逃げたい俺と勘違いする魔法少女と特攻したいAI   作:5th

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―――草木の眠る丑三つ時。

 

三日月の淡い光が町並みを照らす中、空中で三つの影が対峙していた。

 

一つは平凡な暮らしから完全に遠ざかってしまった、一応は我らが主人公、駆。

 

もう一つの影は、月光を透かすような銀色の髪をショートボブに整え、黒曜石のように艶やかな漆黒の機動装甲(アーマー)を纏った、陽葵と同世代の少女のもの。

 

そして最後の影は、見た目十六歳程度、闇に溶け込む漆黒の長髪を揺らし、動きやすさを重視した野性的な戦闘服に身を包む女性のものだった。

 

「まさか、この街にもう一人戦術士が潜んでたなんてね……」

 

「……そうだね」

 

「誰もいない夜道を歩くのが億劫で、こっそり空路を使っただけなのに……なんでこんな重武装の奴らと空中で睨み合ってんだ、どちくしょう!」

 

『マスター、銀髪の彼女が先日陽葵たちから連絡のあった新たな戦術士に違いありません! 後顧の憂いを絶つためにも、ここで撃墜しておきましょう!』

 

「大きく出たじゃないか。そのちっぽけな星辰力で、アタシとセリアの相手になるって本気で思ってんのかい?」

 

アクセル・コアの声に反応したのか、黒髪の女性の目尻が釣り上がる。

 

もとより険しい目つきをしていたが、いまはまるで猛獣の双眸のように、その名の通りルージュ(真紅)の瞳からギラギラと威圧的な光を放っていた。

 

無骨な機動装甲の内側で竦みあがる駆。

 

彼としてはすぐにでも土下座して謝りたい気分でいっぱいだった。

 

なにせ話を聞く限りでは、自分と比べて桁違いの星辰力保有量を誇る陽葵を、あの銀髪少女は撃退したというのだから。

 

『片腹痛いですね! 星辰力の総量だけで戦術士の力量を測っているようでは、まだまだ三流というところ。―――聞きなさい、悪人ども! 我がマスターは最強、なにより最速の騎士! たとえそこの戦術士の星辰力がマスターの十倍以上であっても、こちらに敗北の二文字は存在しません』

 

「―――っ! ほざいたね!」

 

堪忍袋の尾が切れかけているらしく、黒髪の女性はいますぐにでも飛びかかりそうだ。

 

そして、やはりここでも置き去りにされる駆。

 

同じく置いていかれているだろう少女にそっと視線を向けるが……。

 

「…………」

 

なにやら危なそうな、身の丈ほどもある巨大な刃を持つ星導機(アストラル・ギア)片手に睨まれてしまう。

 

口にこそ出していないものの、あの少女もどうやらやる気らしい。

 

どうしてこう自分の周りには個性的な面々が集まり易いのだろうか―――と空を見上げ、嘆息する。

 

平穏な毎日が当たり前のように存在すると思っていた頃の自分がすごく懐かしく、なにより眩しく感じた。

 

「あんたのその余裕ぶった態度が! 心底ムカつくんだよ!」

 

怒号。

 

なにやら駆の態度がお気に召さなかったらしい。

 

「―――ちょっ!?」

 

現実に帰還した駆に、右拳を固めた黒髪の女性が迫る。

 

星辰力節約のために防壁を展開していなかった駆は、彼女の一撃をまともに受けた。

 

ベギンッという硬質的な音が夜の冷えた空気に波紋する。

 

「のわぁぁぁぁ―――っ!?」

 

『―――《警告》胸部装甲板破損。損傷レベルC。まだまだいけますよ、マスター!』

 

その見た目とは裏腹に、女性の拳はやけに威力があった。

 

その役割上、アクセル・コアは本体及び機動装甲に強固な耐久性を付与するようあらかじめ設定してある。

 

なのにも関わらず、彼女の一撃は駆の装甲に小さいとはいえ傷を負わせたのだ。

 

「っ痛ぇな!? なんだいコイツ、どんだけ硬い装甲纏ってんだ!」

 

僅かに赤くなった右拳を振りながら、女性が睨みを効かす。

 

駆はなんとかバランスをとり、体勢を立て直したところだった。

 

「い、意外とダメージは無いけど……心臓に悪いって! つかあの人、素手で殴りかかってきたぞ!? 戦術士って肉弾戦もアリなのか!?」

 

女性の後方に控えている少女のほうは、星導機を持っているのでまだわかる。

 

だが、いま自分に重い一撃を加えたあの女性は冗談抜きで素手で殴りかかってきた。

 

いくら星辰力で強化してあるといっても、無謀な行為には違いない。

 

そんな彼の過ちを正したのは、アクセル・コアだった。

 

『いえ、マスター。戦術士は後方に待機しているあの少女だけです。前衛を務めているのは、彼女の使い魔。あの動き、そしてなによりあの耳と尻尾から判断するに、猫科の猛獣が素体かと』

 

「み、耳と尻尾……?」

 

相変わらずすごい目つきで睨んでいる女性を、バイザーに装備された暗視機能を使って観察する駆。

 

なるほど、確かに彼女の頭からは山猫によく似た耳が、その腰からはしなやかな尻尾のようなものがぶら下がっているのが見える。

 

「陽葵ちゃんトコのルカと同枠か……。にしては物理攻撃力が高すぎだろ!」

 

毒づき、びびりながらもゆっくりと上昇する。

 

念話で陽葵に助けを呼ぼうとしたが、『あのような輩など、マスターだけで十分でしょう。幼子の手を煩わせることもありません』と回線を絶たれてしまったので、まさに大ピンチである。

 

先日の一件で白い装甲の少女と知り合って以来、どうにもこの星導機は彼等を甘やかす傾向があった。

 

確かにテンパっていたとはいえ、「俺も出来る限り協力する」と言った手前、一概に星導機を責めるわけにもいかず、暗鬱たる気分で日々を過ごしていた矢先に発生したイベントが、いまの状況である。

 

「し、仕方ない。……あれを使うか」

 

駆の呟きに反応したらしく、バイザー内に二種類の呪文が投影される。

 

―――〝絶閃・神速相転移《ゼロ・オーバードライブ》〟と〝絶穿・螺旋相転移《スパイラル・オーバードライブ》〟。

 

アクセル・コア曰く、前者が衝撃波で敵を押し潰すスキル、後者が鋭角な衝撃波をまとって敵を穿つスキルだとか。

 

言葉巧みに違いを述べているが、経験者の駆は知っている。

 

双方ともに、高速移動からの体当たりに違いはないことを。

 

強いて相違点を挙げるとするならば、後者のほうがダメージ(自分に対する)が大きいということか。

 

ほかに彼が使えるスキルは防御魔法の〝円環防壁《リング・シールド》〟、昨日インストールしたばかりの初歩の回復スキルの二つのみ。

 

両腕にシールド→突撃→負傷→回復→両腕に→……と、突撃戦法を補助するのに効果的な呪文は最低限ながら備えてあるのが余計に憎い。

 

なお、本来ならば〝オーバードライブ〟系列の魔法は移動補助に用いられるものなのだが、星辰力保有量がしょぼい駆は移動の途中で力が切れかけてしまうため、彼の中では変に威力のある攻撃魔法として位置づけられていた。

 

『どうしますか、マスター。貫きますか? それとも吹き飛ばしますか?』

 

「……頼むから、嬉しそうに言わないでくれ。確か、俺の星辰力じゃ加速の連続使用は三回が限界だったよな?」

 

『はい。しかし、心配はご無用です。一撃さえ決まれば、こちらの勝利は必然ですから』

 

「毎度のことながら、その自信の出所はどこなんだよ……。とにかく! フルボッコにされない内にさっさと逃げっぞ!」

 

なぜ強者のこちらが逃げる必要が―――とか言い出すアクセル・コアを黙らせ、背中の巨大なブースターを吹かして軌道を微調整する。

 

人間だろうが使い魔だろうがなんだろうが、人の形をしたものに向かって突撃するような趣味は駆には無かった。

 

「―――よし。この角度なら大丈夫だろ。……うわ、すげぇ欝になってきた」

 

「なにをさっきからゴチャゴチャと―――っ!」

 

「こ、こういう時は三十六計逃げるに如かずって言うしな! ―――絶閃・神速相転移(ゼロ・オーバードライブ)ッ!」

 

『―――《起動承認》、"Zero Overdrive"!!』

 

一瞬どこかへと飛ぶ意識。

 

しかし、こう何度も失神しているとある程度は耐性がつくのか、覚醒はいつにも増して早かった。

 

背中に装着しているアクセル・コアから画像データがバイザーに転送される。

 

そこには呆気にとられた表情でこちらを見つめる、あの黒髪の女性が映っていた。

 

「よし、せいこ―――おぅっ!?」

 

『―――《防壁展開》、"Ring Shield"』

 

「―――黒耀の魔槍《ノワール・グレイブ》!」

 

『―――《形態変化》、Assault form』

 

駆の発生させた円環防壁と、少女の星導機がぶつかり合う。

 

神速相転移で移動したのはいいが、なにかの力が働いたかの如く、彼が停止したのは銀髪少女の目前だったのである。

 

少女のほうもまさかいきなり自分の前方に躍り出てくるとは思ってもいなかったようで、攻撃に移行するのに僅かながらタイムラグが生じた。

 

これが結果的に駆にとって有利に働き、彼が咄嗟に展開したシールドで辛うじて受けることが出来たというのがいまの状態だった。

 

もっとも―――。

 

(やばい、やばいって! ガリガリ、ガリガリ削られてるってば!?)

 

星辰力に乏しい駆の張ったシールドなど、陽葵級の力を内包した少女にとっては紙同然。

 

いま両者が拮抗しているのは、ただ単に少女が加減をしているだけに過ぎなかった。

 

「……退いて。今のあなたじゃ、わたしには届かない」

 

そう静かに告げる少女の瞳には、なんの感情の色も浮かんではいない。

 

だが、目的のためならば手段を厭わないとある種悲壮な決意を固めた―――そんな瞳だった。

 

いっぽう、我等が主人公は危機的状況ながら胸中で安堵の息を吐いていたりする。

 

問答無用で斬られてしまうかとも思ったが、物騒な得物とは裏腹になかなか優しい子じゃないかとか考えていたのだった。

 

無論、少女の瞳に感情の色が宿っていないことなど気づいてすらいない。

 

他者よりも自分の命のほうが大事なのはわかるが、あまりにも観察力が無さすぎだった。

 

「なんだと思ったら、小細工ばっかり得意みたいじゃないか」

 

後ろから聞こえてきたのは、あの黒髪の女性の声。

 

少女とは対照的に、その口調にはありありと怒りの色が見て取れる。

 

このままではあの女性に後ろから撲殺されかねないと思った駆は、少女の言うとおり、降参の意を伝えようとし―――

 

『おかしなことを言いますね。白旗を上げるのは、そちらの陣営でしょうに』

 

―――空気読めない星導機に、またしても妨害された。

 

ぴしりと、彼等のまとっている雰囲気に亀裂が走る。

 

ついでに駆の魔法の盾にも亀裂が走る。

 

駆にとって唯一の防御手段たるシールドはもはや消滅寸前。

 

それに対し、少女の星導機から伸びる星辰力の刃は依然として禍々しい輝きを放っている。

 

この状況で、どこをどう見たらこちらが優勢に見えるのか、駆にはさっぱりわからなかった。

 

この少女が少し星導機に力を注ぐだけで、駆は真っ二つになってしまうというのに。

 

だがしかし……少女と女性はそうは思わなかったらしい。

 

「―――っ!」

 

「―――セリアっ!?」

 

少女は慌てて駆から距離を取ろうとし、黒髪の女性が切羽詰った様子で彼女の名を叫ぶ。

 

だがそれよりも早く、アクセル・コアは動いていた……主をほったらかしで。

 

『―――《空間拘束》、Gravity Stake!!』

 

アクセル・コアの本体(タービンエンジン)から四本の光が伸びる。

 

それぞれの光の先端が楔のような形に変化すると、少女の四肢を拘束するように空間に突き刺さった。

 

自分をほったらかしにして進展した事態に、驚きを隠せない駆。

 

なんとかして逃れようと体を動かす少女。

 

しかし、重力の楔―――グラビティ・ステイクはびくともしない。

 

悠々とした声音でアクセル・コアが言う。

 

『Gravity Stake自体に殺傷能力は付加されてはいません。が、しかし、本来それは高速移動中に急遽進路を変える際、空間に射出してその座標を一時的に固着、それを基点として強制的に進路変更を行うために開発された事象式。いくら高ランクの戦術士といえど、そう易々とは解除出来ません』

 

己が星導機の説明を聞き、駆はそんなものがあったのかと頷いていた。

 

そのさまが、あたかもいままでの動き全てがこの一撃のための布石だったと肯定しているように見えないこともない。

 

「セリア! てめぇ、よくもっ!!」

 

『おっと、動かないでください。動態視力に秀でたあなたでさえ捉え切れなかったほどの、さきのマスターの速度。あれだけの速度をもってこの至近距離から一撃を加えれば、彼女がどうなるかくらいあなたにも理解出来る筈ですが……?』

 

「ぐ―――っ!」

 

黒髪の女性が、歯を食い縛りながら駆を睨みつける。

 

そうしている間に、依然として少女は楔から逃れようと抵抗を続けていた。

 

そして、ここにきて駆はようやく一つの真実にたどり着いた。

 

(……あれ、俺たちのほうが悪役じみてない?)

 

そうなのだ。

 

なにやら得体の知れない光で拘束された美少女。

 

それを助けようとする女性を、少女を人質にして牽制する駆(の星導機)。

 

最初のほうは被害者だったのに、いつのまにか加害者に摩り替わっていた。

 

『無論、命まではとりません。フリーランスの戦術士とはいえ、マスターは高潔な人だ。あなた方の保有している星晶核(アストラル・ノード)、それさえ差し出してくれればすぐにでも解放しましょう』

 

少女を人質に、ブツを要求する装甲男。

 

事実は色々と異なっているが、傍から見れば駆は完全に悪党だった。

 

まっとうに生きていたというのが数少ない自慢だったのに……と、装甲の内側で一滴の涙を零す。

 

「それだけは……絶対に渡せない……っ!」

 

少女が初めて感情をあらわにする。

 

なにかを恐れるように、いままで以上に激しく体を揺り動かす。

 

そのとき、彼女が手にしていた星導機のコアから少女にとってはなにより大切なもの、そして駆にとっては傍迷惑な代物が四つも、その姿を現した。

 

『なるほど、主を守るために自ら星晶核(アストラル・ノード)を排出しましたか……。いい星導機をお持ちのようですね』

 

「ノワール・グレイブ……っ。ダメよ、今すぐしまって……!」

 

『―――《拒否》、Command Rejected』

 

「ノワール・グレイブ、お願いだから言うことを聞いて!」

 

『―――《拒否》、Command Rejected』

 

少女の命令を頑なに拒絶する槍型星導機―――黒耀の魔槍《ノワール・グレイブ》。

 

紅蓮の導杖《クリムゾン・ロッド》といい、この黒耀の魔槍《ノワール・グレイブ》といい、こんなに素直で優しい星導機があるのに、どうして自分のは人の話を聞かず、空気を読まず、微妙に腹黒いのだろうと駆はこの世の不条理を呪った。

 

『さあ、マスター。星晶核(アストラル・ノード)の回収を。収容することは叶わずとも、保管するぐらいならば自分にも出来ますので』

 

「……あいよ」

 

ものすごく体に悪そうな視線を二対も感じながら、星導機にせっつかれて渋々駆は空中に漂う星晶核(アストラル・ノード)を掴む……一つだけ。

 

『マスター……?』

 

「え……?」

 

アクセル・コアと少女の当惑の声が重なる中、駆は背部の星導機本体に一個だけの星晶核(アストラル・ノード)を収納させてから言った。

 

「あー、その……これは陽葵ちゃんから取ったのを返してもらったってことで、頼むよ。君が陽葵ちゃんに勝った報酬として手に入れた星晶核(アストラル・ノード)を、君に勝った俺が返してもらった。一応、話としては通ってるだろ?」

 

ついさっきまで降参する気満々だったために、非常に居た堪れない気持ちの駆。

 

最初は一つも貰わずに帰ろうとも思ったが、陽葵が先日目の前の少女に遺物をとられたと言っていたことを思い出し、急遽一つだけ持って帰ることにしたのである。

 

さすがに戦術士的にははるかに格上の存在とはいえ、十近く年下の少女相手に逃げ帰ってきたとは思われたくなかった……という心理が働いたのも否めない。

 

呆ける少女をよそに、楔を解除すると駆は彼女に少し距離を置いて背を向ける。

 

彼からしてみれば、いますぐにここを立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。

 

銀髪少女は物騒な大槍を持っているし、黒い髪の女性はどうやら人間じゃないっぽい。

 

非日常の道に堕ちてから十日ほどしか経っていないのにも関わらず、なぜに世界はこうも躍起になって自分を日常から切り離そうとするのかと駆は嘆く。

 

「次に出会った時は、必ず……奪い返してみせるから」

 

「その台詞、俺じゃなくてあの子に言うんだな。生憎と俺は、あの子に雇われただけの姑息な戦術士に過ぎん」

 

心なしか「だけ」の部分を強調する駆。

 

幼子にかっこ悪いところを見せるのを嫌いながらも、銀髪少女との戦いは陽葵に任せようと割り切る彼は、ある意味大物なのかもしれない。

 

「……さらばだ」

 

出来ればもう二度と会いませんように、そう心の中で願いながら魔法を発動させる。

 

『―――《事象展開》、Spiral Overdrive!!』

 

「え、よりによってそっちかよ!? 少しくらい空気をよ―――って、のわぁぁぁ―――っ!?」

 

閃光、そしてタービン音の残滓。

 

転移魔法の類でも行使したのかと誤認してしまうほど、駆の姿が一瞬で彼女等の前から掻き消える。

 

少女は駆がいなくなったことを確認すると、虚空に浮いていた残る三つの星晶核(アストラル・ノード)を自らの星導機に戻した。

 

静かに謝罪するノワール・グレイブに、少女は頭を軽く左右に振ることで答える。

 

「あの男っ! 次に会ったら絶対に痛い目見せてやるんだから!」

 

「あの戦術士が、陽葵の……」

 

残された者の内、片方は悔しさを隠そうともせずに牙をむき出しにし、もう片方は彼我の戦力差を鑑みて、珍しく焦りの色をその整った顔に映す。

 

駆サイド(正確には彼のみだが)からしてみれば、今回の件も偶然重なり合ってなんとかいった、言わば拾い勝ちだ。

 

だが、少女サイドはまったく別の結論にたどり着いていたりする。

 

星辰力で圧倒的に劣っていながら、膨大な戦闘経験とある手段に特化された星導機を巧みに使い、確実に勝利という果実をもぎとる謎の男。

 

なにより、あの加速力は厄介だと少女は考える。

 

自分も加速系のスキルを使用することは出来るが、それでもあれだけの速度を生み出すことは出来ない。

 

だいいち、あれだけの速度で移動すればいくら白銀の装甲に守られているからといって、術者は相当なダメージを受ける筈だ。

 

よくて失神、下手をすれば昏倒もあり得る。

 

戦場で意識を失うなどもってのほか、となると、必然的にあの戦術士はあの加速度に耐えられるだけの強靭な肉体と精神力を有していることになる。

 

だからこそ、いくら不意打ちに驚いて初動が遅れたとはいえ、かなりの速度で放った自分の一撃を防ぐことが出来たのだろう。

 

しかもそれさえ、自分を無効化するために張られた罠の一つに過ぎなかったのである。

 

まともに正面からぶつかればまず勝てない。

 

そう少女は結論づけた……そのおよそ九割九分が勘違いだということにも気づかずに。

 

さしもの彼女も、まさか加速する度に気絶&覚醒をくり返す馬鹿が実際にいるとは夢にも思わなかったのである。

 

ついでに星導機との親和性もかなりのレベルと判断づけられていたりもするが、実際はアクセル・コアが主人を超過大解釈し、良かれと思って好き勝手に行動しているだけだ。

 

事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、少女の偏った結論が一人のヘタレな男の運命を後に大きく左右することになる。

 

「……引くよ、ルージュ」

 

「うぅーっ、分かってるよセリア。――ああもうっ、腹が立って仕方ないね!」

 

そして……漆黒の機動装甲を纏う戦術士―――セリアとその使い魔ルージュは、闇に溶け込むようにしてその姿を消すのであった。

 

多大な誤解だけを残して……。

 

 

―――いっぽう。

 

「なあ、アクセル・コア……」

 

『はい、なんでしょうか、マスター』

 

「俺のしたことは間違っていると思うか……? あのとき、俺は彼女から全ての星晶核(アストラル・ノード)を奪うべきだったのか……?」

 

『……その答えは自分にはわかりかねます。ただ、思い返せばあのときのマスターは立派でした。悪を裁くだけが正義に非ず。罪を憎んで人を憎まず。それでこそ、神速の騎士の名を冠する最強の戦術士です』

 

「……そうか。安心した」

 

『はい。そしていまも、ついさきほど戦術士との戦闘を終えたばかりだというのにも関わらず、こうしてこの町の平和を守るために待機している。自分は猛烈に感動しています……!』

 

「それは皮肉のつもり―――いや、マジだな。お前のことだから、マジでそう思ってんだよな!?」

 

『無論です。自分はマスターに嘘偽りの類を用いたことは一度たりともありませんっ!』

 

「それが余計に性質が悪いってなぜに気づかんっ!? だいたい、この状況みてどうしてそういう解釈が出来るんだ? 減速に失敗して、廃ビルの壁にめり込んでいるようなこの状況で!」

 

『ご冗談を。そのような無様な真似、マスターがなさるわけがございません。さあ、共にこの町の平和を見守ろうではありませんか!』

 

「ちょ―――っ!? さらにブースター吹かすような真似すんな! めり込む、さらにめり込むから―――っ!」

 

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