ブラック・ブレット 贖罪の仮面   作:ジェイソン13

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セクシーコマンドーを駆使しセクシー語録と共に東京エリアの幼女たちにセクシーをお届けするセクシーデリバリー蓮太郎

―――という夢を見たティナ


特に意味はない。なんとなく言ってみたかった。


敵がいない護衛任務

 地獄の未踏領域サバイバルが終わった翌朝、壮助はスマホの着信音に叩き起こされた。3ヶ月ぶりに堪能する惰眠に意識が落ちようとしている中で流れる初期設定の着信音が鼓膜に響く。

「誰だよこんな朝っぱらから。ブチ殺すぞ」と呟きながら画面に目を向ける。表示される発信者の名前は「千奈流空子」。松崎PGSの影の支配者だった。

 空子から電話がある時は大抵ろくなことではない。これまでの経験から壮助は着信を無視するが、諦めずに鳴り続ける着信音に我慢しきれず通話ボタンを押す。

 

「お掛けになった番号は現在使われておりません。義搭壮助の給料を3倍にしてからお掛け直しください」

 

『アンタ達が生み出す負債を給料から天引きして良いなら考えてあげる。これから依頼人と打ち合わせがあるから来なさい。場所と時間は今からメールで送るから』

 

 空子はシンプルに用件だけ伝えると通話を切った。直後にメールが送られる。

 

 [題名] 10時集合

 [本文]

 ドレスコードは無いけど、それなりに身なりを整えて来なさい。

 あと、言い忘れていたけど詩乃ちゃんは連れて来なくても大丈夫だから。

 

 メールには打ち合わせ場所の地図が添付されている。なんて読むのか分からないがお洒落そうな名前をしている店が集合場所のようだ。場所も東京エリアの中心地、壮助のような底辺ヤンキーには縁のない場所だ。

 

「これ今すぐ出ないと間に合わないじゃん」

 

 壮助は嫌々ながら薄い掛布団を捲ると、黒い髪の塊――詩乃の頭が最初に目に入った。下腹部から足先にずっしりと伝わる重みで既に分かっていたが、詩乃が抱き付いて寝ており、彼女の涎が臍部に垂らされていた。今どんな夢を見ているのか分からないが起こすのを躊躇うくらい幸せそうな寝顔をしている。

 

「すまん。ちょっと仕事行くからどいてくれ」

 

 壮助は詩乃の頭をチョップする。

 

「おは――――zzz……

 

 挨拶を終える前に彼女の瞼は閉じられ、世界最速の二度寝に入る。

 

「暑いし、重いし、さっさとどいてくれ。遅れると俺が空子に殺される」

 

「あうっ」

 

 壮助に足蹴りされ、無理やり剥がされた詩乃は布団の外に転がる。今の彼女は睡眠欲に支配されているのだろう。あと数センチ動けば自分の布団に辿り着けるのにフローリングの上で再び爆睡する。

 

「何でこうなっちまったんだろう……」

 

 壮助は詩乃を布団の上に転がしながら呟いた。

 

 里見事件以降、詩乃は急にだらしなくなった。欲望に忠実になったとでも言うべきだろうか。食事の量は元々多かったが最近は輪をかけて多くなった。睡眠時間も以前より長くなっており、叩いても起きない時がある。これが心因性のものなのか、それとも半年前の里見蓮太郎との激闘による代償なのかは分からない。

 

 ――今度、室戸先生に診て貰うか。あの人も「連れて来い」って言ってたし。

 

 壮助はメモを残すと身なりを整えて、爆睡する詩乃を尻目に玄関の扉を閉めた。

 

 

 

 *

 

 

 

 時は7月、大戦前と変わらずセミの声が響く中、壮助は空子からのメールを見ながら目的の店へと歩く。参道を歩くと休日ということもあって壮助と同い年ぐらいの少年少女の姿が目に付く。5日間の平日が終わり、ようやく迎えた休日に浮足立っているのだろう。それぞれ思い思いのままのセンスで着飾り、他愛のない話で笑いながら通り過ぎる。

 かつては「原宿」と呼ばれ、若者のファッションの発信地と言われた場所――、それは今になっても変わっていない。

 彼ら、彼女らとすれ違う度に何も感じていなかった壮助の胸の奥に黒い泥が落ちていく。今すれ違った学生たちは銃を握ったことなど無いだろう。人の肉が膨れ上がり、ガストレアになる光景を見たことなど無いだろう。紫色の血液を撒き散らすガストレアの死体を見たことなど無いだろう。人間の臓器が、脳漿が、どんな色をしているのか知らないだろう。人を殺した時に沸き上がる感情を知らないだろう。今ここにいる自分が機械化兵士という都市伝説でしか語られない存在で、一瞬で周囲にいる数十人を殺す能力を持っていることも知らないだろう。

 

 ――俺の中にはお前等を簡単に挽肉にできるほどの力があるんだぞ。

 

 そう言いたくなる気持ちをぐっと抑える。彼らに嫉妬したところで何の意味もない。ただ虚しさだけがこみあげて来るだけだ。彼らを挽肉にしたところで彼らの幸福を自分が得ることは無い。実行すれば警察や民警や自衛隊に囲まれて今度は自分が挽肉にされるのがオチだろう。

 

 

 手に付いた血は落とせない。

 

 

 人の死に麻痺した魂につける薬などない。

 

 

 ――だから、こういう平和な場所は苦手なんだ。

 

 

 地図アプリを頼りに歩き、壮助は目的の店に着いた。裏路地にある小さなライブハウスだ。入口の扉を開け、少し狭い通路を抜けると色取り取りのライトに照らされたホールが目の前に広がる。ステージと客席、端には飲料や軽食を提供するバーカウンターがある。どういう意味なのか分からない英語のポスターや落書きが散見されるところから、ロックバンドやメタルバンド向けといったところだろう。

 ステージの上ではロックバンドが演奏し、ボーカルの甘いマスクに魅了された女性ファン達が跳ねて盛り上がる。誰も壮助が来たことには気付いていない。

 こんな中で空子と依頼人を見つけられるのかと不安になるが、バーカウンター近くにあるテーブル席に座っていた空子が「こっちこっち」と手招きしてくれたお陰ですぐに見つけられた。

 空子の向かいにはスーツ姿の女性が座っていた。おかっぱ頭に太い黒縁眼鏡、カバンや小物はキャリアウーマン然としているが、小さな体躯と童顔のせいで子供っぽく感じる。ギターとドラムが鳴り響くライブハウスには不釣り合いな印象を受ける。

 

「紹介するわ。そいつがウチの民警の問題児、義搭壮助よ」

 

 なんて酷い紹介の仕方だと壮助は内心腹を立てるが一切否定できない。

 

「初めまして。ピジョンローズ・ミュージックの星宮華麗(ほしみや かれい)です」

 

 地味なOL――星宮華麗は席から立ち、壮助に名刺を差し出す。地味な姿に似合わない豪勢な名前に「名前負け」という言葉が頭に浮かぶが彼女に失礼なのですぐに払拭する。

 

「えっと……楽器店か何か? 」

 

「芸能事務所です。そんなに大きなところでは無いんですが、一応、『エリアクライズ』とか『西山剣士』とか『Pink Punk Pixy』とか、所属しています」

 

「駄目だ。どれも分かんねえ」

 

 知名度が命の芸能業界で自分の会社や所属アーティストを全く知らないと言われた華麗はがっくりと膝から落ちる。

 世間一般的にピジョンローズ・ミュージックの知名度は決して低くない。エリアクライズはドーム公演を行うほどの人気を博しており、西山剣士は中学生・高校生男子が選ぶ好きなアーティストトップ5に入っている。Pink Punk Pixyはファンシーな世界観とそれを塗潰す本格パンクメタルによりネット上でカルト的な人気を得ている。壮助が彼・彼女たちを知らないのは、単に彼の興味・関心の問題である。

 

「とりあえず2人とも座ったら? 話はこれからなんだから」

 

 空子に促され、華麗と壮助は席につく。空子と壮助が隣になり、対面に華麗が座っている。

 

「義塔さん。本日はお忙しい中、足を運んでいただきありがとうございます」

 

「え? あ、はい。どうも」

 

 あまりにも丁寧な応対に慣れていない壮助は一瞬戸惑う。

 

「ごめんなさい。私のスケジュールが後を控えていますので、いきなりですが依頼の話をさせて下さい」

 

 華麗は緊張しているのか、ずれている訳でもない眼鏡をかけ直し、深呼吸する。

 

「依頼内容は、ピジョンローズ・ミュージックに所属するアーティスト『鈴之音(スズノネ)』こと『日向鈴音(ひなた すずね)』の護衛です」

 

「分かった。これって新手の詐欺だよな」

 

「え? 」

 

「『鈴之音』って言ったら、東京エリアで知らない奴はいない超人気アーティストだろ。俺ですら名前は知ってるレベル。そんな大物の護衛なんて俺みたいなクソガキチンピラ民警に回ってくるわけねえだろ。そういうのは、我堂のエリート共やエリアトップの片桐兄妹とか、そういう連中がやる仕事だぜ。はい。撤収」

 

 壮助は席を立とうとするが、空子に襟首を掴まれて無理やり戻らされる。

 

「詐欺じゃないわよ。華麗とは難民キャンプ時代からの付き合いだし、彼女がピジョンローズで働いているのは本当のこと。ついでに言うと彼女、鈴之音の専属マネージャーよ。私だって鈴之音本人に会ったし、サインも貰っちゃった」

 

「仮に本当だとしても人選がおかしいだろ。俺なんて存在そのものがスキャンダルの種だぜ。これこそ大角さんが適任だろ。まともだし経歴も問題ないし、あの巨体なら存在そのものが抑止力になる」

 

「大角くんなら無理よ」

 

「何でだよ」

 

「最近、プライベートの用事が忙しいみたい。『すまないが、可能な限り拘束時間の長い仕事は引き受けたくない』って言ってたし。それにこの仕事、最初からアンタ指名だったからね」

 

「いつから松崎PGSは従業員のプライベートを尊重するホワイト企業になったんだよ。俺なんて未踏領域サバイバルから帰還して8時間後にはこうして呼び出されてるのに。この仕事、断っていい? 」

 

「何でよ」

 

「俺が指名される仕事は大抵ろくなもんじゃねえ」

 

「何か根拠でもあったかしら? 」

 

「ありまくりだろ。今まで俺が指名された仕事を引き受けた結果、俺がどうなったか覚えてるか? 」

 

「さあ? 」

 

「1回目は恨みを買った5組のプロモーターとイニシエーターに袋叩きにされたし、2回目は半グレ集団に生コンで両手両足を固められて東京湾に沈められそうになったし、3回目は赤目ギャングにフルボッコされた挙句、工場の精肉機械に巻き込まれてハンバーグにされかけたんだぞ! ! あの時は詩乃の助けがあと数秒遅れていたら俺は確実に死んでいたからな! ! 」

 

 空子に愚痴ると壮助は、華麗に視線を向ける。

 

「なあ。星宮さん、アンタも考え直した方が良いぜ。こちとら前科持ち、少年院育ちのゴロツキだ。こんな奴を御宅の大事なドル箱に近付けることがどれだけリスクが大きいかもう一度考えろ」

 

 壮助はテーブルをドンと叩き、華麗を脅し立てる。しかし、見た目とは裏腹に彼女の神経は図太いようで壮助のことを気にせず、両手でグラスを掴み、オレンジジュースを口の中に流している。

 

「警告してくれるなんて、親切なんですね」

 

「アンタがそう判断するのも見越した演技って可能性もあるぜ」

 

「大丈夫です。空子ちゃんのこと信じていますから」

 

 華麗から何一つ曇りもない笑顔を見せつけられる。それこそ演技ではない。本当に空子のことを心の底から信じ、(彼女に何て吹き込んだのかは分からないが)空子の壮助に対する評価も信じているのだろう。

 壮助は諦めて脱力し、再び椅子に腰かける。これ以上の抵抗は無意味だった。

 

「では、改めて。義塔さん、私が貴方に依頼するのは、鈴音の護衛。正確に言えば、護衛の()()です」

 

「は? 」

 

 壮助は訳が分からずに目が点になる。理解が追い付く前に華麗は構わず話を続ける。

 

「事の始まりは先月、ニュースでも知っていると思いますが、鈴音がイベント中にファンに斬られた事件で――「いや、知らない」

 

 壮助の即答に華麗は呆れてがっくりと項垂れる。

 

「義塔さん……。せめてニュースぐらいは見ましょう」

 

 空子が隣でスマホを操作する。ニュースサイトの過去の記事から鈴音がファンに斬られた事件の記事をピックアップし、壮助に見せる。

 

▽ 『鈴之音」の所属事務所、活動休止を発表

 

 人気アーティスト『鈴之音』こと日向鈴音さんが所属する芸能音楽事務所ピジョンローズ・ミュージックは13日、自社の公式サイトで『鈴之音』の活動休止を発表した。

 5日、日向さんは自身が主題歌を務める映画「もう一度、貴方に恋をする」の完成試写会に出席した際、突如、壇上に上がって来た男にナイフで腕を切られ軽傷を負った。

 ピジョンローズ・ミュージックの積木雪路(つみき ゆきじ)プロデューサーは昨日開かれた記者会見で「事件の精神的なショックが大きく、現状のまま活動を続けるのは困難だと判断しました。日向さんと話し合い、当面の間は活動を見送り、当人の心の整理がつき次第、活動を再開する方向で調整していきたいと考えております」と語った。

 また、日向さんは自身のTwitterで「皆様にご心配をおかけして申し訳ありません。手の傷は治りつつありますが、少し心の整理がつくまでお時間をください」とコメントしている。

 

「犯人は鈴音のファン。薬物のせいで色々と被害妄想を拗らせた結果、犯行に及んだようです。犯人はその場で拘束され、鈴音の傷も浅くて跡は残らなかったから、無事解決となる筈だったのですが……」

 

「活動休止するくらい精神的なショックは大きかったってことか」

 

「はい。学校にも行っていないし、ここ最近は『ストーカーがいる』って言って、ずっと何かに怯えているんです。けど、不審物が届いた訳でもなく、家に誰か入ってきたわけでもありません。事務所でも特に変なことはありませんし、そのストーカーが実在するかどうかも怪しいところなんです」

 

「被害妄想か。そういうのって、民警じゃなくてカウンセラーを雇うべきじゃないのか? 」

 

「私も薦めたんですけど本人が嫌がりまして……。正直、手詰まりでどうしたものかと悩んでいたら、あの子いきなり、『星宮さん。この人に守って欲しい』って、貴方のことを指名したんです」

 

「俺、面識は無い筈なんだけど」

 

「動画共有サイトです。民警とガストレアの戦いを撮影してアップロードしているチャンネルがありまして、そこで貴方のことを知ったそうです」

 

「肖像権もクソもねえな」

 

 異形の怪物とそれに立ち向かう人々という構図に希望やヒロイズムを感じる人、異形のガストレア目当てで見る人、可愛いイニシエーター目当てで見る人、かっこいいプロモーター目当てで見る人、様々な需要が混じり合い、民警とガストレアの戦いは動画共有サイトにおける一大人気コンテンツになっている。

 しかし、動画の中にはガストレア化するプロモーターや身体をバラバラにされるイニシエーターなどグロテスクな光景が含まれていたり、再生数稼ぎのために現場に飛び込んだ動画提供者がガストレアに襲われて死亡するなど、様々な問題を抱えている。企業側も動画の削除やアカウントの停止などで対応しているが、焼け石に水だ。

 また、動画はプロモーターか関係者が撮影したものと民警とは無関係の人間が盗撮して勝手にアップロードしているものの2つに大別される。壮助は自分の仕事を撮影した覚えは無いため、鈴音が見た動画は後者だろう。

 

「それから知り合いに頼んで身元を調べましたら、偶然そこで空子ちゃんが働いていましたので、親友の好でこの場を設けて貰った次第です」

 

「要は、歌姫様に一目惚れされたってこと? 」

 

「あまり認めたくは無いのですが、彼女の言動から察するとそうなってしまいます」

 

 華麗は頭を抱える。『鈴之音』は歌手、アーティストとして売り出しているが16歳という若さと本人の美貌からアイドル視しているファンも少なくない。事務所としては恋愛を禁止にしている訳ではないが、いざ交際となってしまったら『鈴之音』の人気や活動への影響は計り知れないだろう。その上、相手が悪い噂しか出て来ないプロモーターの少年となると一人の人間としても心配したくなる。

 壮助も華麗の言っていることが信じられず、困り顔をする。

 

「『顔に騙されちゃ駄目! ! こいつは顔が良いだけで中身はチンピラ! ! イケメンの無駄遣い! ! 一見すると宝箱だけど中身はゴミクズよ! ! 』って私からも本人に言ったんだけど、梃子でも動かなくて……」

 

「おいコラ。俺泣くぞ。年甲斐もなくギャン泣きするぞ。この仕事拒否るぞ」

 

「武器を全部紛失して私に大量の始末書を書かせた挙句、退院してから仕事らしい仕事をせず、やったとしても苦情やクレームの嵐を持ち込む負債製造機のアンタに拒否権があるとでも? ちなみに断ったら、今年の夏コミで『プロ彼』の摺沢巧真(ダメージver)のコスプレして貰うから」

 

 空子はスマホを操作すると、なけなしの給料を注いだガチャで手に入れたキャラクターの画像を見せつける。

 ゲームの正式名称は「プロモーター彼氏」――略して「プロ彼」は婦女子の間で流行しているスマホゲームだ。ある日突然、呪われた子供であることが周囲に発覚しIISOに連行されてイニシエーターなった主人公の下に「俺のパートナーになれよ」と次から次へとイケメンプロモーターがやって来る――という現役プロモーターからすれば、あらすじや設定の根底からツッコミどころ満載の作品だ。

 

「未成年になんつー格好させようとしてるんだよ。元教師。ほとんど裸じゃねえか」

 

「大丈夫よ。アンタ見た目だけは良いんだから。それで、返事は? 」

 

 正直に言うと断りたい――というのが壮助の気持ちだった。華麗の話の内容は不審な点が多い。空子の親友でなければ既に席を立ってここを去っていただろう。存在しない敵、被害妄想を抱く護衛対象、いつ終わるか分からない不透明さ、動画で見た自分に一目惚れする人気アーティスト、怪しさ満点だ。しかし、空子の言う通り会社にあまり貢献できていないことに対する後ろめたさもある。

 

「……やるよ。どうせガストレアが出なきゃ仕事無いんだし」

 

 不審な点は「空子の親友」という保証で無理やり納得させることにした。

 

「契約成立ね。華麗」

 

「ありがとう。空子ちゃん」

 

 2人は篤い握手を交わす。

 華麗はカバンからスマートフォンを取り出すと誰かに電話をし始める。

 

「鈴音。もう出てきて良いわよ。義塔さん護衛を引き受けてくれるって」

 

 まさかの人物がいることに壮助は驚いた。華麗の視線に合わせて後ろを振り向くとバーカウンター付近にある「STAFF ONLY」の扉から一人の少女が姿を現した。

 

 ロックバンドTシャツ、デニムショートパンツという暗がりのライブハウス内に馴染んだ格好をしている。誰も彼女が人気アーティスト『鈴之音』とは気付いていない。

 彼女は扉を閉め、壮助たちのいるテーブルに向かってきた。

 ロックコーデとは裏腹に扉の閉め方、歩き方、様々な所作に育ちの良さを感じるが、同時にぎこちなさも感じる。おそらく今着ている服はライブハウスの雰囲気に紛れるように調達したもので、普段はもっと違うテイストの服を着ているのだろう。

 壮助たちのテーブルに近付くと彼女は目深に被ったワークキャップを外した。帽子で押さえられていたアッシュグレーの髪がふわりと浮かび上がり、彼女の肩にかかっていく。

 テレビで何度も見ているが、改めて人形のような可愛らしい顔立ちと色白な肌に見惚れてしまう。

 

「日向鈴音です。これから、よろしくお願いします。義塔さん」

 

 美声と共に鈴音は壮助に微笑みかけた。

 




長い長いレッスン編を書き終え、ようやく入りました第二章の本編。
当初から構想はあった鈴音ちゃんと華麗さんも出すことも出来て、ここ最近はいつもの倍の速度で話を書けているような気がします。

第二章はメディアやインターネットといった要素が絡んでくるため、久々の世界観コラムで少し語ります。

ガストレア大戦時、海棲ガストレアによる海底ケーブルの切断、ステージVガストレア「サジタリウス」の攻撃による人工衛星の撃墜によって人類の情報ネットワークは壊滅的な被害を受けた。モノリスの結界によって人類は一定の安寧を手にしたが、再び海底ケーブルを設置したり、人工衛星を打ち上げたりする国力を持った国(エリア)は限られており、それらの国も自国内の情報ネットワーク再構築で手一杯の状態だった。
しかし2031年の末、世界規模の情報ネットワーク復興を目的とした学者や企業の有志団体が、海底ケーブル・人工衛星を必要としないモノリスの磁場を利用した世界規模の無線通信技術を確立させ、その技術を世界各国に提供したことにより、人々は再び大戦前と変わらないインターネットサービスを利用できるようになった。
また、大戦前に栄えていたyoutubeやニコニコ動画といった動画共有サービス、Twitter、Facebook、InstagramといったSNSも継続して利用されている。

ちなみに主要登場人物のSNS利用状況(私の独断と偏見)

壮助:全く使っていない。自分が利用したら絶対に炎上すると思っている。

詩乃:全く使っていない。そもそも興味がない。

蓮太郎:全く利用していない。むしろ「SNSなんか滅んでしまえ」と思っている。
 ※一時期、蓮太郎に成りすましたアカウントがTwitterに現れ、ロリコン発言を繰り返して大暴れしたせいで色々と酷い目に遭ったらしい。

ティナ:匿名でTwitterを利用。
 銃とピザとアニメの話しかしてない。自身については全く語らない為、フォロワー(100人前後)にはアメリカ在住でピザが大好きなデブオタクだと思われている。


他のキャラについては感想欄で要望があったら考えようと思います。





次回、「家族の記憶」

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