冷房機の駆動音が静かに唸る真夜中の宿泊室。消灯時間はとうに過ぎ、各々が眠りに付いてから2時間は経過していた。その中、まだ瞼を開けている者達がいた。
「エール……起きてる?」
掠れるような声でナオが囁く。自衛隊のヘリの中で仲間の死に涙を流し、泣き喚いた彼女の声は枯れていた。
「…………………………………………起きてる」
何をどう思い、答えを悩んだのだろうか。エールの返答は数秒遅かった。
「みんな寝てるよ」
「そうだな……」
「黙っててあげるから……今ぐらい泣きなよ」
「うる……せぇ……」
エールはナオに背を向け、シーツを頭まで被せる。それでも、こみ上げてくる哀傷を抑えることは出来なかった。唇の隙間から嗚咽が溢れる。目から零れる涙も止まらない。赤子のように身体を丸く縮ませ、この声が誰にも届かないことを願い、枕に顔を埋めた。
数年振りに聞いた親友の啼泣を耳にナオは天井を眺める。
いつかニッキーは言っていた。エールは私達が思っているほど強い人じゃない。私達がボスを、リーダーを、姉ちゃんを求めるからその役を全うしたお人好しだと――。
そんなものは一番付き合いの長い私がよく分かっている。だから、今日のエールを見るのは辛かった。本当に私達みたいに人目もはばからず泣きじゃくりたかった。でも、それを我慢して灰色の盾のボスで居続けた。人に棄てられ、人に虐げられ、人を憎む赤目ギャングのボスで居続けた。
本当はもう、そんな気持ち残ってない癖に――
“バケモノ”だと蔑まれてきた。
だから“バケモノ”らしく振舞った。
でも……せめて、友達の死に涙を流す時ぐらいは“女の子”でいさせたい。
*
まだ陽が昇り切っていない早朝、壮助は宿泊室のテレビで朝のニュースを眺めていた。他の3人が起きないよう音量は自分がギリギリ聞こえる最小限に抑える。
「自分達が負けていた」と気付いてからとても寝られる気分ではなかった。最初は頭の中で情報を整理し、その後は仮眠。3時間後には目を覚ましてニュースをずっと見ていた。
パソコンもスマホも自衛隊に取り上げられた今、テレビだけが情報収集の手段だった。
・前田防衛相「ガストレアの駆除は完了」と発表
・「生存は絶望的」日向姉妹の捜索打ち切り 事件の捜査は継続
・我堂民警社の躍進 IT化する民警の未来像とは?
・「ガストレアは出て行け」児童養護施設へ脅迫状 57歳の女性を逮捕
・第三区女子小学生殺害事件 同級生が反赤目団体に殺害を依頼
・西外周区感染爆発は宇宙人の仕業? 前日に相次いだUFO目撃情報
・天誅ガールズ大正デモクライシス 劇場版製作決定
・「公平性に欠ける」永山陸上競技委員長 日向美樹さんの記録取り消しを検討
・急増する赤目差別と憎悪犯罪 警察はバラニウム製武器の取り締まりを強化
・政権支持率25%を下回る 就任後初
・市民団体に届く「赤目排斥」を願う声 「ウチは純血会じゃない」と代表は困惑
・積木P事件後初の記者会見 「また彼女の声が聴ける日が来ることを願う」
・玄界 博多エリア代表 西外周区事変の犠牲者に哀悼の意
・アロイス LAエリア代表 ガストレア新法の決議延期を提案
・屋上から飛び降り19歳女子大生が死亡 “鈴之音 後追い自殺”か
背後で布の擦れる音がする。起こしてしまったか、と壮助はテレビの音量を更に下げるが既に遅かった。彼女はスリッパを履き、パタパタと足音を立てながら壮助に近付いた。
「おはようございます。義塔さん」
「おはよう。鈴音」
寝起きながらしっかりと開く瞼、ノーメイクでも損なわれない美貌、こんな状況でも笑顔で居続けるメンタリティ。(彼女は歌手なのだが)どこまでも理想の女の子を崩さない彼女は骨の髄まで
「悪い。起こしたか?」
「私が早起きなの知ってるじゃないですか」
「それもそうだったな」
他にもソファーがありながら、鈴音は二人掛けソファーの壮助の隣に腰をかける。ソファーはそれほど大きくない。さり気なく端に詰めようと努めても肩、腕、腰、脚が密着する。
――相変わらず距離感バグってんな。こいつ。
鈴音と出会ってもう一ヶ月が経つ。ほぼ毎日顔を合わせ、同じ屋根の下で過ごすとこうして密着されるのも無意味に顔を触られるのも慣れてくる。会ったばかりの頃のようなドキドキも……無くなった訳では無いが軽くなった。
「義塔さん。ちゃんと寝てないですよね」
「何で分かるんだよ」
「肌に出るんですよ。そういうの。あと汗も流して無いじゃないですか」
「汗臭いんだったら離れろよ」
「言いませんよ。私達の為に頑張って流した汗なんですから……それに――
鈴音は誇らしげな顔をして、鼻息を荒く立ててガッツポーズする。
「臭さで言ったら昔の私も負けてませんよ。一週間以上身体を洗えなかったなんて普通でしたし、ハエが集るのはいつものこと、服はカビ臭かったですし、悪い人から逃げる時には下水道とか通りましたから、出てきた直後はもう自分の臭さで嗅覚がしばらく死んでました」
「……路上生活ガチ勢は反則だろ」
鈴之音ファンが聞いたら泡を吹くであろう汚いエピソードに愛想笑いする。味覚殺しの異名を持つエールの飯を平然と食べたり、ギャングと一緒に解体現場でスレッジハンマー振り回す生活を過ごしたなんて話も加えれば卒倒は確実だ。
「まぁ、でも平気そうで良かったよ」
大勢のガストレアに囲まれ、友達はほとんどが死ぬかガストレア化し、目の前で年端もいかない少女が自爆テロを仕掛け、自分達を守る為に2人が生死の境を彷徨った。訓練を受けた兵士ですら
鈴音が心の均衡を保っていられるのは、不本意ながらも幼少期にそれらを経験し乗り越えていたからかもしれない。
「平気なんじゃなくて、分からないだけですよ。泣けば良いのか、笑えば良いのか、怒れば良いのか……」
「そういうのって、
「……………………………………」
鈴音は何も答えなかった。彼女は壮助から目を逸らし、テレビに視線を向ける。ギリギリ聞こえるか聞こえないかの音量でニュース映像が垂れ流される。
壮助は急かさなかった。これは個人の気持ちの問題だ。模範解答なんて存在しない。ましてや自分達は性別も、生まれ育った環境も、持っているものも失ったものも違う。自分の言葉に鈴音がどう思っていても、返答に困って話を止めても、それは仕方のないことだと自分の言い聞かせる。
「あの、実は昨日言い忘れていたことがあるんです……」
「ん? 何だ?」
「五翔会残党って言われている会社……全部私がCMやイメージキャラクターで契約を結んでいる会社です」
昨晩、思っていた通りの話が出てきて、壮助はふっと鼻で笑う。
「やっぱりか……」
「やっぱり?」
「昨日俺も気付いたんだよ」
「これって偶然なんでしょうか……?」
「多分、偶然じゃない。俺の推測が正しければ、五翔会残党はお前を持ち上げて、貶めて、それによって生じる影響で利益を得ている」
壮助は鈴音の顔色を窺う。ここからする話は世辞で言っても精神衛生上良いものではない。彼女には何も知らせないまま敵を殲滅し、綺麗になった場所に送り届けるという手もまだ残されている。
「教えて下さい。私も守られてばかりのお姫様は嫌です」
「さっきも言ったけど、あくまで推測だ。それにあまり気分の良い話でもねえ」
「それでも構いません」
自分は目の前の少女を見くびっていたようだ。どうなっても知らんぞと言いたげに壮助はため息を吐く。
「五翔会残党の目的……そいつは聖天子不信任決議だ」
鈴音はさっそく首を傾げた。
聖天子は、国民投票で三分の二以上の賛成により不信任が可決されたとき、十日以内に国家の代表たる資格と権利を返上し、辞職しなければならない。
「簡単に言うと聖天子を合法的に政界から追い出す制度だ。『東京エリアは聖天子様の独裁国家』なんて言われているが、追い出す手段は法律でちゃんと定められている。そうしないとテロや暗殺でしか排除出来なくなるからな」
壮助がテレビを指さす。丁度、ニュースで8月21日に投開票が行われる聖天子不信任決議に関する報道が流れている。専門家は第三次関東会戦ショックから続く経済の低迷、天童家を失ったことによる発言力の低下、聖天子肝煎りのプロジェクトであった侵食率管理システムの不備発覚を例に挙げ、東京エリア史上初の不信任決議可決となる可能性があると語っている。
「ガストレア新法の施行と赤目保護政策は聖天子肝煎りだ。この政策の評価が今の彼女の評価に直結していると言っても過言じゃない。ただでさえ経済政策も外交も目立った成果が無い彼女を貶めようとするなら、そこに泥を塗るのは当然の発想だ」
「私達はそれに利用された……」
「ああ。それも……何年も前からな」
壮助は一度話を止めて再度、鈴音の顔色を窺う。自分が歌手になったせいで皆が死んだのではないかと思い詰めるのではないか、そう思っていたが、当の鈴音はさして気にしている様子は無い。
「話はこうだ。保脇夏子にとって聖天子はどうしても潰したい相手だった。五翔会残党にとっても邪魔な存在だった。そこで残党は赤目保護政策に泥を塗り、聖天子の評価を地に墜とし、そのタイミングで始めた国民投票により政界から追い出す作戦を考えた。それがこの事件だ。
保護政策に泥を塗るには保護された赤目に大事件を起こして貰うのが手っ取り早い。ついでに厚労省の侵食率管理システムの信用もぶっ壊してくれると助かる。そうなるとガストレア爆弾を使って保護対象の子供たちをガストレア化させて感染爆発を引き起こし、大勢の尊い犠牲を出す方法が一石二鳥だ。
でもこれには欠点がある。被害のコントロールが出来ないところだ。ガストレア化させても、たまたま居合わせた民警に倒されて犠牲者一名で終わるかもしれない。そうなってしまったら国民に与えるショックはその分小さくなる。警察に対策を取られれば、同じ手が二度と使えなくなるかもしれない。逆に対応が遅れて東京エリアが滅亡するかもしれない。これでは元も子もない。
だから五翔会残党は別の手を考えた。ガストレア化させて犠牲者を出すのではなく、「ガストレア化寸前の少女が街中に潜んでいる」という恐怖を作り出し、それを保護政策を推し進めた聖天子への批判に繋げ、国民投票に持ち込むという作戦だ。
その為には東京エリア全市民が事件に関心を持たなければならない。どこぞの馬の骨を侵食率48%に仕立て上げても大して話題にならない。
誰もが注目し、誰もが心配し、誰もが事件に関心を寄せる。
そんな生贄が必要だった。
そして、鈴之音――日向鈴音に白羽の矢が立った。
芸能界に飛び込んだ呪われた子供。その中で頂点に立つ可能性のある原石。
五翔会残党にとっては生贄候補として疑う余地なんて無かったんだろう。残党の人脈と財力を挙げてスポンサーになった。自らCM契約やイメージキャラクター契約を持ちかけて有名にし、『鈴之音』を東京エリアの誰もが知る、みんなに愛される
鈴音が「あの……」と言って挙手する。
「弓月さんじゃ、駄目だったんすか? 前から有名人でしたしファンもいますし、SNSのフォロワーも私より多いんですけど」
「片桐パイセンじゃ無理だな。まず聖天子の保護政策の対象じゃないし、加えてイニシエーターだ。仕事で能力を使うから侵食率が日常的に上がるし、仕事柄ガストレアとの接触は避けられない。ある日突然侵食率が上がっても『ガストレアにやられたのを隠していたんじゃないのか?』と思われてお終いだ」
「そうですか……」
「侵食率管理システムによって安全と保障され、日常生活で赤目の力を使うことも無く、ガストレアと接触することも無く、模範的な市民として暮らしていた日向姉妹ですら突然ガストレア化する。
これでは共存など無理だ。聖天子の保護政策は間違っていた。――そう世論を誘導出来ればそれで残党の勝ちだったんだ。聖天子の支持率は25%を下回った。対して不支持率はこの数日間で保留層を取り込んで70%を越えている。このまま投票に持ち込めば負けるだろう。その先にあるのは――票集めの為に呪われた子供も外周区の人間もガストレアの餌にした政治家たちの国だ。
俺達は
壮助は熱くなり、いつの間にかソファーから立って、まるで頭に血が登った活動家のように雄弁に語っていた。美樹と詩乃がそれでも目を覚まさなかったのは幸いか。
鈴音は座ったまま、ぽかんとしていた。
「義塔さん……。どうして
「壮大な計画をぶっ壊すお楽しみが待っているからさ」
今から真実を公表しても明後日の投開票までに世論をひっくり返すのは不可能だ。
だから、
次は俺達がゲームを始める番だ。
オマケ 前回のアンケート結果
菫「君のメンテナンスをしたらとんでもないことになってしまった」壮助「え?」
(1) 両手をサイコガンに改造
→(7) 声が小山力也になる
(3) 斥力フィールド暴発により駐屯地消滅
→(10) 女の子にしてしまった。
(3) 菫の科学力は世界一ィィィ!!状態になる
(1) ただし、斥力フィールドは尻から出る
義搭壮助(♀ CV小山力也)「声が小山力也の女とかどこに需要があんだよ!?せめてどっちかにしてくれ!!」
(1) 両手をサイコガンに改造
(7) 声が小山力也になる
(3) 斥力フィールド暴発により駐屯地消滅
→(10) 女の子にしてしまった。
(3) 菫の科学力は世界一ィィィ!!状態になる
(1) ただし、斥力フィールドは尻から出る
義搭壮助(♀ CV悠木碧)「よりによって何でこの声なんだよ!!」
詩乃「壮助。これ被って」黒髪ウィッグ
詩乃「あとこれも着て」黒のドレス
詩乃「あとこれも持って」小太刀×2
弓月「まんま小比奈じゃん」
ティナ「けっこう似てますね……」
詩乃「不思議だねー(棒)」
次回「目標:第2ラウンドKO勝ち」
鈴音「えっ?私の匂いを嗅ぎたいんですか?」←どこを嗅ぐ?
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髪
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頭皮
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耳の裏側
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首筋
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鎖骨
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脇
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手の平
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指先
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鳩尾
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へそ
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腰
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太腿
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膝
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脛
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脹脛
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足の裏
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足の指先
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センシティブな場所