人の心がわからない怪物、死んだ魔法少女になり替わる ~生まれ持った飢えを満たすのに必要なのは、人の心でした~ 作:人類の味方らしき生卵
夜空にきらきらとした輝きが溢れている。
星々と同じように輝いている彼女たちは、魔法少女と呼ばれているらしい。
なぜ彼女たちはあんなにも美しく、輝いて見えるのだろう。
僕はずっと、不思議でならなかった。
だから、そう、僕は知りたかったんだ。
きらきらの理由を知るために、彼女たちの事をよく知りたかった。
その機会を得た瞬間、どう反応するべきかわからかなかったのは、僕の覚悟が足りなかったからだろうか。わからない。でも、止まっている場合ではないのだけは分かる。
「……あはは。私の悪運もここまでかな」
僕の目の前にいるのは、血だらけの魔法少女。そして、僕の同族の死体。
必死に戦って勝ったけれど、満身創痍で倒れたまま動けなくなってしまった。そんなところだろうか。
そんな絶望的なところに、彼女が戦っていた怪物――飽食の獣と彼女たちが呼ぶ――の仲間である僕がやってきてしまった。
彼女からすれば、さぞ絶望的な状況だろう。
……にもかかわらず、彼女はきらきらしている。
「……やあ、魔法少女。僕と話をする気はあるかな?」
「喋った!? えと、あなたは飽食の獣だよね? 私が知らない魔法少女とかじゃなくて」
「うん。僕は君たちが飽食の獣と呼ぶ、その一体だよ。認識は間違っていない」
絶望的な事実確認をしても、彼女のきらきらは色あせない。
ああ、やっぱり。思った通り、何て素晴らしいんだろうか。
「僕たちの性質は知ってるよね。僕たちは食べたものを模倣できる」
「人を、食べたの」
「うん。とはいっても、君たち魔法少女は食べたことがないよ。時たま、僕たちの住処に人の死体を捨てに来る人たちがいるんだ。その死体を食べて、人の機能について色々学んだんだ。だから人間の言葉を発することができる」
僕らの住処にわざわざ来るだなんて、勇気がある人がいるものだと思ってるけれども。
まあ、日中はあんまり僕たちも動かないからね。
夜になるとお腹が空いて動き出すから、そこら辺を知っているのかもしれない。
別に、朝だろうとお腹が空いてたら生きてる人も襲われてるだろうけれど。実際、仲間が襲ってるのを見たことがある。
「……そう、なんだ。それで、今度は魔法少女を食べに来たの?」
「そのつもりだった。けど、今は君と喋りたい。きらきらの正体を知るために」
「きらきら?」
「そう、君たちが僕の仲間と戦っているときの、きらきら。それが、僕は知りたいんだ」
僕たちは飢える存在だ。
飽食の獣と人間たちが名付けたように、食べ続けなければ飢餓感に気が狂いそうになる。
ただ、僕たちの食事は人間たちにとっては非常に都合が悪いらしい。だから争いになる。
でも、でも。そう、あのきらきらの正体を知ることが出来れば――埋まることのないこの飢餓感が埋まると思えたんだ。
「教えて欲しい。君たちの、きらきらの正体を」
「……きらきら、かぁ。むずかしいね」
難しい。それは、本人でもなんできらきらしているのかがわからないという事だろうか。
それは酷く残念だ。これはきらきらの正体を知ることができる絶好のチャンスだったのに。
「……ねぇ、そんなにきらきらの正体が知りたいの?」
「そうだね。飢えるのは、とても苦しいんだ。きらきらについて知れば、飢えが収まる気がする。だから、知りたい」
「そっかぁ。それは、うん、辛そうだね」
「でなければ、わざわざ死ぬかもしれない戦いなんてしないよ。僕らも、無駄に死にたいわけじゃない」
それっきり。魔法少女は空を見上げたまま、沈黙の時間が少し過ぎる。
「……ねぇ、きらきらの正体、知りたい?」
「うん、知りたい」
「なんとしても?」
「そうだね。僕にできることなら、なんだってするつもりだよ」
まるで、きらきらの正体を知る方法を知っているみたいな。
そんな口ぶりだった。
「本当だよ。何でもする。この言葉に偽りはないし、僕は何だって食べる。同族だろうとね」
「あはは。そこまでしてなんて言わないよ。――私を食べてって、言おうと思っただけ」
彼女が何を言っているのか、少しの間理解ができなかった。
生きている人間は、僕たちに食べられたくないという人間ばかりで、食べられたがるような人間は見たことがない。
「ねぇ、あなたたちは食べたものの形になれるんでしょ?」
「そうだね。僕たちは、食べたものを模倣できる」
「なら、私を食べて、私の代わりに、私として生きて。……時間を稼いでみたけれど、やっぱり、もう駄目みたいだから」
どうやら、生きるのを諦めてしまったらしい。
僕は一目見て駄目そうだとは思ったけれど、会話してたのは回復を待ってのかもしれない。
強かな人だ。
「僕が君として生きる。それは何故?」
「……少しだけ、私の話を聞いてくれる?」
「そうだね。構わないよ。僕に時間の制限はないから、君の好きにするといい」
「あはは。ごめん、なんか面白くって笑っちゃった。ありがとう、それじゃ、話すね」
そうして、彼女は身の上を語りだした。
何気ない日常のことを。彼女の家族についてを。
そして、彼女の友人の事、彼女がどうして魔法少女になったのかを。
「――そう、私はあの子を放っておけなくて、魔法少女になったんだ」
「だから、君の代わりに僕がその子の側にいてほしいと?」
「うん。孤立しがちな子だから、一人ぐらい理解者が側にいないと……人は簡単に壊れちゃうんだよ」
実感がこもってそうな言葉だ。これまでのものとは重みが違う。
「君のメリットは分かった。それで、僕が君になる、僕のメリットは?」
「きらきらの正体を知りたいんでしょ? そして、魔法少女はきらきらしている」
「魔法少女になれば、きらきらを知れると?」
「私は、そう思うな」
なるほど。確かにそうかもしれない。
魔法少女たちはみんなきらきらしている。僕たちとは違って。
ならば、魔法少女になってみれば、きらきらの正体を知ることが出来るかもしれないというのは理屈の通った言葉だ。
「……一つだけ、聞きたいかな」
「いいよ。何でも聞いて。できれば、少ないと嬉しいかな」
言いながら笑う彼女の顔色はもう真っ青だ。流れ出した血が多すぎるんだろう。
もうすぐ死ぬ。それが分かっていながら、どうして笑えるんだろうか。
ああ、どうして、そんなにきらきらし続けられるんだろうか。
「君にとって、その友人はどういう存在なんだい?」
この子がきらきらしているのは、きっとその友人の事が関係しているのだろう。
直感でしかない。不確かな直感に頼るのは優れた行為ではないけれども。
誰もきらきらの正体を知らないのだから、頼れるものは頼るべきだ。
「――そうだね。何にも変えられない、大切な人だよ」
「自分の命ですら引き換えにできるほどに?」
「こうやって、君に食べられることをなんなく受け入れられるぐらいに」
嘘を言っている気配はない。もとより、彼女が嘘を言う理由もない。
心の底から言っているのであれば、本当に不思議な精神性だ。
「理解ができないよ。自分あっての世界だ。自分よりも大事なものなんて、本当に存在するのかな?」
「……ふふっ。そっか。そうだよね」
「どうして笑うんだい? 何か面白いことでも?」
「うん。本当に、この先が見られないことが残念だなって」
本当に、よくわからない。
見られないことが残念ということは、生きたいということじゃないのかな?
でも、生きることを諦められる。矛盾しているよ。
その矛盾の通り、彼女の表情はどこまでも穏やかで。慈悲深い、という言葉で表現するのが適しているに違いない。
「きっと、いつか分かる日が来るよ。怪物さんにも、きらきらの正体を知った時に」
「……わからない」
「ふふ、怪物さんと一緒におしゃべりするの楽しい。もっと早く、出会えてたらなぁ……」
「その時は、殺し合いになっていたかもしれないね」
「それはやだな。今みたいに、ゆっくりと……ああ、ごめんなさい。もうそろそろ駄目みたい」
彼女はもう、体力が尽きかけている。
命の灯が消えかけている。という表現が適切かもしれない。風前の灯火だ。
「怪物さん。それじゃあ、後の事はよろしくね。あの子の事、任せるから」
「――それが、きらきらの正体を知る手助けになるのなら」
それっきり、彼女は満足そうに笑って――動かなくなった。
本当に、笑って。これまで見た人間の死体の中で、最も死んでいると思えない表情だった。
思わず僕も、また喋り出すんじゃないかと少し不安になって、しばし待ってしまう。こうしていれば、何かが変わるんじゃないかって。
そういうわけでもなさそうだ。
「……約束は守るよ。だから、君の名前と、姿を貰うね」
屍の前、僕は既に聞こえてないだろう宣誓をして。
彼女を食した。
そして、僕は彼女――