ブラック・ブレット 贖罪の仮面   作:ジェイソン13

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天童の禁術

 20~30年ぐらいタイムスリップしたかのように感じる廃れた路地、木造建築や変色した元白色のビル、蔦の絡まった廃墟のようなアパートに囲まれながら、遠藤警部は目的の場所へと歩いていた。

 燦々と照り続けているはずの太陽の光もあまり届いていない。時計では真昼のはずだが、あまりの暗さに夕方のようにも思える。

 

「ここ…だよな?」

 

 遠藤の目の前にあったのは、ぼろいを通り越して半分廃墟の家屋だった。白色だったであろう壁は経年劣化による変色とスプレーの落書きで酷いことになっていた。看板は辛うじて『片桐民間警備会社』と読める。

 遠藤は紙に書かれた住所とスマホのGPSを見比べるが、信じがたいことに片桐民間警備会社は目の前だ。これが第三次関東会戦を生き延びた民警の一人、東京エリアの救世主と同じアジュバントで戦った男、序列451位の男が社長を務める会社とは思えなかった。

 

「あんた、もしかして依頼人?」

 

 背後から聞こえた少女の声、遠藤は思わず振り向いた。

 視線の先にいたのは10代後半の少女だった。波のようにうねるセミロングの染められた似非金髪、全体的な黒エナメルの服、スレイブチョーカー、両手には銀色のゴテゴテとしたアクセサリーといったパンク過ぎるファッションで完全武装していた。しかし、胸元は大きく開けられており、若い男なら彼女の豊かな胸元に目を奪われるだろう。

 ガムをくちゃくちゃと噛みながら、彼女はどこか擦れた視線でじっと遠藤を見ていた。

 

「すまないが依頼人ではない。勾田署の遠藤だ。君は?」

 

 遠藤が自己紹介をしながら警察手帳を見せた。その瞬間、少女の顔は強張った。口に出していなくても「げっ」と言ってしまいそうな表情だ。何か警察の世話になる心当たりがある者が示す分かり易いリアクションだった。

 

「か、片桐弓月……だけど」

「イニシエーターの?」

「そうだけど……ウチの兄貴がまた何かやらかした?」

「いや、ちょっと話を聞きに来ただけだ。第三次関東会戦で組んでいたアジュバントについて聞きたいことがある」

 

「あー」と弓月は悟った目をして、遠藤に哀れみの視線を向ける。

 

「あの変態――里見蓮太郎のこと、兄貴にはマジで聞かない方がいいよ。前にも仕事で話を聞きに来た雑誌記者がぶん殴られたから」

「第三次関東会戦で、お兄さんと里見蓮太郎の間で何かあったのか?」

「何があったも何も――」

 

 弓月は途中で口を止めた。

 

「ちょっと向こうのファミレスで話すよ。ここだと兄貴に見つかるから」

 

 

 

 

 

 少し歩いて路地を抜けたところのファミレス。片桐民間警備会社の近くとは信じられないほど明るい通りに面したよく見かけるチェーン店だ。

 そこの店の奥、外側から決して見えない位置の座席に遠藤と弓月は向かい合って座った。2人の組み合わせは「反抗期の娘と厳格な父」「ヤンキー女子高生と彼女を補導した刑事」のように見える。

 お互いにドリンクバーだけ注文し、弓月の前にはガラスコップいっぱいに注がれたコーラ、遠藤の前にはブラックコーヒーが置かれた。

 

「それで?聞きたいことって?」

「第三次関東会戦で君たちと同じアジュバントに属していた薙沢彰磨についてだ。覚えているか?」

 

 そのことを尋ねた途端、弓月の表情に暗い影が落ちる。第三次関東会戦と聞くだけで目の前で無惨にも死んでいったプロモーターやイニシエーターの姿、迫り来るガストレアの行軍がフラッシュバックする。その上、アルデバランと共に果てた薙沢彰磨と知らぬ間に脱落した布施翠のことも思い出す。

 

「すまない。無神経だったか」

「いや、大丈夫よ」

「ああ。実は昨日、侵入したガストレアが奇妙な状態で発見された。体を内部から爆破させられたような死に方だ。爆発物の類は発見されていない。そのガストレアを追っていた民警はガストレアを倒した男を目撃している」

 

 遠藤は鞄の中から昨日作成した似顔絵を出して弓月に見せる。

 直後、弓月は驚愕した。顔の表情は固まり瞳孔が開いた。

 

「あの変態……生きていたんだ」

 

 遠藤は弓月の反応を見逃さなかったが、そのまま話を続ける。

 

「この男はこれといった武器を持っていなかった。つまり素手でガストレアを爆破させたというわけだ。そこで君に聞きたいことがある」

「何?」

「里見蓮太郎や天童木更は薙沢彰磨と同じ攻撃手段を持っていたか?」

「いや、持っていなかったと思う。蓮太郎が初段で薙沢さんが八段って言っていたから、段位の違いで使えないのかも。木更さんは刀を使ってたし」

 

 弓月は迷いなく、思い出すまでもなくそう答えた。

 彰磨の戦い方は覚えているし、非常に印象深かった。拳一つでガストレアを爆殺する彼の武術は味方としてとても頼りになった。蓮太郎のそれも義肢によるブーストで拳や蹴りが人のそれを遥かに凌駕していたが、彰磨の拳は異次元だった。

 

「そうか。ありがとう。それとこの似顔絵の人物、見覚えがあるな?」

「当たり前じゃない!これどう見たってあの変態の里見蓮太郎よ!」

 

 弓月が大声を上げたせいで周囲の客やウェイトレスの視線を浴びる。弓月は自分の行いをはっと気づいて顔を赤くしながら俯く。

 

「情報提供ありがとう。店を出ようか」

 

 2人は周囲の注目を浴びながらレジで会計を終え、店の外へ出た。

 少し歩きながら遠藤は似顔絵を弓月に見せて確認する。

 

「本当に里見蓮太郎なんだな?」

「間違いないわ」

 

「そうか。ありがとう」と感謝の意を述べて遠藤は似顔絵をカバンの中に仕舞った。

 

「それともう一つ聞きたいことがある」

「何?」

「君のお兄さんと里見蓮太郎の間に何かあったのか?」

 

 その質問を投げかけられた途端、弓月は俯いて口を噤んだ。

 

「ごめん。それは私の口からは話せない」

 

 弓月は“知らない”ではなく“答えられない”と言った。少なくとも片桐玉樹と里見蓮太郎の不仲の理由を彼女は知っている。しかし、話せないのは警察に知られたくない何かがあるのか、それとも玉樹の個人的な何かが原因なのか。遠藤はこれ以上何も追求せず、名刺を渡して彼女と別れた。

 

 

 

 

 

 

 エリアという形で人間の居住区域が限定された現代において、土地というものは非常に貴重なものとなっている。地価はガストレア大戦以前の数十倍にも膨れ上がり、その中でも一等地と呼ばれる場所は金で買える次元ではなかった。

 東京エリアの一等地、その一等地の大半を占めるのは天童家の本家だった旧天童邸。純和風の壮大な屋敷だ。現在は長老の天童助喜与だけが住んでおり、彼の居住スペース以外は文化遺産として保護されている。

 隣には天童流を伝授するための道場が存在する。数年前までは一部の人間にしか伝授されなかった閉鎖的で門戸の狭い道場だったが、現在は少しばかり開放的になっている。

 広い道場の中心で二人の男女が向き合う。

 胴着姿の森高詩乃は長棒を構え、真っ直ぐと敵の構えを観察する。

 目の前には天童式神槍術の師範代。自分より遥か上の存在、決して埋められない実力差を持った強敵だ。その差は例え赤目の力を使っても埋められない。

 お互いに攻撃の構え、防御の構えを交互に繰り返しながら牽制する。

 天童流の特徴はその構えにある。構えだけでも何十種類と存在し、それらの構えを適時適切に扱うことが第一歩とされている。傍から見れば互いに見つめ合いながらゆったりとポーズを変えているようにしか見えないが、2人の間には火花を散らす激戦が既に繰り広げられている。構えの時点で既に勝負は始まり、技が出た時には既に勝負は決まったようなものだ。

 詩乃は防御の構えから、攻防一体の構え、そこから防御の構えにする。

 

 

 

 ――と見せかけて、攻撃の構えに転じた。

 

 足を踏み込み、縮地で一気に間合いへと入り込んだ。

 

 天童式神槍術三の型六番 流水扇(りゅうすいせん)

 

 水をも弾く神速の突きが師範代の腹部を狙う。しかし師範代は身体を捻ることで突きを回避し、すぐに反撃の手を打つ。

 

 天童式神槍術一の型三番 逆子黒天風(さかごこくてんふう)

 

 師範代の長棒が詩乃の長棒の下に入り込み、梃子の原理で力強く棒を打ち上げた。詩乃の長棒は高く打ち上げられ、彼女の腕は上がる棒に持って行かれた。わき腹が大きく開き、隙が出来る。

 

 天童式神槍術二の型十六番 龍掃岩薙(りゅうそうがんち)

 

 師範代の棒が一度右に大きく開き、前方を薙ぎ払うように一気に左へと振られる。両手で握られ、身体の回転もかけられた強烈な一撃が見舞われる。

 詩乃は咄嗟にカバーしようとしたが間に合わず、強力な一撃が脇腹を直撃した。

 バシーンと棒が脇腹を叩く音が道場中に鳴り響いた。

 

「森高。今日はここまでだ」

 

 詩乃は叩かれた脇腹を手で押さえながら、立ち上がった。そして師範代と向き合う。

 

「まだ構えが甘い。切り替えを慌てたせいでどっちの構えも中途半端になっている」

 

 師範代の言葉がグサグサと詩乃の心に突き刺さる。構えに始まり構えに終わる天童流で構えを指摘されることはあってはならない。それだけ詩乃は天童流神槍術の使い手として未熟だということだ。

 

「この調子だと、段位にはまだ遠いな。精進するように」

「はい。ありがとうございました!」

 

 詩乃は深く礼をすると練習用の槍(長棒)を棒立てにかけて道場を出た。まだ脇腹が痛むが、それ以上に自分の未熟さが痛かった。段位の壁はまだ高かった。

 

 

 

 

 時刻は夕方、天童流の道場の前で義塔壮助は詩乃が出るのを待っていた。壮大で厳格な天童の道場では、チンピラの壮助はあまりにも不自然でかつ違和感の塊だった。道場に用のある人や通りがかる人がチラチラと壮助に目を向けては通り過ぎて行く。詩乃の迎えはほぼ毎回やっているが、慣れによって視線が少なくなる気配はない。

 腕時計を見ながら練習が終わる時間を確認する。

 また一人、天童の道場に近づいてきた。

 

「誰かと思えば、昨日の民警じゃないか」

 

 遠藤警部が気軽に声をかけてきた。しかし壮助は威嚇という形で返答する。昨日の報酬未払いと長い取調べの件で彼には悪印象しかない。

 

「俺に報酬を払う気になったんですか?」

「違うな。捜査だ」

「昨日の黒仮面のことですか。どんだけ分かったんですか?」

「一般人に捜査状況は教えられない」

「ふーん」

 

 その後、数分ほど遠藤と壮助は阿吽の像のように道場の門の両脇で来る人出る人を待ち構えた。2人だけの無音の空間が続き、互いにとても気まずい状態になっていく。

 

「道場に用があるんじゃないんですか?」

「乗り込みたい気持ちでいっぱいなんだけどな」

 

 遠藤は顎をくいっと動かし、壮助に門の中を覗くように促す。

 少し開かれた門の奥には竹林が広がっていた。鬱蒼と生い茂る濃緑色の竹とそれを割くように石畳が並べられていた。天童流の道場はこの石畳を武の道とでも言いたいのだろうか。30m先に『天童流』と看板が掲げられた木造平屋の道場が見える。

 道場の目の前に一人の男が聳え立っていた。2m近い細身の男性。その目は鷹のように鋭く門を潜る者達を見据えている。朱色の鞘に納められた日本刀が彼の腰に据えられていた。

 

「辻さんじゃないですか。相変わらず目が恐ぇ……」

「ありゃあ何人も斬ってる目だ。刑事の勘だがな」

 

 道場の入り口の前には、いつも辻さんと呼ばれる天童式抜刀術修練者の男が立っている。門番のつもりらしいが、誰も本人から入口の前に立つ理由を聞いたことはない。

 辻には様々な噂が絶えず、視線だけで人を殺したことがある、本当に辻斬りだった、あの免許皆伝の天童木更と切り結んだことがあるなどと例を上げればキリがない。ちなみに辻さんと呼ばれているのも「辻斬りっぽいから」という理由だけでこれが本名というわけでもない。

 壮助と遠藤が門を潜らないのは主に彼が原因である。

 

「まさか、辻さんが恐いんですか?」

「ああ。恐い」

 

 壮助は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。嫌味たらしく尋ねたので否定されると思っていたが、まさか遠藤が正直に「恐い」と返答するとは思いもしなかった。

 

「一度、あいつに斬られそうになったからな」

「あの人、マジモンの辻斬りだったんすか!」

「天童菊之丞が暗殺された時だ。天童が隠してきた今までの悪行を暴こうと俺たちはこの天童邸と道場に強制捜査に入った」

「ニュースで見ました」

 

 東京エリア中の刑事を総動員した天童邸への家宅捜索は全てのチャンネルで争うように実況中継されていた。それだけ天童家のスキャンダルは大きく、東京エリアの政治・経済への影響は計り知れなかった。

 警察による強行捜査に対して一部の天童流武術の修練者が反発。天童邸は機動隊と天童流がぶつかり合う戦場と化し、民警まで呼び出され混沌を極めた。天童流の開祖にして現役師範である天童助喜与の一喝が天童流の修練者たちを止めた。そこで抗争は幕を下ろし、家宅捜索によって多くの証拠を発見することができた。

 

「その時、俺はあいつに斬られそうになった。あと1秒遅かったら俺の上半身と下半身が分離してただろうな」

「うへぇ」

 

 あのニュースの裏側を聞かされながら、壮助はあることを企んでいた。

 遠藤は天童流の道場に入りたがっているが、辻への恐怖で入ることはできない。それは壮助も同じであるが、彼には遠藤に対するアドバンテージがある。それは詩乃の存在だ。詩乃は修練の度にこの門を潜っている。辻と何度もすれ違っており、ここに入ることに抵抗がない。それどころか辻と楽しそうに会話するところを壮助は何度も目撃している。そのアドバンテージを利用して取引をしようという企みだった。

 

「遠藤警部。取引しませんか?」

「話を聞こう」

「まだウチの詩乃が中にいるんですよ」

「お前んとこのイニシエーター、天童流だったのか」

「まぁ、まだ段位無しですけど。あいつはまだ中に居ますし、あいつは辻さんと仲が良い。入口から離すことも可能っす」

 

 それは悪くない考えだと遠藤は壮助の案に乗ろうかと考える。このままだと忠犬ハチ公のように門の前で師範代が出るのを待ち続けなければならない。その手間が省けるのであれば嬉しい限りだ。壮助に対する見返りの内容にもよるのだが。

 

「見返りは?」

「とりあえず、今晩の飯代で」

「最近、懐が寂しいから牛丼屋な」

 

 壮助はスマホを取り出し、詩乃に連絡を取った。「辻さんが恐くて客人が道場に入れない」と言って詩乃に辻を入口から引き離すように頼んだ。数分も待たずして入口に詩乃が現れ、辻と何か話すと再び道場の中へと入っていった。

 

「これで条件はクリア」

「突入開始」

 

 どこか息の合った2人は小走りで石畳の道を抜け、音を立てずに入口へとたどり着いた。

 インターホンらしきものは見当たらず、あるのは傘立てと引き戸だけだ。

 壮助が軽くノックすると中から「どうぞ」と若い女性の声が聞こえた。

「失礼します」と言って壮助がガラガラと引き戸を開けて中に入る。その後ろに遠藤が続く。

 玄関口で20代の女性が正座をして出迎えてくれた。長い黒髪をゴムで纏めており、振る舞いから彼女も天童流の修練者であることが窺える。

 

「勾田署の遠藤です」

「松崎民間警備会社の義塔です」

 

 身分証明として遠藤は警察手帳、壮助は民警のライセンスを出す。

 

「これはどうもご丁寧に。何かご用でしょうか?」

「捜査の一環です。天童式戦闘術について聞きたいことがあるので、師範もしくは師範代に会わせてはもらえないでしょうか」

「畏まりました。どうぞお上がりください」

 

 女性は2人に靴を脱いで上がるように催促すると、2人を客間に案内した。2人に茶を出し、「師範代をお呼びします」と一言残して2人を部屋に残した。

「案外、すんなりと入れましたね」と壮助と遠藤が軽く雑談をすること10分、茶も無くなってきたところで女性が師範代を連れてきた。

 和服に身を包んだ50代の男性だが、その身と振る舞いに老いというものは感じられなかった。さすが武道の修練者といったところか。彼の年齢はむしろ威厳を際立たせるための数字となっていた。

 女性は壮助と遠藤に茶を注ぎ、師範代にも茶を出すと、一礼をして客室から出て行った。

 

「天童式戦闘術免許皆伝、師範代の矢賀坂です」

 

 壮助と遠藤は再び警察手帳と民警ライセンスを出して自己紹介した。

 

「突然のことで申し訳ありません」

「いえいえ。お気になさらず。お2人は捜査の一環で訪れたということですが」

「はい。実は――」

 

 遠藤は昨日の侵入したガストレアと黒い仮面の男、その男が天童式戦闘術の使い手であることを話した。仮面の男が里見蓮太郎であるという片桐弓月の証言は伏せた。

 

「それで、天童式戦闘術に殴った相手を内側から爆破させる術があると?」

「はい。まだ可能性の話ですが」

 

 矢賀坂は押し黙った。答えを渋っている様子が見て取れる。無いなら無いとハッキリ言えないところで遠藤と壮助は天童流に何かあると確信した。

 

「まぁ、殺害されたのはガストレアですから、仮にこの道場の誰かが犯人だとしてもせいぜい厳重注意ですよ」

 

 遠藤と壮助は矢賀坂が何を恐れているのが分かっていた。それは天童流が脅かされること。数年前の天童邸強制捜査と天童家の悪事が暴かれたことで天童流もその立場を脅かされた。もし助喜与が死去していたら、天童流はもう残っていないだろう。

 

「天童流に、相手を確実に殺害するような術はありません。そもそも天童流は護身の武術。今でも護身の域は越えておりません。ただ――」

「ただ?」

「それを殺人術に変えた男がいました」

「薙沢彰磨ですね?」

「はい。あの男は若くして八段まで上り詰め、免許皆伝は時間の問題とされていました。しかし彼は天童流の禁を破ったのです。1つは衝撃を与えた際に相手の血流を暴走させることで爆破させる殺人術に変えたこと、もう一つは免許皆伝のみが許される新しい術の開発をしたことです」

「だから破門にした」

「はい」

「ではもう一つお聞きします。薙沢はその殺人術を他の誰かに伝授しましたか?」

「彼の破門後に流派の中で調べましたが、確認は出来ませんでした」

「外部で誰かに伝授した可能性は?」

「それはおそらく無いでしょう。あれは天童式戦闘術が基礎となっています。外部で誰かに伝えるとしたら、既に天童式戦闘術を得ている者、またはその者に最初から天童式戦闘術を教える必要があります」

「もし最初から教えるとしたら、どれくらいの期間が必要ですか?」

「個人差はありますが、初段まで短くても5年はかかります。殺人術の会得までとなるとどれほどかかるのか……」

「そうですか。お忙しい中ありがとうございました。もし何か思い出した時はこちらにお願いします」

 

 遠藤は矢賀坂に名刺を渡し、ソファーから立ち上がった。それに続いて壮助も立ち上がる。

 矢賀坂に見送られながら、玄関口で靴を履き、扉を開けた。

 目の前で2人を睨む鷹の眼光。辻が数センチ先で2人を睨んでいた。ただ黙り、口が動く様子もない。何を主張したくてそんな目をしているのかも分からない。恐怖の根源とは情報の不足であることを実感し、蛇に睨まれた蛙のように震え上がっていた。

 

「あ、壮助。もう話終わった?」

 

 辻の後ろに隠れていた詩乃が顔を出す。彼女のお陰で壮助と遠藤は安堵する。もし辻が文字通り辻斬りになっても彼女なら制することが出来るだろう。

 

「あ、ああ。もう終わった。帰るぞ」

 

 そそくさと壮助は詩乃の手を引き、遠藤と一緒に天童家の門を抜けた。敷地を出るまで背後から鋭い視線を感じ続けたので寒気が絶えず、2人には門が天国への扉に思えた。

 ほっと一息つくと、壮助は遠藤の肩を叩いた。

 

「じゃあ、晩飯の件、お願いしますよ」

 

 抜け目のない壮助に遠藤は軽く心の中で舌打ちする。

 

「良いだろう」

 

 2人分の牛丼ぐらい今日得られた情報に比べれば安いものだ――と、遠藤は考えていた。

 

 

 

 

 

 約束通り、遠藤は2人の夕食の代金を肩代わりした。遠藤の財布が寂しいので牛丼チェーン店だったが、2人が不満を口にすることは無かった。食事が始まるまでは――

 壮助と遠藤は既に牛丼を食べ終えていた。2人の前には空になった器が置かれていたが、壮助の隣に座る詩乃はもう何杯目か分からない牛丼をガツガツと食べていた。

 壮助はあまりの申し訳なさに俯き、遠藤は冷や汗をかきながら財布の中身を何度も確認する。

 

「なぁ……。こいつはまだ食べ終わらないのか?」

「これで察してくれるだろ?ウチのエンゲル係数」

「けっこう苦労しているんだな」

「同情するなら報酬をくれ」

「駄目だ」

 

その日の牛丼代

・牛丼並盛          350円 ←遠藤弘忠

・チーズぶっかけ牛丼メガ盛り 730円 ←義搭壮助

 

以下、森高詩乃の今晩の夕食

・牛丼ギガ盛り        750円

・チーズぶっかけ牛丼ギガ盛り 830円

・辛子高菜牛丼ギガ盛り    830円

・ビビンバ丼ギガ盛り     880円

・サラダ盛り付け       150円

・おろしポン酢牛丼ギガ盛り  830円

・カレー牛丼ギガ盛り     880円

・ペガサス昇天MAX盛り牛丼  1300円

 

合計  8360円(税抜き)

 

遠藤はただただ今晩の夕食が経費で誤魔化せるかどうか、願うばかりだった。

 




これ完全に遠藤警部がもう一人の主人公だよ。
あと必殺技の名前難しい。原作っぽく目指したけど、あのセンスには敵わない。

感想くださったのに返信できなくてすみません。
仕事のある日はずっとパソコンを仕事場に置いているのでタグの通り平日は無反応です。
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