ブラック・ブレット 贖罪の仮面   作:ジェイソン13

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サブタイトルが「灰色の盾vsスカーフェイス」だけど、ボス同士のバトル以外書いてねえ!!

ってことで、ここ数話のサブタイトルを変更しました。ごめんなさい。


戦乙女の血戦 ③

「第二ラウンドとかマジで勘弁なんだけど」

 

 

 黒色の炭と灰だけが残るイクステトラ屋内駐車場で死龍は立ち上がった。それは人形のようで、ゾンビのようで、黒膂石拡張義腕という名の寄生虫が死龍を支配しているようにも見える。

 エールには立ち上がる力が残っていない。失血で意識が朦朧としている。視界もぼやけて敵の姿をハッキリと捉えることが出来ない。

 死龍の尾が先端をエールに向け、先端に青白い雷光が収束していく。電磁加速砲――音速の数倍で放たれるフレシェット弾による処刑が始まる。

 

 眩いライトが死龍を照らした。端の出入り口から青いストリートバイクが唸り声を挙げながら突入、勢いを殺さず死龍に向かって行く。

 死龍は咄嗟に電磁加速砲の照準をバイクに向ける。しかし、早撃ちは向こうが上手だった。青いバイクのライダーが9mm拳銃を抜き、トリガーを引く。弾丸は死龍の身体を掠めた。

 分が悪いと感じたのか尾は電磁加速砲の発射を中断。マニピュレーターを展開し、チンパンジーのように柱や鉄骨を掴んで移動する。死龍の本体も釣りのルアーのように尾の動きに振り回され、ガス爆発で吹き飛んだ壁を抜けて向こう側へと消えて行った。

 

「ボス。無事か? 」

 

 ライダーはバイクから降り、倒れたエールの元に駆け寄る。

 駆け寄った誰かが自分の名前を呼び、失血の酷い左腕を布で縛る。ようやく呪われた子供の治癒がはたらき始めたのか、朦朧としていたエールの意識がハッキリとし始め、ぼやけていた視界も輪郭線を得る。

 煤けた小麦色の肌とウェーブするブラウンのセミロングヘア。スタジャンとタイトパンツを着こなし、ライダーゴーグルを首にかけた姿はファッション誌の1ページを飾れるくらい様になっている。

 灰色の盾№3 ミカンの顔が見えた。

 

「ようミカン。遅かったじゃねえか」

 

「けど、グッドタイミングだっただろ」

 

 エールが上に手を伸ばし、ミカンが引っ張って彼女を立たせる。貧血になりよろめいたところにミカンが肩を貸す。

 

「増援はお前、一人か? 」

 

「まさか。他にもいるよ。ニッキー、サヤカ、アキナ、それとルリコ。今、別ルートから入ってる」

 

 灰色の盾は全部で31人。赤目ギャングとしては小~中規模の人数だ。その中で増援はたった5人。メンバーを選んだナオが出し渋ったと冷たく思われても仕方のない数字だった。

 しかし、エールはナオの名采配に笑う。

 

 増援に来た5人は全員、自分達が赤目ギャング()()()()()()()()から一緒にいる仲間達だった。あの地下鉄跡で鈴音や美樹と共に過ごし、反赤目団体に仲間を焼き殺されたあの日から、今日まで戦い抜いた強者たちだ。

 

「懐かしいメンツだな。ナオ以外の古参メンバー勢ぞろいじゃねえか」

 

「そのナオから伝言。『こんな1円にもならない戦場に首突っ込みやがって。アンタはリーダー失格だ』ってね」

 

「あいつには苦労かけるな」

 

 エールは頭をかく。伝言の内容に一言も反論出来なかったからだ。灰色の盾は赤目ギャングの中でも珍しい()()()()を生業とするチームである。暴力は彼女達の唯一の商品であり、それをタダで出すことを勝手に判断したエールは組織の長として適格とは言い難かった。

 

「今回はナオの言う通りだよ。相手は泣く子も黙るスカーフェイス。そこに警察や東京エリア中の民警も加わるのに報酬はナシ。強いて言うなら、歌姫様の『ありがとう』ぐらいかな。ハイリスクノーリターンにも程があるんじゃないか? 」

 

 ナオの伝言に重ねる様にミカンの言葉が「リーダー失格」のレッテルを重ね貼りする。更に恥ずかしくなり、エールは血まみれの左手で前髪をいじる。

 

 

 

 

「でも――あそこで2人を見捨てるようなボスだったら、私達は付いて来なかった」

 

 

 

 ミカンがエールに微笑みかける。

 

「私達の元・妹分がまだ危ない目に遭っているんだけど、戦えるよね? ボス」

 

「当たり前だ。ボス舐めんなよ」

 

 エールは鼻で嗤うとミカンの肩から離れた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 狭い空間の中でゴソゴソと衣服が擦れる音が聞こえる。未織、鈴音、美樹、ティナは息を殺し、スカーフェイスに見つからないことを祈りながら、サーバールームへと向かっていた。

 

「何にせよイクステトラの全システムはサーバールームが根幹。そこにおるハッカーを潰さへんことには不利なままや」

 

 美樹が冷や汗を流し、息をのむ。まだスカーフェイスに対する恐怖心が残っている。

 

「だ、大丈夫かな。そいつも武器持ってるんだよね? 」

 

「お二人は自分の身を守ることを第一に考えて下さい。敵は私が何とかしますから」

 

 下から駆ける足音が聞こえる。スカーフェイスのメンバーだろうか。鈴音達を見失ったことで焦る若い女性の怒声が響く。

 硬直し、押し黙り、足音が遠のくまでやり過ごす。

 

「未織さん。サーバールームまであとどれくらいですか? 」

 

「暑苦しい……」

 

「もう少しや。堪忍してな」

 

 4人は今にも身体で詰まりそうなダクトの中を匍匐前進で進んでいた。

 

 ダクトの中を進むこと15分、未織の尻が詰まったり、美樹の胸が詰まったり、特にどこも引っ掛かることなくスムーズに進めた鈴音とティナが落ち込んだりするトラブルがあったものの、4人はサーバールームに辿り着いた。

 

 天井の通気口を外し、4人がそこから降りる。

 同型のコンピュータが何十台も並び、青いランプが端末上で点灯・点滅を繰り返す。そこに佇むだけのコンピュータがどれほど動いているかは重なった駆動音が物語る。端末が発する50度近い熱を相殺するため空調は20度前後に設定されており、端末から離れると肌寒く感じる。

 4人はゆっくりとした足取りでサーバールームを周り、有線接続でシステムに介入するハッカーを探す。しかし、自分達以外の人を見つけることは出来なかった。

 

「逃げたのかな? 」

 

「いや、システムはまだ掌握されたままや」

 

「もしかすると、ここにルーターを接続して内部完結していたシステムにバックドアを増設する手口を使っているかもしれません」

 

「Wi-Fiで他の場所から動かしているってこと? 」

 

「イメージとしてはそんなところですね。ただ扱えるデータ量に限りがありますし、ネットワークをオープンにしていますので自分の作ったバックドアを別の誰かに利用されるリスクもあります」

 

「イクステトラの警備システムに介入するだけでも相当な量になる筈や。そこらに出回っとるツールじゃ掌握なんて無理や」

 

 3人が話している間、鈴音は何かが気になったのか、何十台も並ぶコンピュータの一つを凝視し、そこに耳を傾ける。

 

「鈴音ちゃん? どないしたん? 」

 

「未織さん。これ変な音しませんか? 」

 

「変な音? 」

 

 鈴音が指さす先、ラックの中に格納された端末の一つを見る。外観では両隣の端末と何ら変わらず、変な音というのも3人には聞こえない。特殊な環境で聴覚が異様に発達した鈴音だからこそ聞こえるのだろう。

 中を確認しようとティナがラックの扉を開け、顔が青ざめる未織を尻目にナイフを刺し込んでコンピュータのカバーを外した。

 ティナは目を見開いた。中に紺色の蜘蛛が入っていたのだ。8本の足に手の甲サイズの金属ボディが鈍く光る。タランチュラ型のロボットはボディからコードを伸ばし、内部の配線やコネクタに繋いでいる。

 機械化兵士と言えどティナは使う側の人間。コンピュータの内部にはそれほど詳しくないが、それでもこのロボットがコンピュータのパーツではないと一目で分かった。

 

 カバーが外されたことに気付いたロボットはコードを切断して飛び出した。8本の足を器用に使い、機敏な動きで跳ね回る。市販はおろか軍用でもあれほどの動きが出来る機体は見たことが無い。

 ティナは咄嗟に拳銃を抜き、照準を合わせる。ロボットは端末上を走っており、迂闊に引き金を引くことが出来ない。追いかけながら安全な射線を確保できる一瞬を狙う。

 ロボットが隣の端末の列へ飛び移った。ボディが空中に浮いた瞬間、弾丸がロボットを貫いた。ボディの真ん中に穴が空いたロボットは機能を停止し、床に落ちる。

 ティナが回収しようと駆け寄った瞬間、ボディや足が火花を散らして自爆し、パーツが飛散した。証拠隠滅の措置だろう。

 敵に繋がる情報が得られなかった未織は地団駄を踏む。

 

「あのロボットにウチのシステムは乗っ取られたん? 」

 

「ただのロボットじゃありませんよ。あんな実写版トランスフォーマーみたいな動き、米軍の装備でも見たことがありません」

 

 ティナはロボットのパーツの一つを拾い、未織の前にかざす。

 

「これって……バラニウム? 」

 

「はい。使用されている素材やロボットの能力を考えると機械化兵士の装備と考えた方が良いかもしれません」

 

 小型端末を遠隔操作する機械化兵士となれば、ティナはシェンフィールドを扱う自分、同じテクノロジーで生み出された『NEXT』の機械化兵士たちを思い浮かべる。しかし、ティナ以外の機械化兵士は5年前の東京エリア・クーデターの際に死亡しており、エイン・ランド博士が暗殺されたことで、その後も機械化兵士が創られることも無かった。

 暗殺された後、米軍やサーリッシュがランド博士の研究資料を押収しているが、全ての資料が暗号化されていたり、デタラメなことが書かれていたり、専門家が頭を抱えるほど高レベルかつ複雑な内容だったり、解析した結果それもデタラメだったりしたため、精査の進捗は芳しくない。米軍もサーリッシュも()()()()機械化兵士を作ろうとすれば、あと10年はかかるだろう。

 

 ――それだと、これは一体、誰が……。

 

「これでハッカーは倒したとして、ここの警備システムはどこまで奪還出来ましたか? 」

 

「施設内の監視カメラ、隔壁、自動機関銃、催涙ガス、それと照明ぐらいや。コントロールルームのコンソールがないとウチらは動かせへんし、そのコントロールルームもあちらさんに奪われた可能性が高いんよ」

 

 ゲームのお使いクエストのようだ――とティナは頭を抱えた。コントロールルームには従業員がいる。彼らも武装しているだろう。そこが制圧されたとなれば、スカーフェイスもそれなりの人数と武装で襲撃している筈だ。従業員も人質に取られているだろう。ここまで用意周到にしている彼女達のことだ。武器庫は最優先で潰されているだろう。

 

『サーバールーム奪還おめでとう。日向鈴音、日向美樹』

 

 天井にあるスピーカーからアナウンスが流れる。口調だけでもガラの悪さが分かる。

 

『だが、コントロールルームは我々の手の内だ。この施設のシステムも掌握し、従業員も人質に取った。今から5分間、ここまでの隔壁を開ける。その間にコントロールルームに来い。着物の女と金髪の女も一緒だ。裏でコソコソされると厄介だからな』

 

 イクステトラは敷地こそ広大で5分で廻れるような場所では無い。しかし、サーバールームにいて、未織という案内人がいて、小走りで行けば間に合う時間だ。

 

『1分遅れる度に人質を1人殺す。それでは、よーい……ドンッ』

 

 ドンという声と共に銃声が鳴った。男女の混ざった悲鳴も聞こえた。

 今のがただの号砲なのか、それとも見せしめに人質を一人殺したのかは分からない。人の命を何とも思っていない軽い態度のギャングに未織が怒り心頭だったのは言うまでも無かった。

 人として当然の倫理観を持つティナもそれは同じだった。しかし、ここで感情に身を任せれば鈴音達を危険な目に遭わせることになる。日向姉妹とイクステトラの従業員を乗せた天秤が彼女の中で揺れ動く。

 

「「未織さん。コントロールルームどこですか? 」」

 

 振り向くと鈴音と美樹の決意は固まっていた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

「ギリギリってところだな。うっかり2人目を殺っちまいそうだったよ」

 

 Uの字型に湾曲した空間、壁を埋め尽くさんとする巨大なスクリーン、数えきれないくらい多くのモニターが並んだ机、手足を縛られ一ヶ所に集められた従業員たちを背景にスカーフェイスのメンバーが4人を出迎えた。

 額には傷を模した刺青、両耳にはイヤリング、服の開いた胸元からは髑髏の刺青も見える。いかにもギャングといった容貌の少女だ。彼女の足元には胸から血を流した男性職員が転がっている。号砲の犠牲者だ。

 未織は壁のスクリーンを一瞥する。分割された画面にはイクステトラ各所の監視映像が映されている。サーバールームのハッキングが早かったのか、ほとんどの従業員が隔壁に閉じ込められて避難できずにいる。警備員や民警も同じだ。別の画面には()()()スカーフェイスと遭遇してしまった警備員、プロモーター、イニシエーターが血を流して廊下に倒れている。そこだけ激しい銃撃戦の痕跡が見られる。

 皮肉にもシステムを逆手に取り、少人数かつ必要最低限の戦闘で施設全体を掌握する彼女達のスマートな手段が犠牲者を少人数に留めていた。

 

 ティナも僅かな目配せで状況を把握する。コントロールルームにいるスカーフェイスのメンバーは7人。昨晩、壮助が戦った死龍以外の人数と一致している。それがスカーフェイスの総員だと仮定すれば、全員がここに集まっていることになる。外の警備はおそらくシステムかドローンに任せているのだろう。

 

 ――8人目?

 

 ティナが相手に気取られないよう視線を動かしていると、はるか遠くに8人目の少女が見えた。顔に傷の刺青が無く、他のメンバーから隠れるように移動している。彼女が着けているリストバンドにはエールのバイクと同じ灰色の盾のエンブレムが刺繍されていた。

 更に視線を動かすと同じエンブレムを持った少女達が柱の陰に隠れたり、デスクの下を這っている。

 形勢逆転の兆しが見え、ティナは心の中でほくそ笑んだ。

 

「きゃっ! ! 」

 

 ティナは鈴音を抱き寄せ、腕を回して首を捕らえた。鈴音の側頭部にベレッタの銃口を突き付け、彼女を人質にしたことをスカーフェイス達に見せつける。

 息を合わせたかのように未織も美樹を同じように拘束し、司馬重工オリジナルモデルの拳銃を美樹に付きつける。

 

「テメェら、何考えてやがる! ! 」

 

 まさかの行動に目の前のギャングは声を荒げた。他のメンバーも少なからず動揺している。

 

「これって、あれですよね。2人を渡したら『お前達は用済みだ。ここで死ね』っていうパターンですよね。嫌ですよ。そんなの。私は金で雇われただけなので、2人を渡したら見逃してくれませんか? さもないと彼女を殺します

 

「ウチも従業員たちを守らなあかんさかい。こんな小娘の為に犠牲になるなんて我慢できひん。とりあえず、従業員たちを解放してくれへん? その後はウチらや。ウチらの安全が確保出来たら、2人を渡したる。断ったら――

 

鈴音ちゃんと美樹ちゃんの脳天にド弾ぶち込んでお前らの計画パーにしたるわ

 

 はんなり京美人の仮面はどこかに飛んで行ってしまったのか、ドスの効いた彼女の本性が垣間見える。

 

「さっきの威勢はどないしたん? 」

 

「返事は無いんですか? 私って結構せっかちな性格なんですよ。早く返事をして下さい」

 

 日向姉妹と言う交渉材料を手に入れたことで2人は場の主導権を完全に握った。

 スカーフェイス全員の視線がティナ達に集まり、彼女達は2人の挙動に警戒する。

 

「分かりました。10秒です。10秒後まで返事がなかったら2人を殺します。

 

 

 10

 

 

 

 9

 

 

 

 8

 

 

 

 

 7654321! ! 」

 

 

「わ、分かった! ! 解放する! ! 約束するから! ! そいつらは殺すな! ! 」

 

 銃声が鳴った。柱の陰やデスクの下に隠れていた灰色の盾が飛び出し、一斉にスカーフェイスを銃撃する。少人数でありながら戦況は灰色の盾に傾く。彼女達の存在に気付いていなかったスカーフェイスはまんまと奇襲攻撃に晒され、7名いたメンバーが手足や得物を撃たれて無力化、それでも抵抗しようとする者は近接格闘(CQC)で止めを刺され、手足を後ろに縛られて拘束される。

 4人は灰色の盾の鮮やかな奇襲攻撃に舌を巻いた。鈴音と美樹はプロの戦闘屋となったかつての仲間達の姿に、ティナと未織はギャングとは思えない灰色の盾のレベルの高さに驚いた。

 

 30秒にも満たない奇襲作戦が終わると、やけに色気のある黒髪ボブカットの女性が近づいてきた。両手には89式5.56mm小銃が抱えられており、ノースリーブのカットソーの上に装着したホルスターには予備弾倉が刺さっている。

 

「灰色の盾のニッキーよ。貴方がティナね? エールから話は聞いてるわ」

 

「やっぱり、灰色の盾の方でしたか。助かりました」

 

「貴方の時間稼ぎのお陰でこっちも上手くいったわ。お礼を言わせて」

 

 名前を聞いた途端、鈴音と美樹は唖然とする。

 

「本当にニッキーさんなんですか? 」

 

「なんか見違えたね。大人っぽいというか色っぽいというか」

 

「6年もあれば人間変わるものよ」

 

 フラッシュが焚かれ、4人が目を瞑る。

 光源の方を見るとどこかの学校の制服を改造したのか、金髪ショートボブの少女がスマホで自撮りしていた。白い半袖ブラウスとチェックスカート姿はどこかの学校の制服を思わせる。首の大きな傷と手に血の付いたダガーを握っていなければ、どこかの学生だと思ってしまっただろう。

 

サヤカ。今はそれどころじゃないでしょ。さっさと武器を回収して。あと今の画像はアップしないでね」

 

 サヤカと呼ばれた少女はコクリと頷くとスマホをポケットに入れ、指示通りスカーフェイスが持っていた武器を回収し始める。

 

「どうだ! ! 見たか! ! これが灰色の盾だ! ! 思い知ったかー! ! あーはっはっはっは! ! 」

 

 一部を編み込んだ朱色ショートカットの少女――ルリコはPCを蹴飛ばしてデスクの上に仁王立ちし、高らかに勝利の笑声を挙げる。「アイ アム プレジデント」と書かれたTシャツと無駄にゴテゴテとチェーンが付いたジーンズ、悪趣味な装飾付きの二挺拳銃が彼女の自己顕示欲と馬鹿さ加減を見事に表している。

 

「あれ、誰か言わなくても分かるよね? 」

 

「ルリコさんですね」

 

「うん。あの小物っぽさはルリ姉だね。変わらないなぁ」

 

「おい。ルリコ! ! まだ終わってねえんだから、気ぃ引き締めろ! ! ブチ殺すぞ! ! クソが! ! 」

 

 燃え上がるような赤髪ベリーショートカットと左右4個ずつピアスを付けた女性が血の付いたマチェットでデスクを叩き、仁王立ちして高笑いするルリコを落とす。トップスからブーツまで皮製品で固めたパンクスタイルは真夏に見ると余計な暑さを感じる。

 

「うげっ。あの口の悪さ……」

 

アキナさんですね」

 

「相変わらずでしょ。でもあれくらいじゃないと外周区じゃ舐められるのよ」

 

 ガゴン

 

 増援に来たメンバーの紹介を終えた途端、天井裏から何かを叩くような音が聞こえる。鈴音だけではない。美樹も未織もティナも、灰色の盾も分かるくらい音が大きくなっていく。

 ニッキーは空になった弾倉をポケットに入れ、89式5.56mm小銃に次の弾倉を装填。天井に向けてフルオートでトリガーを引いた。白い天井に黒い斑点が次々と撃ち込まれる。

 仕留めたのだろうか、叩く音が聞こえなくなる。不気味なまでの静寂の中、ニッキーが空になった弾倉を外し、次を装填する。

 突如、天井が崩落した。同時に人影と黒い龍が舞い降りる。

 

死龍(スーロン)……ッ」

 

 死龍の襲来-―それはエールの敗北を意味していた。




オマケ

司馬未織のウワサ

寝る前に自作の蓮太郎ぬいぐるみ、木更ぬいぐるみ、延珠ぬいぐるみに仕事の愚痴を零すのが日課らしい。




次回「ヒーローは6年遅れてやって来る」

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