男の進む軌跡   作:泡泡

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 百日戦役終戦間近のカシウスの行動です。

 七曜暦1192・百日戦役勃発

 七曜暦1193・百日戦役終結


番外編①

 カシウスside

 

 「はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

 俺は急いでいた。それは百日戦役が終戦に向けて動き出してからだった。ロレントを襲ったと言う報告を受け、いてもたってもいられなくなったので、部下に無理を言ってロレントに一時帰還するためだった。

 

 「無事でいてくれよっ」

 

 誰もが思うことだろう。自分の家族の安否を確認したいという思いは。そしてほかの連中にも両親であれ、恋人であれ、家族であれ確認したいのは山々だが俺に――。

 

 『行って下さい、私たちのことは大丈夫ですから。体を削ってまで終わらせようとして下さったのですから少し早めに戻っても誰も文句なんて言いませんよ』

 

 と、皆が口々に言った。

 

 ――ありがとう――

 

 ロレントのような田舎にも、目をつけた連中がいたという事に少しは驚きもした。それに、カシウス・ブライトの家族がいるということがバレているならアキレス腱を断ち切るために行動したのかもしれない。とにかく今は急ぐことが第一だった。

 

 ロレントの郊外に差し掛かったのでそれまで休みなく早めていた足を歩きに変えて、眺めてみた。

 

 「おや?あまり壊れていない?どういう事だ」

 

 想像していたのは、砲撃により無残に破壊され尽くした町並みを予想していた。が、そこにあったのは想像より綺麗に立ち並ぶ家々だった。

 

 「カシウスさんじゃありませんか」

 

 「クラウス市長?こ、これは一体・・・」

 

 遠くからカシウスの呆然とした様子を見て近寄ってきたのはロレントの市長クラウスさんだった。

 

 「それは・・・」

 

 ――説明中―― 

 

 「そんなことが・・・・・・。という事は私の家族も無事なんですね?」

 

 「ええ、見に行くとよいでしょう。こうしてロレントの住民は負傷者がいたものの、死者はおらず皆が安堵を浮かべているのが分かるでしょう?」

 

 「そうですね、それにしても・・・その青年が気になります。クラウスさんは気づいたことはありませんか?どんな小さなことでもいいんです。なにか・・・」

 

 ホッと一息ついてから、当たり前とも思える疑問を市長に尋ねてみた。

 

 「――()の者顕れる時、ゼムリアからの使者と知れ。人ならざる者、しかし恐るにたらず。慈しむ心と共にあり。聖獣を従えし神獣なり――と伝承にあり、それが・・・」

 

 「その青年と合致すると言う事ですか?」

 

 クラウス市長は伸びた髭を片手で触り、そう告げる。言われてから気づいた。確か自分も同じようなことをどこかで聞いたような気がしたのだ。

 

 「私もどこかで・・・。でも、それは今は重要なことではないですね?」

 

 「そうじゃな、今は住民が一丸となって復興せねばならん時じゃ。お前さんも家族のもとに行くといいさ。街のことはそれから話そう」

 

 「ええ、気遣い感謝します」

 

 カシウスはロレントから少し離れた自宅に向かった。その途中で、妙な気配を感じながら・・・。

 

 ――バタンッ――

 

 少し強めに扉を開いた、それは無理のないことだ。

 

 「レナ、エステル。無事だったかい?」

 

 「あっ、おとーさん。おかーさん、おとーさんがかえってきたよっ!!」

 

 「あら、あなた帰ってきたのね」

 

 「はぁっ・・・はぁっ。無事でなによりだっ」

 

 無事な二人の姿を見てカシウスは言葉少なめになった。そして落ち着いてから助けてもらったときのことを尋ねてみた。

 

 「レナ、エステル。助けてもらったときのことを教えてくれるかい?」

 

 「うんっ、いいよ。えーと・・・おかーさんの上に時計とうのはへんがいっぱい落ちてきたの。それからおかーさんが血をながしたときに、おにーさんからあったかい光があふれてきてあっという間にけが治ったの」

 

 「私も意識が薄れていたのですが、エステルの近くにいたと思われる男の人が手をかざすと光が溢れてきて、体が軽くなったのを覚えています。その後、その人は市長さんに連れられて怪我人が大勢いるところに行ったそうです。聞いたことのないアーツで全員を治したそうで・・・」

 

 「フム・・・。その青年はそのあとどうしたか分かるかい?」

 

 「ううん、わかんない」

 

 「私も分かりません。市長さんは“消えた”とおっしゃいました。それとこの事はあまり軍には言わない方が良いと箝口令ではありませんが、住民の皆さんに言ったそうです」

 

 エステルは、両親の横で青年がやったと思われる怪我の治し方をジェスチャーで再現していた。よほど嬉しかったのだろう。

 

 「こう、おにーさんが手を当てるとパーッと光が出てケガ治ったの!」

 

 「そうか・・・」

 

 その様子をレナは微笑ましく見つめ、カシウスは頭を撫でながらその青年のことを思いに留めようとしていた。それは警戒心からではなく、ただ大事な家族を救ってくれたことから来る感謝の念に溢れていたものだった。

 

 ――いつか、いつの日か会える時が来たらその青年を招待して、言えなかったありったけの感謝を述べるんだ――。それがカシウスの夢となった。 

 

 「ねぇ、あなた・・・」

 

 「ん?どうかしたかい?」

 

 「最近ずっと誰かに見られているような気配がするのよ・・・」

 

 それは寝耳に水だった。無理のないことだ、カシウスの家族がここに居るという事が明らかになっていれば、それを狙ってくる連中もいるということ。

 

 「いつからだ?」

 

 堅い口調になった。が、それもすぐに呆気にとられることとなる。

 

 「あ、安心して。その気配はすぐに消えるの。その監視しているような気配が消えると誰かに見守られているという気配に変わるのよ・・・。不思議ね」

 

 「へっ・・・?」

 

 見ると、レナは片手を頬に当てて『ホホホ』と笑っている。その気配の正体に気づいていると言わんばかりに・・・。

 

 「まさか・・・」

 

 「うん、私はそう思っているわ。それは私たちを助けてくれた時と同じような雰囲気が漂っているもの・・・」

 

 これにはカシウスも更に度肝を抜かれたことだろう。市長から伝承のことは聞いているし、自分もそれについては聞いている。ただ、“聖獣を従えし神獣”の時点で人とは関係を持ちたくない・・・そう思っていると考えていたからだ。

 

 「ま、まさか・・・。さっき微かに漂った気配の正体って」

 

 「うん、あなたが帰って来るまでの間ずっと感じてたけど今はもう見当たらないもの・・・」

 

 レナはカシウスの妻という事もあって武道家ではないものの、護身術ぐらいの腕はあるし気配を察知する能力に()けていた。

 

 「ま、何にせよ。俺たちは何度も助けられた・・・それでいいじゃないか?」

 

 「ふふっ、そうね。さっ、今日はあなたも久しぶりに帰ってきたことですから家族三人で美味しいものでも食べましょうか」

 

 「やったー。おかーさんの料理っておいしーんだよっ。あっ、わたしもてつだうー」

 

 今日は久しぶりに賑やかな夕食になりそうだ。これもロレントの街に現れた青年の起こした奇跡だったのかもしれない。  

 

 カシウスside end

 

 ――カシウス家上空――

 

 そこに一人の青年が浮いていた。横には聖獣レグナートと呼ばれる龍が一緒に浮かんでいた。

 

 『よろしいのですか。あのような形で介入されて・・・』

 

 『いいさ、人の優しさに触れそしてそれを潰すのは勿体無い事と判断したからな。それにしても・・・・・・』

 

 『どうかされましたか?』

 

 『レナとエステルを狙う連中がこんなにもいたとは・・・』

 

 『フフフ・・・』

 

 思い出すのは、百日戦役が始まってぶらりと立ち寄ったロレントの街での出来事だった。ここで住民を治したのは記憶に新しいことだったが、流れ弾に当てて亡き者にしようとしたり直接、殺そうとしたりと一年の間忙しく行動する結果となった。

 

 『レグもレグでカシウスが知り合いだったりと、驚くことばかり』

 

 『そうでした。数十年前、戦いを挑まれまして人間のくせにようやるもんだと驚いたものです。それから友人となりました』

 

 『レグの友人を亡き者にするのは俺の流儀に反する。さて・・・ここはもう大丈夫だろう』

 

 『はっ。では先に失礼いたします』

 

 翼をなびかせて高高度まで上昇し、たやすくその姿を小さくしていった。

 

 「まったく、俺が人にここまでのめり込むことになるとは・・・。分からないものだね・・・、これだから人生って面白い」

 

 その青年もカシウスの家を一瞥した後、その姿を消した。




 追加人物紹介。

 ・クラウス

 ロレント市長で温厚かつ気さくな性格ゆえ住民から愛されている。

  
 ・レグナート 

 古代竜。1200年以上前から生きている竜。カシウスとは、20年前に一度剣を合わせたこともありそれから友人になる。 ※この作品では青年に従っている竜の一柱。


 用語紹介や人物紹介にて※が発生する場合がありますが、それはこの作品独自の設定を表すものです。この場合レグナートに関する最後の一文がそれに当たります。

 

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