人の心がわからない怪物、死んだ魔法少女になり替わる ~生まれ持った飢えを満たすのに必要なのは、人の心でした~   作:人類の味方らしき生卵

3 / 7
第3話 疑惑を得る怪物

 さてはて、僕は今途方もなく困っている。

 当たり前と言えば当たり前なのだが、人類の生息域に踏み込む際には検査があるのだ。

 僕たち飽食の獣は不定形の存在。小さな獣が服についてたりして、それが内部に入り込めば一大事だ。

 

 僕らはなんでも食べて、なんでも吸収する。

 入れないのが最大の対策というわけだ。うん、理に適っているね。

 つまりどういうことかというと、僕が、検問に引っ掛かろうとしている。

 

「愛理? どうかした?」

「いや、ううん。やっぱり少し疲れてるみたい」

「もう、早く行こう」

 

 目の前にはそびえたつ壁。その唯一の侵入口である門。

 門には専門の機械やら、門番をしている魔法少女やら。

 さてはて、これはどうしたものか。

 

「お疲れ様。愛理、天花」

「門番お疲れさま。こっちは大丈夫だった?」

 

 どの面下げての発言かと思うかもしれないが、愛理少女は気遣いができる少女だ。

 まあ、その面の皮はこの後剥がされるかもしれないけれども。

 

「大丈夫だったよ。それじゃ、お二人ともいつもの検査だけ受けてね」

 

 さて、覚悟を決めるとしようか。

 これでダメだったら、地獄で愛理少女と反省会を開こうか。

 人間と我々が死後同じ場所に流れ着くとは限らないけれど。恨み言の一つぐらいは許されるはずだ。

 

「ほら、いつも通り門をくぐるだけでスキャンされるから」

 

 覚悟を決めて、もちろん表面上は何事もないようにして、門をくぐる。

 記憶が正しければ、飽食の獣が検知されれば大きいアラートが鳴り響くはずだ。

 ――けれども、覚悟していた音は鳴り響かない。

 何事もなく、通過できてしまった。

 

「……? どうかしたの、愛理」

「いや、その。……何でもない」

 

 身構えていた。すぐに逃げられるように。

 それらが全てすかされた気分。

 もしかすると、人間に擬態した僕たちを感知できるようなシステムにはなっていないのか?

 だとすれば、もし、僕以外に人間に擬態した奴がいたとしたら……?

 極めてまずそうな問題ではあるが、知らせる方法がない。留意するにとどめておこう。

 

 まあ、そもそも僕たちに大した知能はない。

 僕だって最初は本能だけで動いていた。大半の同類は同じだろう。

 偶然、様々なものを食べてそれらから知識知能を吸収したからこそ、僕はこうしているのだ。

 人に擬態できるほど知能がある個体ならば、あの検知ゲートにしり込みするだろう。そう考えれば、案外危険性は少ないのかもしれない。

 

「もう、変な愛理」

「お腹が空きすぎてるせいかも~」

「あはは。じゃあ、何か食べてから帰ろうか」

 

 お、人間の食事か。それは大変興味がある。

 お腹が空いているのは安心したせいかもしれない。

 前向きな気持ちで、改めて目の前の光景を確認する。

 

 乱雑に食い荒らしたせいで荒廃した、僕たちの生存圏とは違う、整然とした街並み。

 壊れてない。人が行きかっている。賑わっている。

 知識で知っているのと、実際に目の当たりにするのはまるで違う。

 一言で表すならば、圧倒されたのだ。

 

「……すごいね」

「いっつも言ってるよね。その凄いものを、私たちは守ってるんだよ」

 

 そうか。愛理少女もこの光景に感じるものがあったのか。

 おかげで疑われずに済んだ。

 

「気を取り直して……何を食べてくの?」

「この間新作スイーツ出たって話があるからそこに行こう」

「へぇ~。天花もそういうの興味あったんだ」

「……愛理が喜ぶから」

「ありがとう」

 

 本当に、天花少女は愛理少女の事が大切だったんだろうな。

 それが所作から何から何まで伝わってくる。

 恐ろしいのが、この好意が反転した瞬間か。

 愛理少女。本当に君はこれを望んでいたのかい?

 人は一人では簡単に壊れると言うが、人の壊れ方は一つではないと思う。

 

 まあ、それはバレた時の話だ。どっちみち僕は破滅するのだから、考える必要もないか。

 自分が死んだ後の話だなんて、考えるだけ無駄だ。

 

「ほら、行こう」

 

 天花少女に手を引かれて、美しい街並みを進む。

 魔法少女衣装を身にまとった私たちはさぞかし目立つようで、道行く人々はこちらを見ている。

 壁の近くということもあり、見慣れてる人が多いのだろうか。反応自体は大きなものではない。

 

「ちょっと、天花。早いよ」

「こんなところ、さっさと抜けたいの」

「……?」

 

 天花少女はこの衆人環視の状況が気に食わないようだ。

 魔法少女として、飽食の獣を誰よりも滅したがっているというのに、魔法少女であることを疎んでいるのか?

 本当に、彼女の過去に何があったのだろうか。

 

 しばしその調子で歩くと、また街並みが変わる。

 愛理少女の記憶を探れば、壁周辺は軍や政府関係の施設がまとまっているらしい。危険域だからか。

 このあたりは一般市民が暮らしている日常エリアということのようだ。

 

「ほら、あそこの角のカフェ。あそこのスイーツが美味しいんだって」

「へぇ~。知らない店だ。天花って、毎回別の店に連れて行ってくれるよね」

「愛理が自分から動かなさすぎるだけでしょ」

 

 愛理少女の気遣いの片鱗が見える。

 とにかく、天花少女が考えること、やりたいと思えることを増やそうとしていたのだろう。

 憶測でしかないが、とにかく飽食の獣以外の興味の対象を増やしたがっていたように思える。

 その先をその憎しみの対象である獣に任せるのは手段を選ばなさ過ぎる。

 天花少女は相当やばい人間ではあるが、愛理少女も相当にやばい人間だったということか。

 

 店内に入ると、先ほどまでは比でない視線が集中する。

 中にはスマホなる機器をこちらへ向けている人間もいる。写真という情景を保存する技術で、私たちの姿を保存しているのだろう。

 

 魔法少女は一目で分かる。特殊な衣装で身を包んでいるからだ。

 飽食の獣があまり食べたがらない素材、だそうだ。まあ、確かに何となく嫌な感じはする。その程度の効果しかない。

 

 席に案内され、天花が慣れた様子で注文をする。

 

「新作スイーツ二つ。お代は魔法少女ってことで、いつもの方法で」

「はい、かしこまりました。……いつもありがとうございます」

 

 いつもの方法? 気になったので、記憶を探る。

 なるほど、魔法少女の飲食代などは政府が出しているらしい。

 政府という存在も不思議だが、これだけ数が多ければ意思決定の難しさはさぞかしだろう。

 そう考えると、理に適っているのかもしれない。

 我々からすると考えられない生活形態だ。

 

「……本当に疲れてるみたいだね。ずっと考え事してる」

「え? あはは、なんか久しぶりだなって」

「あー。そうだね。本当に、あの害獣どもは最近になって随分と盛んに活動してるし」

 

 ふむ? そうなのか。

 僕たちは個人主義というわけではないけれど、基本的に他の同族に興味がない。

 だから、他の個体がどうとかは意識したことがないのだ。

 思えば、食べたこともないかな。同族食いに嫌悪感はないけれど、やろうとは思えない。不思議な感覚だ。

 

「お待たせしました。丸ごといちごとバナナざくざく山盛りスペシャルパフェです」

「うわ……凄い量来た」

 

 目の前に出てきたのは、机の上二十センチの高さはある巨大なパフェ。

 それにイチゴやバナナがそのまま突き刺さっている。

 なんだこれは、天花少女も引いているぞ。

 下調べはしていなかったのか? 新作スイーツって名だけで来たんだな?

 

「い、いただきます」

 

 まあ、僕にとってはこの程度の量は大した量ではない。

 スプーンですくって、口に運ぶ。

 ――瞬間、世界が変わった。

 

 フルーツの甘味と酸味、ホイップクリームのまろやかさ。程よく溶け合っていて、ボリュームに反して繊細な調和がそこにあった。

 これは人の姿をしているからだろうか? 獣の形態の時よりも、遥かに味の感度が高い気がする。いや、そもそも獣の時は味なんて気にしたことはなかった。

 口数を色々と重ねたが、結論を言おう。

 ただただ、美味しい。

 

「ん~、美味しいね!」

「あはは、喜んでくれたなら嬉しいよ。……私のも食べる?」

「いいの? ありがとう!」

 

 愛理少女、元からよく食べる子であって本当に良かった。

 こんなに美味しいものを食べるのを我慢するだなんて、到底考えられない。

 少しだけ、飢えが満たされた気がした。

 ああ、今後の食事が楽しみだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。