君が親父の愛人か腹違いの兄妹だとしても   作:紫糸ケイト

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白銀

 

 

 

 レイア様が居なくなってから数日が経った。

探しに行くために色々と大人達は話し合っているが、ロスと俺はその話し合いに混じる事を許されず、比較的綺麗な場所で、食事を取っている。

 

「レイア様って神様なんだから、無事に決まってるよな?」

 

「うーん……ただもし"白銀の悪魔"が相手だとすると……ほら、バルトロスですら勝てなかった相手だから」

 

 親父が勝てなかった相手!?

白銀の悪魔ってやつは、そんなバカみたいに強いのか?

射撃が通じないとか、魔術が効かないとか、親父が苦手としていた相手の特性を全部持ってたりするんだろうか。

そんな生物は知らないし、悪魔であってもそこまで規格外の存在は……知らないだけでいるのか?

 

「白銀ってのは、ヤバイ悪魔なのか?」

 

「そりゃそうだよ、アレが一番強いもん」

 

 一番強い!?

いやいや、それは流石に言い過ぎだろ。

だって……。

 

「一番強い悪魔って、魔王のことだろ? だから流石に一番はないって」

 

「えーっとね、ルイサってその……うーん……」

 

 食事用のスプーンを口に入れたまま、ロスが唸っている。

小動物みたいで可愛いな、家で飼いたい。

……いや、ロスは俺の彼女にするんだから、ペット扱いはダメだよな。

でももし、ロスに首輪を着けてリードを俺が持って……。

 

『ご主人様……ロスは悪いメスです』

 

 とか言われたらもう、最高だよな!

ロスが恋人になったらやりたいことリストにいれておこう。

 

「……ルイサ、目が怖い」

 

「へ? いや、へ、変なこととかこれっぽちも考えてないですよ!?」

 

「寒気がしたんだけど」

 

「なら暖めてやるから、隣座るぞ」

 

「シア……早く戻ってきて……つらいよぉ……」

 

 楽しいロスとの食事が終わりかけた時、少し離れたところから声がした。

これは、ライフさんの声か?

母さんの声も聞こえる。

でもなんだか声が明るくない、今行ったら確実に良くない方向の話に巻き込まれる気がする。

しかし何が起こっているのか知りたいし……少しだけ近づこう。

 

「シアコトルさん、流石の貴女でも白銀には勝てないだろう? ライフちゃんでも勝てないし、同期が二人もアレにやられてるんだ、行かせたくはない」

 

「ライフは第四大陸出身だからそんなことが言えるのよ、レイア様はこの第一大陸最後の希望なのよ? そのお方を見捨てるなんて出来ないわ!」

 

「ライフちゃんもシアコトルさんやバルトロスの回収を命じられているんでな、ここで死なれたら困るんだ」

 

「そっちの勝手な都合を押し付けないでもらえるかしら」

 

 母さんがライフさんと言い争いをしている。

途中からしか聞いていなかったけど、多分母さんはレイア様を探しに行こうとしていて、ライフさんはロスが言っていた白銀の悪魔と母さんが鉢合わせになるのを恐れている。

……白銀の悪魔は親父よりも強いってのが本当なら、母さんを止めないといけない。

だが、母さんも母さんでレイア様のことになると言うことなんて聞いてくれないし。

 

「覗き見は良くないと思うな、ルイサ」

 

「……そうだ、ロス」

 

「ん?」

 

 このままじゃあの二人が争いかねない。

だったら、俺が探してくればいい。

母さんに教えられた音を消す魔術、体を背景と同化させる魔術もあるんだから、俺だって役に立てる!

 

「俺とデートしないか?」

 

「嫌だけど?」

 

 フゴッ!?

そんな嫌そうな顔で拒絶しなくてもいいじゃないか!

どうしよう、心がボロボロと崩れていく音がする。

母さんは親父がやっていたようにグイグイ行けって言ってたけど、これ本当に効果あるんだよな?

結構やってる方はキツイんだぞ!

 

「それより白銀の悪魔もレイア様が戦っているなら……うん、急いで助けに行った方がいいです」

 

 ロスは俺に舌を出してから、ピョンと軽くジャンプをしてライフさんと母さんの間に入った。

 

「落ち着いてください、ライフさんの言うこともわかりますけど、私も早めに助けにいくべきだと思います」

 

「……ほう、ではあの白銀が魔王だと知っても同じことが言えるのか?」

 

 ちょいまて、今なんか変な単語聞こえたんだけど。

白銀の悪魔が、魔王?

まさか、だって……。

 

『バルトロスですら敵わなかった相手』

 

 本当に、本当に魔王が攻めてきたってのか?

白銀と言われてもどんな見た目かわからないし、強さだってこの目で見たわけじゃないから断定できない。

しかし、ロスや母さんにライフさんという実力者三人が本気で悩み、言い争いをしているところを見る限り……きっと、ヤバイ相手なんだろう。

だが、一つだけ疑問点がある。

 

「まってくれ、俺は学校じゃ魔王は第一大陸の西の端から動けないって教えられたんだけど、違うのか?」

 

 俺の質問に、ロスが振り返りながら答えてくれる。

 

「ここに現れた白銀は、正確には"魔王の影"です。本体が何故動けないのかはわかりませんけど、自身の影を作り出して動かすのは何回か見てますし、今回もきっとそれだと思います」

 

 "魔王の影"?

この雰囲気的に、ただの影ってわけじゃねぇよな。

レイア様と戦っているのなら、多分実体があって、それを遠隔操作しているとか?

 

「自分を作り出して操るなんて離れ業を、どんな魔術でやってるのか知らないけど、影は本体より弱いのが当たり前。勝ち目はあるわ」

 

「例え白銀が本体より弱かったとしても、シアコトルさんでは勝てないだろう?」

 

「なら、アンタも手伝ってよ」

 

「ライフちゃんにも戦えというのか?」

 

「シアコトルさんにライフさん……それに私にレイア様がいれば、影ならどうにかなるかもしれません! やりましょう、ライフさん!」

 

 話し合いが勝手に進んでいく。

そして数時間後、レイア様を探す段取りが決まったのか、ようやくそれが終わった。

 

 俺は全く話し合いに参加させてもらえなかったが、母さんとロスが戻ってきてその内容を教えてくれる。

 

「私とライフ、インチキ、そしてロスちゃんでレイア様を探しに行くわ」

 

「俺は? 俺は何をしたらいい?」

 

 そう聞くも、母さんはただ笑顔で言った。

 

「ルー君は、いい子だからお留守番しててね」

 

 有無を言わさぬ、重い"魔力"を纏った絶対的な圧。

けど、ここで動かなきゃ、いつまで経っても俺は……強くなれない気がする。

いつまでも、母さんやロスに守られるだけの弱い男じゃいられないんだ。

 

「俺も行く!」

 

「ほらね。ルイサはやっぱり行くって言うって、予想どおりでしょ」

 

 ロスは俺の隣に立って、頷いている。

だが、母さんの圧は消えるどころか増していき、呼吸も少ししづらいぐらいだ。

 

「ダメよ。息子を守るのが母の役目だから、危険な目に遭わせる訳にはいかないわ」

 

「ルイサだって男なんだよ? 男は実戦の中で成長する。これはシアコトルさんがバルトロスで経験したことだろうし、ルイサも現に成長してる。実際に見てきたことでしょ?」

 

「成長するのは認めます。でも、成長前に殺されるリスクが大きすぎるわ」

 

 母さんはいつだって優しい人だった。

確かに辛いことをたくさん受けてきたさ。毎日毎日毒を流し込まれて、高熱にうなされたり、死にそうになったこともある。

 

 だがおかげで、俺の体は殆どの毒を無効化するし、麻痺や毒からくる睡魔にも耐性ができている。

厳しい指導と訓練が続いたけれど、この世界を生き抜く一つの力を的確に与えてくれた、優しくて尊敬する母親だ。

 

 いつだって、母さんは間違わない。

 

 けれど……。

 

「俺だって……役に立ちたいんだよ!」

 

「なら、ここにいて"お母さんを安心させる"って役目を果たしてくれるかしら?」

 

 低く、怒る一歩手前特有の声に背筋に冷たい物が走った気がする。

とても微細な"魔力"が、足元で動いた。

ライフさんに"目で見るだけじゃなくて魔力を探知しろ"と言われていたのが無意識に効いたのか、俺は思わず後ろに飛んでいた。

 

「……嘘。気付いたの?」

 

「ほら、ルイサは成長してるんだ」

 

 さっきまで俺がいた場所には、蛇がいた。

俺でも完全には無毒化出来ないであろう、見たことのない青い毒蛇。

母さんが俺の足を止めるために、こっそり放ったんだな。

 

「シアコトルさん、ルイサを信用してやって下さい」

 

「た、たまたまかもしれないでしょ」

 

「いや、偶然なんかじゃないですよ」

 

 ロスはその蛇を捕まえてから、母さんに渡した。

そして俺を見てから、力強く頷いた。

 

「だってルイサは、シアコトルさんとバルトロスの息子だし。二人を越える"英雄"になるって決意を持っているんだから」

 

「……けれどね、私の息子だからこそ守りたいの」

 

 母さんの優しさは嬉しい。

けれど、この心配は"俺が弱いから"しているのであって、信用されていないのも俺が弱いという事実からきている。

 

 だから、覚悟を示さないといけない。

 

「母さん」

 

「ルー君……」

 

「俺は、自分の身ぐらい自分で守れるし……母さんだって守って見せる! 信じられないかもしれないけれど、今だけは黙って見守っててくれないか?」

 

「……っ!」

 

「ル、ルイサ!?」

 

 なんだなんだ!?

母さんは目を丸くしているし、ロスはめちゃくちゃ驚いている。

え、待て、俺なんか変なこと言ったか?

 

「……教えてないのに。本っ当に……あの人とそっくりね」

 

 気がつけば、俺は母さんに抱き締められていた。

力強く、けれどとても暖かく、なにより落ち着く。

 

「ルー君、カッコよくなってきたわね。お父さんがいなかったら、私はルー君に惚れてたかも」

 

「ハハッ、母さんに惚れられても困るけど……」

 

 俺を捕まえていた腕から力が抜けて、母さんが俺から一歩距離を取る。

そして、優しく頭を撫でて……。

 

「もう子供じゃないんだから、額にキスすんのはやめてくれよ母さん」

 

 昔みたいに、額にキスをした。

 

「ふふっ。お父さんが見たら、嫉妬しちゃうかもね」

 

 まったく……ロスの前なんだから子供扱いするのはやめてほしい。

おまじないだか家族の絆だか知らないけれど、好きな女の前でするのは気恥ずかしいし、気遣いしてくれても……。

 

「……ルイサ! シアコトルさんは"バルトロスの女"だからね!? そ·れ·に! 二人は親子だし、いくら額とはいえキスはやりすぎです!」

 

 うわ、めちゃめちゃロスがキレてるんだけど。

 

「ちょ、ロス落ち着いてくれ。うちではこれは挨拶みたいなもんで……」

 

「ならそんな挨拶は今すぐやめろーッ!」

 

 嫉妬してくれてんのかな。

フフッ、可愛いやつ。

 

 

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