|彡サッ
「お疲れ様でーす」
撮影が終わり、現場にいるスタッフに挨拶をしてスタジオを出る。今撮影していたのは化粧品会社の新商品のCMだ。
ありがたい事に、芸能会社にマネジメント契約をしてもらえることになり、大学卒業後は高校生の頃からやっていた美容系インフルエンサーとして案件やモデル等といったお仕事を貰えている。
帰りには案件先の企業がタクシーを呼んでくれるとのことで、撮影スタジオの駐車場に止まっているタクシーに乗り込む。
運転手さんに行き先を告げ、静かに動き始めるタクシーの窓から流れる街並みを眺める。
暫く経った後にふと、座席のモニターに目を向けると今をときめく美人すぎる科学者として酒寄博士のインタビュー映像が流れている。
いつも私達に見せるような姿ではなく、完璧人間としての酒寄彩葉がそこには映っている。
カッコつけちゃって。
その姿を見てふと高校の頃を思い出す。
出会いはそう、あれは高校入学した時。
「酒寄彩葉です。京都から来ました。こちらの生活に慣れておらず色々とご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」
入学式後の自己紹介の時間。
前に出て1人ずつ挨拶をする。あ行の私の番はとっくに終わり、残りの人たちの紹介を聞いていた中に彼女はいた。
綺麗な子だな、というのが第一印象。
京都から来たとは言うものの訛りを一切感じさせない標準語で話す。
今思えば、この時すでに完璧超人の片鱗があったのかもしれない。
しばらく時が経ち、周りからの彩葉の評価は頭のいい美人な子。京都から引越してきた優等生。
才色兼備、文武両道。噂ではバイトを掛け持ちして学費や生活費を自分で稼いでいる。
住む世界が違う、なんて思った。私は学費は親に払ってもらっているし、成績もすごく良いわけではない。運動がとびきり出来るわけでもなかった。
挨拶や軽い雑談をしたりはするが、この子とは多分深くは関わらないんだろうな、なんてその時は思っていた。
「ちょっと、やめてください!」
「なあ、いいだろ?俺ら付き合おうぜ?」
ある日、知らない先輩から校舎裏に呼びだされた。
どうせ告白とかだろうなと思いつつ待ち合わせ場所に向かうと案の定、告白だったので毎度のごとく断ったら無理矢理迫ってきた。
放課後だった事もあり、助けを求めようにも周りに他の生徒はいなかった。
「いたっ」
抵抗する私にイラついたのか腕を掴まれる。
強く掴まれた腕に少し痛みが走り、思わず顔を顰める。
怖い。どんなに抵抗しようともビクともしない事にどうしようもないほどの恐怖に駆られる。
「先生!女子生徒が乱暴されてます!早く来てください!」
そんな時である。
切羽詰まったかのような女子生徒の声が聞こえるのと同時に、足音がこっちに向かってくる音がした。
私を押さえつけていた先輩もその音に気付き、舌打ちをすると駆け足で逃げていった。
先輩が離れてから暫くすると1人の女子生徒が駆け付けてきた。
「綾紬さん、大丈夫?」
そこには急いで駆け付けてきたのか、息を切らした酒寄彩葉がいた。
額に汗で張り付いた髪を手で掻き分ける仕草がなんだか扇情的だ、なんて場違いな考えが頭を巡る。
「酒寄さん、どうして…」
「たまたま近くで用事があって。その時に何か言い争うような声が聞こえてきたから」
私の疑問の声に何ともないように答える。
「何ともなくて良かった。急いで来たから実は先生、呼べてないんだよね」
酒寄さんは苦笑いを浮かべながらあえて明るい口調で喋ってくれている。
こちらを気遣ってあえてそうしているのであろう。優しい人だ。
そうしていると、知らず知らずのうちに緊張していたのか、ふと体の力が抜けその場に座り込む。
「大丈夫!?もしかして怪我でもしてた!?」
「いや、安心したら腰が抜けちゃったみたい」
急いで側によってくる酒寄さんに何でもないように答える。
「なら良かった。立てそう?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
その後は保健室まで一緒に連れ添ってくれて、何でもないような話をした。
バイトや勉強で忙しい筈なのにわざわざ一緒にいてくれたんだなと胸が暖かくなったのを覚えている。
その後からよく話すようになった。
「酒寄さん、この問題の解き方を教えて欲しいんだけど」
「酒寄さん、今度遊びに行かない?」
「彩葉、テストの範囲教えてー」
「彩葉、可愛い上に天才すぎー」
いつからだろう。
彩葉に対して他の人とは違う気持ちを自覚したのは。でもこの気持ちは間違ったもの。誰にも言ってはいけないもの。だから、私は彩葉が幸せになってくれたらいい。
この気持ちには蓋をしないといけない。
タクシーが目的の場所に着いた。
「ありがとうございました」
タクシーを降りて建物の中に入っていく。中に入るには入館証が必要であり、本来なら部外者である私が入ることは不可能なのだが、特例で私は入ることができる。
「こんばんは」
『生体工学研究室』と名札が貼られた部屋の中に入っていく。
「あ!綾紬さん、お疲れ様です!ほら、所長お迎え来ましたよ!」
「あと少し。ここのシステムが…」
「そう言ってもう何時間も経ってるじゃないですか!就業時間はとっくに終わってますよ!残業しないようにって上からも言われてるじゃないですか!」
ここの研究員さんが頭を掻きむしりながら、怒られるのは自分なんですよ!と言いここの所長をデスクから引き剥がそうとしているが、なんの力が働いているのかビクともしない。
そんな漫才を見ていると近くのモニターに1人の女性が映った。
「ヤッチョも休憩は必要だと思うなー」
月見ヤチヨ。仮想現実世界の管理人にして、彩葉の家族。実は正体がかぐやちゃんだったと聞いた時はとても驚いたのは記憶に新しい。
その声に便乗して私も声をかける。
「彩葉帰るよー」
私とヤチヨの声が聞こえるや否や、席から勢いよく立ち上がる。
「よし、終わり!帰る!」
「こ、この所長!私が何回も帰るように言っても聞かなかった癖に綾紬さんが来たり、ヤチヨさんが言った瞬間にこれだ!」
「そら、比べるまでもないでしょ」
などとこの部屋の職員と所長が漫才を繰り広げる。
帰りの準備をしている所長が酒寄彩葉。タクシーのモニターに写っていた凛とした姿とは違い目には隈があり、髪も少し乱れ若干やつれている。
色々と研究や会議等の予定が集中した結果、ここ最近は特に忙しかったようで休憩もあまり取っていなかったらしい。
とは言っても休憩も無しにぶっ通しで働く事はよくあることなので、そのストッパーという名のお迎え係の1人として入館証を貰っている。
「さっきは何をしていたの?」
準備が終わった彩葉と2人で帰りの道を話しながら歩く。ヤチヨは何か予定があるらしくタブレットで見ていたので、家に帰ってくるのを待ってると言い残し落ちていった。
「今度行う素体の調整なんだけどね」
そう楽しそうに語る彩葉の顔には、あの頃の突然ふっといなくなってしまいそうな様子は見る影もない。
「どうしたの?ずっとこっち見て」
「彩葉が楽しそうだなーって思っただけ」
何でもないかのように誤魔化す。
随分と誤魔化すのが上手くなった。
「うん、今楽しいよ!」
彩葉が満面の笑みでそう答える。
彩葉が楽しいならそれでいい。
同時刻、とあるツクヨミの一角
「「真美!芦花って彩葉のこと好きだよね!?」」
「あーっと…」
2人の女性から詰め寄られている1人の主婦の姿がそこにはあった。
4DX楽しみだね。
それまでに完結できると良いね(希望的観測)