素手でガストレアを絞め殺したことがあるらしい。
自衛隊ヘリで15分、民間のトラックに積み変えられて運ばれること20分。「出ろ。義塔」という聞き慣れた声と共に段ボールが蹴られた。壮助は思い切り段ボールを蹴破り、大きく息を吸って外の空気を肺に入れる。
開けた視界には大男の分厚い身体、太い腕に握られた銃把、壮助の額に銃口を向けるH&K MP7A1、そして大角勝典の顔が映った。
「まさか、本当だったとはな……」
勝典は壮助の顔を見て少しほっとするとMP7を降ろす。
「えっと……大角さん。なんでここに?」
「倉田医師から電話が来たんだ。『自衛隊の荷物に紛れて義塔くんが来るので回収お願いします』ってな。無理やり段ボールに押し込まれるお前の動画とデジタルの入場許可証もスマホに送られて来た。彼は何者なんだ? 」
勝典の問いに壮助は一瞬言葉が詰まる。スカーフェイス戦の後、勝典は一度バンタウを訪れ、闇医者の倉田には会っている。しかし、自衛隊の非正規部隊の隊長である山根のことは知らない。現地情報隊のことを勝典に話してしまって良いのか、彼を「知ってしまった人間」に含めてしまって良いのかと、筋骨隆々の大男に詰め寄られながら逡巡する。
「えーっと、まず俺達が生き残ったところから話さなきゃいけないんだけど――――」
結果的に言うと壮助は諦めた。上手い言い訳が思いつかなかったからだ。おそらく山根も壮助が現地情報隊のことを話すことを想定して入場許可証を用意したのだろう。たぶん。
壮助はこの24時間で起きたことを勝典に話す。彼は静かだった。感情を表情や態度に出すことなく、まるで仏像のように静かに耳を傾けた。
「よく……生き残ったな」
勝典が壮助の背を叩く。励ましてくれていたが、それでも気分が晴れることは無かった。励ます勝典も、励まされる壮助も、西外周区というならず者の街――そこに住む法の外側へと追放された少女達に訪れた悲劇を想い、胸を痛めずにはいられなかった。
壮助は勝典から買って貰ったミネラルウォーターを喉に流し込む。真夏に段ボールに梱包され熱中症になりかけた身体が冷えていく。
「大角さん。死龍――あ、じゃなかった。飛鳥はどうっすか?」
「目を覚ます兆候は無い。死ぬまで植物状態かもしれないし、今突然目を覚ますかもしれないと医師には言われた。ガストレアウィルスの爆発的な増加と毒による抑制が同時に起きたなんて前例が無いからな。この先どうなるかは神のみぞ知るだ」
「残党が殺しに来たりは?」
「来ていたらお前に伝えるさ。今まで音沙汰無しだ」
イクステトラの一件から9日が経過している。イクステトラ襲撃事件とスカーフェイスのリーダー逮捕はテレビでも報道されており、警察病院に入院しているのも明かされている。
「飛鳥もスカーフェイスも所詮は捨て駒。漏れても問題ない情報しか握らされていなかった――と考えるのが妥当か」
「だとしたら、どうやってタウルス・チルドレンの情報を手に入れたんすかね」
「飛鳥の努力か、奇跡か、それとも誰かが飛鳥に握らせ、
勝典がふんと鼻で笑う。
「考えてもキリが無いな」
「でも、これを信用して前に進むしか無いっすね」
SDカードの中身――タウルス・チルドレンに関してはリエンで裏付けが取れている。菫にも科学者の視点から精査して貰ったが不審な点はなかった。敵を振り回す偽情報である可能性は限りなく低い。
「それと松崎さんから連絡があってな。飛鳥の護衛は警察と我堂に任せることにした」
警察が日向姉妹の捜索を打ち切ったと同時に警察の依頼で動いていた我堂も手を引いた。それによって浮いた人員を飛鳥の護衛に回したらしい。我堂はともかく警察はグレーなところがあるが、イクステトラ襲撃事件の犯人として警察関係者が周囲を固めていたので今更の話だった。
「人数がいる民警会社はいいな。ローテーションが簡単に組める」
「ウチもペア増やします?」
「やめておこう。これ以上問題児が増えたら千奈流が憤死する」
「問題児が前提なんすね……」
今いる問題児が誰のことで、この先
「で、21日の夜までお前はどうするつもりだ?」
「潜伏しつつ調べ物ってところですかね。
「寝床はどうする? 我堂社長の別荘でも借りるか?」
「いや、止めとくっす。ジェリーフィッシュに壬生や小星達を見られた以上、我堂が五翔会にマークされていてもおかしくない。俺達しばらくは外周区で死んだことにしておきたいんで」
「なるほど。どうりでお前の話と自衛隊の発表が矛盾する訳だ」
「どういうことっすか?」
「いや、これはお前の差し金じゃないのか?」
2人は話が噛み合わないことに目を丸くし、首を傾げた。
勝典はスマホでニュースサイトを開く。新着記事一覧を少し遡り「西外周区感染爆発、生存者なし 防衛省発表」というタイトルの記事を壮助に見せた。内容はタイトルの通りだった。壮助達が保護されたことは一切報道されていない。
壮助にとっては願ったり叶ったりな状況だったが、32式ミサイルの悪評を拭いたい自衛隊としては生存者をアピールしたかった筈だ。しかし山根達はそれを覆し防衛大臣に嘘の発表をさせた。救助者のことを隠したのか、上の人間を脅したのか、それとも説得したのか――手段が何であれ山根の三佐とは思えない影響力は頼もしく恐ろしかった。
「何にせよお前にとって都合の良い状況になったなら問題はないだろう。それともう一つ、お前の話を聞いて気になったことがある」
勝典は再びスマホを操作し、政治カテゴリの記事を見せる。ここ1年間の聖天子政権支持率の折れ線グラフが表示されている。元々それほど高くない支持率が3月に入ってから急降下し、今は23%あたりで落ち着いている。
「3月? 何かあったんすか?」
壮助は1月末に起きた里見事件のケガで3月下旬まで病院のベッドで眠っていた。その間に世間で起きたことはネットニュースの過去の記事を読んで頭に入れていたが、リアルタイムに過ごした人と比べれば雀の涙だ。
「いや、無いんだ。3月は切っ掛けが無かった。里見事件の対応を巡って保脇議員がバッシングしていたが、それも2月の話だ」
犯人逮捕、犠牲者ゼロ、完全勝利で終わった里見事件の顛末に難癖をつける人間がこの世にいるのだと驚いたことを思い出した。
「保脇のバッシングとの関係は分からないが、3月から聖天子へのネガティブキャンペーンが始まった。とりわけ偏向報道とSNS上での活動が酷かった」
壮助も思い当たる節がある。里見事件の前と後で聖天子への風当たりが強くなっていたことには気づいていた。だが政治の世界を気にしても仕方がないので特に気にはしていなかった。
「ただ、おかしいのは今まで聖天子を支持していた、好意的に報道していた機関までもがそれに便乗――いや、むしろ積極的に行っていた。聖天子の神輿担ぎと揶揄された
「もう不信任投票でクビにして隠居させた方が良いんじゃないっすか? その内ストレス爆発して亡命するっすよ。あの人」
勝典は「ははっ」と笑い同意する。
「政治と報道の世界で何が起きたのかは分からないが、どうも妙な感じがする。聖天子が特に対策を取る気配がないから尚更な」
「もし本人に会うことがあったら聞いてみるっすよ」
「ああ。ついでに胃薬でもプレゼントしてやれ」
壮助は立ち上がり、長話でずっと曲がっていた背筋を伸ばす。
「じゃあ、俺はそろそろ」
「そうだな。俺も次の用事がある」
「次の用事?」
飛鳥の護衛を我堂と警察に任せた今、勝典とヌイは身動きが取れるようになった。飛鳥のそばに居続けるという選択肢もあることにはあるが、戦いが続いている中で戦力外になることを望む2人ではないだろう。
「司馬重工だ。あそこのお嬢様に目をかけて貰ってな。
「じゃあ、次も期待してるっすよ。大角さん」
「若者の足を引っ張らないよう頑張らせてもらうさ」
2人は拳を当てた。壮助は踵を返して歩み始める。
「義塔……」
勝典が背後から壮助を呼び止めた。
「大博打しくじるなよ。いくら俺でも
「その二度目があった時は
*
勝典と別れた後、壮助は麗香の店を頼った。民警御用達の中古武器専門店だが、それ以外の物品も頼めばどこかから調達してくれる裏メニューがある。壮助はそこでバイクと偽の免許証、スマホのスパイアプリを調べてくれるハッカーの紹介を頼んだ。口止め込みで高くついたが、費用は勝典にツケた。
二つ返事で応えた麗香はどこかへ連絡した。それから1時間もしない内に壮助と同い歳であろう少女が文句を言いながらバイクと偽装免許証を置いて行った。ほぼ同時にハッカーも来て自衛隊から返して貰ったスマホを調べたが意外なことに仕込まれていなかった。
ホンダCBR400Rに跨り麗香の店を後にした。寝床の第一候補へ向かいながら、ヘルメット越しに内地の様子を見る。西外周区の感染爆発が嘘だと思えるくらい普段の日常が繰り広げられていた。感染爆発事変は確かに報道されているが、待ち往く人々は他人事のようだった。
「アポ無しなんだけどさ。リエンいる?」
寝床の第一候補、それはリエンの邸宅だった。立地は外周区寄りだが内地へのアクセスに問題がない。壮助の手で五翔会を葬ることを望む彼女なら頼みを聞いてくれるだろうと見込んだ。
しかし正門に近付いた途端、警備の少女達に銃口を向けられた。前来た時は2人しかいなかった警備は十数人に増えている。武装も拳銃のみから特殊部隊さながらのフル装備だ。少女達が銃口を向けながら無線で連絡を取る。リエンに入れるかどうか問い合わせているようだ。何人かは前来た時に壮助を見ており、こちらから名乗るまでも無かった。
リエンの許可が降りたようで正門の扉が開いた。警備の少女達に睨まれながら、庭を歩き、邸宅の前で男装の麗人からボディチェックを受ける。無論、
相変わらず花の香りが漂う屋敷内を歩き、前回とは違う部屋へ案内される。ドアにはベトナム語で何か書かれているが読めなかった。
男装の麗人がノックし、リエンの許諾を得て扉を開ける。
「お待たせしました。リエン様。義塔様をお連れしました」
扉を開けた先は広間だった。壮助の部屋の何倍あるのかわからない空間に変わらず華美な装飾が施されている。
しかし、壮助は眉をひそめた。そこに不釣り合いな者達がいたからだ。スーツ姿のいかつい顔の男達、腕のタトゥーを見せつける派手な格好の若者、顔に大きな傷を持つ男、10人近くいる男達の誰もがどれかに該当する。まるで反社会的組織の悪人博覧会だ。
――こいつら……鷲頭組の幹部だ。
壮助は狼狽える様子を見せず、毅然と、むしろ舐めた態度でリエンに歩み寄る。彼女は前と変わらず艶美な姿でソファーに腰掛け、男達と肩を並べていた。
「男娼連れ込んで今からお楽しみってか? ふざけんのも大概にしろや!!
派手な格好の若者がローテーブルを蹴飛ばす。テーブルの上にあったティーカップが倒れ紅茶が零れる。若者は額に青筋を立て、いかにも血管が決壊して噴き出しそうな怒り顔をしている。壮助が来る以前からリエンにイライラさせられていたのだろう。他の男達も同情しているようで若者の蛮行を諫める様子は無い。
「タイミング悪かった?」
「いいえ。むしろグッドタイミングよ」
リップクリームの塗られた唇が横に広がる。
それが本音なのか皮肉なのか、壮助は判断に困った。
オマケ 前回のアンケート結果
Q:「100万人のゆりかご」に100万円以上寄附した貴方にドールズ(ドールメーカーで精神を壊された赤目ちゃん)をプレゼント!!←寄付する?
→(4) する
(7) しない
→(10) しないけど欲しい。
ロリコン「うっひょー!!あかめちゃん ゲット だぜ!!」
ロリコン「……おや!? あかめちゃんの ようすが……!!」
テーテーテーテレレテッテレー♪
「おめでとう!!あかめちゃんは ガストレアに しんかした!!」
ガストレア Lv.50
しんしょくりつが 50パーセントを こえたものだけが しんかする。
ロリコンに ウィルスを ちゅうにゅうして なかまをふやす。
その日、大勢のロリコンがガストレア化した。
後に語られる「幼女性愛者感染爆発事件」である。
次回「パイの奪い合い」
壮助「聖天子様、ストレス溜まってそうっすね」勝典「〇〇でもプレゼントしてやれ」
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