ブラック・ブレット 贖罪の仮面   作:ジェイソン13

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義搭壮助のウワサ

菫に「『かめはめ波~!!』と叫べば斥力フィールドの威力が上がる」と言われ3日ぐらい本気で信じて練習したらしい。


赤の兵士・黒の兵器

 プロジェクターの灯りだけが頼りの薄暗い部屋で山根のメガネが怪しく光る。彼と部下三人は自衛官らしく後ろに手を組み、スクリーンの前に立つ。

 壮助達は椅子に座っていたが、我堂組以外は姿勢を崩していた。ある者は頬杖を突き、ある者は寝落ちしそうで首がカクカクと動いている。詩乃に至っては色々なショックで料理に手を付けていない子からトレーを取り上げ、食事を続けている。

 その構図は偏差値最底辺高校の教室のようだった。

 山根の視線が食事を続ける詩乃に向かう。顔は笑っているが、話を聞く気が無い詩乃への怒りが滲み出ていた。

 

「あー。森高さん。話を始めても良いかな?」

 

「静かに食べてるのでお構いなく」

 

 医師くずれの倉田としてバンタウで過ごし詩乃の治療にも当たったので彼女の食い意地はよく理解している。しかし、自分達が自衛官であると明かし、基地に入れても態度が変化しないことには内心驚いていた。

 山根がため息を吐く。そこから深呼吸すると「総員、傾注!!」と叫ぶ。彼と部下三人は改めて姿勢を正し、頬杖をついたり寝落ちしそうになった子も驚いて釣られて姿勢を正す。

 詩乃を除く全員が山根に視線を向けていることを確認すると彼は再び落ち着きを見せる。

 

「僕達、現地情報隊は“ある目的”のため4年前に設立された非正規部隊だ。一つ目は『外周区に展開する非合法武装組織の内部調査』、二つ目は『ガストレアウィルス潜伏感染者に適した教導の検証』だ」

 

「要は灰色の盾を通して赤目ギャングのことを調べつつ、こいつらを使って兵士として教育できるかテストしてたってことか」

 

「その通り。あと2年もすれば無垢な世代も18歳になる。自衛官になろうとする赤目も出て来るだろう。自衛隊としては彼女達を受け入れる方向で意見は固まっているんだが、残念なことに我々には彼女達の身体能力や生理機能、人間との差異に関する知見が乏しい。訓練は人間と同じプログラムで問題ないのか、赤目に適したプログラムを作る必要があるのではないか、それすら分からなかった」

 

 話のタイミングが良いところで常弘が挙手する。山根は「どうぞ」と答えた。

 

「その件でしたら、我堂が防衛省と協力してプロジェクトを立ち上げている筈です。現に我堂のイニシエーターも一環として自衛隊の訓練に参加しています」

 

「勿論、それは知っている。あれは大いに参考になったよ。()()()の教導プログラムはほとんど完成している」

 

 その一瞬、壮助が眉をひそめる。

 

()()()?」

 

「そうだ。ガストレア新法に則り、彼女達が末永く人として生きられるよう侵食率に配慮した人道的なプログラム。悪くはないさ。大金かけて育てた自衛官にガストレア化されては堪ったものじゃない。だが、世界は違う。侵食率を一切考慮せず、赤目の兵士に極限まで能力開放を求める部隊は星の数ほど存在する。ロシアの魔女部隊、EUの赤い瞳(イレーヴ・ルージュ)、東亜連合の无名之虎(ウーミィンジンフー)のようにね。僕達はそういったガストレア化を恐れない敵を相手にしなければならないんだ」

 

「程度の差はあれど、私達イニシエーターも赤目の力を解放して戦う者です。そのような者達に後れを取る謂れはありません」

 

 朝霞は突然口を開き山根に食ってかかる。常弘と朱理はぎょっとするが、当人はいつものすまし顔のままだった。

 

「じゃあ、君は武器を捨てて降伏する敵を殺すことが出来るか? 民間人が爆弾テロを仕掛けてくる戦場で『爆弾を持ってる可能性がある』という情報だけで子供を殺すことが出来るか? スパイを誘き寄せる為に何も知らない家族を拉致して人質に取ることが出来るか? 」

 

 朝霞はぐうの音も出なかった。「そんな非道は出来ない」という答えは既に彼女の中にあったが、口を開けばイニシエーターは使い物にならないと自分で言ってしまうようなものだった。

 

「で、その汚れ仕事を私ら(灰色の盾)にやらせようって魂胆だったのか」

 

 エールはパイプ椅子をギシギシと鳴らし、偉そうにふんぞり返る。全員の視線が彼女に集まる。今ここで立場上優位なのは山根なのだが、エールはその差を感じさせず、毅然とする。

 

「話が早くて助かるよ。ボス」

 

「ボスって呼ぶな。テメェはクビだ。スパイ野郎」

 

「ちなみに退職金と未払いの給料は貰えるのかな?」

 

「んな訳ねえだろ」

 

 山根は鼻で笑う。だが、すぐに真剣な面持ちに戻った。

 

「まぁでも、僕達の計画は上手くいかなかったね。この数年、僕は倉田医師として、彼らは自衛官くずれとして潜入し君達を訓練してきたが要求するスペックに達したのはエール、アキナ、サヤカの3人のみ。その3人ですら僕達の教育というより生まれ持った素質で強くなったようなものだ。それは君達イニシエーターも同じだろう?」

 

 壮助たちは黙って頷く。酷い話だがイニシエーターの強さは生まれ持った素質によってほとんど決まる。努力が全くの無駄という訳ではないが、努力を重ねた凡人が怪物に届くことは無い。

 

「上はもうイニシエーター部隊に興味を持っていない。戦いに適した素質を持った子が生まれる確率がランダムである以上、いくら強力でも補給が不安定な戦力に依存するのは危険だと判断した。今のトレンドは機械化兵士さ」

 

 機械化兵士――その言葉が出た途端、壮助達は固唾を飲んだ。おそらく、これまでの話は前置き、これからの話が本番だと悟ったからだ。

 

「アンタらジェリーフィッシュの残骸を回収しただろ。あれだけ持って帰ってまだ満足しないのか?」

 

「確かにあれから得られる情報は非常に多かった。東京エリア自衛隊(ウチ)の兵器開発計画を全部白紙にしなきゃいけないレベルでね。けど、肝心の動力炉は自爆して何がどうなっているのかさっぱり分からないままだ」

 

「動力炉?」

 

「里見蓮太郎の義足も死龍の尾もジェリーフィッシュもその動力炉が生み出す膨大なエネルギーを前提に設計されている。今の僕達は車を作ろうとしているのにエンジンの構造と燃料の種類を全く理解していない状況だ。そうなると頼みの綱は最後の機械化兵士“ナイトメアイーグル”になる」

 

 壮助は目を見開き、顔が強張った。山根達が自分達を利用して何を成そうとしているのか、それを理解してしまったからだ。拒否権など与えて貰えないであろう状況で冷や汗を流す。

 

「俺達に……『ナイトメアイーグルを鹵獲しろ』って言うのかよ!!」

 

「ああ。()()()()()()()()()()()

 

「は?」

 

 壮助は目を丸くし、ぽかんと開けた口が塞がらなかった。それはエールとナオ、その他灰色の盾の面々も同じだ。

 

「話は簡単さ。君達を囮にして、ナイトメアイーグルを誘き寄せる。そこに自衛隊の大部隊をぶつけて鹵獲、最悪の場合は破壊する」

 

 山根は「な? 簡単だろう?」と誇ったような顔を見せる。もっと酷い扱いをされて利用されるだろうと思っていた壮助は予想を裏切られたことが癪に障った。

 

「それが終わって用済みになった俺達はどうなるんだ? 非正規部隊の存在を知っちまったんだ。口封じに射撃訓練の的か? 」

 

「まぁ、確かに機密保持を考えればそれが確実なんだけど、壬生さんと森高さんを相手にするのは骨が折れる。大隊規模の損失は覚悟しないといけないだろう。それに君達を死なせたらティナ・スプラウトが黙っていない。彼女を、引いては彼女のプロモーターを怒らせたら国際問題だ。最悪、東京エリアは核の炎で地図から消えるね」

 

 山根は冗談めかす。それを聞いていた我堂組も灰色の盾も呆れていたが、壮助は身震いした。彼はティナのプロモーターがアメリカ第三位の巨大民警企業サーリッシュの会長であることを知っている。CIAとコネがあり、ホワイトハウスにも顔が利くらしい彼女なら、もしかするとやるかもしれない。

 

「事が済めば、ここで見聞きしたものを忘れ、以前の生活に戻ればいい。口止め料として相応の見返りも用意しているから、馬鹿な真似はしないようにね。君達を物理的に殺すことは出来ないけど、社会的に抹殺する方法なんていくらでもあるから」

 

 

「三佐殿。そろそろお時間です」

 

 

 部下が山根に耳打ちする。山根の時間感覚とは大きな差があったようで腕時計で確認し、わざとらしい驚きのリアクションを見せる。

 

「小難しい話ばかりで疲れただろう。今日はゆっくり休むといい。ああ、それと――」

 

 山根が部下からA4サイズの茶封筒を受け取り、それを壮助の前に差し出す。

 

「なにこれ?」

 

「僕達に協力する見返りと口止め料の一部かな」

 

 壮助は疑りながらも茶封筒を受け取る。表には「H-01・H-02 分析結果」と手書きされ、封を開けようと思い裏面を見ると「防衛省ガストレアウィルス対策本部」と小さく印字されていた。

 

 ――さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 

 封を切り、茶封筒の中にあった数枚のプリントを取り出す。

 表題は「侵食率証明書」、本文も日向姉妹の侵食率が12%と6%であることを証明する旨が記載されていた。だが、これはもう司馬重工の関連会社が検査を行い、数値を叩き出している。今更これを渡す山根の意図が分からなかった。

 

「バンタウで採血した後、こっそり送って調べて貰ったんだ。混入(コンタミネーション)のない血液、厚労省が採用している検査機と()()()()()()()()()()()()()()()()()で証明している。これに文句をつける奴はいないだろう」

 

 完璧な証明、それは日向姉妹に貼り付けられた善悪と真偽のレッテルを全て覆す最強の切り札になる。そして――――

 

「山根三佐。勾田大学病院にある侵食率検査機と自衛隊の検査機、後は病院や特異感染症研究センターにある検査機、それらは何が違うんだ? 」

 

「強いて挙げるなら、管轄の違いかな。勾田大学病院の検査機は文部科学省、自衛隊の検査機は防衛省、病院やセンターにあるのは厚生労働省の管轄だ」

 

 壮助の中で侵食率48%のトリック、その大まかな輪郭が見えて来た。五翔会残党は厚労省管轄下の検査機にのみ姉妹の侵食率を偽装する仕掛けを施した。文科省管轄下の勾田大学病院ではそれが出来なかったから破壊し、倉田医師の正体が現役の自衛官だと気付いていなかったため、防衛省の検査機は仕掛けも破壊も間に合わなかった。厚労省管轄下の検査機にあって、それ以外の省庁の検査機に無いもの、それを調べていけば、()()()()()()()()()()()()()

 

「なるほどな……。縦割り行政バンザイ」

 




オマケ 前回のアンケート結果

壮助「おい……何だよ……。何でティナ先生がこんなことになってるんだよ!!」←何が起きた?

回答
→(8) ピザ以外の料理をまともに作っている
 (2) 祭りの屋台の射的で弾が当たらない
 (6) 連邦に反省を促すダンスを踊っている
→(9) おっぱいが大きくなっている
 (0) 天誅レッドのフィギュアを下から覗いている

壮助「ふざけんな!!こんなのティナ先生じゃねえ!!ティナ先生はピザキチなんだ!!ピザしか作れないピザに呪われしピザ製造機なんだよ!!割烹着姿で肉じゃが作る家庭的なティナ先生なんてティナ先生じゃねえ!!ただの家庭的な美人だ!!それに見ろよ!!この胸の駄肉!!駄肉!!あの人は戦いに必要ない無駄な肉を削ぎ落した身も心も戦闘に染まった戦闘キチなんだよ!!こんなにおっぱいデカいのはティナ先生じゃねえ!!ただの胸の大きいいい女だよ!!」

その後、壮助はティナにボコボコにされた後、東京湾に沈められた。


次回「俺達はずっと負けていた」

どっちが強そう?

  • イニシエーター部隊
  • 機械化兵士部隊
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