ブラック・ブレット 贖罪の仮面   作:ジェイソン13

116 / 120
みなさん。長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
短いですが更新です!!


日向美樹のウワサ
I字バランスをやっていたら、うっかり姉の頭に踵落とししてしまったらしい。


Highway Rage

 電気を消して、カーテンを閉め切って、エアコンで部屋を冷やす。シーツを頭から被り、目を閉じる。まだ昼間だけど眠ってしまおう。()()()()()()()に怒られるかもしれないけど、今はそれで良い。2人の顔が見たい。

 今までの悪いことはぜんぶ夢、目を開けたらここは私の部屋。いつの間にか床に落ちているスマホや漫画を避けて歩き、テーブルの上に広げた夏休みの宿題を見てうんざりするいつもの朝。階下から聞こえる両親と姉の声、窓の外から聞こえるセミの鳴き声、それらを爆音が掻き消した。

 

 ここは自衛隊の基地の中。両親は死に、自分と姉はエリア中のお尋ね者になり、死んだと思った友達に再会したと思えば半分以上がまた死んでしまった現実だ。

 部屋が揺れ、窓がガタガタと震える。またガストレアが襲って来た。そう思った瞬間、手足が震える。上手く呼吸できない。心臓が苦しくなり、額が汗ばむ。まるで現実を見たくないと脳が、身体が告げているかのように視界もぼやけていく。

 

「おい。ここは立ち入り禁――

 

 部屋の外から聞こえる草間の声と言葉を銃声が消す。他の部屋にいたエールほか灰色の盾の生き残りも異常に気付くが、その後もアサルトライフルの絶え間ない射撃が続いた。

 遠くで銃砲の声が轟く中、美樹の部屋の外は静かになった。銃声も仲間の声も聞こえない。

 静寂を打ち破るように硬質ゴムの靴底が扉を蹴破った。迷彩服を着た2人の男達が部屋に押し入る。自衛官だと思われるが山根の部下ではない。血の雨でも浴びたかのように赤黒く染まる迷彩服、硝煙の臭いがする銃口から真っ当な自衛官ではないことは素人の美樹でも分かった。

 逃げなきゃ――、そう思っても恐怖で身体が動かない。その一瞬の隙をついて男の一人が美樹に拳銃を向け、トリガーを引いた。

 空気圧で放たれた針が美樹の服を破り先端を皮下に突き刺す。後部の注射筒から投与された麻酔薬は張り詰めていた美樹の精神を解し、意識を奪う。

 力が一気に抜け、膝から崩れ落ちる美樹を押し入った男の一人が抱えた。

 

「これ大丈夫か?ゾウ用だろ?」

 

「赤目だ。死にはしないだろ」

 

 もう一人、武装した自衛官と思しき男が部屋に入る。息を切らしながら駆け足で入る様は明らかに焦りを見せていた。

 

「駄目だ。姉の方が見当たらない」

 

 仲間の一人が舌打ちし、もう一人も嘆きそうな顔をした。

 

「どうする?」

 

「時間がねえ。こいつだけで勘弁して貰うか」

 

 

 

 *

 

 

 

 1枚羽根が日向美樹を捕らえて基地を脱出した。そうネストから連絡を受けたナイトメアイーグルは役目を終え、周囲に展開する斥力加速砲と高周波ブレードを背部のウェポンラックに格納させる。そして一気に高度を上げた。機械化兵士の技術を応用して作られた新世代のシリーズハイブリット方式ターボジェットエンジンは数秒足らずで黒鉄の大鴉を音速に到達させる。

 機体の()()()()()()()から傘状の雲(ベイパーコーン)が発生し、地上にソニックブームがまき散らされる。身を打つ衝撃波と鼓膜を突き破らんとする音の刺突に怯んだその一瞬で大鴉は青天の黒粒となり消えていった。

 

 神奈川駐屯地のヘリ部隊はほぼ壊滅。射線の延長に居住区があるためか、自走砲や短距離ミサイルによる追撃もない。空自の戦闘機が追って来ることも考えたが、今のところその気配は無い。

 両手を翼のように広げ、天空の覇者の如くナイトメアイーグルは悠々と飛行する。斥力フィールドという“無制限に形状を変えられる力場”が現在の飛行に最適なボディと翼を容易く再現する。後退翼、前進翼、デルタ翼といった平面形状、フラップ、スポイラー、エルロン、ラダーといった部位も質量ゼロのまま適宜生成し、理論上最も理想的な飛行を実現する。

 住宅や低層ビルが広がる居住区、モノリスのように高層ビルが聳え立つ都市区、それら全てを見下ろすモノリスが見える光景の中にウィンドウがポップアップされる。

 

≪よくやった。ナイトメアイーグル≫

 

 ネストの年若い、しかし年の割に落ち着いた声が再生される。ナイトメアイーグルの活躍を誉め、労う言葉とは裏腹に喜ぶ様子は一切感じられない。

 

≪……作戦は成功か?≫

 

≪まずまずと言ったところだ。まさか肝心の姉がいないとはな……。運の良い子だ≫

 

「SOUND ONLY」と表示されたウィンドウには無論、ネストの表情は見えない。しかし画面の向こう側で彼が頬杖をつき嘆息しているのが目に浮かぶ。作戦の成果もそうだが頭痛の種はもう一つあった。

 

≪“クイーンビー”にはどう説明するつもりだ? 元々は敵勢力の排除だったんだろう?≫

 

 当初の目的は「敵対勢力の排除」だった。ティナ・スプラウト、白鯨(モビーディック)、壬生朝霞、その他の民警や赤目ギャング、必要であれば神奈川駐屯地の自衛官も殲滅せよと<クイーンビー>は指示を出していた。しかし直前になってネストは()()で目標を「日向姉妹の拉致」に変更した。ナイトメアイーグルは敵勢力殲滅の真打ちから自衛隊を引き付ける囮役と格下げされた。

 その判断にナイトメアイーグルは不満を持たなかった。むしろ次世代バラニウム兵器とはいえ、試験機で、たった一機で、それも初実戦で、東京エリア最強格の民警達や自衛隊一個大隊を滅しろというのが突飛だと思ったからだ。

 

≪爆弾入りのドールズを放った件でルーサ製薬は怒り心頭だ。日向鈴音の生け捕りが出来なければ出資を取り止めると通達もあった。クイーンビーは彼らを軽く見ているが我々としては重要なパトロンだ。離れられては困る≫

 

 作戦の変更はナイトメアイーグルが離陸した後に決まった。おそらくネストはクイーンビーに話を通していないだろう。そして()()の性格からして、火を点けたガソリンの如く激怒するのは目に見えていた。

 

≪女王様のご機嫌取りは慣れている。君が心配することはない≫

 

 声色からネストが余裕の笑みを浮かべているように思えた。

 

≪すまないが、もう一仕事頼まれてくれないか≫

 

 唐突な頼みと共にHUDに地上を爆走する高機動車の映像が映し出される。日向美樹を確保した一枚羽根が逃走に利用しているものだ。慌てているのかハンドルさばきは危うく、高速道路上で何度も壁にぶつかりそうになっている。

 

≪捨てても惜しくない駒だが、積荷はそうもいかない。予定より早いが回収してくれ≫

 

 

 

 *

 

 

 

 内地と神奈川駐屯地を繋ぐ高速道路は昨日の25mmバラニウム徹甲弾で無惨な路面を晒していた。凹凸だらけになった道で車体は揺らされ、そのスピードで何度も空中に飛び上がる。横転していないのが奇跡のようなものだ。

 運転手はもう何分も前からアクセルを踏み抜いている。法定速度などとっくの昔にオーバーし、速度違反取締装置に何度も捉えられる。

 

 

 それでも悪魔は桔梗色の髪を靡かせ、韋駄天の如く迫る。

 

 

 情報なんてもうどうでもいい。絶対に殺してやる。

 一切隠す気の無い殺意と鬼気を溢れさせながら、エールは偵察用オートバイを駆る。

 美樹が拉致された時、エールは別の区画にいた。赤目恐怖症になった美樹にとって自分は姉貴分から恐怖の対象に変わった。それなら少し距離を置いた方が良いだろう。彼女の心の安静のためならそうした方がいい。

 それらしい理由を自分に言い聞かせた。

 本当は美樹に恐怖の眼差しを向けられるのが恐くて、彼女に拒絶されたら自分がどうなってしまうのか、その変化が恐くて、逃げたくせに。

 その結果がこれだ。美樹は連れ去られ、代わりに護衛として宿泊棟に残ってくれていた草間、ルーシー、ライラが殺された。自分がいれば例え丸腰でも何とか出来た。そう思うのは傲慢かもしれないが、そうしなかった自分への怒りを原動力に彼女は前へ進む。

 交通規制が敷かれているためか高速道路には自分と一枚羽根の高機動車以外ほとんど見当たらない。お陰で距離を離されても一目で追うべき車が分かる。

 一枚羽根の高機動車との距離が残り200メートルとなったところで動きがあった。

 後部ベンチに座っていた男がロールバーを掴みながら立ち上がり、銃架に5.56mm機関銃MINIMIをセット。照準をエールに合わせトリガーを引いた。

 遮蔽物は無く左右の移動も制限された高速道路というステージ上で彼女は巧みにハンドルやブレーキを操り銃撃を回避する。空薬莢が虚しくも路上へ転がり落ちる中、一枚羽根は当てる射撃から追い立てるように計算した掃射に切り替えるが、エールは銃口から弾道を予測し間をすり抜ける。

 当然のことだ。機関銃を搭載した車との鬼ごっこは彼女達にとって日常茶飯事であり、それが出来る子だけが西外周区で生き残ったのだから。

 

「赤目ギャング舐めんなよ!!」

 

 MINIMIが弾切れになった。弾倉を交換する数秒の隙を突いて果敢に距離を詰める。

 フルスロットルで接近し、数メートルの距離まで近づいたらバイクを乗り捨て車体に飛び乗る。車の上なら銃火器もさほど役には立たないだろう。ステゴロ無双で男達を殴り殺し、車を乗っ取って基地に戻る――そういう算段だった。

 遥か遠く小さかったはずの耳鳴りが、一瞬で轟音に変わった。押し潰された空気の圧力と振動の暴力が高速道路を横殴る。バイクごと投げ出されたエールは時速130kmのまま路面に叩きつけられ、アスファルトとの摩擦で手足が削ぎ落されていく。

 血肉のレッドカーペットの先端で這い、面を上げる。激痛とガストレアウィルスの治癒で全身が熱くなる中、赤黒くなった視界で高機動車が小さくなっていくのが見えた。

 

「待ち……やがれ……」

 

 立ち上がり、血を拭う。皮膚の治癒はまだ終わっていないのか、夏の温い風が神経に響く。だが筋肉が治っているなら今はそれで構わない。足を進めようと踏み出した。

 遮るように黒鉄の巨人が降り立つ。斥力フィールドで生成した質量ゼロの脚がショックアブソーバーの役割を果たし、ナイトメアイーグルはほぼ無音で着地する。

 

≪答えろ。日向鈴音はどこにいる?≫

 

 処刑人のように一切感情を混ぜない物静かな問いがスピーカーから発せられる。

 

「教える訳ねえだろ。バーカ」

 

 エールは血の混じった唾を吐き捨て、中指を立ててナイトメアイーグルに見せつけた。丸腰で飛び出し、バイクは恐し、治癒が追いつかず半身が思うように動かない。目の前にいるのは五翔会最強の機械化兵士。死と敗北を突きつけられた彼女が出来る唯一の抵抗だった。

 

≪そうか。ならもう用はない≫

 

 ナイトメアイーグルは背部ウェポンラックから高周波ブレードを引き抜いた。鋼鉄すら容易に裂く刃が獲物を求める獣のように金切り声を上げた。

 




オマケ 前回のアンケート結果

Q:ティナ(この中で一番頭が良いのって誰でしょうか?)

A
 (2) 自称「勾田大学医学部卒」の倉田(山根)
 (5) 東京エリア最難関校・美和女学院在学の朝霞
 (4) ウィザード級ハッカーのナオ
 (8) 頭は良いらしいがそんな雰囲気皆無の詩乃
→(0) 見た目に反して中学校中退の常弘
 (5) 小学校中退の壮助

倉田「君、意外とやんちゃな経歴なんだね……」
朝霞「すみません。てっきり高校は出ているのかと……」
ナオ「まぁ、このご時世だから珍しくは無いよね」
詩乃「それで『大学卒業して大企業に勤めています』って雰囲気出せるのは逆に凄い」

常弘「……」
壮助「まぁ、気にするなよ。中学校中退」
常弘「黙っててくれないかな。小学校中退」

次回「音速のチキンレース」

美樹「これは夢オチなんだ……ぜんぶ悪い夢なんだ……」

  • 父さんと母さんが死んだのも夢
  • ルリコ姉ちゃんが死んだのも夢
  • 西外周区が滅んだのも夢
  • 義塔の兄ちゃんと付き合ってないのも夢
  • 詩乃ちゃんが私の妹じゃないのも夢
  • 夏休みの宿題がまだ終わっていないのも夢
  • 部活やめて体重がちょっと増えたのも夢
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。