リムルside
《告。シズエ・イザワの肉体の解析が終了しました。人間への擬態とユニークスキル【変質者】の使用が可能です。》
そんな事は分かってる。
俺がシズさんを食ったんだからな…。
あのイフリートとの戦いからどれぐらい時間が経っただろうか?
恐らく数時間…いや、数十分も経ってないか…。
あの後、カバル達には一旦国に帰る日を遅らせて今日の所はうちで泊まって貰うことにした。
あんな事があった後に村から追い出すのも忍びないからな。
…それにあいつらにはかなりショッキングな光景を見せてしまった。
シズさん本人の希望とは言え、俺はあいつらの前でシズさんを食べたのだ。
ほんの数日間を共にした臨時パーティとは言え、仲間が目の前で魔物に食われるのはあまり気分の良いものじゃないだろう。
あいつらには今日一日ゆっくり休んで貰えるように、俺達が出来る最大限のおもてなしと、カイジン達が作った新しい装備を贈る事にした。
かなり使い古しているようで、あいつらの装備はかなりボロボロだったからな…。
これでせめともの償いが出来たらと思う。
村はかなりボロボロになってしまったが…、幸い犠牲者はいない。
これから頑張って建て直して行けば良い。
…だけど…。
「リグルド、リムルドの様子は?」
俺はリムルドの部屋の前でリグルドに尋ねる。
「はい…。あれから水も飲まず、食事も摂らず部屋に引きこもっております。」
まだ一日も経ってないが、この先ずっとこのままではいずれ倒れてしまうな。
どうにか元気を取り戻して欲しいのだが…。
「リムル様…。娘が心配を掛けさせてしまい申し訳ございません。」
「気にするな。あんな事があったんだ…。リムルドを責めても仕方ない。」
「お気遣い感謝致します…。娘は二回目なのです。大切な存在の最後を看取ったのは…。」
ああ…。
分かってる。
普通の平和な日本で生まれて育った奴がたった数ヶ月の間に他人の死を二回も経験したのだ。
心が折れるのも無理はない。
「あれ?リムルの旦那達もリムルドの姉さんの見舞いに来たのか?」
聞き覚えのある声に後ろを振り向くと、そこには新しい装備に身を包んだカバル、エレン、ギドがいた。
「お前達もわざわざリムルドの為に来てくれたのか?」
「ああ、あの人には助けられたからな。」
「シズさんが亡くなったときかなり取り乱していたから、私達心配で…。」
「あっしらが来たところで何も出来やしないのは重々承知でやすが…。だからと言ってじっとしてやれる程薄情ではないでやすよ。」
コイツら…。
シズさんの最後の旅の仲間がコイツらで本当に良かった…。
「リムルドは今、かなりデリケートでな。悪いがそっとしておいてくれ。」
「ああ、わかった。」
「うん。早く良くなるといいですね。」
「時間が癒してくれるのを待ちやしょう。」
「ありがとう、お前ら。…少し場所を移して話さないか?ずっと部屋の前にいたらリムルドも落ち着かないだろうし。」
そう言って、俺はカバル、エレン、ギドを連れて俺の部屋に向かう。
「…改めて、色々すまなかったな。こんな事に巻き込んで…それにお前らの前でシズさんを…。」
俺は部屋に入るや否やそう言葉を切り出す。
「その事なんだが…。一旦シズさんの姿になれるか?確か、旦那のスキルで変身出来るんだよな?」
コイツらの前で擬態は使った事無かった筈だが…一体誰から聞いたのか…。
滞在中にリムルド辺りがゲロったのか?
まあ、良いか。
「ほい。これで良いか?」
俺はカバル達の前で人間の姿に擬態する。
人間の姿はシズさんを幼くしたような見た目だ。
まあ、シズさんを食べたのだからシズさんに似ているのは当たり前か…。
「シズさん!」
「「「ありがとうございました!!!」」」
突然、カバル達は擬態した俺に頭を下げる。
「俺!あんたに心配されないような立派なリーダーになります!」
「短い付き合いでやしたが、あなたとの思い出はあっしの一生の宝でやす。」
「ありがとうございました…。お姉さんみたいって思ってました…。」
俺をシズさんに見立てて、最後の別れを言いたかったんだな…。
考えてみれば、近くにいたのに、コイツらには別れの言葉を一つも口にさせてやれなかった…。
この言葉がどうかシズさんに届く事を祈るとしよう。
「ありがとうな、リムルの旦那。それと、俺達、やっぱりもうこの村を出るよ。」
「え、もう?あんな事があったんだからもう少しゆっくりしていっても良いんだぞ?」
もう村を出ると口にしたカバルを俺は驚きながら呼び止める。
「もう十分休んだよ。それにあのカイジンさん装備も貰っちまったしな。これ以上は世話になれねえよ。」
「この装備はあっしの家宝にしやす!」
「いつかまた遊びに来ますね!」
それだけ言って、カバル達は俺の部屋を後にして、村から出る為に入り口に向かう。
「あっおい!」
俺はカバル達を見送るために、急いで後を追う。
「わざわざ見送って貰わなくても良いのに…。」
「そう言う訳にも行かないだろ…。この村の主として、義理はしっかりと果たさなくてはな。お前ら、元気でな!風邪引くなよ。」
「おう!」
「はい!」
「旦那も達者で!」
こうして、カバル達はこの村を後にする。
結構忙しない奴らだったが、気持ち良いくらいに良い奴らだった。
どうか彼らの旅路をシズさんが見守ってくれる事を祈ろう。
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あれから一週間がたった。
未だにリムルドは変わらず飲まず食わずで部屋に引きこもってる。
いくらオーガでも限界はあるだろう。
早く元気になって貰いたいのだが…。
「どうしたものか…。」
「本当に…娘が心配をお掛けして申し訳ございません。」
俺は今、俺の部屋でリグルドとリムルドの事について話し合っている。
「気にするな…と言いたいところだが、流石に一週間も何も食ってないのは心配だ。」
「それに関しましては…リムル様もお食事を口にされませんよね?」
「それは…俺には味覚が…。」
いや、待てよ。
シズさんを捕食して人間に擬態出来る俺って今もしかして…。
《解。シズエ・イザワの生体情報を解析した結果。味覚の発現に成功しています。》
「おー!リグルド!やっぱり今日から俺も飯を食うぞ!」
「なんと!それでは今夜は宴ですな!リグル達警備班に極上の牛鹿をとってこさせましょう!ついでにリムルドを宴に強制参加させて無理やりにでも食事を捩じ込んでやります!」
「…程々に頼むよ…。」
取りあえず今夜は宴を開くことに決まった。
これで暗くなった空気も少しは明るくなってくれたらなと思っている。
「あっそうだ。なあ、リグルド。出来ればで良いんだが、リグルにリムルドを狩りに連れて行かせてくれないか?ずっと部屋に引きこもりっぱなしだと、気分はずっと落ち込む一方だし、少しは外に出た方が良いと思う。」
「気分転換ですな!了解いたしました!必ずやリムルドを部屋から引っ張り出して見せましょう!」
「…本当に程々にな…。」
そうして後の事はリグルド達に任せて、俺は今回獲得したスキルを確認しに洞窟へと向かうのだった。
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リムルドside
「リムルド…気分はどうですか?」
「…別に…。」
兄さんの質問に適当に返事をしながら、俺はゆっくり兄さん率いる警備班の後ろを着いていく形で森の中を歩く。
一週間ぶりに浴びる日光は闇に慣れた俺の肌を容赦なく焼き付けてきて、かなりしんどい。
たかが一週間、何も食わず何も飲まず日の光も浴びなかっただけなのに…照り付ける太陽がまるで俺を燃やし尽くそうと躍起になっているような錯覚を覚える。
…煩わしい。
数分前、突然お父さんが部屋にノックも無しに入ってきたかと思えば、いきなり俺を部屋から引きずり出して兄さんと一緒に狩りに行かせてきやがった。
お父さんなりの気遣いなのだろうけど、やることが脳筋過ぎるんだよ…。
「リムルド元気出すっス。今日は宴らしいッスよ!なんでもリムル様が今日から食事を摂ることにしたらしいんス!」
ゴブタは相変わらず元気だな。
俺は…宴を楽しめる気分じゃねえかな…。
そもそも狩りだって、俺は乗り気じゃない。
何せ、生き物を殺すのだ。
前世の名前も死因も思い出せない俺だが、それでも断言出来ることがある。
それは俺は狩りをしたことがないと言うこと。
前世も今世も含めて、虫以外は一匹も殺してない。
自分と同じく、本能ではなく意思があって、家族を守る…養う…生かすと言う目的を持つ生き物を俺はなるべく殺したいとは思えなかった。
転生して、兄ちゃんの死を目の当たりにしてからは、特に俺は成るべく生き物を殺さないように振る舞っていた。
その癖、皆が狩ってきた肉は美味しく食べていた。
矛盾している…そんなの分かってる。
こんなの質の悪いヴィーガンと思想は同じだ。
でも、想像してしまう…。
自分が殺した魂の行く先を。
俺やリムルみたいに皆が皆転生出来るとは限らない。
それなら死んだ魂はどこに行くんだ?
天国?そんなの本当にあるのか?
それとも、普通は死んだ魂は分解されて消滅するのか?
だとしたら、俺が殺したせいでその命が消滅することになる。
天国で家族と再会してゆっくり穏やかな生活をする理想的な死後の世界は存在しない。
死ねば消える。
死ねば今まで培ってきた経験、思い出、人格全てが…その生き物がもつ唯一無二の個性が消失する。
だとしたら何の為に生き物は生きるの?
死ぬってことは今まで生きてきた時間が全て無駄になるってこと?
そんなの嫌だ…。
俺には、生き物の生きざまを無駄にすることなんて出来ない…。
「リムルド…。大丈夫ッスか?顔色がますます悪くなってるッスよ…。」
「少し…日光に酔ったみたいだ…。大丈夫、気にす…っ!」
その瞬間、木の上か突然大きな棍棒を持った影がゴブタを襲った。
…ヤバい!
完全に油断してた!
【魔力感知】を切ってて奇襲が来るまで気付かなかった…!
俺は咄嗟に【守護者】を発動してゴブタの身を守る。
そして次の瞬間、甲高い金属と共に謎の影の棍棒が弾かれる。
「ちっ!」
舌打ちをして、その影は一歩下がって俺達から距離を取る。
それと同時にぞろぞろと木陰から仲間らしき者達が姿を現した。
「そんな…コイツらは…。」
現れた敵の姿を見てリグルは驚きの声を上げる。
それもその筈だろう。
今しがたゴブタを奇襲した影とその仲間達は…。
俺と同じオーガだったのだから。