最新の原著論文のタイトルは「ツンデレのツンとデレの黄金比理論を用いたヤン–ミルズ方程式と質量ギャップ問題の証明」らしい。
殺してやる
殺してやる
殺してやる
しゃがれた男の声が木霊する。耳も鼓膜も通らず、自分の記憶のように頭の中から直接響いている。
同じものを見たことがある。半年前、里見事件の時だ。蓮太郎を前にしたティナは突如BMIネットワークを奪われ、全ての
蓮太郎は
――動かせる
里見事件の時はシェンフィールドを乗っ取るという目的があった。しかし今はティナしかBMIネットワークに繋がっておらず、ドローンのようにネットワークからティナを支配するシステムも無い。今の侵入ではティナの視覚と聴覚の妨害ぐらいにしかならない。
――アラート強制停止 コード:******
ニューロチップが作り出す疑似的な
「しっかりするんだ」「どうした? 何か悪い物でも食ったか?」
アラートが消え、心配する菫とミカンの声もようやく頭の中に入ってくる。
BMIネットワークの不正侵入は今も続いている。その影響なのか、拡張現実が不調を来たし、視界全体にノイズが走る。
視界が揺らいだその一瞬、ティナの脳に情報が流れ込んで来る。高速で移動する
映像の意味を理解したティナは戦慄した。全身にぞわりと悪寒が走り、額から汗が滲み出る。
前回はドローン乗っ取りが目的だった。そのバイアスに引っ掛かり、肝心なことを見落としていた。自分の機械化兵士としての本来の性能は「脳波によるインターフェースの操作および
自分とシェンフィールドがそうであるように、位置情報、見えているもの、聴いているもの、肌で感じている温度や湿度、考えていること、それが今、
「伏せて!! 」
突然の轟音と共に身体が吹き飛ばされる。窓が吹き飛び、割れたガラスがカーテンを突き破って雨嵐のように診療室内へ吹き荒ぶ。乱回転する視界の中で診察用ベッドがひっくり返り、デスクが波のように押し寄せた。
背中と後頭部を壁に強打し飛びそうになった意識が、デスクに足を潰された痛みで無理やり繋ぎ止められる。デスクに潰され、脛骨が折れただろう。人間並みに痛みを感じながら、何が起きたのか、どんな攻撃が来たのか、目配せして状況を把握する。
右手の少し離れたところに菫が倒れていた。横転したベッドが盾になったのか、幸い飛んできたガラスや備品が刺さった様子はない。しかし、頭を打って気絶したのか動く気配がない。
ミカンも見えた。少し離れたところで薬品棚の下敷きになり、散らばった備品と血だまりの中で手が微かに動いている。
駐屯地のアラートが鳴り響き、火災防止のスプリンクラーが作動し部屋の中で雨が降る。水は気絶している菫の顔を打ち、ミカンの血をどこかへと流していく。
ティナは水しか無いはずの空間に目を凝らす。スプリンクラーが作動しているこの時間が敵を捉える最初で最後のチャンスになるかもしれない。
BMIネットワークを介した敵との情報共有は続いている。位置は6時の方向、距離は約3mほとんど目の前だ。それを裏付けるかのように頭に流れ込んでくる画像はティナを真っすぐ見据えている。
死龍やジェリーフィッシュと同じく、光学迷彩は標準搭載なのだろう。スプリンクラーから振る水が何もない空間で弾かれ、まるで透明なガラスを伝うように空中で滴る。そのお陰でおおまかだが、敵の輪郭も辛うじて見ることが出来る。
全高約2.5m、2本の腕と2本の足を持つ細身の人型。それは美織から貰ったナイトメアイーグルのデータと一致していた。
――これが、ナイトメアイーグル。五翔会最後の機械化兵士。
重量をかけられガラスが細かく割れる音がした。それはモーターの駆動、擦れる金属の音と共に足音の間隔で刻々とティナに近づく。そして、向こうもティナが気づいたことを察知したのだろう。わざと薬の瓶を踏みつぶして音を立てる。姿は見せないが、自分はここにいると教えるように――
突然、ティナの身体が持ち上げられ、壁に押し付けられる。周囲の空気が凝固し、それが鈍器となって自分を潰しに来ているようだ。その鈍器から温度を感じない。知らない者が見れば、サイコキネシスのようにも思える能力だが、ティナは知っていた。
「イマジナリーギミックの……応用ですか……」
≪驚かないのか?≫
「私から見れば、二番煎じ……ですから」
≪減らず口だけは人間並みだな≫
ナイトメアイーグルから粗悪なスピーカーを通した声が聞こえる。素性が分からないように敢えてそうしているのだろう。分かることと言えば、若い男性、日本語のネイティブスピーカーもしくはネイティブ並みに自然な発音が出来る人、そして呪われた子供に対して強い差別思想を持っていることぐらいだ。
≪答えろ。日向姉妹はどこにいる?≫
「ぐっ……」
内臓を潰さんとする勢いでナイトメアイーグルは斥力フィールドの出力を上げ、ティナを圧し潰す。肺から空気を押し出され、苦しさのあまり話すことが出来ない。苦しみながら、頭の中では「死んだ」と伝えようか、デタラメな居場所を伝えようか、少女のように泣き喚いて命乞いでもしようかと思案する。
「室戸先生!! 大丈夫ですか!?」
近くで襲撃の音を聞いていたのだろう。医師の男と2名の看護師が診察室に入る。無論、彼らに光学迷彩を解いていないナイトメアイーグルは見えていない。見えているのはメチャクチャになった診察室と倒れる菫、そして壁際に立つティナだけだ。
「逃げ――≪邪魔だ≫
一瞬、ティナの目でも捉えられない速さで斥力フィールドは医師たちの眉間を貫いた。即死だっただろう。声を上げることすら無く、3人は膝から崩れ落ちる。この状況を理解する時間も、自分が死んだことを理解する時間も彼らに与えられることはなかった。
≪早く話せ。でなければ犠牲者が増えることになる≫
ナイトメアイーグルの首が動いた。光学迷彩でどこを向いているか分からないが、かすかに機械の駆動が聞こえる。
大きな音を立てて壁にかかっていた薬品棚が倒れる。棚のガラス扉が粉砕し、中の備品が床にぶちまけられる。
「痛っ……」
棚の下敷きになっていたミカンが足を上げていた。彼女が棚を蹴飛ばしたのだろう。スプリンクラーの水で血を流しながら、絶え絶えとした息で壁を支えに立ち上がる。
「おい。スプラウト。一体何が」
≪次はあの女だ≫
光学迷彩が解け、虚空から黒い剣が現れる。儀礼的な装飾が一切施されず、シンプルに切断・刺突という機能を追求した工業製品という印象を受ける。バラニウムは高純度のものを利用しているのか傷一つない刀身は光沢を放ち、ティナの顔が反射して映る。
空中に浮かぶ剣は単独で方向転換し、切っ先をミカンに向ける。機械の駆動する音が聞こえない。おそらく壮助と同じく斥力フィールドで腕を作り、柄になる部分を握っているのだろう。斥力もまた無色透明、
≪最後の質問だ。日向姉妹はどこにいる?≫
「話……します。話しますから……これ、解いてください。肺が潰れ……て……」
ナイトメアイーグルが斥力フィールドを解いた。床に落下したティナは仰臥し、大きく息を吸って酸素を肺に取り込み、弱まっていた心臓の鼓動を速めていく。BMIネットワークへの干渉が今でも続き、酷い眩暈に襲われる。
≪話せ。姉妹はどこにいる?≫
「死にましたよ。貴方たちが放ったガストレアに殺されてしまいました。こんなところまで死亡確認ご苦労様です」
「ふふっ……ふふふふ……」ティナの口から笑みが零れる。
≪気でも触れたか?≫
「死体を確認したかったら、向こうでガストレアの死骸でも漁ってください。骨ぐらいは出てくると思いますよ」
ナイトメアイーグルとティナの視界で同時にアラートが鳴る。微弱な出力で展開した斥力フィールドレーダーが背後から急接近する敵を察知。振り向くと同時に防御出力のフィールドを展開する。
ナイトメアイーグルが詩乃に気を取られた一瞬の隙にミカンが走る。射出された剣を回避し、足の折れたティナと菫の服を掴み、診察室の窓だった大穴から屋外に飛び出した。
皮と血肉が弾け、剝き出しになった中指の骨が斥力フィールドを突破。戦車砲クラスの威力を誇る掌打をナイトメアイーグル本体に叩き込む。バラニウムが軋む音、床を撥ねる水からナイトメアイーグルがバランスを崩し、後ずさるのが見えた。
――固い。
詩乃も関節がグシャグシャになった右手をフィールドから抜き、足で斥力フィールドを蹴る。反射を利用して大きく後方に跳ぶ。宙返りし着地、もう一度両足で地面を蹴り更に距離を取る。光学迷彩による不可視の剣が飛翔、それを躱しながら下がる彼女は傍から見ると一人で踊っているようだった。
見るからに丸腰、本来であれば接近し格闘戦に持ち込むべき詩乃が自ら離れる。その意図をナイトメアイーグルが理解したのは、足元、自分と斥力フィールドの間に転がる手榴弾を見た時だった。
手榴弾が爆裂し、飛散する破片と剛性ワイヤがナイトメアイーグルのアーマーに直撃する。更に斥力フィールドにより外部へ逃げられなかった爆発の衝撃波や破片が跳ね返され、二重になってナイトメアイーグル本体を襲う。詩乃の第二撃を警戒して張った斥力フィールドが完全に仇となった。
外で待ち受ける詩乃を追い、ナイトメアイーグルはゆっくりと余裕の足取りで吹き飛ばした診察室の大穴から外へ出る。
カメラ越しに見える赤く染められた駐屯地の道路。夕暮れの風景を映すHUDに敵を示すマーカーが多数表示されていく。画像による識別とBMIネットワーク経由のデータベースから対戦車ミサイル装備の自衛隊員、10式戦車、16式機動戦闘車、空は5機のAH-64Dアパッチ・ロングボウがホバリングしている。診察室から先に脱出したティナとミカン、菫にもエネミーマーカーが付く。
「姿を見せたらどう? 私、光学迷彩が通じない系女子だし、中途半端だけど、みんなにも見えているから」
HUDに表示されている
≪マリオットインジェクション、停止≫
光学迷彩が解かれ、斑模様に浮かび上がっていたナイトメアイーグルの全体像が景色に上塗りされていく。
全高2.5m。2本の腕と2本の脚、鴉の嘴のような頭部、一見すると鳥人間を模したようなフォルムだが胴体は小ぶりに抑えられ、逆に手足は異様に長く設計されている。全身は鋭角的な形状の超バラニウム合金装甲で覆われ、細身なフォルムと相まって全身が刃物のような印象を受ける。
本体の周囲には斥力フィールドで制御された8振の高周波ブレード、8門のライフルが魔法のように浮遊し、切っ先と砲口を周囲に向ける。
ナイトメアイーグルのHUDが詩乃を捉えエネミーマークを付与。詩乃の顔を画像識別し、BMIネットワークが該当する人物をピックアップする。欧州連合軍外人部隊の制服を着た同じ顔の少女だ。
≪あれが地獄の欧州戦線最凶の生体兵器“
≪ネストの言っていた
前回のアンケート結果
菫「このままだと蓮太郎くんは釣れないね」ティナ「では、どうすれば?」
(3) おっぱいを木更サイズにしよう
(4) ピザ以外の料理を作ろう
→(16) 蓮太郎くんを襲って既成事実を作ろう
ティナ「キ、キセイジジツ……」
菫「極東文化ヨバーイ。デキてしまえば負けヒロインも一発大逆転の究極奥義さ」
ティナ「…………いや、あのそれはまだ早いというか、いきなりされても蓮太郎さんもびっくりするというか、私もよく分からないというか……」
菫「………………ティナちゃん。ち○ち○見たことある?」
ティナ「…………無いです」
菫「そうか……。蓮太郎くんを落とすには、まずこの『男の子の身体がよく分かる薄い漫画』でお勉強しようか」
数日後
ティナ「やっぱりですね。時代は影×蓮だと思うんです。逆カプは解釈違い」
菫「腐ってやがる。(ティナちゃんには)早すぎたんだ」
次回 「殺戮の翼 後編」
ナイトメアイーグル「日向姉妹はどこだ!!どこにいる!!」ティナ「 」
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友達とデ○ズニーランドへ行きました。
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