気がつくと、大きなヘイローが浮かぶ青空の下に私はいた。
戻ってきた。それが一目で分かる見知った空だ。
空から目を下ろすと、そこに広がるのは未だ再建中のアリウス分校の街並み。
こうやって見下ろす景色にも見覚えがある。ここは学校の屋上だ。
屋上から眺めるアリウスの生徒達の姿は、今日もみんな笑い合いながら日常を謳歌している。少し前までは考えられなかった光景。
色に満ちた、私達が勝ち取った世界だ。
「――姫……!」
背後から驚き慌てた声が聞こえてくる。
振り返ると、そこにはミサキとヒヨリがいた。
「もう、昨日の夕方からどこ行ってたのさ……先生のところにでも行ってるかと思ってモモトーク飛ばしたら知らないって返ってきて、まあまあ騒動になりかけてたんだよ今。勘弁してよホント……」
「でも良かったですうううう……! アツコちゃん、最近心配でしたから……!」
呆れながらも心配を隠せていないミサキに、逆に心配していたのを全力で表現してくれているヒヨリ。
私が向こうに行っていた間もそうだけど、それ以上にこの三か月間、これまで二人にずっと心配かけてたなって思って申し訳ない気持ちになる。
「ごめんね二人共。今までずっと、迷惑かけちゃって」
私はその意味も込めて深々と頭を下げた。
そんな私にちょっと驚いたのか、顔を上げて見た二人の顔は少し困惑気味だった。
「あ、うん……別に問い詰める気はないけれども。それにしても、どこに行ってたの?」
ミサキが怪訝な顔で聞いてくる。
私はそれに包み隠さず答える事にした。
「うん。実はね、サっちゃんと会ってきたんだよ」
「……は?」
「えっ? アツコちゃん、あの……それって……」
「もう、そんな顔しないでよ。大丈夫だよ、ちゃんと私は現実に目を向ける事にしたから……サっちゃんがもう死んじゃった、その現実に」
私の言葉に違う種類の驚きの色で顔を変える二人。
うん、まあこうなるとは思ってたよ。でもだからこそちょっと誤解を産む言い回しをしたところもある。
その方がちょっと面白そうだったし。……私、思ったより反省してないのかも、これ。
「うーんと、そのぉ……イマイチ話が見えないんですけれど……」
「……はぁ。まあでも、悪い事じゃないっぽいね。……今のアツコ、昨日までとは違って、いい顔してる」
「そう?」
「うん、儚いお姫様のように見えて実は結構芯が強くてアリウスらしさもある、そんな姫のふてぶてしい顔」
「はっ、はい! アツコちゃん、やっと元気になったなって、そんな感じはあります……うわぁぁぁあああああああああん! 良かったですうううううううううう! アツコちゃん、あのままだと本当に消えちゃうんじゃないかって、私、心配で……! 絶望しなくて、本当に幸せですうううううううう……!」
したり顔で言っているミサキの横でヒヨリが泣きながら言うものだからちょっとミサキのバツが悪くなっているのが分かる。
でも、それが二人らしさだとも言えた。
私の手元に今も確かにある、かけがえのない絆だ。
「ふふふっ、ありがとう二人共……これからもよろしくね」
私は二人にお礼を言いながらも一方で考える。
それにしても、半日か。
やはり向こうとこちらでは時間の流れにズレがあるらしい。
とすると、やはり再会するのは難しいかもね。
こっちが大人になるころには向こうはサっちゃんの子供世代が同じくらいの年とかになっちゃうかも。
……でも、やっぱりまた会えるんじゃないかなって思う。
私には漠然としているけれど何故かそういう確信があった。
「じゃあ、私がさっき言った『サッちゃんに会った』って話、もっとちゃんと説明するね。でもその前にあの言い方だとここにいるよね、先生? なら先生も呼んでほしいな。とりあえすまずは三人に聞いて欲しいから。この半日……向こうで私が過ごした三週間ほどの、奇跡みたいな日々の話をね」
あの電車はアリウスの負の感情の堆積から生まれたものじゃない。
きっともともとあの電車はそういうものとしてあって、このアリウスはそのステーションの一つであったのだろう。
時間と空間を飛び越えて渡る不思議な電車。
アレがそうと知っていれば、きっとやりようはあると思うんだよね。
だから今度は『錠前サオリ』への未練ではなく、大人で先生な『常前早織』に会いに行きたいな、なんて。そんな事ができたらいいななんて、漠然と思っている。
「じゃあ行こっか。ちょっと長くなるけどいいよね。答えはもちろんイエスしか認めないから」
強引に二人を連れて屋上を去っていく私。
二人もだけど、先生も向こうで先生になったサっちゃんの話を聞いたらどんな反応するんだろうな。
感動するのか、喜ぶのか。もしかしたら私の頭が心配されちゃうかも? まあ先生なら私の言葉を嘘とか病気なんてばっさり切ってしまうなんて事はないだろうから、そんな事にはならないと思うけど。
それにきっと、向こうで頑張っていて、確かにそこにいたサっちゃんの話はみんなに届くと思うんだ。
だって、私と同じようにみんなの中にも『錠前サオリ』はいるんだから。
――サっちゃん。あなたがくれたものは間違いなくみんなの中にあるよ。だから、そっちも頑張って。そして、いつかきっと、また会おうね。
*****
「サっちゃん先生ッ! ありがとうございますッ!!」
いきなり職員室に久坂と高杉が入ってきたかと思うと、ものすごい勢いとものすごい大声で久坂が頭を下げてきた。
「うるさい」
なのでまず内容はどうこう以前に私は久坂の頭を軽くチョップした。
「うぎゃっ!? 何するのサっちゃん! 令和じゃそういうのって体罰になるんだよこの平成女!」
「それでいったらお前だって平成生まれで人生の半分は平成の平成女だろうが。あとお前の親御さんからは『うちの子は本当に猪突猛進のバカなのでもう体で分からせてやってください』と頭を下げられてたので今のは特例として認められた超法規的措置だ。親御さんには見なかった事にされる」
「何やってんのパパとママ!?!?」
「……久坂、完全に本題が飛んでる」
「あっそうだった……サっちゃん先生、本当にありがとう。久坂と私の間、取り持ってくれて」
「……ああ、そのことか」
職員室に二人が入ってきた時点で分かっていたが、あえて少しはぐらかした言い方をした。
私はあくまで二人の背中を押しただけで、事の顛末はこれから聞くわけだからだ。
「私はただ高杉からの相談と不満からの怒りを受け、その後お前達が二人で話せる場を作ってやっただけだ。関係を修復できたのはお前達の努力の結果だろう」
「でも、やっぱりサっちゃん先生が私の勇気も出させてくれたから、私は高杉とちゃんと向かい合って話す事ができたし……とにかく、ありがとうございますっ!」
また勢いよく頭を下げて例をしてくる久坂に私は軽く笑ってやる。
隣で同じように笑っている高杉の手をよくみるとずっと久坂と繋がれていた。
本当に仲直りしたようで良かった。
あの夜、彼女に言われた通り私ももっと生徒達の気持ちを汲み取ってやるべき場面は多いのだろう。だが、それはそれとして肩入れし過ぎてもいけない。あくまで大人として、教師として守るべきラインは存在する。
この塩梅に正解はなく、やはり生徒一人一人をもっとちゃんと見て対応するしかない。
まったく、本当に大変な仕事だな、先生というのは。
でも、だからこそやりがいがある。
「ま、うまくまとまったら本当に良かったよ。で、結局軽音部はどうするんだ?」
「うん! ちゃんと作るよ! そこも話し合ったからね! ね、高杉!」
「……うん、バカには勝てないからね」
「ちょっとそれどういう事ォ!?」
「言葉通りじゃないか?」
「サっちゃん先生までぇ! もう! まあというわけで、はいこれ! もう集めたよ五人!」
一瞬憤ったと思ったら即自信満々な顔で用紙を出してくる彼女。
なんともまあ切り替えが速い子だ。
「おお、ちゃんと五人いるな。お前達二人に坂本、一年の西郷に……大久保? アイツも入るのか?」
彼女からは以前、勉強についていけないから学校を辞めたい、という相談を受けていたから意外だった。
すると私のその様子に久坂もまたちょっと神妙な面持ちになっていた。
「うん……いや凄かったよ、あと一人だねーって四人で話してたところに偶然来た大久保にマイク持たせたらそらもう凄いパッションで歌いだして……『私の魂の輝きはここにある! これぞ私の生きる道! 人類よ、私の歌に魂を釣られろ! 天の川まで鳴り響け私のスターサークリングソングうううううう!!!!!!』ってもう別人みたいになってさ……うん、凄かった……凄かった……」
「お、おう……」
なんというかまあ、それでアイツが前向きになれたのなら良かった。
多分日々のストレスとかフラストレーションを解消できる場所ができたのなら卒業までは走れるだろう。
意外なところに答えって転がっているのだな……当たり前の話だが大人になってもまだまだ勉強だなぁ……。
「ま、まあともかく要件は満たしたようだな。……よし、ほら。サインしてやったぞ」
一旦彼女らメンバーについての話は置いておいて、私は提出用紙の顧問欄に名前を書いてやった。
「『常前早織』……間違いなく、私の名前だ」
今生における私の名前。そして、これまではどこか不思議な気持ちであった前世と変わらぬ音にももうそういった気持ちになることはない。
前世の『錠前サオリ』もまた確かに私なのであり、どちらも決して別々の矛盾する存在ではなかった。
私は『錠前サオリ』であり『常前早織』でもある。どちらも私なのだから。
「ありがとございますっサっちゃん先生! いぉーし! これから始まるぞぉ! 私達『Rise of Rock』のレジェンドがぁ! 音楽シーンに私達、参上ッ! 満を持して降臨だぁ!!!!」
「だから職員室で大声を出すな」
「あだぁ!?」
テンションのまま叫ぶ彼女に私は座りながら出席簿で軽く鼻頭を叩いてやった。
その一連の流れに、久坂も私も、そして高杉も朗らかに笑いあった。
*****
『んで、私との週末マルチをしばらくほっぽいて過ごした親戚の子とのイチャラブ生活はどうだったのよ淫行教師の早織さんー?』
「誰が淫行教師だ。普通だ普通。あ、そっちに戦車行ったぞ」
『あいよー、多分いけるからなんとかしてみるわ』
月も変わってすでにうだるような暑さが見えてきた最初の週末の昼下がり。
私は昔からの友人とゲームをしながらディスコードを繋いで
先程も彼女が言ったように休みの日に二人でこうしてオンラインなりオフラインなりで遊ぶのは定例となっていたのだが、さすがにアツコが来たときはすべてをアツコ優先で動いていたため久々にこうして話して遊ぶ事になったのだ。
『うし撃破ァ! 私の地雷とAT4にお前は泣いたーっ! ……で、普通って言うけどさー、まあ絶対なんかあったでしょアンタ』
「……なぜそう言える?」
『いやーだってアンタこれまではグエー死んだンゴォ!』
「何にやられた?」
『ヘリがッ、豆ヘリが空を練り歩いているッ』
「了解、あれか。この位置なら据え置きのTOWでやれるかもな、やってみる……よし、当たった。迂闊な旋回をしてるからだな」
『謝謝茄子~我が子を救うサオリヌス~』
「急にひたすらネットミームを注ぐ女になるのやめろー」
『そんな事言いながらもネットミームのノリで返してくれる早織好きだよ~』
「もうどれだけお前みたいな陽キャクソオタクと友達やってきたと思うんだ……慣れだ慣れ」
こいつとはもう二十年近く友達をやってるせいで本当に良くも悪くも影響を受けたしいろんな経験をしてきた。
喧嘩をした事だって何度かあったし、お互い壁にぶつかったときに助け合ったりもした。
なんというか、本当に濃い時間をコイツとは過ごしているなと思う。
まあそのせいでアツコとの別れ際に変な事も言ってしまったんだが……。
『んでまあ話の続きだけどさ』
ひとまず落ち着いた状況になったところでまた彼女が聞いてきた。
ちなみにこれでもお互い手を止めているわけでなくゲームはちゃんとプレイしている。
これもまた一つの慣れとも言えるだろう。
『なんというか早織、今更になって一皮剥けたなーって』
「え? ……そうか?」
『うん。アンタはまあほんとクソ真面目ででも結構融通も利くところもある変なやつだけどさ、いつもどこか後ろ髪を引かれてんなーって思う所はあったのよね。でもさ、今の早織の声はそういうのまったく感じなくなったなって。まあとすると、その親戚ちゃんとの暮らしでなんか吹っ切れたかなー、なんてね』
「……驚いたな。声色一つでどうしてそこまで分かる?」
『もうどんだけアンタみたいな真面目バカと友達やってきたと思うのよ~、慣れよ慣れ』
「……そうか」
『錠前サオリ』として培ってきたものもあるが、『常前早織』として新たに手にしたかけがえのないものも確かにある。私はそれを今、強く感じた。
「ま、確かにそうかもな。少なくとも私も少し柔軟になった自覚はあるぞ」
『へー、例えば何よ?』
「異世界モノ転生モノに前よりおおらかになった」
『は? どゆこと?』
「簡単な話だ。“そういうもの”だとするならもうそれは“そういうもの”なのだと受け入れられるようになった、という話さ」
そう、例えばこのキヴォトスと日本の通貨が一緒な事。
これはきっとそういうものでそういう事なのだろうし、また私にとある希望を一つ与えてくれていた。
こうした繋がりがあるのならば、きっとまたどこかでアツコ達と再会できる機会もあるのではないのかと。
『マ、マジかよ……! 極まってたときはファンタジーモノの設定にツッコミを入れて植生とか生態系とか果ては大気の組成がどうたら言い出してお前マジ本当にいい加減にしろよって気持ちにさせてきたあの早織が……!』
「まあその……あれはさすがに私も酷かったとは思っている……。まあ、でも今はなんというか、ご都合的な要素もアリだなと、そう思えるようになったぞ。例えば、世界を分かたれた者同士がまた再会できる、そんな話とかもアリだなとな」
彼女と再会できるのでは、と思った要素はお金の単位だけではない。
日本とキヴォトスには他にも似通っている要素はあったりスマホの原理も同じだったりしたが、それらも決定的ではない。
私にそうした確信を抱かせてくれたのは、前世の私が死に際に見たあの蠍の心臓――一等星のアンタレス、
このキヴォトスと日本で同じ星座の
きっと、これがこの日本とキヴォトスを繋ぐ鍵の一つだと思うのだ。
どこかで聞いた蠍の物語のように溺れ死んだが生まれ変わった私と、
何か運命めいたものを感じてしまうのもしょうがないし、ここにやはり私は希望を抱きたい。
私は『錠前サオリ』でもあり『常前早織』でもある。
そんな都合良く前向きな答えを受け入れたのだから、これから先も両者を取っていく都合のいい未来を見たっていい、そう思うのだ。
『……ふーん。いやはや……本当に一皮剥けたねぇ早織。なんか感動しちゃうわ。もう三十路も越えたのにすんげぇよホント』
「年齢部分は余計だ。それを言ったらお前は大して成長も見られないがな」
『ははははは、変わらないことが魅力なんで私は。っと、試合勝ったねー。……うお、54キル3デスで拠点も踏みまくってスコアトップはさすがだね……この車両マップで白兵戦オンリーだったのにようやるわ。まあ元からFPSだけ異常にウマウマだけどさ早織』
「まあ今回の新武器はAR15系統だからな……やはり手に馴染むからいつもより戦績は出せたと思うぞ」
『昔からM16とか握ると余計スコア伸びるもんねー早織、別に今作のはシーズン武器だけど環境席巻って程じゃない感じなのに。ほんとなんで?』
「そうだな……昔取った杵柄、というヤツだな」
『いやあんたと私は一緒にFPS始めたから歴は一緒でしょ……』
「まあそれはそうなんだが……」
さすがに前世で同じタイプの銃を握りずっと実践にいたなんてのは彼女にも話していない。
正直コイツならわりと受け入れてくれそうな気もするのだが、まあ進んで言う事でもないしな。
あと、やっぱりコイツとはそういうのナシでただの『常前早織』として友人でいたい。
そうも思うのである。
だから私の前世についての話は内緒だ。
私とアツコ、そしてミサキやヒヨリ達とだけの特別な絆の証。
そしてこれを秘密にする事も、コイツと私とのまた特別な絆の証なのだ。
『んじゃー次の試合は……お? あー……ごめん早織。ちょっとこれから編集と急な打ち合わせ入っちゃった。だから今日は日が高いけど終わりで! おつかれー今年の夏コミも受かったらコスプレで手伝いよろしくネキー!』
「ああお疲れ……ってちょっと待て! もう三十なのだしコスプレはしないと去年も言って――クソ、本当にあの陽キャクソオタクめ……!」
結局今年もなあなあでやらされるんだろうなと思い辟易としながら苦笑しつつ、私はヘッドセットを外して席を立つ。
そしてコップにお茶を入れ、手に持ちながらソファーに腰掛ける。
晴れた日差しが差し込む先にある、アツコのためにと買ったキャラもののクッションとラッコのパジャマ。
「……いいものだな」
それを見てまた私はなんだか温かい気持ちになり、ゆっくりとそれに口をつけるのであった。
「――サっちゃん!!!!!」
などと安いお茶をカッコつけて優雅に飲んでいたら、突然先週まで聞き馴染んでいた声が飛んできた。
「ゴボフアッ!?!? ゲホッゲホッゲホッ! ハァ……ハァ……な、え、は!? アツコ!? なんでベランダから!? というか帰ったのでは――」
「――うわ、本当に大人になったリーダーがいる……なんかちょっと気持ち悪いまであるかも」
「うわぁぁぁああああああああああん! ほんとにほんとにほんとにほんとにサオリ姉さんですううううううう……!!! お久しぶりですううううううううう……! 凄いいい感じのお部屋に住んでて幸せそうでなんかちょっと贅沢の格差で絶望を感じますうううう……!」
「ミサキ!? ヒヨリ!? 本当に何故……って、な!? ベランダが電車に!?」
びっくりしすぎて気管に入ったお茶の痛みがまだ喉に残りつつも目をやると、何故だかベランダの窓がいつの間にか電車のドアになっていて、そこから現れたアツコ、ミサキ、ヒヨリ。
あまりに突然の出来事にまったく理解ができないんだが? それはそれとして、アツコ以外の二人の姿も記憶と変わらず、とても懐かしく嬉しい気分にもなった。
「うんごめんねサっちゃん。説明している暇はないから端的に言うね。今キヴォトスが大変な事になってて、解決のためにサっちゃんの力が必要なの」
「いやいやそれはさすがに端折りすぎだろう!? というか私は今はヘイローのない人間なのだからできる事なんてないと思うのだが……」
「いや、むしろそういうサっちゃんだから必要なんだよね今。あと時間差なら気にしないで。もうズレなく行き来できるようにしたからここでキヴォトスに行って帰ってきたら文明が滅んでたとか人類が進化してたとかは起きないよ」
「……らしいよ、良くわかんないけど。まあ時間としては映画一本分くらいで終わるんじゃないかな?」
「はい……それに一本分と言っても多分七十分ぐらいですかね……子供向け映画の一本分ですね……えへへ……」
「やけに具体的だなお前達……」
なんというかもの凄いご都合パワーを感じる。
……けれどもまあ、それもいいか。
そういうのもいいんだとさっきアイツに話したばかりだし。今はこれも”そういうもの”として受け入れればいいだけだ。
「……はぁ、分かった。“私の”仲間の窮地だ。“今の私”でよければ、いくらでも力を貸そう」
『常前早織』として『錠前サオリ』の仲間達を助ける。
字面だけ見たらなんだか暗い感じもあるけどそんな事はない。結局どっちも私なのだから、どっちがどっちでも成立する。そう考えればいいだけの話なのだ。
「ありがとうサっちゃん。……そして、これからもよろしくね」
「ん? ああそうかなるほど。……そうだな、これからもよしく」
そして今の彼女の言葉でだいたい察した。
つまり、アツコは今回私を必要としている揉め事が済んでもたまにこうして遊びに来るつもりらしい。
私の方からはまだどうなるかは分からないが、少なくとも思ってたよりずっと早く彼女との再会の時が来た、という事のようだ。
「……話まとまった? んじゃリーダー、こっちはこっちでいつものよろしくね」
「はい……やっぱりサオリ姉さんがいるなら、リーダーはサオリ姉さんじゃないと、ですからね……へへへ……」
「らしいよ? じゃあお願いね、サっちゃん先生?」
……なるほどと、私は理解する。
そうだな、久しぶりにやってもいいだろう。
「……ああ、分かった。……では――」
『アリウススクワッド』である『錠前サオリ』としての号令。
そして『先生』である『常前早織』としての号令を。
「――行くぞ、みんな! アリウススクワッド、出撃だ!」