ブラック・ブレット 贖罪の仮面   作:ジェイソン13

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みなさん。(ブラブレ短編杯を書いたり、エイティシックスの二次を書いたりして)長らくお待たせしました。更新です!!


殺戮の翼 前編

 冷房が効いたミニバンの中でラジオが流れる。パーソナリティとゲストの雑談が流れ、その後は大人気アーティスト“エリアクライズ”の曲が流れる。ゆったりとしたベースのメロディから始まり、一気に畳みかけるハイテンポなドラムとギター、そして爽やかな男性ヴォーカルの歌声がカーオーディオから流れる。

 津名はハンドルを指で叩きリズムをとり、ところどころ鼻歌も出始めた。

 

「そういや、エリアクライズって同じ事務所なんだっけ?」

 

「先輩です」

 

「ピジョンローズすげえよな。エリアクライズ、西山剣士、PinkPunkPixy、鬼瓦リン、そして鈴之音。ヒットしてない奴がいねぇ……」

 

 恥ずかしそうに鈴音は愛想笑いする。対して10代に人気なはずのアーティストを知らない朝霞は話を振られないよう目と口を閉ざし、手本のような姿勢で座る――常弘曰く“置物モード”になっていた。

 

「その一人と同じ空気吸ってんだから、俺もヒットする曲作れるようになるかな?」

 

「あははは。その……どうなんでしょう? 私の場合、積木さんが凄かったから」

 

「積木Pか……。確かにあの人はすげえよな。俺らがガキの頃にハマった曲もほとんどあの人が関わっているし、ありゃ稀代のヒットメーカーだよ」

 

 津名はバックミラーで鈴音の表情を見やる。鈴音が謙遜し代わりに持ち上げたものを更に持ち上げるようなことを言ってしまったと気づいたからだ。彼女が泣かない・怒らない人間だと知っていても悲しむ心はあるはずだ。

 

「で、鈴音ちゃんはヒットメーカー様に『大金積んでもいいから連れて来い』って言わせるほどの逸材だった訳だ」

 

「そんなんじゃないですよ。本当の私は……私は――」

 

 言葉が詰まる。今、自分は何て言おうとしたのだろうか。「私は」――その言葉に続くものが思い浮かばない。選択肢があってどれを選べばいいのか分からない――という訳ではない。その選択肢すら自分の頭に浮かばない。光すら感じ取れない盲目時代の暗闇の如く、鈴音は“私”から連想できる言葉が思い浮かばなかった。

 

 ――あれ……? 何を言おうとしたんだろう?

 

 ガチャリとドアロックが開錠され、全員の意識がそっちに向けられる。助手席にはナオ、後部座席に宇津木が乗り込む。

 

「よう。ナオ坊。社会科見学は楽しかったか?」

 

「大したこと無かったよ。はい。これデータのコピー」

 

 津名は渡されたUSBメモリをまじまじと見つめる。家電量販店で売っている普通のUSBメモリだが、東京エリア全土を騙した大犯罪の証拠が詰まっていると考えると特別な重みを感じる。

 

「首尾は上々ということで宜しいでしょうか?」と朝霞が尋ね、ナオがVサインで応える。

 

「誰にも気づかれていないし、一切の痕跡も残してない。完璧なスパイっぷりを見せてあげたかったよ。ジェームズ・ボンドもイーサン・ハントも私を見習うべきだね」

 

「クソつまんなさそうな007とミッションインポッシブルだな。興行収入大爆死だ」

 

 ナオ達の会話の意味が分からず、鈴音は「?」と首をかしげる。

 

「長居は無用です。早く移動しましょう」

 

 朝霞は昔のスパイ映画の話で盛り上がる2人を窘める。「そりゃそうだな」と津名はシフトレバーを操作し車を発進させる。ビルとビルの隙間にある小さなコインパーキングを抜け、幹線道路の上り線を走る。

 

「すまないが、今どこに向かっているんだ?」

 

「「「……」」」

 

 宇津木の質問に全員が押し黙る。朝霞は顔を反らし、津名とナオもバックミラーから表情を悟られないように唇を噛む。全体的に気まずい雰囲気が車内に漂う。

 

「梨々花お姉様ぁ~。泊めてぇ~。このままだと私たちホームレスなのぉ~」

 

 ナオが助手席から振り向き、猫なで声で手を合わせる。目は潤んでいるがこれは事前に目薬をさしていたからだ。ふざけた演技に宇津木は「は?」と睨み付けて返す。

 

「山根のクソメガネがこっそり駐屯地に戻る手段を用意出来なかったしぃ~、『それじゃあ』と手配した内地の隠れ家が火災で焼失しちゃってたのぉ~」

 

 宇津木の反応を意に介さず、ナオは一文の価値も無い芝居を続ける。宇津木が疑いの目を向けるが、「あの……事実です」と朝霞が補足し、鈴音も頷いた。

 

「俺は車中泊で構わないから、せめてこいつらだけでも泊めてやってくれ」

 

 全員に押され、首を縦に振らざるを得ない状況に宇津木は追い込まれる。狼狽え、汗の流れる額に手を当て、大きくため息を吐く。

 

「すまない。寄り道を頼めないか?」

 

「……? どこに行くんだ?」

 

「ホームセンター。布団が足りん」

 

 

 

 *

 

 

 

 駐屯地の司令官室、レザーソファーに腰かけていた山根の前に冷や麦茶の入ったグラスが置かれる。テーブルを挟んだ向かいには日に焼けた肌の司令が大股を開いて堂々と座る。

 

「急に大所帯で押しかけて申し訳ありません。北見司令。受け入れ、感謝いたします」

 

「問題ない。避難民は以前から想定し訓練を行っていた。それが実践になっただけだ。()()()()()()()()()()()()でな」

 

 西外周区スラムは住民のほとんどが戸籍を持たない呪われた子供や逃亡中の犯罪者で構成されるため、正確な人口は把握できていない。自衛隊は空撮や山根からの報告で2万人ほどと推定しており、スラムで大規模火災や感染爆発が起きた際、一部の難民が自衛隊の保護を求めて駐屯地に押し寄せることを想定していた。

 しかしガストレアの発生源がスラムの外側、駐屯地との間だったこともあり、昨日の西外周区感染爆発事変を生き延び、辿り着いたのは山根たち含めた14名だった。

 

「人数が少ない分、丁重に扱わせて貰う。足りない物資があれば好きなだけ言ってくれ。隠匿できる範囲内だが、なるべく調達しよう」

 

「それでしたら」と言葉を添えて山根が悪巧みし、ニヤリと笑む。

 

「新型兵器鹵獲のため、二個中隊ほど――「論外だ」

 

 取り付くしまもないとはこのとこか。山根は「たはは……」と愛想笑いする。二個中隊を貸し出せという荒唐無稽な要求が通るとは最初から思っていない。それは北見も承知の上だった。

 

「山根三佐。君は嗅覚に異常はあるかい?」

 

「いえ、正常ですね」

 

「なら、この臭いは言わなくても分かるだろう」

 

 北見は自分たちの頭上、何もない空間を指さす。深呼吸するとふとした瞬間に腐敗臭が鼻孔を刺した。キッチンの生ゴミ箱から漏れたような意識しなければ気づかない微かな臭い。

 

「我々の最優先事項はガストレアの死体処理だ」

 

 感染爆発の現場となった西外周区のスラムには今でも数多くのガストレアと人間の屍骸が残されている。それらは8月の炎天下で腐敗・発酵という化学反応が進み、体内で膨張したガスが死体を破裂させている。数キロ離れ、窓を閉め切り、冷房と空気清浄機をフル稼働させているこの駐屯地にも届いている。

 

「あれを放置しておけば未知の病原菌が蔓延する恐れがある。陸自の総力を挙げて処理に取り掛かるよう通達もあった。残念だが、今の我々には分隊一つ出す余力もない」

 

 三度の関東会戦、モノリスの磁場による衰弱死など、東京エリア発足以来のガストレア大量死は幾度とあったが、死体の処理はそれほど急務ではなかった。それは現場が外周区の更に外側、エリアの外縁という居住地から遠く離れた場所だったからだ。

 しかし、今回の現場は居住区から河川一つ挟んだ向こう側のスラムであり、既に近隣住民が悪臭で倒れ、救急搬送されているという報道もされている。

 そして悪臭以上に恐ろしいのが未知の病原体の誕生だ。DNAを書き換えて異常なスピードで進化するガストレアは常に未知の生物であり、その身体は未知のDNAから合成された未知のタンパク質を含んでいる。遺伝子組み換え作物が周辺の生態系を汚染したように、未知のタンパク質を他の生物が摂取したり、何かしらの物質と化学反応を起こしたりすることで、今まで地球上に存在しなかった病原菌や有機物が誕生する可能性がある。“疫病王”リブラがそうであるように今この瞬間、西外周区の死体の山で人類を絶滅させる猛毒が誕生してもおかしくないのだ。

 

 ガストレアが全滅し感染爆発が治まっても尚、東京エリア滅亡の可能性は残っている。

 

 北見は立ち上がり、ブラインドの隙間から外を眺める。駐屯地のフェンス、ガストレア大戦で放棄された廃墟の街、スラムだった場所、その奥に蜃気楼で揺れるビルが目に映る。

 

「山根三佐。あのスラムはどんな場所だった?」

 

「そうですね……。平たく言えば、治外法権の暗黒街です。殺人・強盗・薬物売買・未成年売春・武器密売、なんでもありでした。……ですが、血を理由に社会から追放された赤目たちにとっては、差別のない“最後の楽園”でした」

 

「最後の楽園か……。一度くらいはお忍びで足を運ぶべきだったな……」

 

 

 

 *

 

 

 

 駐屯地の診察室で菫とティナが対面する。菫は本業の医者らしく白を基調とした明るい部屋で白衣を纏い、タブレットで電子カルテを記入し、スクリーンに写さしたレントゲン写真を眺める。

 

「破片は全部取れている。骨の再生も異常なし。背中の痛みはどうかな?」

 

 ティナは腕を回してみるが、肩甲骨の動きに伴い背中に痛みが走る。

 

「動かすとまだ痛いですね」

 

「君達の回復力なら、明日にはほとんど治っているだろう。背中も見た感じだと傷は残らなさそうだ。来年は安心してマイクロビキニを披露するといい」

 

「着ませんよ」

 

 6年前、ティナにとって菫は変人だが天才で“頭の良さ”は尊敬していた。しかし、今は蓮太郎というセクハラの標的を失ったせいか、セクハラ発言はティナに向けられるようになった。お陰でティナにとっての菫は「変人で天才のセクハラおばさん」という風になった。

 

「それにしても……」

 

 菫は入院着姿のティナをまじまじと見る。主に平坦な胸元を。かと思えば、ティナの後ろで診察の順番を待っているミカンに目を向け、腕組みで膨らみが増す彼女の胸元をまじまじと見る。そしてティナの平坦な胸元に視線を戻した。

 

「ティナちゃん……。大丈夫だ。蓮太郎くんはおっぱい星人だが、同時にロリコンだ」

 

「ドクター。セクハラで訴えますよ」

 

「日本最高の頭脳を持つ弁護士に勝てると思うか?」

 

「え? 医者……ですよね?」

 

「医者が弁護士をやっちゃいけないという法律はないよ。ちなみに六法全書は30分で暗記した。ティナちゃんも暇な時に読んでみるといい。人間の欲望の数が書いてある」

 

 ――ああ神様。どうしてこの変人に天才的な頭脳を与えたんですか?

 

 

 

 殺してやる

 

 

 

 

 一瞬、ティナの視界にノイズが走る。ここ半年見ていなかったウィンドウが視界の中で開く。同時にノイズが更に酷くなり、ティナの様子を心配した菫を塗り潰すように大量のウィンドウがポップアップされる。

 ――シェンフィールドver6.2の拡張現実(AR)。どうして?

 

【WARNING】

 

 BMIネットワークへの不正侵縺ゅ>縺∴縺撰托抵繧譁怜喧縺代ヱ繧繝繝讖溯繝遐皮樞包シ搾繹竭竇

 

 

 殺してやる。

 殺してやる。

 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる

 

 お前達、呪われた子供は奪った!!

 

 僕から自由を、大切な家族を!!

 

 全て!!殺し尽くしてやる!!

 

この力で!!この身体で!!

 

 

 

 

 

 

 ネストよりクイーンビー

 

 ナイトメアイーグルの起動を確認。

 これより敵対勢力の排除を開始します。

 




前回のアンケート結果

ナオ「五翔会残党って、もしかして……

 (0) 鈴之音ファンクラブ
 (1) 鈴之音親衛隊
 (6) 鈴之音厄介オタ軍団
 (7) 鈴之音のASMRだけ聞いて生きる会
→(8) 鈴之音のグラビア写真集懇願連合

五翔会残党A「マイクロビキニ!!マイクロビキニ!!」
五翔会残党B「はぁ!?競泳水着だろ!?」
五翔会残党C「スク水だ!!スク水!!」
五翔会残党D「ここは一つ、間をとってスリングショットで」
五翔会残党E「布なんかいらねえ!!ヌードだ!!」
五翔会残党F「鈴之音はそんな破廉恥な恰好しねえんだよ!!」

鈴之音に対する解釈違いが衝突した結果、五翔会残党は内部分裂を起こし全滅した。

次回「殺戮の翼 後編」

菫「このままだと蓮太郎くんは釣れないね」ティナ「では、どうすれば?」

  • おっぱいを木更サイズにしよう
  • ピザ以外の料理を作ろう
  • 蓮太郎くんを襲って既成事実を作ろう
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