この作品では原作キャラが、亡くなったり亡くならなかったりしますがそれが嫌な方は戻ってください。そして百日戦役で亡くなった人と言えば・・・。
「ひどい・・・・・・。」
見渡す限り、瓦礫の山ができている。誰もが傷つきそして疲弊している。そこからここへと悲鳴が絶えず聞こえていた。そこに一人の青年が現れた。誰かが見ていたなら不思議さに気づいたであろう。そう彼はどこも怪我を負っていなかったのだ。ここにいる人は大なり小なり怪我を負っている。だが五体満足で立っているのだ。
『お母さん~どこ?』
『誰か助けてくれ。』
『ここにけが人がいる。誰でもいいから助けてくれ。』
切羽詰った声が街全体を覆っていた。
「・・・・・・。」
その青年はそれを他人事、所詮自分が関係することではないと見ていたかもしれない。だからそこをすぐに離れようとした。するとその街のシンボルでもある時計塔が倒れてくるのが見えた。砲弾により土台が脆くなっていたのだろう。それは静かに・・・それでも着実に倒れていった。
一人の少女目がけて・・・・・・。
「エステルッ・・・!」
母親らしき女性がまだ気づいていない少女を庇うようにして、時計塔のがれきから我が子を救った。だが、その代償は大きすぎた。自分が無事であるはずがない。
「お、おかぁさん・・・?」
「エ、エステル、無事?」
「う、うん。かあさんがたすけてくれたから。」
「そう・・・・・・。」
今にも事切れそうな
「っ・・・。な、なんだ。今の感情は。」
それは一人の無表情な青年の心を大きく動かすのに十分すぎるほどだった。
「おかあさんっ、おかあさんっ。だれかたすけて。」
「・・・・・・。(どうしてあの少女の流した涙が俺を揺さぶるんだ?)」
この感情の正体を探るべく、青年はその女性の元に歩み寄った。
「っ、だれでもいいですからたすけてください。」
「・・・・・・。」
最初にその女性の上に覆いかぶさっていた全てのガレキを取り除いた。そしてその後、
「お、おかあさんっ!・・・た、たすけてくれてありがとうございますっ。」
「礼はいい。お前の涙に惹かれただけの事。それより他にも手当が必要な人がいるだろう?ここの町長さんはいるか?」
「うん、あそこでつえをついているおじいさんがえらい人だよ。」
「そうか、ありがとう・・・。」
教えてくれた少女の頭を撫で偉い人の元に行く。女の子は撫でられたことに躍いていたが、満面の笑みを浮かべて母親の元に走っていった。傷は治したが失った血液はすぐには戻らない。なので気絶したままでベッドに横になっていた。
「おぬしは誰じゃ?」
「誰でもいい。それよりもここに重傷者や怪我人がどれだけいるか教えてもらえないだろうか?」
この街で見覚えのない人がいるので
「そ、そのテントの中にいるのが怪我人じゃ。不幸中の幸いで亡くなった人は今のところおらんが・・・・・・。」
「そうか、俺には治す手立てがある。そしてそれを今使わない手は無い。一纏めに集めてくれないだろうか?」
「それは助かるっ。じゃ、じゃがワシらにはお前さんにお礼することが出来ない。」
「俺はお礼欲しさにやるのではない。
「(人間?はて、まるで自分が人でないような言い方・・・。)」
その後、町長や軽傷で済んだ人たちが軽傷以上の怪我を負った人たちを一纏めにした。
「これで全部ですか?」
「そうです。これで全員です。」
「では治します。ホーリー・ブレス・・・」
聞いたことのない詠唱後、外傷は消え骨折した人は歩けるぐらいまで回復を遂げることができた。
「おおっ・・・。みなの怪我が、治った。」
「ママ~、パパ~。」
「・・・・・・」
「お前さんのおかげでホント助かりました。ありがとうございます。」
「・・・礼には及ばない。まだやるべきことが沢山あるだろう。また助けが必要な時は願ってくれ。その時は、また現れよう」
「えっ?」
町長や町民が見ている中でその青年は霞がかかったように消え、姿はどこにも見出すことができなかった。
「クラウスさん、今の人は・・・?」
「う、うむ。皆の聞きたいことは分かる。じゃが、今のところは保留にしておこう。今はまだやるべきことがあろう?」
「クラウスさんがそう言うなら。だが俺たちはあの人を責めるなんてことはしないさ。あの人に命を救ってもらったのだから!」
「そうさ、な。(伝承によると多分あれは・・・。)」
~ブライト家~
エステルは、他の人の助けを借りてなんとか母親を自分の家まで運ぶことに成功した。瓦礫に挟まれた時には、もう助からないかと思っていたが今では気を失っているだけ。血色が悪くなっていた顔にも血の気が戻ってきている。そして息も絶え絶えだった呼吸も落ち着いてきている。
「んしょ、んしょ・・・。」
エステルはそんな母親の為に小さい体を引きずって、額の上に冷たいタオルを置いたり替えたりして看病していた。だが、エステルの表情は悲嘆に暮れているものではなかった。希望に満ち溢れている顔だった。
「・・・・・・」
「おかあさんのぐあいはどうですか?」
「ええ、これなら大丈夫ですよ。あとは熱が下がったら一安心です。エステルさん、お願いできますか?」
「はいっ、大丈夫です。」
念のためクラウス市長が呼んだ医者が母親の様子を伺ったのだ。その結果、あと一息で目を覚ますということを知ったので希望に溢れていたのだ。
「おかあさん。」
「・・・んっ、ここは・・・?あら、エステル?」
「お、おかぁさんっ。ヒック、ヒック・・・・・・。」
「あらあら、エステルはまだ赤ちゃんねぇ~。」
「エステル、赤ちゃんじゃないモン。」
自分の体に抱きついてきたエステルを、なだめすかすように母親は優しく抱擁する。そして気づく。自分にあったはずの怪我のなさに・・・。
「ねぇ、エステル。どうして私は助かったの?」
「おかあさんを、はへんからたすけてくれた人がいたの。その人は、みんなのけがをなおして消えたの・・・」
「そう。だったら、今度会った時はお礼言わないと、ね?」
「うんっ、エステルも言いたい。」
その日の夜は、その街は遅くまで歓喜の声で賑わっていた。それは名も言わぬ青年が起こした奇跡にほかならないであろう。
・伝承・
レナ・ブライト
エステル・ブライトの母親であり、本来であれば百日戦役の時にロレントの時計塔からエステルを庇って亡くなった人。
私がこの人を生存させた大きな理由のひとつは、ルシオラの幻術でエステルが見た夢の中に出てきたレナさんとの内容に初見プレイの時泣きまして、自分が書く作品では生存させたほうがイイなと思ったワケです。
あと最後に載せている伝承は考えたものですのであまり批判しないでくださるとありがたいです。