人の心がわからない怪物、死んだ魔法少女になり替わる ~生まれ持った飢えを満たすのに必要なのは、人の心でした~ 作:人類の味方らしき生卵
ハンバーグはとても美味だった。ただの肉の塊があれほどの味を出すだなんて。
料理とは実に不思議なものだ。今後研究してみよう。
しかし、魔法少女の収入というのは結構なものなのだな。
肉類はそれなりの高級品のはずなのだが。自分のため、とは言いつつも家のためだった部分はあるだろう。
魔法少女を魔法少女足らしめているのは、当然魔法だ。
魔法を使うためには年頃の少女だけが持つ不思議なエネルギーを云々。まあ、要するに若い女性しか僕たち飽食の獣とは戦うことができないということだ。
昔は鉛の銃弾とかを打ち込んでたり、爆弾食べさせたりしてみたみたいなんだけれどね。僕たちはそれらを吸収し、模倣してしまうから。まるで逆効果なのさ。
だからこそ、僕がこうして魔法を使えること自体が不思議でならないわけだけれど。
「愛理! そっちに二体行った!」
「わかった! 【ホーリーレイ】!」
詠唱と共に、空中に魔法陣が浮かび光線が発射される。
煌めく線は宙を切り裂き、無慈悲に獣の体を貫く。
だが、その程度でくたばる飽食の獣ではない。
「威力が足りない、なら【バインドケージ】!」
次に放つのは、拘束するための魔法。
仄かな光を放つ鳥かごが獣を閉じ込める。
獣は魔法を食せない。僕を含む彼らの行動を本質的に制限するための唯一の手段と言えるだろう。
「天花、ごめんお願い!」
「任せて、【フレアボレー】!」
空中に生まれた幾つもの火の玉が歪み、矢の形を模していく。
天花が振り上げた手を下す合図で、襲い掛かり一気に檻の中の獣を焼きつくした。
……明らかに、出力が違う。
もしも愛理少女の力だけで何とかしようとしていれば、もっと時間がかかっていただろう。
「愛理、怪我はない?」
「うん。ありがとう、天花」
本来はこのように、二人ペアで獣狩りをしている。
あの日は、不幸な事故が起きて分断されてしまったようだけれども。
本当に不幸だった。天花少女が側にいれば、愛理少女は死ななかっただろう。
仮に、今の僕が天花少女に襲い掛かったとして、勝てる見込みは一切ない。そのぐらいには、天花少女は強い。
因みに、愛理少女にだったら余裕をもって勝てる気はする。僕はそのぐらいの実力だ。
「……最近、獣がやっぱり増えてるね」
「そうなの?」
「うん。学校の途中で呼び出されるなんて普段ないでしょ? 愛理はぽけーっとしてるから気が付かなかったかもしれないけれど」
「それはぁ……えへへー」
「えへへじゃないの」
「あいた!」
軽くデコピンされる。
うんうん。いい感じに、世話をやかないと危ない子を演じられている。
これまでの愛理少女がそうだったように。
「それに、はぁ、壁の内側でも事件ばっかりだし」
「ああ、行方不明事件が起きてるんだってね」
「流石に魔法少女に手を出そうなんて考える犯罪者はいないだろうけれど、愛理は気をつけてね。うっかり誘拐とかされそうなんだから」
……苦笑いするしかないかな。
本当の愛理少女だと本当に攫われかねない。
自分の事を後回しにする人物だったようだから、他の子の心配をしながら自分が事件に巻き込まれるタイプだったらしい。
「何もかも、獣のせいだ。こいつらさえいなければ、世界はもっと平和だった。こいつらさえいなければ……っ!」
こちらはこちらで全ての責任をこちらへ押し付けてくる。
不条理ではあるが、気持ちは理解ができる。要するに、ストレスの発散先を獣にすり替えているだけなのだ。
ならば、仕方がないだろう。
「まあ、しょうがないよ。私たちは私たちにできることをしよう?」
「うん。わかってる。わかってるんだけれど……」
本当にこの子の過去に何があったんだろうか。
聞いてみようか? いや、やめた方がいいだろう。
今はまだ、愛理少女に成り代わったばかりだ。何かイベントが起きた後に、それまでと異なる行為をするのは疑われる要素になる。
「ん、向こう側に獣がいるみたい。行こう、天花」
「――そうだね。一体でも多く、早く、獣を殺そう」
血の気が多い子だ。
――愛理少女、本当にこれで良かったのかい?
君がいなくなったことを知った時の、彼女を思えばこそ――僕は代わるべきではなかったのでは?
まあ、どうでもいいことだ。
「【フレアバラージ】!」
眼前で、多くの獣が焼き払われていく。
魔法の炎に抗う手段はなく、ただただ摩耗していくだけ。息絶えるのもすぐだろう。
同族としての情はない。今、僕の中にあるのは焦りだ。
もし、このまま続いていくことになれば、僕と天花少女は必ずや引きはがされることになる。
もうしばらく、獣退治を続けて、そろそろ夕が終わり夜に差し掛かろうとしてきた時だった。
「……はぁ。本当に多かった」
「お疲れ様。天花」
「こいつら、普段は夜に動いてるんじゃないの? なんでこんなに昼に動いてるわけ? 寝てる間に黙って焼かれてればいいものを……」
確かに、それは不思議に思っている。
僕が住処にしていたところからは離れているから確実なことは言えないが、僕らの大半は夜行性だ。
にもかかわらず、この周辺だけで十体は飽食の獣を見つけた。
より不可解なのは、そこまで育った個体ではなかったということだ。
育った個体ならば、より豊富な餌を求めて日中も活動するのは分かる。しかし、若い個体が活発に活動するのは違和感がある。
かといって、僕らは社会性がある存在ではない。何かが扇動している可能性は薄い。
――何かに引き寄せられている? だとしたら、何に。
「……天花はちょっと先に戻っておいてくれる?」
「愛理、何かあるの?」
「うん。ちょっと調べたいことがあって。すぐに行くし、獣と会ってもすぐに逃げるから、安心して」
この仮説はただ放置するのは危ない気がする。
魔法少女のきらきらを理解するきっかけの一つもつかめてない現状、イレギュラーで乱されるのは大変困る。
原因を特定するべきだ。
「本当に? 本当に危険なことはしない?」
「うん。昨日だって無事だったでしょ。私を信じて」
これからやる調査は天花少女に見られていては困るものだ。
――僕も、目的に支障が出なければやろうとも思わない行為であるが。
「わかった。でも、すぐに戻ってきてね」
「うん。ありがとう。報告、よろしくね。またスイーツ食べようね」
「……次はもうちょい事前に調べておくよ」
お互いに笑い合って、この場で分かれる。
天花少女が走り去って、その足音も聞こえなくなる。
さて……耳を澄まし、感覚を拡張する。周辺に他の魔法少女はいない。獣の姿もないだろう。
飽食の獣の死体は、放っておけば塵になってしまう。原型をとどめているうちに済ませてしまおう。
「悪いね、同族。君に何が起きていたのか、調べさせてもらうよ」
もはやただのぶよぶよとした灰色の粘液と化した獣に触れ、僕も一時的に姿を崩す。
「――いただきます」
そして、僕は目の前の獣の死体を【捕食】した。
同化とは違う。一方的な搾取だ。僕にもたらされるのはこの獣の全てであり、僕の何かが欠けることはない。
同族食いに忌避感はない。積極的に食わないのは、同族と争わずとも餌はそこらじゅうにあったからだ。不要なリスクを負う必要がこれまでなかっただけ。
もう数体、近くに転がっている死体を捕食し、獣たちの記憶を漁る。
やはり、若い個体ばかりだったというのは間違ってなかったようだ。
食しているものも大したことがない。もとより、記憶能力も低い、まったく成長できていない個体らだ。
では、何によって引き寄せられていたのか。
――やはり、本能が刺激されている。
「呼ばれているような感覚、か」
人間の言葉に言語化するならば、そうなるだろう。
ある程度自意識がある個体ならば無視するだろうけれども、自我が薄い本能だけで動く個体ならば引き寄せられる、その手の誘導。
発信元はどこか? 考えれば分かる。方向からして、壁の内側だ。
「はてさて、どうしたものか」
この情報は極めて重要な事実を指し示している。
同時に、扱いにも困る。無視することもできるが、していいものか。
ともかく、今の僕にできることは、今回の件の首謀者を探ることだろうか?
きらきらの正体を知るための障害になるならば、排除するために。
「……?」
天花少女と合流しようと踵を返し、そこで違和感に気が付いた。
魔法少女としての力が、微妙に増している……?