何れ世界を滅ぼすらしい半魔のガキを拾ったから人間に育てるZE! 作:アスパラガス
虫の鳴き声が聞こえる。
空には少し赤くなった月のような丸い星が見える。
道を歩けば、酔っぱらいが排水溝にゲロし。
家からは夫婦の痴話げんかが聞こえてくる。
平和であり、平凡であり――変われねぇな。
物語の主人公は自分自身。
俺が“前世”で読んでいた漫画の先生がそう言っていたような気がする。
確かにその通りではあるが、俺が主人公であれば何ともいえないほどに――地味だな。
「ふぃ」
仕事終わりの風呂を終えた。
前世でいうローマ式の大浴場であり、ふろ上がりの酒は最高だ。
酒の入ったボトルを片手に帰路につく。
此処は平和だった地球の日本という国ではない。
日本は俺の前世の故郷の国の名だ。
今の俺はユグドレア王国のマーエステという小さな街に住む平々凡々な冒険者のジョン・レムナスだ。
平凡な平民の家庭に生まれて、何不自由なく暮らし。
十五の歳で故郷の村から旅立って、この街に流れ着いた。
冒険者としてのランクは下か二番目のEランク。
目立った活躍どころか、ゴブリンの討伐だってした事は無いクソ雑魚で。
溝さらいに、迷いネコ探しに、誰しもがやらねぇ小さな悩みを適当に解決していっている。
ついたあだ名が――“親切なジョン”だったか?
「親切ねぇ……笑えるな」
貯金何て全くせず。
家族への仕送りと酒と飯で稼ぎは消えて行く毎日。
これといって野心はなく、英雄になるなんて欠片も考えた事はねぇ。
ただ、普通に生きて、普通な幸せを得たい。
ただそれだけで、毎日好きなように生きていた。
……まぁ異世界転生ってやつだからよ……珍しいスキルはあったがなぁ。
10万人に1人が得る事が出来るという神の加護――スキル。
それさえあれば、王国お抱えの冒険者になる事だって出来た筈だ。
俺のスキルはかなり特殊なもので、所謂――未来視のスキルだった。
それも変わっているのが、相手の将来が見えちまうっていうもので。
村にいた頃は、大勢の人間がやって来ては俺に未来を聞いてきやがった。
俺は勿論、応えてやっていたが。
罪人になるとか、無職だとか。
そんな事まで馬鹿正直に言っちまうもんだから、怒って殴られた事もあった。
まぁ結局、絶対に当たる訳ではないと言ってやってな。
それからは、特に観光客も来ず。
国からは由緒ある王立学校に来ないかなんかとも誘われたが。
面倒事が嫌いだったから誘いは断り。
何と無しに、冒険者になってみてぇと思って……現在に至る。
特にこれといって冒険はしねぇ。
魔物であろうとも、殺すってのは……何か嫌だしよ。
ただ、薬草とかを取りに行ったりして。
前世から好きだった絵を描いている。
近くの山や川なんかを見て、そこにいる魔物やら動物やらもスケッチして。
それなりに楽しい毎日で……足を止める。
「……あぁ?」
声が聞こえた気がした。
ガキのすすり泣く声だった。
こんな夜更けに路地裏からガキの声が聞こえるなんざ……嫌な予感しかしねぇよ。
俺は小さくため息を零し。
迷う事も無く路地裏に入って行く。
奥へと行けば、声は鮮明に聞こえてくる。
そして、若い男共の嘲る声も聞こえて来た。
歩いて、歩いて……いたな。
「う、うぅう、クソ、クソぉ」
「ははは! ざまぁねぇな! 薄汚ねぇ“
「とっとと街から出て行けや! テメェらがいたらこの街に不幸が起きちまうだろうがぁ!」
「……半魔、ねぇ」
「「……っ!」」
俺が呟けば、奴らは俺の方に視線を向けて来る。
若い男が二人であり、それなりに鍛えられている。
目の前には汚れまくったボロを纏う……女か?
ボロから見える肌は痣だらけで。
激しい暴行を加えられていたのは明らかだ。
そして、半魔といったのなら恐らくは、魔物の血が流れているんだろう。
冷静に状況を分析していれば、男たちはニヤニヤと笑う。
「お、おい、アンタもやるか? 半魔なんだ! 殺したって罪には問われねぇよ! な、なぁ?」
「あ、あぁ! そうだぜ! こいつ、生意気だけどよ。全然力ねぇから、問題ねぇぜ!」
「あぁ、そっか……でも、俺の趣味じゃねぇよ」
「あぁ?」
俺は奴らを軽く押しのける。
そうして、奴らが何かを言っていたが無視。
そのまま涙と鼻水に塗れながら、俺を殺意の眼差しで見つめるガキを――抱える。
「おい! そいつらは俺らの――おぉ!?」
「……やるよ。悪いけど、それ以上の金はねぇ」
「え、あ……クソ! い、行くぞ」
「あ、おい……チッ!」
奴らは俺のなけなしの金を持って走り去る。
俺は何度目かのため息を零し――腕に痛みが走る。
「……ッ!!」
「……いてぇな」
ガキが俺の腕に噛みついていた。
ギザギザの歯であり、まるで獣のようだ。
血が服の上から滲んでいるが。
俺は無視して家に向かって歩いて行った――
「……ッ!!」
「はぁ……いてぇ」
ガキを家に連れ帰り、ボロを強引に脱がせてから。
暴れまわる奴を水で洗ってやって。
傷だらけになりながらも、奴の口に強引に千切ったパンをねじ込んでやった。
奴は最初はパンを吐き出して、家のもんを破壊しまくっていた。
食器も、木彫りも全部壊れていて……疲れたのかやっと落ち着いた。
今は、ぶかぶかの俺のお古の服を着ている。
家の隅っこで歯をむき出しにして唸っていた。
顔の半分は火傷があり、頭からは羊のような黒い角が生えていた。
髪はここの世界の人間が穢れといって差別の対象とするぼさぼさの黒髪で。
目は黄金のように綺麗であったが、濁りきっていた。
怒りと殺意に満ちていて、体を洗って飯をやっても感謝の気持ちは無い……ま、別にいいけどよ。
俺は周りの残骸を一瞥し、ため息を零す。
そうして、もう疲れたからと残りのパンを無事な皿の上に置き。
水の入った木のコップも一緒において、そのまま床で横になる。
「……腹が減ったら、勝手に食えよ。眠たかったら、ベッドを使え……一応言っておくが、外には行かない方が良いぜ? 俺と一緒が嫌っていうのなら外で寝てやるから、今のうちに言えよ。じゃなあ、おやすみ」
「……ッ!!」
ひらひらと手を振る。
が、奴は唸るだけだった……獣かよ。
困ったもんだと思いつつ、近くの明かり用の魔石に触れる。
そうして、少しだけ明かりを小さくしてから奴の食事の横に置いておいた。
そうして、俺は背中に殺意を向けられながら、静かに目を閉じた。