リムルドside
シズさん、カバル、エレン、ギドがこの村を訪れて数日が経った。
そろそろ彼らはこの村を発って自分達の国へ戻るつもりらしい。
折角初の人間の客人と言うことで、シズさん達の門出を俺、リムル、お父さん、ランガで見送ることにした。
「シズさん、いつでも遊びに来てくれよ。シズさんなら俺達はいつでも歓迎だ。」
「今度はもっと沢山遊んで、いっぱい思い出作ろうな!」
「ありがとうスライムさん、オーガさん。機会があったらまた遊びに来るね。」
リムルと俺の順にシズさんと別れの言葉を交わす。
「お客人達、我らの村は満喫していただけたかな?」
「ああ!居心地が良すぎてつい長居しちまったくらいにはな!」
「あ~私帰りたくない。この村に住む。」
「姉さん、我が儘言わんで下さい…。あっしもこの村への移住を本気で考えてしまいやす。」
他三人との別れも済ませて、遂に彼らはこれからの旅路に向かって歩き出す…筈だった。
「う゛う゛あ゛あ゛あ゛!」
カバル達が村の入り口から出発しようとした矢先、突然シズさんが唸り声を上げて苦しみ出した。
「シズさん!大丈夫か!」
心配したリムルがシズさんに近付く。
しかし、そんなリムルを拒絶するようにシズさんの体から高温の烈火が巻き起こり、村の入り口周辺を焦土と化した。
「おねが…い…。にげ…て。」
その言葉を最後にシズさんの体は炎に包まれて、代わりに炎の巨人が出現する。
「何なんだ…一体?シズさんはどうしちまったんだ…。」
「シズ…シズエ…。シズエ・イザワ?もしかして爆炎の支配者!」
「それって50年以上も前に活躍した英雄じゃない!」
どうやらシズさんはかなりの有名人らしい。
カバル、ギド、エレンが悠長に騒ぎ立てている。
「お前達、早く避難を…。」
「そう言う訳には行かねえよ。あの人が何であんな殺気を剥き出しにしてるか知らねーが…。」
「あっし達の仲間でやすよ!」
「ほっとけないわ!」
避難を促すリムルに反抗する三人。
…正直見くびっていたが、中々どうして肝の据わった連中だな。
気に入った!
コイツらと一緒にシズさんを止めよう!
「…。」
次の瞬間、炎の巨人は虚空から三体のワイバーン型の魔物を召喚した。
「サラマンダーが三体も!」
「これは骨が折れるでやすよ!」
「魔法は私に任せて!」
あの三人は慣れた動きでサラマンダーと言うらしい三体の魔物を対処する。
…俺達も負けてられないな。
「リグルド、村の皆の避難を大至急!」
「はっ!」
「リムルドとランガは俺の援護だ。皆でシズさんをイフリートから解放するぞ。」
あの炎の巨人はイフリートと言うのか。
よくファンタジー作品に出てくる炎の魔人だな。
なら、弱点は水か?
「【水刃】」
リムルも同じ事を考えていたらしく、ランガの背に乗ってイフリートに近付きながら体内から水を刃の様に射出した。
しかし…。
ーーージュウ…。
リムルが放った【水刃】はイフリートにたどり着く前に蒸発してしまった。
纏う温度が高過ぎて水が蒸発するのか…。
ならどうやって戦う?
「【
「ギャウッ!」
そんな時、エレンが放った氷の槍がサラマンダーにダメージを与えた瞬間が目に入った。
氷なのに…ダメージが入ってる…。
もしかして…魔法…?
精霊には魔法が有効なのか?
「エレン!俺にその魔法を撃ってくれ!」
何を血迷ったのか、リムルはエレンに自分に向かって魔法を撃つようにお願いする。
「え、え?でも…。」
「良いから早く!」
「もう、どうなっても知りませんよ!【
次の瞬間、リムルは自分に撃たれた魔法を捕食した。
ユニークスキル【捕食者】か。
俺のスキル【受愛者】の効果で存在は知っていた。
何でも食った物のスキルをコピーしたり、食った者に擬態出来たりするらしい。
しかも、コピー出来るスキルにはユニークスキルも含まれる。
…凄く羨ましい。
「【
無事にエレンの魔法をコピーして氷魔法を習得したリムルは早速一体のサラマンダーを撃破し、そのままイフリートの相手をする。
「すげえ…。」
ついそんな感想が口から漏れてしまった。
俺も負けてられないな。
俺はユニークスキル【受愛者】を発動する。
このスキルの効果で俺に敵意のある者は生気を吸いとられる。
「ギャウッ!」
「んぐっ!」
残り二体のサラマンダーとイフリートが耐えきれずに地面倒れ伏せた。
例え、魔法が使えなくても俺だって役に立て…「止めろ!リムルド!シズさんの生気も一緒に吸いとってる。このままだとシズさんごと死ぬぞ!」
「え?…。」
俺は慌ててスキルを解除する。
今のイフリートはシズさんの体を乗っ取ってる状態。
つまり、イフリートから生気を吸い取れば、シズさんからも生気を吸い取っちまうって事かよ。
くそ!この木偶の坊が!俺は何の役にも立てねえのかよ…。
「ギャウァー!」
次の瞬間、一体のサラマンダーが俺に近付いてきて、自爆してきた。
「がっ!」
「「「「リムルド(さん/の姉さん)!!」」」」
くっ…。
シズさんから生気を吸い取ってしまう事を危惧してスキルを解除したせいで、リムルからコピーした熱変動耐性が間に合わなかった…。
俺のスキルは俺に好意のある奴からスキルをコピーする事が出来る。
但し、リムルと違って俺はユニークスキルをコピー出来ない。
精々がエクストラスキルまで。
加えて、コピーしたスキルは【受愛者】の中に保存される。
つまり、【受愛者】を発動しないとコピーしたスキルが使えない。
更に、追い討ちを掛けるように俺のスキル熟練度はかなり未熟だ。
【受愛者】のコピースキルを使う時、必ず同時に生気を吸い取る効果まで発動してしまう。
どちらか一つだけを器用に発動する事が出来ないのだ。
この戦いにおいて、俺だけが足手まとい…。
「ギャウァー!!」
続いて最後のサラマンダーがカバル達の前に現れて自爆の為に力を溜める。
…まずい!
あの自爆技はオーガの俺ですら、かなりのダメージを受けたんだ。
人間のあいつらじゃ、まともに食らって耐えられる訳がない…。
俺は酷い火傷を負ってふらふらな体に鞭を打って、カバル達の元へ駆け寄り、カバル達を庇う様にサラマンダーの前に出る。
誰も死なせない!
誰も傷つけさせない!
俺が皆を守るんだ!
《確認しました。ユニークスキル【
その瞬間、俺達の周りを固いバリアが覆い、何とかサラマンダーの自爆攻撃からカバル達を守り抜いた。
「やった…。守れた。」
「すげえぜ!リムルドの姉さん!」
「危ない所を助けくれてありがとう。」
「間一髪でやしたね。」
喜ぶのはまだ早い。
まだシズさんはイフリートの中で苦しんでいる。
「カバル、エレン、ギド。まだ戦いは終わっていない。気を引き締めろ。俺は守る事しか出来ない。その代わり俺の命に代えてでもお前達には傷一つ付けさせはしない。たがら、最後までリムルと俺に協力してくれるか?」
「当たり前だ!」
「あっしらを見くびらないで下さい!」
「皆大切な仲間だもん。最後まで一緒に戦うよ!」
三人の承諾を得て、俺はイフリートの相手をしているリムルの方へ加勢しようとする。
しかし、その直後に戦況は大きく変わってしまう。
突然、リムルの足下に魔方陣が展開されたのだ。
…あれはまずい!
そう思った俺は直ぐにリムルの下へ駆け寄り、リムルの体に体当たりをして魔方陣の外へと放り出す。
次の瞬間、魔方陣から天を焦がすほどの業火が吹き出し、容赦なく俺の身を包んだ。
「リムルド!」
リムルの悲痛な叫びが辺りに木霊する。
くっ!【守護者】!
俺は【守護者】を発動して何とかその炎に耐えながら、ゆっくりイフリートに近付く。
そして、思い切り抱き付いてイフリートの身体を抑さえ付ける。
「今だリムル!やれ!」
「おう!」
リムルは【捕食者】を発動し、器用に俺が抑さえ付けているイフリートだけを呑み込んで、シズさんとイフリートを分離させた。
イフリートと入れ替わるようにイフリートがいた場所に気絶したシズさんが現れる。
「シズさん!」
シズさんに駆け寄って、体を起こしてあげる。
まだ息はあるが、かなり弱ってる…。
俺のせいだ!
俺が生気を取ったから、シズさんの命は…。
「んっ…。オーガ…さん?」
「シズさん…。」
シズさんは直ぐに目を覚まして、辺りを見渡す。
「ごめんね…。村を滅茶苦茶にしちゃって…。」
「そんな事は気にしなくてもいい。あなたが無事なら…。」
ああ…。
感じる。
シズさんの生気が…命が終わり掛けている。
「スライムさんは…近くにいる?」
「ここにいるぞ。」
シズさんの質問の答えるように、リムルもシズさんに近付く。
「最後に私の話を聞いてくれるかな?」
「最後なんて…言うなよ…。」
「最後だよ…、分かるの。もう、何十年も生きてきたから…。だから、せめて最後はあなた達に看取って欲しい。」
そう言って、シズさんは話を続ける。
「人よりも多く生きてきて、辛いこと悲しいことを沢山経験してきた。最後にスライムさんが見せてくれた東京タワーはこの世界で血濡れた思い出しかない私に綺麗な記憶を遺してくれた。ありがとう。」
「あのくらい、リムルなら沢山見せてくれるよ!リムルは凄いんだぜ。きっと現代の映画だって、リムルのスキルに掛かれば無料で見放題だ。」
「ふふっ…。それは楽しそうだね…。ねえ、オーガさん。そしてスライムさん。私の心残りを聞いてくれるかな?」
「心…残り…?」
俺はそのまま疑問を口にし、リムルは終始黙ったまま聞く姿勢を取る。
そこからシズさんは最後の力を振り絞って自身の過去について語った。
この世界にシズさんを召喚し、シズさんの中にイフリートを宿したのは魔王レオン・クロムウェルと言う男であること。
シズさんの中のイフリートを抑え込む役割を担っていた仮面はある一人の勇者から貰ったこと、その勇者とは途中で生き別れており、もう一度会いたかったが、それが叶わなかったこと。
そして…。
「イングラシア王国に私と同じ様にこの世界に召喚された子供達がいるの。その子達はスライムさんやオーガさんと違ってスキルを持たない。体内に内包する膨大な魔素の影響で長くは生きられない。その事がどうしても心残りで…。」
「心残りなら、一緒に助けに行こう!きっと、俺とリムルなら何とか出来る。シズさんの体だって…。そうだ!俺のスキルは生気を吸い取る効果があるんだ。逆に生気を与える事も出来るかも…。」
「リムルド…。諦めろ…。」
そっとリムルの手が俺の肩に乗せられて、無慈悲にそう告げられた。
大賢者で解析したのか…俺のスキルを…。
肝心な時に何で…こうも、俺は…!
「なら、新しいスキルだ!さっきの【守護者】みたいに、シズさんを助けられるようなスキルを…。」
「もう、良いよ。ありがとう。最後にオーガさんとスライムさんの前世の名前を知りたいな…。」
「俺は…ごめん、まだ思い出せない…。」
以前、シズさんに名前を聞かれてから自分でも前世の名前を思い出せる様に努力したのだが、思い出そうとすると頭にノイズの様なものが走って、上手くいかなかった。
「悟。三上悟だ。」
「私は静江。井沢静江。ねえ、スライムさん。最後に私のお願いを聞いてくれるかな?」
「なんだ?」
「私をあなたの中で眠らせて欲しい。こんな世界で終わりを迎えるよりもあなたの中で綺麗な夢を見て、静かに眠りたい。」
リムルは少し遠くから、こちらを伺っているカバル達を一瞥する。
俺達の話の殆んどはあの距離からでは聞こえてない筈だが、カバル達はこれからリムルが何をするつもりなのかを察して、重苦しく頷いた。
それを見たリムルはスキルを使って、シズさんを弔う為に彼女の体を呑み込んだ。
…また、燃え尽きた。
目の前で、命が…守りたいと思っていた命が。
守ると誓った命が…目の前で焦土の臭いとともに燃え尽きた…。
あの時と同じだ。
リムルがこの村に来る前、牙狼族との戦いで、戦死した兄ちゃん達の遺体を火葬した時と同じ臭い。
この世界の魔物にも遺体を火葬する文化があるようで、皆でゆっくり遺体の皮膚が燃え尽きる様を見ながら、何に対して捧げているのか分からない祈りをしていたのを覚えている。
あれも今と同じ様に焦土の臭いが鼻腔を突き抜ける日だった。
何かの命が燃え尽きる時には必ず焦土の臭いが鼻腔をくすぐる。
あの空気と大地を焦がす臭いが俺に焦燥感を与え、自然と涙と嗚咽が込み上げてくる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。」
俺はその場で踞りながら、泣き叫ぶ。
「リムルド…。」
「死ね!死ねよ!早く俺が!俺だけが!」
この場に俺が泣き叫ぶ声が響き渡る。
「何も出来なかった…。ただ目の前でシズさんが死ぬのを指を加えて見る事しか出来なかった…。見殺しにした!シズさんから生気を吸い取った!あれが無ければもう少し長く生れたかも知れないのに…。俺はただの人殺しだ…!誰かを守るどころか俺のしたことは命を燃やし尽くす炎に
「…リムルド、お前…。」
「リムル…俺は…もう、戦えない…。」