さてここから少し原作に沿った話となります。あとオリ主の名前が出ていないのはワザとです。
暖炉の火が煌々と照らし、夕方から夜へと移りつつあるエステル家の空間を暖かいものとしていた。広すぎず、狭すぎないちょうどよい広さの茶の間にはエステルが父親の帰りを今か今かと待っていた。
「うーん・・・。とーさん遅いなぁ・・・。今日帰るってギルドから連絡があったのにぃ。」
座っていた椅子から降りて、窓から外を見る。憂いに沈んだその表情は父親がまだここにいないことを心底心配しているようだ。
「エステルは本当にお父さんが好きなのね。お母さんのことはもうどうでもいいの?」
「ふえっ?」
慌てて後ろを振り向くと、手を腰に当てたレナがにこやかにエステルを見守っていた。用事を足して部屋からエステルの元に戻ったのだろう。形式上の不機嫌さを表しながら、どことなく眺めているその顔は笑顔だ。
「もぅ~。お母さんの事も大好きだよ。」
たたたっとレナの元に走り寄ってエステルは腰らへんに抱きつく。それを優しく抱き返してレナはエステルと同じ視線へと腰をかがめた。
「分かってるわよ。エステルがお父さんと私のことを大好きだってことぐらいはねっ!」
「うんっ」
満面の笑顔で頷き返す。
「(それにしてもあの時の男の人は見つかっていないのよね。私たち家族を救ってくれたあの人は・・・)」
あれからレナやカシウスはその青年の行方を探していた。勿論、市長にも尋ねてみたし他の住民にも聞いてみたりしたが、霞のように消えた・・・だけしか手掛かりはなかった。
「おーい、今帰ったぞ!」
玄関の方から聞きなれた男性の声が聞こえてくる。どうやらエステルが心待ちにしていた父親が帰ってきたようだ。
エステルとレナは手を繋いで玄関へと迎えに行った。
「おとーさん!」
「おかえりなさい。」
「ただいま、エステル、レナ。待たせちまったようだな。いい子で留守番できていたか?」
「ふふん、あったりまえよ☆とーさんのほうも何もなかった?魔獣とたたかって怪我とかしてない?」
「おお、ピンピンしているぞ。それよりエステル。実はお前にお土産があるんだ。」
「えっ、ホント?釣りザオ、スニーカー?それとも棒術の道具とか?」
「・・・・・・育て方間違っちまったか?」
女の子らしからぬ発言に少し・・・いやかなり意気消沈したカシウスだった。それとは対照的にレナのほうは、手を口に当ててどこか楽しげな様子を浮かべている。
「それでお土産ってなんです?その毛布に包まれているものですか?」
「おっ、鋭いな。・・・よっ、と・・・。」
カシウスは懐に抱いている毛布の中身を、エステルたちに見えるように少しめくって見せた。
「ふえっ・・・・・・。」
そこには頭に包帯を巻いた黒髪の男の子がいた。寝ているのとは違って意識を失っているものと思われ、身じろぎ一つしなかった。
「わりとハンサムな坊主だろ?」
「な、な、な・・・なんなのこの子ー!」
エステルは驚きを隠せずに大きな声を出した。
「エステル、そんなに大きな声を出しちゃいけません。男の子が起きてしまうでしょ?」
こんな時でもレナは冷静だった・・・。いや、訂正しよう。
「あ・な・た?どういう事かきっちりとお話してくれるかしら?」
「おっ、おい。レナ?」
カシウスが見たのはレナの手に握られた包丁らしき鈍く光る刃物だった。
「しゅらば?ねぇ、しゅらば?」
「まっ、待ってくれ。理由を説明させてくれっ!」
「
台所に刃物を置き、カシウスにひと時の安楽が訪れた。
「手当はすませているが、ベッドで休ませる必要があるな。その間に話させてくれ」
「いいわ、エステルはお湯を沸かしてくれるかしら?」
「らじゃー!」
そして、ぐったりしている男の子をカシウスはベッドに横たえて話し合う時がやってきた。
「よく寝てるね。この子、わたしと同じぐらいだけど・・・。こんなに真っ黒なカミは初めて見るかも」
「確かに見事な黒髪だな。ちなみに瞳の色はアンバーだぞ。」
「ふーん」
「それであなた、そろそろ話ししてくれるかしら?」
その雰囲気が一気に氷点下まで下がったかのような気がした。
「ハイ、ワカリマシタ・・・。」
「ひょっとして隠し子?もしかして私を裏切っていたの?」
鬼の目にも涙なのか、
「断じて違うから。俺はお前を裏切ったことなんて一度も無いぞ。今までも、そしてこれからもずっと・・・・・・。」
「あなた・・・。」
「ほえ~っ。」
今までの状況を一転させて、その場に漂う雰囲気にいたたまれなくなったエステルの声が響いた。
「・・・それでしたら、この子の正体は?」
レナはエステルに見られていたのが恥ずかしくなったのか、佇まいを正してカシウスを問い詰めた。
「この子は仕事関係で知り合ったばかりなんだ。まだ名前も知らなかったりする。」
「仕事って遊撃士の?」
「まあな。おっと・・・・・・」
「目を覚ましたようですね?」
カシウスとレナの視線が連れてきた黒髪の少年に向く。すると段々と目を開けつつある少年がそこにいた。
「わっ、本当にコハク色・・・」
「・・・・・・ここは?」
「目を醒ましたか、坊主。ここは俺の家だ。ひとまず安心していいぞ。」
「・・・・・・どういうつもりです?」
どうやらこの少年には思うところがあって、ここにいることが気に食わないらしい。それを如実にしているのは眉間に寄ったシワかもしれない。
「正気とは思えない。・・・どうして放っておかなかったんですか?」
「どうしてって言われてもなぁ。まぁ成り行きってヤツ?」
「ふ、ふざけないで!カシウス・ブライトッ!あなたは自分が何をしているのか・・・・・・。」
「こらっ!」
エステルの肘が黒髪の少年に当たる。・・・結構強めに。
「ケガ人のくせに大声出したりしないの!ケガに響くでしょ!」
「・・・・・・だれ?」
「エステルよっ。エステル・ブライト!」
エステルの存在に今気づいたようで、ややしばらく後に聞いてみた。
「っ、そんなことを話しているんじゃない!」
――ゲシッ、ゲシッ――
またエステルの肘打ちが少年に当たった。これもまた強めに・・・。
「あたっ。」
「大きな声を出さないっ。」
「わ、わかったよ。でも君の行動の方がよけいに怪我に響くんじゃ・・・。」
「なんか言った?」
口を一文字に結び、エステルは少し怒ったように口を開いた。
「だから怪我を悪化させる・・・」
「な・ん・か・言・っ・た?」
「何でもないです・・・・・・」
エステルにタジタジの少年だった。
「もぅ、エステルもこの子はけが人なんだからもう少し優しくしないとね?」
しかしレナも、エステルの怪我人を怪我人だと思わない行動に驚いたのかやんわりとたしなめた。
「う、うん・・・・・・」
「まぁ、ここではレナに逆らわんほうがいいかもな・・・。本気で怒らせたらオレでも敵わない。」
「そうみたいですね・・・・・・」
さっきのやり取りを見ていた少年も、レナの恐ろしさが身にしみたのか小さめの声で返事する。
「ところでなにか忘れていることない?」
「えっ?」
「名前よ、名前。あたしもさっき言ったでしょ。こっちだけが知らないのってくやしいし、不公平じゃない」
「あ・・・・・・・・・」
「まぁ、道理だな。今更隠していても仕方あるまい」
エステルの発言にカシウスも同意する。その横では、微笑みを浮かべたレナも頷いている。
「分かり・・・ました。僕の名前は――」
アンバーとは琥珀色を指すようです。
人物紹介ですが、数話後にオリ主を出すつもりなのでその時に纏めて書きたいと思います。
わかりにくい単語があれば後書きのほうで書きますので、感想などにわからない単語が出てきたら遠慮なくお伝えください。