ブラック・ブレット 贖罪の仮面   作:ジェイソン13

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・室戸菫のウワサ
小学生時代の写真や映像は(本人曰く)国家機密らしい。

・三途麗香のウワサ
小学生時代は菫と一緒に黒い眼帯をつけて「邪王爆龍姉妹」を名乗っていたらしい。


東京エリアの守護者

 時は遡り、昼下がりの住宅街。そこから少し離れたビルの非常階段から義搭壮助は双眼鏡で日向家を覗いていた。

 事件現場の周囲には規制線が張られ、警察官が立っている。その更に周囲をマスコミが詰めかけており、ごった返す報道スタッフとアナウンサー、テレビ局の車両で道が塞がれている。お陰で除染作業に来た専門業者は機材を搬入できず、パトカーが無理やり人混みに入って道を開ける。モラルの無い記者はハシゴで勝手に近隣家屋の屋根に登り撮影を強行。警察官の一人が拘束する一幕も見られた。

 

 ――やっぱり……、侵入経路が見当たらない。

 

 壮助が双眼鏡で見ていたのは日向家の壁や屋根だった。夫妻がガストレア化し処理した後、壮助は屋内で感染源ガストレアを探したが見つけられなかった。侵入経路すら不明のままだった。こうして外から壁や屋根を見て回っても結果は変わらなかった。

 事件から約14時間が経過した今でも民警から討伐報告が上がってきておらず、報道も明言こそしていないものの日向姉妹が感染源ではないかという見方を仄めかしている。

 

 壮助は「ふざけんな」と吐き捨てる。呪われた子供の体液にはガストレアウィルスが含まれ、それは様々な形で家族や同居するプロモーターの体内に侵入している。しかし、ウィルスは細胞膜を突破することが出来ず、ほぼ100%の確率で体外に排出される。赤目から人間に感染するなら、同居するプロモーターはガストレア化していないと説明がつかない。

 

 仮にガストレアが居たとして、どうやって夫妻に感染させたか。似たようなケースなら1年前に経験している。マンションの貯水タンクに潜んでいたタコ型ガストレアが水道管を通って蛇口から触手を出し、住民を補食していた事件だ。あれが補食でなくウィルスの注入なら夫妻と同じ事件を起こすことが出来る。だが、マンションと違い日向家は公共水道しか通っておらず、監視体制上そこにガストレアが潜んでいたとは考えにくい。地上でも日向家の周辺にガストレアが隠れられるような場所はない。

 日向家周辺に仕掛けたカメラも回収したいところだが、さすがに警察に見つかってしまう。もう鑑識が見つけて、本体を回収しているかもしれない。

 壮助は苛立ちのあまり頭を掻く。

 

 ――やっぱ、馬鹿が何を考えても答えは出ねぇな。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 勾田大学病院 旧病棟4階

 昨晩から室戸菫は一睡もしなかった。森高詩乃にヘッドシザースホイップをかまされ痛めた首を労りながら、彼女から採取した毛髪、唾液、血液の解析結果を待っていた。彼女専用フロアとなった旧病棟4階の実験機器がフル稼働し、その駆動音がフロア中に響く。とても眠れる環境ではない。

 菫はビーカーに注いだコーヒーを飲みながら、ウェブニュースを眺める。

 テレビ・ラジオと同様にニュースサイトも掲示板も掲示板まとめサイトも日向夫妻のガストレア化と日向姉妹の逃走、感染源ガストレアの行方不明で話題が持ちきりになっている。

 菫は画面を睨みつける。普通なら、家族4人がガストレアに襲われて両親がガストレア化、姉妹の侵食率が上がるといった論理になる筈だが、まるで姉妹のウィルスが両親に感染したと言わんばかりの論調になっている。「いやいや、それはないだろう」「ガストレアが4人を襲ったんだろ」と否定的な意見も多いが、前者の主張が目立つようなレイアウトになっている。知識のないものが見たら簡単に騙されるだろう。

 

 菫は画面を睨む。

 

 ――日向教授。これでコペルニクスの気持ちが分かっただろう。科学に矛盾しても真実は成立する。

 

「動くな」

 

 背後から腕が伸び、菫の首を固める。目の前にはナイフが出され、彼女を脅しかける。

 

「スマートフォンをデスクの上に置け」

 

 言われるがまま、菫はポケットに手を伸ばしてスマートフォンを机の上に置いた。

 彼女の首を固める腕はゆっくりと背後に引っ張る。タイヤ付きのオフィスチェアでスムーズに移動し、デスクが遠のき、スマートフォンにもキーボードにも届かない場所まで引っ張られる。

 

「両手を挙げて、ゆっくりと振り向け。声は出すな」

 

 首の拘束が解かれる。同時に首を固めていた腕と彼女の前にナイフを出す腕が背後へと消えていく。

 言われた通り、床を蹴ってオフィスチェアを回転させる。左から右へ移動する研究室の景色の中に壮助がスライドして入って来た。

 

「やあ。義塔くん。乙女の部屋にノックもせず入って背後から襲うなんて、君は女の子の扱い方がなってないな」

 

「女の子って歳じゃないっすよね。ゾンビドーナツババア

 

「酷い言い草だね。これでも昔はケータイ小説を読んで号泣して、恋に恋して、クラスの男子を見て胸をキュンキュンさせて、こっそり下駄箱にラブレターを入れた時代だってあったんだ」

 

「……室戸先生。それネタ、どのエロゲーから持ってきました? 」

 

『美少女だらけの女子サッカー部の監督になりました。

~君のゴールに僕の棒ールをシュートする超エキサイティンな夏合宿 編~』

 

 あまりにも斜め上過ぎるタイトルに壮助は言葉が出なかった。日本最高の頭脳がお馬鹿なエロゲー攻略に費やされる現実に呆れるしか無かった。

 

「それにしても、いきなりナイフをチラつかせるなんてどういう了見なんだい? 」

 

「色々と追われる身なんで、警備に連絡されたくなかったんすよ」

 

 壮助は菫の背後にあるデスクトップPCの画面に目を向ける。多数のウィンドウが表示される中で見覚えのあるニュースサイトのレイアウトが見えた。そのタイトルが日向家の事件であることは大きく書かれたタイトルで分かった。

 

「そのニュースを見てるなら、話が早いっすね」

 

 

 

 

 

 

 壮助は勝手にパイプ椅子を出して座り、事のあらましを菫に話した。とりあえず鈴音と美樹が無事なこと、簡易的な方法だが彼女達の侵食率が10%前後であることを話すと彼女は安堵の溜め息を吐く。

 

「そうか。あの子達は無事か」

 

「知り合いなんすか? 」

 

「いや、遠くから何度か見かけただけだ。あとは目の手術の時ぐらいかな」

 

「先生、関わっていたんすね」

 

「ああ。彼女の目の治療に必要なデータを日向教授に提供した。幸い、薬剤によって制御されたガストレアウィルスがヒトの器官を再生させる臨床データはあったからね」

 

「よくそんなもん持ってたっすね」

 

『ガストレア化するかもしれないから出来れば使うなよ』と言って渡した薬を『了解。全部同時注入! ! 』ってことをやらかしたバカのお陰だ」

 

「……どんなバカだよ」

 

「里見蓮太郎っていう名前だったね」

 

「…………」

 

 そうなると蓮太郎は2度までならず3度も鈴音を救ったことになる。壮助は2人の間に偶然ではなく運命めいたものを感じる。自分があの空港に居たのも、偽の護衛任務に呼ばれたのも、橋渡しとしての役目を果たす為だったのではないかと感じる。

 

 心の中で暗雲が燻った。

 

 自分に嫉妬する権利などないと言い聞かせた。

 

「それと詩乃のことなんだけど、さっきも言ったように毒にやられて危ない状態だ。天下の勾田大学病院なら、サソリ毒に効く薬とかあるんじゃないすか? 」

 

 菫は静かに首を横に振った。

 

「サソリ毒と言っても種類があるし、呪われた子供由来となればガストレアウィルスで毒そのものが変異している可能性がある。未知の生物の毒と同じだ。既存の解毒剤が効くかどうか分からないし、逆に毒を強くしてしまうかもしれない。仮に君が詩乃ちゃんを連れて来たとしても解析だけで最低3日はかかる。外周区の医者が言っていたように本人の解毒剤を狙うのが一番現実的だろう」

 

「…………っ」

 

 壮助は苦虫を嚙み潰したような顔をする。ケガの酷さもそうだが、精神的にも追い詰められている。最悪の事態が彼の頭の中で浮沈している。

 6年前、延珠が行方不明になった時の蓮太郎と同じ顔をしていた。昨日の詩乃の身体のことも彼に話そうと菫は思っていたが、とても聞き入れられる精神状態ではないと考え、口を閉じた。

 

「分かったっすよ。解毒剤はこっちでどうにかする。先生、一つ頼みを聞いてくれないっすか? 」

 

「聞けるものであれば」

 

「ここにある侵食率検査機、使えないすか? 」

 

 壮助は入院していた頃、検査中の暇潰しにと菫の前の研究室について聞かされたことがある。地下の霊安室を改造して使用していたこと、蓮太郎を買い物係としてパシリにしていたこと、そこには個人的に購入した侵食率検査機があり、延珠の検査を行っていたことも聞かされた。

 勾田大学病院旧病棟4階に移った今でもその機材は残されている。しかし、型が古いうえに延珠が死亡し、ティナが東京エリアを去った5年前から使用していない。

 

「機材があることにはあるが、5年振りに稼働になる。ちゃんと動くかどうか怪しいところだ」

 

「マジか……」

 

「侵食率の証明は私の伝手で手を打ってみる。君はそれ以外のアプローチを考えるんだ」

 

「それ以外のアプローチ……?」

 

「今の2人の状況は冤罪のようなものだ。両親殺しの罪を着せられ、疑いの目を向けられている。彼女たちの潔白を証明することも大切だが、もう一つするべきことがある。さてそれは何だと思う? 頭が悪くてガラも悪い江戸川コナン君? 」

 

「真犯人を見つける…………感染源ガストレアか」

 

 なんとも民警らしい至極まっとうな答えが出て来た。そこで壮助は、ここに来た目的をはっと思い出す。

 

「そうだ。先生。ガストレアにハムスターのような小動物、それか虫ぐらいのサイズって存在するんすか? 」

 

 菫は驚きのあまり目を丸くすると、呆れ果てて大きく溜め息を吐いた。

 

「逆に聞くが、君は民警をやってきてそんなガストレアに遭遇したことはあるのかい? 」

 

「いや、無いっすね」

 

 ティナに未踏領域に蹴落とされ1ヶ月間サバイバルした日々も思い出すが、自分より小さなガストレアを見ることは無かった。もし居たとしたら、知らない間にウィルスを注入されて、ガストレア化していただろうと今更ながら身震いする。

 

「義塔くん。生物のお勉強の時間だ」

 

 菫は部屋の隅にあったホワイトボードを壮助の前に持って来きて、書いてあった謎の数式を消していく。

 

「生物の目的は『遺伝子の伝達』、『子孫を残すこと』だと言われている。これは生物の進化にも言えることで、『個体の生存能力を高めることで子孫を残す』または『大量の子孫を作ることで1匹でも生き残る確率を高める』の二種類に大別することが出来る。ガストレアの場合は前者だ。彼らは自らの身体を大きくすることで個体の生存能力を高めている。世界中で様々な形態のガストレアが報告されているが、その全てに共通することがある。それは、モデルとなった生物より大型化していることだ。

 

 まず答えから言おう。義塔くん。君が言っていたようなハムスターや虫サイズのガストレアは存在しない。仮に居たとしてもそれは私達にとってガストレア足り得ない」

 

「どういうことっすか? 」

 

「通常の生物の進化には、小型化という選択肢がある。『逃げること』、『隠れること』に適した身体になり、生存に必要とされるエネルギーを削減することで餌の少ない環境でも生きられるように進化する。6500万年前、隕石の衝突で恐竜が絶滅し、哺乳類が生き残ったのも身体が小さく、必要とする餌も少量で十分だったからだと言われている。

 

 では何故、多様な遺伝子を持つガストレアは、小型化という道を選ばなかったのか。――原因はこれだ」

 

 菫はグロテスクな肉塊と液体が詰まったケースを壮助に見せる。ケースは長さ50cmほどあり、菫は両手で抱えていた。ケースには「超危険物」「持ち出し禁止」「失くしたら、まず室戸先生を疑え」とシールが貼られている。

 

「ガストレアの体内にあるウィルス嚢のホルマリン漬けだ。ガストレアは体内で生成したウィルスをここに貯蔵している」

 

「けっこうデカいっすね」

 

「これが最小サイズだ。これ以下となるとウィルス嚢として機能しなくなる。義塔くん。想像してみよう。このウィルス嚢の周りに五臓六腑をつけ、骨格をつけ、筋肉をつけ、皮膚や毛を纏わせる。どれくらいのサイズの動物が出来上がると思う? 」

 

「大人の大型犬ぐらい? いや、それより少し大きいぐらいか」

 

「正解だ。それが、人をガストレア化させる最小のガストレアだ」

 

 その答えを聞き、壮助は目を見開く。水道は勿論のこと、周辺の道路も裏路地も地域の守護を担当する我堂民間警備会社が最新設備を投入して目を光らせている。仮にガストレアが大型犬サイズだったとして、彼らがそれを見逃すとは考えにくい。それだと感染源ガストレア(真犯人)が存在しないことになる。

 

 姉妹の潔白を証明する手段が無くなってしまった。

 

「…………先生。この質問も笑われるかもしれねえけど、赤目から人間に感染することってあります? 」

 

「もしあったとしたら、赤目の子を身籠った時点で妊婦がガストレア化する」

 

「侵食率が形象崩壊直前だったら? 」

 

「形象崩壊直前までイニシエーターと寝食を共にしたプロモーターが、ガストレア化していないのを君は知っているだろう。それが答えだ」

 

 日本最高の頭脳を頼ってみたが、真相は闇の中から出て来なかった。昨晩からの疲れもあってか、壮助は項垂れる。少なくとも鈴音と美樹が無意識の犯人であることを菫が否定してくれたのがせめてもの救いだった。

 

 ――ああ。駄目だ。小難しい話ばっか聞いてたから頭が回んねぇ。

 

 天井を見上げていると壮助のスマホが小刻みに震える。意識がはっと目を覚まし、身体ビクリと反応する。身体が一気に熱くなるのを感じながら、通話ボタンを押した。

 

『義塔さん。スカーフェイスが出ました』――ティナの声だ。

 

「どこっすか? 」

 

『イクステトラです』

 

 壮助は驚愕した。スカーフェイス襲撃も想定してイクステトラに姉妹を隠す案を出したが、あまりにも早過ぎた。マンションでの会話を誰かに聞かれたか、エール達が尾行されていたのかは分からない。

 

 ――けど、仕事が早いのは好きだぜ。

 

 それは僥倖だった。詩乃が死亡するタイムリミットが迫っている中、解毒剤を持った敵が向こうからやって来てくれたのだから。

 

「俺もすぐに向かいます」

 

 そう告げて壮助は通話を切った。

 

「室戸先生。検査機の件、頼みます。あとこれ貰います」

 

 壮助はダンボールに入っていた超バラニウム合金繊維の束を勝手に取り、菫の返事を聞く前にカーテンと窓を開け、外に飛び出した。

 彼の行動を何とも男の子らしいなと呆れていた菫は、ここが4階だったことを思い出す。慌てて外を見ると、十数メートル離れた大木に飛び移り、肩から生やした黒い3本目の腕で枝を掴み、ゆっくりと地上へ降りた。

 

 ――壁と足裏に斥力フィールドを発生させて自分を飛ばし、斥力フィールドでバラニウム合金繊維を被うことでフィールドの変形を動きとして再現しているのか……。

 

 義塔くん。君はバカなのか、頭が回るのか、いまいち評価が難しいな。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 大学の敷地を出ると壮助は地面と足の間に斥力フィールドを形成し、5階建てビルの屋上まで飛び上がった。屋上に着地すると走って隣のビルにジャンプして移動する。オリンピック選手が届かない距離でも地面と足の間に斥力フィールドを作り、その反発力で自分を飛ばせば簡単に越えることが出来る。100m先のビルにだって一瞬で辿り着ける。着地の衝撃や摩擦は斥力フィールドで緩和することで解決する。

 これが、赤信号も渋滞も関係なく最短かつ確実にイクステトラに迎える移動手段だった。

 昼間なので建物と建物の間を飛び跳ねる自分の姿は人に目撃されるだろうが、イニシエーターや赤目ギャングがこうして移動しているのが頻繁に目撃される。見られても下の人達はそういった類だと思ってくれるだろう。

 飛び跳ねながら壮助はスマホで勝典に連絡を取る。

 

「大角さん。スカーフェイスが出た。イクステトラっす」

 

『分かった。すぐに向かう』

 

「俺もすぐに――

 

 

 

 

 

 飛来した矢が壮助を直撃した。

 

 

 

 

 咄嗟に斥力フィールドを展開させ矢尻の刺突を防ぐが、その運動エネルギーの相殺までは出来なかった。空中に飛び上がっていた身体は明後日の方向に飛ばされる。

 上下左右が目まぐるしく切り替わる中で壮助は全身を斥力フィールドでコーティング。反発の塊となった彼の身体は駅前広場の噴水に叩きつけられる。斥力フィールドは壊れ、緩和しても尚、その衝撃は身体の中に響く。

 全身水浸しになりながら壮助は立ち上がる。周囲の視線が集まり、ざわつきが聞こえる。当然だ。男が隕石のように降って来たのだから。

 大勢の足音とそれに合わせてガシャガシャと金属同士がぶつかる音が聞こえる。この状況で近づいて来るのだから味方の筈がない。

 顔を振って水を弾く。髪から滴る水を鬱陶しく思いながら目を開き、視界に入る全てを睨む。

 

 東京エリアではもう数少ない新幹線の駅、その前を鎧武者が並んでいた。ざっと見渡すと20人近くはいる。その半分は赤い瞳を持つ10代の少女、もう半分は20~60代の男女とばらつきがある。この年齢層からして、彼らが民警なのは一目瞭然だった。

 プロモーターが装着している甲冑――甲冑型の強化外骨格(エクサスケルトン)――に目を向ける。彼らの胸元には家紋と刀を組み合わせてエンブレムが刻印されていた。

 東京エリアの民警であれば、この紋を知らない者はいない。彼らが何者かであることを知った壮助は緊張で汗が湧き出る。

 

 我堂民間警備会社――東京エリア民警企業の最大手であり、最強の名を手にしている者達だ。その中でも甲冑型・強化外骨格を着用し、刀や弓矢など古風な武器を使う彼らは“古株”と呼ばれる存在であり、我堂長政と共に第三次関東会戦の地獄を戦い抜き、生き残った正真正銘の実力者たちだ。その証左として、ここにいる全員がIP序列1000位以内に入っている。

 事情を察した壮助はレイジングブルを放り捨て、両手を挙げる。

 甲冑姿のプロモーターが一人、壮助に近付いて来た。

 

「おい。オッサン。ここはいつから戦国自衛隊のロケ地になったんだ? 」

 

「随分と懐かしい映画を知ってるんだな」

 

「古い作品はレンタル料が安いんでね」

 

 最前列にいた壮年のプロモーターは刀を抜き、切っ先を壮助に向ける。

 

「義搭壮助。君には日向姉妹拉致およびガストレアウィルステロの嫌疑がかけられている。警察からの依頼により、君を拘束する」

 

「おいおい。天下の我堂様が税金泥棒どものパシリかよ。民警の時代終わったな。お前らのだ~い好きな我堂長政(ツルッパゲ頭)が草葉の陰で泣いてるぜ」

 

 壮助はニヤリと笑みを見せ、目の前にいる我堂のプロモーターを嘲笑する。これは社風なのか我堂の古株たちは血の気が多い。壮助の挑発に乗せられ、周囲のプロモーターとイニシエーターが次々と得物を構え、壮助を睨む。

 

「本当にあの姉妹が形象崩壊直前だと思うか? キッチリと定期検診を受けて、侵食率10%前後と言われていた子が、いきなり48%に上がると思うか? 」

 

「個人としては俄かに信じ難い話ではある。だが、事の正誤を決めるのは我々ではない」

 

「そうかい。この思考回路停止集団が」

 

「好きなだけ言えばいいさ。君も大人になれば、我々のことが分かる」

 

「さぁ? どうかな。明日死んでもおかしくない身の上なんでな。ああ、それと――

 

 

 

 

 

 

 

 ――時間稼ぎに付き合ってくれてどうも」

 

 

 

 

 

 

 

 突如、壮助が横に飛んだ。転がりながら放り捨てたレイジングブルを拾い、膝立ちになってリーダー格のプロモーターに銃を向ける。我堂のプロモーターは刀を向け、壮助は膝立ちで銃口を向ける。

 

「随分とお粗末な――

 

 我堂のプロモーターが吹き飛んだ。間欠泉のように噴水から水が横向きに噴出したのだ。その爆発的な威力は我堂のプロモーターと巻き添えになった数名の民警を壁に叩きつけ、彼らの強化外骨格をかち割った。

 壮助は自身の背後に斥力フィールドを作っていた。噴水に水を供給する口を塞ぐように作られた空間は、壮助が我堂の民警達を嘲笑している間、ひたすら彼の背中とモニュメントの間で水を溜め込んでいた。そして壮助が横に飛んで銃をとった瞬間、斥力フィールドを一気に縮小させ、同時に穴を開けた。結果、圧力をかけられた水は穴から一気に噴出した。原理としては水鉄砲とそう変わらない。しかし、斥力フィールドの縮小スピードと内向きのベクトルが異常なまでに高い圧力を生み出し、砲弾の如き破壊力を生み出した。

 

 我堂の包囲網に穴が開いた。足裏に作った斥力点で瞬時に跳び、崩れた人の壁を抜ける。

 強化外骨格を纏った巨漢が壁のように立ちはだかり、鬼が持つ棍棒を天に振りかざす。巨体と重装備に似合わず動きが早い。強化外骨格の性能だろうか。

 斥力点をもう一つ作って緊急回避。棍棒は1秒前壮助がいた場所に振り下ろされ、地面に亀裂が入る。

 

 ――さっきの矢といい、こいつら俺のことガチ殺しする気だろ! !

 

 棍棒を回避すると我堂のイニシエーターが迫る。一人は薙刀を、もう一人は矛を向けて迫る。拘束するとは何だったのか。その切っ先は確実に壮助を串刺しにする軌道を画く。

 

黒膂繊維切断装甲 常夜境断(トコヨサカイダチ)

 

 服の中に隠れていた超バラニウム合金繊維が壮助の両腕に沿うように飛び出した。手首から先を被い、伸ばした指先を延長するようにバラニウム繊維が絡み合い、ブレードを形成する。

 両腕を振るい、薙刀と矛を切断。ブレードを形成する超バラニウム合金繊維が物体の隙間に入り込み、物体と物体を引き離す力(斥力)によって両断する。

 

 未知の力を目の当たりにしたイニシエーターはバックステップで引き下がる。更に一撃加えて戦闘不能にしようと思ったが、流石は我堂のイニシエーター。判断が早い。

 彼方から矢が飛来。背後から迫るそれを()()した壮助は半歩動いて回避。矢は彼がいた空間を通り過ぎ、アスファルトに亀裂を入れながら突き刺さる。

 

「殺意がダダ漏れなんだよ。バァーカ」

 

 浮上滑走点展開 雷駆(イカヅチガケ)

 

 足裏に斥力フィールドを展開し、壮助は地を滑る。ティナの特訓で見せた人間リニアモーターカーだ。スピードスケートとは比にならない速度で再び巨漢に向かうと、速度を落とすことなく、身を倒して彼の股下をスライディングで潜り抜ける。

 地面と自分の間に作った斥力フィールドで摩擦をほぼゼロにし、滑りながら立ち上がって駅構内を滑走する。夏休みということもあり、まばらに通る学生たちを避け、彼らの悲鳴を尻目に駆け抜ける。

 背後から刀を持ったイニシエーター達が駆ける。7~8人はいるだろう。我堂の古株ということもあって速い。

 完全に死角だがそれを知っていた壮助はタイミングを見計らって斥力点で方向転換、改札機の上を飛ぶ。何が起きたか分からず、駅員があ然とする仲、更に数人の少女が切符なしで改札を通り過ぎた。

  斥力フィールドを応用した高速移動に我堂のイニシエーター達も食らいつく。彼女達も利用客を避けて、赤目の身体能力を駆使して壁を走る。

 階段を飛び出して地上3階のホームに着地。追いかける我堂のイニシエーターから逃れようと更に斥力点で自分を飛ばし、距離を稼ぐ。

 

≪間も無く4番ホームを貨物列車が通過します。ホームからはみ出さないようご注意下さい≫

 

 ――タイミング完璧。

 

「食らえ! ! バラニウム入り空き缶型グレネード! ! 」

 

 壮助は振り向き、空き缶型グレネードを放り投げる。彼が発した声、言葉、行動に周囲の一般客の注目が集まる。

 我堂のイニシエーター達がグレネードを警戒し、引き下がろうとする。

 

「みんな! ! 逃げて! ! 」

 

 一人の少女は足を止めず、グレネードに飛び込んで覆い被さった。周囲に一般人がいる。自分を盾にしなければ彼らがグレネードの巻き添えを受けてしまう。人々を守る民警としての誇り、我堂のイニシエーターとしての矜持が彼女をそうさせる。

 

 

 

 グレネードは爆発しない。それどころか異様なまでに軽い。恐る恐る空き缶型グレネードを持ち上げ、中を覗く。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、ただの空き缶だった。

 

 

 

 

「自分の命は大切にしろ! ! バーカ! ! 」

 

 

 4番ホームを通過する貨物列車、そのコンテナにしがみつく壮助から、嘲笑が聞こえた。

 

 

 移動する列車の振動と風圧に飛ばされそうになりながら、壮助はバラニウム合金繊維を編んで作った第三の腕を伸ばし、コンテナの上に登る。真夏の快晴、青い空を仰いで一息吐く。

 コンテナには司馬重工のマークが入っていた。列車の移動方向からして、行先はイクステトラがある工業区画だろう。

 スカーフェイスと戦うまでの束の間の休息を取ろうとした矢先、車両の上空をヘリが通過する。

 我堂民間警備会社のロゴが見えた。

 前方の車両に()()が降りた音が聞こえる。

 壮助は立ち上がり、前方のコンテナ車に立つ人影を睨む。

 

 2037年だというのに彼女は藍色の袴と黒色の上衣を纏っていた。檸檬色の装飾と斑点が夜に浮かぶ三日月と蛍、照らされる芒(すすき)を彷彿させる。日本人形のような整った顔立ちと静かな佇まいとは対照的に、後ろで束ねた濡烏の長髪が風に靡き荒ぶる。

 

 目を引いたのは彼女の得物だ。柄の両端に刀身がある双刀と呼ばれる武器。通常の刀よりも使用者には高い技量と2倍重い刀を振るう腕力が求められる。そんな奇特な得物を使うイニシエーターはそうそういない。彼女の背格好からして、名乗らずとも誰だか分かった。

 

「チクショウ……。今日の我堂は出血大サービスだな」

 

 

 

我堂民間警備会社所属イニシエーター IP序列479位

 

壬生朝霞(ミブ アサカ)

 

 

 閉じられていた彼女の瞼が上がり、赤い瞳を見せる。

 

「私が何者で、何故あなたを追うのか、語る必要は無さそうですね。お覚悟を――」

 




告知

来月、「俺達でブラック・ブレットを盛り上げようぜ」ということで来月、二次作者が揃って短編をハーメルンに掲載するイベントが開催されます。
読み専の方も物書きの方も興味がありましたら是非ともご参加ください。

概要は、主催者の紅銀紅葉様の活動報告をご覧ください。

 URL:https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=242070&uid=198071





次回「瞬刃剛斬の麗武者」

犯罪者として逃げる貴方にイニシエーターが引導を渡しに来た。その結末は?

  • ティナさんに撃たれる。
  • 弓月さんに縛られる。
  • 朝霞さんに斬られる。
  • 警察署に出頭する。
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