし注意を向けさせ窮地を助け出すと言う二流の脚本家すら匙を投げる台本にギデオンは苦笑した。
「暴対警報鳴らしておいてよく言うよお前。つくづくマッチポンプというわけか…良いだろう。撤退するぞ」
「ええ。呂大人の誘導はこちらで行います。では」
妖しく微笑む周とギデオンが昏睡した千秋を連れ去り密室と化していた病室の中から暴対警報の終了と共に忽然と姿を消した。
無事に回収し恩を売ったギデオン達は病院を離れる。
修次と呂剛虎の激闘の裏で起こった出来事は知られていない。
しかし、歴史の歯車は原作のシナリオを大きく狂わせ、より凶悪な騒乱へと突き進んでいくーー。
九校戦から真夜様を参加させるとしたらどの年代が良いですか?
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十二歳ぐらい(中学生ぐらい)
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十六歳ぐらい(主人公より少し上お姉さん)
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本編(よりは若二十代それで制服を…)