牙狼族との決戦から夜が開けて、翌朝。
集落の広間でリムルが切り株の上に立ち、その目の前で、俺達ゴブリンと牙狼族達が整列している。
「はい注もーく!昨日一晩色々考えた結果、君達にはこれから牙狼族とゴブリンでペアになって貰う。」
リムルのその言葉に俺以外のゴブリン達が頭に疑問符を浮かべる。
「リムル…様、皆"ペア"って言葉を知らないんだ。一から説明してやってくれ。」
「えーと、噛み砕いて言うとだな。二人一組になれって事だ。ゴブリンと牙狼族は昨日まで敵同士だったわけだが、昨日の敵は今日の友。心機一転これから協力して生活して貰いたい。」
俺としてはまだ少し複雑な気持ちだ。
しかし、これからこのジュラの森で生き延びていくには牙狼族の力が必要不可欠なのは間違い無い。
ゴブリンだけでは、衣食住はままならないからな。
そんなこんなで皆それぞれ牙狼族とゴブリンでペアを作り再びリムルの前で整列する。
「よし皆ペアになったな。それじゃ…ってそう言えばお前達名前は何て言うんだ?」
リムルのその発言に再びゴブリン達は不思議そうな表情を浮かべる。
無理もないな。
魔物にとっては名前を持っていること自体がかなり稀なのだから。
「我々に名前はありません。名前が無くとも意志疎通は出来ますから。」
「でもな…不便だから。名前を付けてやるよ!」
「ほっ本当ですか!」
お父さんを筆頭に周りのゴブリンと牙狼族が歓声を上げる。
名前か…。
兄ちゃん…俺も兄ちゃんみたいに名前を付けて貰える事になったよ。
それよりも、こんなに一遍に名付けして大丈夫なのだろうか?
俺の心配を余所にリムルはドンドン名付けを行っていく。
まずは兄さん。
名前は兄ちゃんと同じリグル。
そしてお父さんはリグルド。
それからゴフテ、ゴブチ、ゴブツ、ゴブゾウ、ゴブタ、ハルナ。
少し適当過ぎる気もするが、皆は名前を付けて貰えて、凄く喜んでいた。
そして、遂に俺の番が回ってくる。
「ゴブリンで最後はお前か。」
「ああ、かっこいい名前を付けてくれよ!」
「うーんそうだな…兄はリグルで、父はリグルドだろ…。そして俺と同郷だから…お前の父の名前と俺の名前から取ってリムルド…なんてのはどうだ?」
「リムルド…うん、気に入った。」
こうして俺の名前は今日からリムルドとなった。
「それよりも大丈夫なのか?こんなに一遍に名付けして。」
「ん?何か不味いことでもあるのか?」
「いや、何も異常が無いならいいんだ…。」
その後、リムルは続けざまに牙狼族の族長の息子にも名付けをした。
すると案の定、リムルは魔素不足によって眠ってしまうのだった。
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その日の夜。
俺達は皆で眠ってしまったリムルの身体を丁寧に磨いて、仏壇のような物の上に大事に飾った。
それから程無くして強烈な眠気が俺達全員を襲った。
「なん…だ…?これ…。」
俺はたたらを踏みながらも何とか意識を保つ。
他の皆は急に襲ってきた眠気に抗えずに直ぐに意識を手放してしまったようだ。
「何で急に…?」
何かの毒か?
新手の魔物による奇襲か?
何にしても、この場にいる全員同じタイミングで眠気に襲われるなんて普通じゃねえ…。
起きろ…。
俺が皆を守らないと…。
このまま意識を手放して、魔物に襲われでもしたら終わりだ。
《確認しました。個体名リムルドが内包する魔素量が規定値に達した事により、進化が可能になりました。》
「誰…だ…。」
突然脳内に響いてきた謎の声に俺は疑問を問い掛ける。
《これより進化を開始します。進化には個体名リムルドの意志がある程度反映されます》
「俺の…意志…。」
その時の俺はいきなり進化とか言われても正直ピンとこなかった。
だが、「本人の意志が反映される。」その言葉を聞いて、俺の頭に思い浮かんだのは「強さ」…の二文字だった。
俺の意志が反映されるのなら、進化出来るのなら、強くなりたいと思った。
皆を守れるくらいに…誰にも負けないくらいに強くなりたいと…そう、思った。
「…強く…なり…たい。」
《確認しました。今の返答を了承と見なし、個体名リムルドの
次の瞬間、俺の意識は深い闇へと落ちていった。
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リムルside
名付けにより、大量の魔素を一気に失ってしまった俺は3日間寝込んで漸く目を覚ました。
「いやー酷い目にあった…。」
3日ぶりに見る光景。
相変わらずのボロ屋敷で安心する。
それにしてもまさか名付けであんなに魔素を消費するとはな…。
リムルドがあんなに俺を心配していたのはそう言う事だったんだな…。
…って言うか知ってるなら言えよ!
「リムル様、お目覚めになられたのですね!」
と心の中で独り言を呟いていると、突然俺の頭上からお淑やかな女性の声がする。
…そう言えば何か身体の上下が妙に柔らかいものに挟まれている感覚がするような…。
俺は【魔力感知】を使用して客観的に今の自分の状態を確認する。
…すると、そこには短い髪が特徴的な綺麗な大人のメスゴブリンが俺を膝枕している光景が広がっていた。
「え?誰?」
こんな綺麗なお姉さん、うちにいたかな…。
「今からリグルド村長を呼んで参りますね!」
そう言ってゴブリンのお姉さんは俺を膝から下ろしてリグルドを呼びに行った。
…一体どうなってるんだ?
あんな子少なくとも3日前まではいなかったよな?
て言うことは、この3日の間にうちの集落にやってきた新しい仲間とか?
「リムル様!お目覚めになられましたか!」
「おお!その声はリグ……ルド?」
俺の目の前に現れたのは俺が知っているよぼよぼなおじいさんではなく、ボディビルダーのように、まるで彫刻で出来たと錯覚する程の肉体美を誇るムキムキマッチョマンだった。
「誰!?」
「リグルドです!」
「何でそんなにムキムキなんだ?」
「名前をいただいたからです!」
…それだけで!?
「名持ちになると言うことは魔物としての格を上げて進化をもたらすのです!」
成る程それで皆大喜びしていたのか…。
俺の魔素がごっそり持っていかれるわけだな…。
「我が主よ!ご回復心よりお喜び申し上げます!」
3mはあるであろう巨大な狼がリグルドの家の壁を突き破って現れ、とても流暢な人語で話し掛けてきた。
「その額の星…
「はい!」
例に漏れずこいつも進化したのか…。
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あの後、ランガの尻尾によって巻き起こった竜巻によって、家が吹っ飛んでしまった為、一度人気の無い崖にランガ達牙狼族を集めて話しをする。
「ランガ、名前を与えたのはお前だけだったよな?何で他の牙狼族達も進化しているんだ?」
ランガの後ろを見ればランガと同じく進化を果たした牙狼族達が後ろで控えていた。
「はっ!我らは全にして個なのです。我が主が我にくださった名前はそのまま我らの種族の名前になりました。今の我らは
ほう…全にして個…。
成る程、それで皆進化したんだな…。
…あれ?そう言えば、まだあいつの姿を見ていないような…。
「なあ、ランガ。リムルドが何処にいるのか知らないか?」
「リムルド殿でしたら、川に行くと言っておりました。案内いたしましょうか?」
「おう!頼む!」
ランガは俺を背に乗せて、嵐のように素早く大森林の獣道をすいすいと駆け抜けていく。
数分もしないうちにリムルドがいると言う川に到着することが出来た。
「ここにリムルドがいるんだよな?」
「はい!少し薄いですが、リムルド殿の匂いをあっちのほうから感じます。」
俺は一旦降りて、ランガに言われた通りの方向へと歩みを進める。
するとそこには、水色っぽい青銀色に新緑のメッシュが入った綺麗なショートボブの髪と額に2本の太い角を生やした褐色肌の美女が裸で水浴びをしていた。
「うえ!?こ、これは失礼しました!」
俺は慌てて後ろを振り向いて、女性の裸を見ないようにする。
と言っても【魔力感知】の影響で360°丸見えなんだけど…っていかんかいん!前世だと犯罪だぞ!
「なんだ、リムルか…。やっと起きたんだな。」
「え?何で俺の名前を知って…。」
「俺だよ、リムルド。この度晴れてオーガに進化したんだ!」