何れ世界を滅ぼすらしい半魔のガキを拾ったから人間に育てるZE! 作:アスパラガス
「……ふがぁ……あぁ?」
自分のいびきで目が覚める。
体中が痛くて、腰を摩りながら起きれば……いねぇな。
パンと水は無くなっているが。
あのガキの姿は何処にもない。
出かけたのか、出て行ったのか……いや、同じか。
「はぁ、たくよぉ……あれ?」
アイツを探しに行く為、立ち上がる。
すると、俺の冒険者道具一式が――無くなっていた。
バックも、短剣も、何もかもが無い。
俺は暫く考えて……あぁ。
「持っていったのか。なるほどなぁ……やられたなぁ」
俺はガキを侮っていたと反省する。
中々のやり手のガキであり、見つけたらうんと褒めてやろう。
そんな事を思いながら、俺は家の鍵だけを持って外へと出て行った――
「おーい。おーい……名前、聞いておくべきだったな」
アイツを探しているが見つからない。
早朝であり、あんな不格好な姿であればすぐに見つかると思ったが。
案外、もう遠くに行っちまったのか……いや、ちげぇよな。
ガキの足ではそう遠くにはいけない。
いけたとしても、荷車などに乗り込む必要がある。
幾ら何でも、あんな格好の奴が乗り込もうとすれば誰だって気づくだろう。
つまり、アイツはまだ何処かに……あぁ?
「何だ?」
何やら騒がしい。
道具屋の前で人が集まっていた。
王都で人気の商品でも入ったのかと思った。
気になったからこそ、人を掻き分けて覗きに行き……あぁ。
「放せ!! 放せよ!! クソッ!!」
「黙れ! この汚らわしい半魔が!! 盗みを働き、それをウチの店で売り払おうなどと……恥を知れ!!」
「ねぇ聞いた? 盗みですって、やぁねぇ」
「これだから半分魔物ってのは……順当にいけば、死刑かなぁ?」
「盗み一回でかぁ? まぁ……半魔だからか」
「……はぁ」
周りの大人たちはガキ一人の事をどうも思っていない。
死んでくれた方が良いとすら思っている奴もいる。
騒ぎの中心であるクソガキは、眉間に皺を寄せて獣のように唸っていた。
誰も信じない、誰も必要ない。
他は全部敵で、全てが憎い……つれぇよな。
俺は人を掻き分けて道具屋の店主と衛兵たちの前に出て来た。
奴らは最初は何の用かと俺に聞いてきたが。
俺が店主の持っている俺の私物を指させば、アンタのものかと聞いて来る。
「あぁ、俺のだよ。短剣の登録番号は487533だ……十分か?」
「……確かに、アンタのものようだ。はは、お前も終わったな! 被害者自らやってきたんだ。良くて一生檻の中、順当にいけば縛り首だ!」
「……それで、お前はこの半魔を――お、おい!」
俺は衛兵たちに近寄る。
そうして、剣に手にかけた奴らを宥めながら話してやってくれと伝えた。
「そこにあるのは俺の私物だが……別に、盗まれた訳じゃねぇよ」
「は? どういう事だよ」
「あぁ、その……売ってこいって俺が言ったんだよ。金がいるからな、それでこいつは――俺の娘だ」
「「「……っ!!」」」
全員が俺の娘と聞いた瞬間に驚いていた。
俺は笑いながら、全然似てねぇけどなと言ってやる。
そうして、驚き固まる衛兵たちの手をさっとどけてから俺はガキの首根っこを掴む。
「……ッ!! 放せ!! おい!! クソジジイ!!」
「ははは、元気なクソガキだ。初めてのおつかいを祝って、今夜は焼肉といこうか?」
「――ッ!!!」
ガキは腕を振り回して暴れる。
腕にも噛みついて来るが俺は笑って無視した。
そうして、道具屋に後で金を受け取りに来ると言ってその場を後にした。
=
「……」
「おいおい、折角良い肉買って来たのによぉ。なぁに、睨んでんだよ」
夜更けとなり、市場に残っていた腐りかけの肉を買って来た。
腐りかけではあるが、腹は下さない。
長年の経験であり、これくらいが一番美味いんだ。
外で焚火を焚き、鉄網を載せて肉を焼く。
香ばしい香りが漂っていて、俺の手も動きまくっていた。
喰って、飲んで、喰って、飲んで……奴は涎を垂らす。
俺がふっと笑えば、奴はさっと視線を逸らす。
が、その直後に正直な腹の虫が鳴きやがった。
奴は顔を真っ赤にしながら、腹を殴っていた。
「はは、殴っても腹の虫は嘘をつけねぇぜ? ほら、こっち来いって、俺だって食ってんだ。毒はねぇよ」
「…………」
奴はずっと俺を睨んでいる。
が、よろよろと近寄って来た。
俺は肉を盛り付けた皿を奴へと渡す。
すると、奴は皿をひったくって空き箱の裏に隠れる。
がつがつと喰っている音が聞こえたからこそ、俺は気にしないで次々と肉を焼く。
「……ん!? ぐ、ぅぅ!?」
「飲み水は、そこのかめの中だ。慌てないで、しっかり噛めよ」
奴は急いで水のはいったかめに向かう。
そうして、蓋をとって顔を突っ込んで水を飲んでいた……全く。
礼儀がなってない。
肉だって手づかみだし……教える事は多そうだなぁ。
俺のダボダボの服が逆さになってもろみえだ。
女としての恥じらいも必要であり、俺は頭を抱えて首を左右に振る。
「……親父とおふくろも、俺を育てる時は……苦労したんだろなぁ」
俺は昔を思い出す。
そうして、ばしゃりという音を聞いてかめの方を見た。
すると、奴はかめの中に逆さで突っ込んでいた。
俺は慌てて道具を投げ捨ててかめに走る。
そうして、奴の両足を掴んで上にあげて――間抜け面と対面した。
「げほ! えほ!! ……ぇぁ?」
「ぷっはははははは! おめぇ何だその顔はぁ! はははは!!」
「……っ!? 死ね!!! 死ね!!! クソ、この!!!」
「おいおい暴れんなよ!? 暴れんなって……ふ、はははは!!」
俺は笑う。
すると、奴は顔を真っ赤にして腕をじたばたとさせた。
歳はまだ5,6歳くらいだろうか。
幼い年頃であり、こんなに細くて弱弱しい。
……そんな奴が、将来は世界を滅ぼす存在に……。
「ハッ! 俺は信じねぇよ!」
「……っ!」
「お前は誰も殺さない! お前は良い奴だ! 将来はきっと――笑顔が素敵な美人さんだ!」
俺は笑う。
そうさ、信じねぇ。
こんなガキが世界を滅ぼす筈がねぇ。
ガキはガキらしく、好きなように生きればいいが。
間違いは大人たちが正してやっていけばいい。
こいつはまだ何も知らねぇ。
人の悪意しか知らねぇからこそ、こんな腐った目をしちまう。
だったら、これから俺が教えてやりてぇ。
この世界の美しさも、人の温かさも。
俺は何にも出来ねぇおっさんだが。
一度決めたら、絶対に成し遂げる覚悟はある。
俺を愛してくれた両親のように、俺もこいつを――愛してやりてぇ。
暴れるガキに笑みを向ける。
でも、どうしても、こいつが別の場所に行きてぇんだったら……それは仕方ねぇ。
俺は奴を回して、地面に足をつけさせる。
奴は服を掴みながら俺を睨んでいた。
俺は膝をつけて、奴に視線を合わせる。
「……お前、俺の家族にならねぇか?」
「…………何が、目的だ」
「目的? そうだなぁ……この家、1人で住むには広すぎる。ガキ1人が増えるくらいが丁度いい……ダメか?」
「…………嘘を、つくなよ! 体か!! 金か!! 力か!! 言えよ!!」
奴は叫ぶ。
殺意に塗れた目で、俺の言葉をこれっぽっちも信じていない。
俺は笑みを浮かべながら、そっと手を差し出す。
「いらねぇよ。俺はただ、お前と一緒ならこの家で――楽しく暮らせるんじゃないか、そう思っただけさ」
「……!」
「……勿論、俺が嫌いなら出て行っていい。今だけ過ごして、大人になってから出て行くのもありだ。俺はお前を家族と思うが、お前は俺を都合のいい道具と思ってくれたっていい……それでも、ダメか?」
俺は奴に聞く。
奴は俺の目を見つめて来る。
何かを考えている様子だった。
考えて、考えて、考えて――奴は俺の手を払う。
ダメだった、そう思って――奴が地面に落ちた肉を拾って食べた。
「……利用してやるよ……どうせ、何処にも行く場所なんて無い……もしも、私に妙な真似したらその時は――っ!?」
俺は奴の頭に手を置く。
そうして、二ッと笑った。
「よろしくな! えっと……」
「……名前は無い」
「……なら、レイってのはどうだ?」
「……何でもいい。好きに呼べ」
「よし! なら、今日からお前はレイだ! よろしくなぁレイ!」
俺は奴の頭を撫でる。
奴は鬱陶しそうにして俺の手を払う。
そうして、肉が焦げている事に気づいて奴は火の方へと走る。
俺も慌てて地面におちた道具を拾って肉の救出に向かった――