人の心がわからない怪物、死んだ魔法少女になり替わる ~生まれ持った飢えを満たすのに必要なのは、人の心でした~ 作:人類の味方らしき生卵
「愛理、愛理?」
「んー?」
「どしたの? 今日ずーっとぼーっとしてたよね」
クラスメイトに話しかけられ、意識が現実に戻ってきた。
昨晩、こっそり壁の中を色々と探していたのが祟ったのか、若干意識が薄れている。
これも人の体に擬態しているからだろうか? 不便な体だ。獣の状態なら、二十四時間活動しても何も問題ないというのに。まあ、その分食事は必要になるわけだけれど。
「うーん、ちょっと寝不足で」
「魔法少女が忙しいの? それともあの子のせい?」
……言葉に棘が含まれているのに気づかないほど鈍くはない。
どうやら天花少女は、目の前のこの子にはよく思われていないらしい。
いや、おそらくは嫌われていると断言してもいいだろう。
公然と発言できる当たり、周囲の意見も同じと考えてもよさそうだ。
「そんなことないよ~。ちょっと調べものしてたら、時間忘れちゃってて」
「ああ、愛理は真面目だもんね」
ほら、少し不満そうだ。
天花少女に何の咎もない、関係もないとわかって面白くないんだろう。
何故彼女を敵対視する? その理由は探るべきか?
今後も彼女の側にい続けるならば、探るべきだろう。理由をしれば対処ができる。知らなければ、知らないまま振り回されるだけだ。
生前の愛理少女は知りたがらないようだったけれど。
「あの子のせいって言ってたけれど、誰の事?」
「誰って……。そりゃ、姫宮さんよ。あんな子の相手してあげてるの、愛理ぐらいだよ?」
それは暗に、お前も一緒に天花少女をのけ者にしろと言っているのだろうか?
「天花は悪い子じゃないよ?」
「……そりゃ、魔法少女やってくれてるのはありがたいと思うけどさ」
ふむ、魔法少女は普通やりたがらないのか。それはそうか。
飽食の獣というありとあらゆるものを食べる、という人間からすれば恐ろしいはずの存在と対峙させられるわけだから、望ましいはずがない。
もちろん、愛理少女の周辺環境を考えれば、それに見合うだけの報酬はあるはずだが……命あっての物種だ。死んでしまえば何も残らない。
「だからって、ねぇ。流石に、気味が悪いっていうか、その、呪いがうつるんじゃないかって」
「……呪い?」
それは知らない情報だ。呪いとは。天花少女は呪われているというのか?
魔法があるぐらいだ、呪いがあってもおかしくはないが、呪いとは感染するものなのか?
記憶を探る。ふむ、映画なる架空の存在でしか知識はないが、そういうこともあるらしい。
かといって、これまで愛理少女が天花少女に関わってきた時間を思えば、迷信であると言わざるを得ない。
「そう、呪い。だから――」
「愛理!」
詳細を語ろうとした彼女の声を遮るように、天花少女の声が響く。
クラスが別だからこそ、休み時間の間ぐらいしか交流はない。用事があったのか、今日は到着が遅くなったようだ。
「天花。そんなに慌ててどうしたの?」
「……ごめん、約束の時間に遅れちゃって」
「大丈夫だよ。お昼ご飯だよね? 行こう?」
ちらりと先ほどまで話していたクラスメイトの方を見ると、非常に何か言いたげだ。
だとしても、本人を前にして口にするだけの勇気はないらしい。
いや、呪いとやらを恐れているのか? どちらでもよいが。
「それじゃ、また後でね」
「……うん、行ってらっしゃい」
愛理少女を気にかけているのは間違いないらしい。
さて、今後の立ち回りをどうしたものか……。
昼食は屋上で二人で食べるのが日常となっているらしい。
屋上を一般開放してよいのか? という疑問があるが、まあ魔法少女二人だ。問題ないのだろう。
もしくは、学校側も天花少女を隔離しておきたい思惑があるのかもしれない。
「愛理、さっき、あの子と何を話してたの?」
「んー? ちょっと今日寝不足でぼーっとしちゃってたなぁ。って」
あははと笑いながら、嘘ではない言葉で誤魔化す。
実際に眠い。愛理少女の評判の事を考えれば、授業中に眠るなど論外なので我慢しているが。
どこか抜けているけれど、芯は通った優しい子。そのイメージを崩すべきではないだろう。
「その寝不足って、昨日調べてたことに関係する?」
「うん。ちょっとね」
まあ、結局何もわからなかったわけではあるが。
飽食の獣の本能に呼びかけ、呼び寄せるだなんて、どんなことをすれば可能なのかわからない。
いや、魔法少女の衣装は忌避させられるのだから、理論上は可能なのか?
ハンバーグの味もスイーツの味も知らないだろうから、それで呼び寄せられているわけではないはずだ。
「ねぇ、愛理」
「ん?」
不意に左手を掴まれた。
右手で動かしていた箸も一旦止めて、天花と視線を合わせれば、どこか思い詰めている様子だった。
「何かあったら、一人で抱えないで。愛理までいなくなったら、私、私……」
……ああ、不安なのか。
自分で制御しきれないことが。自分の能力の範疇を越えたことが。
まだまだ子供だというのに。失う事の恐怖を知っている。
「――大丈夫だって。危ないことはしてないし、何よりも約束したでしょ? 私だけは天花の側にいるって」
「そう、だっけ?」
「忘れちゃった? じゃあ、もう一度約束してあげる」
箸を置き、両手で天花少女の手を包み込むように握る。
視線を合わせ、ゆっくりと一言一言丁寧に発することを意識する。
「私は天花の味方だし、私は天花の側にいる。絶対に、何があっても。私が天花から離れるときは、私が死ぬときだけだよ」
少なくとも愛理少女はそのつもりだったし、僕もそのつもりだ。
それが、彼女と交わした約束なのだから。
天花少女は不安げに視線をさまよわせて、この言葉をどう咀嚼していいのかわからないでいる様子だ。
少し重すぎた? しかし、大元の愛理少女の言葉を代弁しただけなのだから仕方がない。
「……あり、ありがとう」
「感謝の言葉なんていらないよ。私がやりたくて、そうしてるんだから」
正面から受け入れるのに不安は覚えつつも、照れているあたり好感触。
良かった良かった。
しかし、こうなると余計にあの呪いの話が気になってくる。
聞く? いや、直接聞くのは違うかな。
これも調査内容に加えるとしよう。裏で、こっそりと進めるべきだ。
もしも呪いの原因が外的要因であるならば……気づかれずに排除するべきだからね。
「ほら、休み時間終わっちゃうよ。ご飯、急いで食べちゃおう? それとも食べさせてほしい?」
「自分で食べられるから! もう、こういう時ばかり」
「普段のお返し~」
何気なく笑い合って。
笑顔の裏では、ひたすらに今後の予定を考えていた。
愛理少女。ひょっとすると、君は大きな過ちを犯していたのかもしれない。
その可能性が、見えてしまったのだから。