ディアナ完成
起動成功
人格正常
演算機構正常
通信正常
ハッキング機能正常
人工皮膚正常
学習能力正常
完璧だった
少なくとも俺はそう思っていた
思っていたんだ
この事実が発覚するまでは
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起動から三十分後
「ヒュー」
「なんだ」
「これは?」
ディアナが工具箱の中のレンチを指差す
「レンチだ」
「レンチ?」
「ボルトを回す工具だ」
「へぇー」
記録を取る
可愛い
五分後
「ヒュー」
「なんだ」
「これは?」
「ドライバーだ」
「ドライバー?」
「ネジを回す工具だ」
「へぇー」
また記録を取る
可愛い
さらに五分後
「ヒュー」
「なんだ」
「これは?」
「机だ」
「机」
「作業する場所だ」
「なるほど」
記録をとる
可愛い
一時間後
「待て」
俺は気づいた
「なんかおかしくないか?」
ヒューも頷く
「同意」
ディアナは不思議そうに首を傾げる
「?」
「どうしたの?」
「いや」
「お前机知らないの?」
「知らない」
「ドライバーは?」
「知らない」
「レンチは?」
「知らない」
「テレビ」
「知らない」
「猫」
「知らない」
「海」
「知らない」
「学校」
「知らない」
「信号機」
「知らないよ」
「寿司」
「知らないよ」
「え」
「え?」
研究室が静まり返る
ヒューも固まる
数秒後
俺とヒューが同時に言った
「知識入れ忘れてる」
「知識が不足している」
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原因究明開始
俺は慌ててログを確認する
人格形成
正常
感情モデル
正常
会話モデル
正常
倫理フィルター
正常
学習機構
正常
一般常識データベース
……
20%
「…………」
「…………」
「すぅぅぅぅぅぅ Oh my Gooooooooooooood
やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー
忙しすぎたり早く尊いかわいいを見たいがために常識をダウンロードするの忘れてたー
バンブルビー作る時も同じようなミスしたかもしれない
だが
当の本人は気にしていなかった
むしろ
「ねぇヒュー」
「なんだ」
「鳥ってなに?」
「空を飛ぶ生物だ」
「飛ぶ?」
「浮いて移動する」
「すごい!!」
キラキラしている
目が輝いている
完全に幼児だった
原作のディアナも
世界を知らない
知らないからこそ
何にでも興味を持つ
何にでも驚く
何にでも感動する
そういう部分がある
だからなのか
違和感はあるのに
妙にしっくり来る
その瞬間
俺は理解した
知識は足りないが人格は成功している
原作のディアナらしい
純粋さ
好奇心
人を信じる心
それはちゃんと再現できていた
むしろ常識を入れてたらこんなにも原作のディアナっぽくなかったかもしれない
「プロフェット ディアナに一般常識のダウンロードを推奨する」
「いやこれでいい このままでいこう」
「何故なんだ?」
「ヒューが一つ一つ教えてあげればいいんだよ」
ヒューは数秒沈黙した
いつもの長い沈黙だ
演算しているのか
考えているのか
その通りです
だが数秒後
ヒューは静かに答えた
「効率が悪い」
「知ってる」
「教育期間が長くなる」
「知ってる」
「一般常識を直接入力した方が早い」
「知ってる」
「なら何故だ」
俺は笑った
「ロマンだ」
「理解できない。」
「だろうな」
ヒューは少しだけため息のような動作をした
実際にため息は出ない
肺がないから
でもなぜかそう見えた
「製作者の判断を尊重する」
「よし」
勝った
何に勝ったのかは分からない
だが勝った気がする
その横で
ディアナは興味津々に研究室を見回していた
「ねぇヒュー」
「なんだ」
「これは?」
現在
「ファブリケーターだ」
「ファブリケーター?」
「物を作る装置だ」
ディアナの目が丸くなる
「物を作れるの?」
「作れる」
「なんでも?」
「なんでもではない」
「どこまで?」
「設計図と素材がある範囲だ」
「すごい!!」
目が輝いた
そのままファブリケーターへ駆け寄る
ぺたぺた
外装を触る
ぺたぺた
叩く
ぺたぺた
抱き着く
「温かい!」
「動いているからな」
「生きてるみたい!」
「生物ではない」
「でも呼吸してるみたい!」
「そう見えるだけだ」
「でも生きてるみたい!」
「そうか」
なんか会話が成立している
ヒューすごいな
俺にはできない
俺はコミュ障だからな なんか泣けてきた
数分後
「ヒュー」
「なんだ」
「これは?」
今度は工具棚
「工具棚だ」
「こうぐばこ?」
「工具を収納する」
「へぇー」
「これは?」
「ボルト」
「これは?」
「ナット」
「これは?」
「配線」
「これは?」
「回路基板」
「これは?」
「冷却パイプ」
「これは?」
「ツールボックス」
「これは?」
「脚立」
「これは?」
「消火器」
三十分後
ヒューはずっと説明していた
俺は横で笑いを堪えていた
まるで父親だ
原作でもヒューはディアナを守る立場だった
だからなのかこの光景は妙に自然だった
その時
ディアナが突然立ち止まった
「ヒュー」
「なんだ」
「どうして教えてくれるの?」
研究室が静かになる
俺も少し驚いた
ヒューも数秒黙る
「必要だからだ」
「本当に必要ですか?」
「知らなければ危険だからだ」
「危険?」
「知識は生存率に関わる」
「なるほど!」
ディアナは笑った
「じゃあヒューは優しいね!」
沈黙
完全に沈黙
ヒューが止まった演算停止したか?
「優しい?」
「うん!」
「知らないこといっぱい教えてくれる!」
「守ってくれる!」
「だから優しい!」
ヒューが固まった
俺も吹き出しそうになる
原作でもそうだったな
ディアナは真っ直ぐだ
純粋で
疑わなくて
思ったことをそのまま言う
ヒューは数秒黙った後
小さく答えた
「そういうものではない」
「そうなの?」
「ああ」
「でも優しいよ?」
「…… そうか」
負けた
完全に負けた
ヒューはその後何も言わなかった
だが
バイザーの光が少しだけ揺れた気がした
俺はその光景を見ながら思う
完成したんだな
ヒューがいて
ディアナがいる
もちろん本物じゃない
原作そのままでもない
でも
俺が何か月もかけて作った二人は
今こうして目の前にいる
「ねぇプロフェット!」
「ん?」
「海ってどこにあるの?」
「遠いぞ」
「見たい!」
「いつか連れて行ってやるよ」
「ほんと!?」
「ほんと」
「やったー!」
ディアナは嬉しそうに笑った
ヒューはそんな彼女を見て
静かに言う
「外出時は護衛を行う」
「ありがとうヒュー!」
「任務だからだ」
「優しい!」
「……」
また固まった
俺はとうとう耐えられず笑った
研究室には
ファブリケーターの駆動音と
ディアナの楽しそうな声と
少し困ったヒューの沈黙が響いていた
今日の結論
一般常識データベースを入れ忘れたのは大失敗だった
だが
結果的に
原作以上にディアナらしいディアナが生まれた気がする
追記
ヒューは本日三時間二十七分
ディアナの「これは?」に付き合った
<記録終了>
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