ブラック・ブレット 贖罪の仮面   作:ジェイソン13

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・日向鈴音のウワサ

よれよれになったパンツを見ると「いや、まだ使える」「駄目よ。捨てましょう」と30分ほど葛藤するらしい。

・前回のアンケート結果について
約70%が「そんなことより2人のおっぱい揉みたい」に投票し、圧倒的一位になりました。
まぁ、そうなりますよね。私だってそうします。


法の外側 ①

 東京エリア西外周区

 

 ガストレア大戦前、神奈川県と呼ばれていたその地区は廃墟の森と化していた。ガストレア大戦を生き延びた建造物が数多く残り、真夏の太陽がひび割れたコンクリートやアスファルトを照らしていた。

 亀裂が段差となり、隙間から雑草が飛び出した道を1台のジープが走る。我堂民間警備会社のプロモーター・小星常弘の愛車だ。内地で壮助を回収した時は清潔さを感じられる綺麗なボディだったが、今は戦場を駆け抜けたかのように姿になっている。ここまでかなりの悪路を走って来たのだろう。

 

 常弘がハンドルを握っていると、どこかの紛争地帯よろしく武装した呪われた子供の一団とすれ違う。自衛隊や旧・在日米軍の流出した武器を抱えており、その重武装さに常弘と朱理はぎょっとする。

 撃って来ないことを祈りながらアクセルを踏む。呪われた子供達はジープを睨みつけはしたが、撃ってくることは無かった。

 常弘は大きく溜め息を吐く。

 

「はぁ~。外周区ドライブって、心臓に悪いなぁ」

 

「本当に手を出して来ないのね。灰色の盾のマーク入れるとか、アンタにしてはいいアイディアじゃん」

 

 朱理は助手席から振り向き、珍しく壮助を褒める。後部座席に座る壮助は顔色が悪くなっており、汗も多くなっている。手で脇腹を抑えており、出血でシャツが血で赤く滲んでいた。

 

「大丈夫? 」

 

「問題無ぇ。テメェんとこの堅物女が手加減しないせいで、昨日の傷が開いただけだ」

 

「いや、それ大丈夫ってレベルじゃなさそうだけど」

 

「死んだら……朝霞(あいつ)に靴下の片方が見つからない呪いをかけてやる」

 

「冗談言ってる場合じゃないと思うけど」

 

「朝、登校前に靴下が見つからなくて慌てる姿が目に浮かぶわ~。あっははははは――――痛っ! !

 

 段差を乗り越え、車内が縦に揺れる。喋っていた壮助は舌を噛み、座席の上で悶絶する。

 

「おい……社長付き運転手。もっと安全運転しろよ。傷が増えるだろ」

 

「最短で向かっているんだから勘弁してくれ」

 

「アンタがくれた地図だとそろそろの筈なんだけど……」

 

 朱理が窓から外を見る。元は住宅街だったのだろう。大戦前の家屋がまだ残っており、状態も悪くない。廃虚には縄張りを示すマークがスプレーで描かれており、ジープと同じ灰色の盾のマークも見えて来た。

 

「コの字型マンション…………そこが、連中の拠点だ」

 

「あそこか」

 

 常弘がハンドルを握りながらフロントガラス越しにバンタウを確認する。ガストレア大戦前に建てられたマンションだったが、今やその面影はない。大戦後に廃材を使った増改築が施されており、見張り台や防壁、ゲートらしきものが見える。その姿はかつての九龍城砦を彷彿させた。

 

「近づいたら出迎えが来るから……、あと頼む」

 

 ドサリと倒れる音がした。朱理が振り向くと壮助が後部座席で倒れ、シートと足元のマットをで赤黒く染めていた。

 

「ちょっ! ? バカヤンキー! ? 」

 

「義塔! ! しっかりしろ! ! おい! ! 」

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 目を開けた時、今朝と同じ光景が目に映った。何らかの液体が付着して染みがついた天井、ヒビの入ったコンクリート、切れかけてカチカチと鳴る蛍光灯――そこは、バンタウの病室だった。

 

 

 

 

 

「おはよう。壮助。また無理したんだね」

 

 

 

 

 

 ベッドの右脇にある椅子に詩乃が座っていた。背後から蛍光灯に照らされ、陰となった綺麗な顔が微笑みかける。

 壮助は目を見開いた。ティナから解毒剤を手に入れたことは聞いている。自分より先に到着した彼女が詩乃に使ったことも当然考えられる。それでも目の前の光景が夢や幻覚の類ではないかと考えてしまう。

 壮助は手を伸ばし、詩乃の顔に触れる。感触を、体温を感じ、彼女が実在していることを確かめる。

 

「詩乃……。お前、大丈夫……なんだよな? 」

 

「うん。ティナとエールが持って来た解毒剤で治った」

 

 壮助は感極まって涙を流し、咄嗟に左手で目元を隠す。それでも震える口元と啜る音で感情を隠すことは出来なかった。

 

「良かった。本当に……良かった」

 

「壮助。泣いてる? 」

 

「ああ、泣いてるよ……。お前の食費に苦しめられる日々が……また来ると思うと、涙が出るよ」

 

「うん……。またいっぱい食べるから、よろしくね」

 

 詩乃は自分の頬に触れる壮助の手を握る。何かに斬られた傷、割れたり剥がれたりした爪、赤く滲んだ絆創膏と包帯で痛々しい姿になっていた。

 胸の奥で重圧(プレッシャー)が生まれる。自分のせいで彼を戦わせてしまった。イニシエーターとしての役目を果たすことが出来なかった。半年前の病室で「私が守る」と言っていながら、守られる側になってしまった。

 

「ごめんなさい。私のせいで……。お詫びに私のこと好きにして良いよ」

 

「それじゃあ…………俺の手をニギニギするのやめてくれないかな。傷に当たってちょっと痛い」

 

「あ、ごめん」

 

 詩乃は思わず手を離す。壮助の手がベッドの中に戻っていく中、もっとセクシャルな要求をしてこなかった彼の意気地の無さに頬を膨らませる。

 

「え? あれ? ()()! ?

 

 壮助は突然、目を見開いて上体を起こした。その衝撃で身体の各部が軋み、彼はお腹を抱えて悶絶する。痛みに耐えながらも片目を開き、詩乃を見る。

 

「お前、その()()……」

 

「ああ、これ? 」

 

 詩乃が左手をかざす。昨晩、レイジングブルで吹っ飛ばしたことなど嘘のように彼女の手は綺麗にくっついていた。指一つ欠けていない。手術痕もなかった。

 

「すげぇな。あのオッサン。くっつけたのかよ。傷跡一つ無ぇじゃねえか」

 

「あー……いや、これ、()()()()()

 

「は? 」

 

 

 

 ――俺のイニシエーターが何を言っているか分からない件。

 

 

 

「起きた時は『壮助に手取り足取り介護(プレイ)して貰えるから、これはこれでありか』って思っていたんだけど」

 

「おいコラ。介護をプレイって言うな」

 

「でも、ご飯食べる時に思ったんだよね。『あ、皿が持てなくて不便』って。そしたら骨がビュッて生えてきて、神経とか肉とかがぶわーって出て来て、元に戻った

 

 呪われた子供には人間を遥か超えた治癒力を持っている。多少の傷なら一瞬で消え、血肉が抉れても時間をかければ後遺症も無く完治する。しかし、無くなった部位が完全に再生するという話は聞いたことが無い。手足を失った元イニシエーターを日常的に見かけるぐらいだ。

 例外として、プラナリアの因子を持つイニシエーターが驚異的な再生能力を持つという話を聞いたことがあるが、詩乃の保有因子はマッコウクジラであり、その例には当たらない。

 

「お前、ゾンビドーナツババアに身体診て貰った時、何か言われなかったか? 」

 

「特に何も」

 

 専門家の菫にも分からないことはあるのか、それとも詩乃が嘘を吐いているのか、どちらにせよ彼女の手が元に戻ったという事実は喜んでおこうと、壮助は考えるのを諦めた。

 

 

 

 

「目が覚めたんだね」

 

 扉を開け、医師の倉田が入ってくる。倉田は壮助の近くに座ると両手で首筋を押し、目にライトを当てて瞳孔の動きを確認する。

 

「うん。問題なさそうだ。気分はどうかな? 」

 

「全然、大丈夫っす」

 

「それは良かった。君が死んでしまったら、“あれ”の処分に困るんでね」

 

“あれ”?」

 

 倉田は部屋の奥に行くと、小型のクーラーボックスを持って戻って来た。

 

「はい。これ」

 

 倉田に差し出されたクーラーボックスを壮助は受け取る。両手で持つことが出来るサイズ、そこそこの重みが感じられ、少し揺らすと中身が転がるのが分かる。

 

 

 

 

「これ、何?」

 

 

 

詩乃ちゃんの手

 

 

 

 

 壮助の全身にぶわっとした悪寒が走り、全身に鳥肌が立った。

 

「手術でくっつけようと思って、冷凍保管してたんだ」

 

「捨てといて」

 

 倉田にクーラーボックスを突き返そうとするが、詩乃の視線が刺さる。蛇に睨まれた蛙のように壮助は硬直し、伸ばした手をクーラーボックスと一緒に引き戻す。

 

「え? 捨てるの? 何で? 」

 

「いや、捨てるよ。だってもうお前、生えてるだろ。それとも三本目を生やす予定でもあるのか? 」

 

「だって、私の手だよ。遠慮して本物の私にはさせられない()()()()()()()()()()()をその手にさせられるんだよ? 」

 

「キモい。発想がサイコ過ぎてキモい」

 

「それを私だと思って肌身離さず持ってね。ご利益あるよ。多分」

 

「どこの日本昔ばなしだよ! ! こんなもん持ってたら、職質で人生終了だよ! ! 」

 

 手を捨てるかどかで2人が口論する中、倉田は困り顔でクーラーボックスを手に取る。

 

「とりあえず、冷凍庫に入れておくね」

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 外の空気を吸いたいと思い、壮助は病室を出た。夕暮れの赤く染まる西外周区の廃墟群を眺めながら、バンタウの通路を詩乃と一緒に歩く。壮助は今日、自分が見聞きしたものを、詩乃は解毒剤を投与された際にティナから聞いた話を互いに伝え合う。

 

 

 

「義塔さん」

 

 

 声をした方を振り向くと、両手に布を抱えた鈴音が駆け寄って来る。姉妹が無事であることは聞かされている。しかし、その姿を直接見たことでようやく壮助は心の底から安堵する。嬉しさのあまり、緩みかけた表情を引き締める。

 

「良かった。歩いて大丈夫なんですか? 」

 

「ああ。見た目ほど大したことねえよ。まぁ、左手は当面使えないけどな」

 

 朝霞との戦いで彼女に折られた左腕はギプスで固定され、包帯で首から吊り下げられている。自分達のせいで、自分が戦えなかったせいで、一番弱い()()である彼に戦わせてしまった。その自責の念が鈴音と詩乃に圧し掛かる。

 

「鈴音。それってもしかして……」

 

「え? ああ、これ義塔さんの服ですよ。血まみれになったので洗っていました」

 

 壮助が視線を下に向けると鈴音が抱えていた布が自分の服であることに気付く。白にドラゴンの意匠が施されたシャツがったが、そこに薄茶色の大きなシミが残っていた。

 

「ごめんなさい。血のシミが取れなくて……」

 

「その服、デザインがシンプル過ぎて物足りないと思っていたんだ」

 

 鈴音が口元を手で被う。しかし、微かな笑い声と共に彼女の身体が小刻みに震える。

 

「え? 今の笑うところ? 」

 

「いえ、その、ごめんなさい。言い回しがキザ過ぎて」

 

「笑うポイントそこかよ。気を遣って損したぞ」

 

 ゲシッ

 

い゛っ! !

 

 2人の会話を眺めていた詩乃が壮助の脹脛を蹴る。

 

「詩乃、今のちょっと痛かったんだけど」

 

「……」

 

 壮助が振り向くと詩乃は据えた視線を向けていた。どうして蹴ったのか彼女は答えない。訳が分からず、壮助が戸惑っていると詩乃は黙ったまま彼の足を蹴り続けた。

 

 

「なんだぁ? テメェら。まだ素面(シラフ)じゃねえか」

 

 

 数本のビール瓶を指に挟み、千鳥足のアキナが来た。顔は赤くなっており、頭がふらついている。その目は壮助たちを睨んでいる。明らかに酒で酔っている様子だった。

 彼女は呪われた子供、年齢は高く見積もっても16~17歳であり、東京エリアの法律では飲酒が禁じられている。酔った姿を平然と見せるアキナに鈴音は驚いていた。

 

「アキナさん。お酒、飲んでいるんですか? 」

 

「ああ。そうだよ。オラ。飲めよ。ルリコの驕りだ」

 

 そう言って、アキナは持っていたビール瓶を鈴音、壮助、詩乃に渡す。面倒なことになりそうと思い、3人は断らず瓶を受け取る。

 

「今日ぐらいパーッとやろうぜ。じゃねえとあいつが浮かばれねえ」

 

 壮助は彼女が何を言っているのか分からなかった。ふとバンタウの中央にある中庭に目を向けると、アキナと同様に灰色の盾のメンバー達が酒で盛り上がっている。

 

 その中に混ざるティナと美樹を見つけた。何かの催しだろうか、ティナは美樹と灰色の盾のメンバーに見守られながら、壁に向けてリボルバー拳銃を構える。その先には数個の缶が並べられている。

 ティナが引き金を引くと缶に銃弾が当たった。その衝撃で缶が飛ぶと“飛んだ缶”に2発目、3発目と弾丸を当て続ける。空き缶は空中で踊り続け、ティナが全弾を撃ち尽くすと地面に転がった。同時に歓声が上がり、下が一気に騒がしくなる。

 

「すごく賑やかだね。屋台とかあるのかな」

 

「対スカーフェイス戦勝記念パーティか? 」

 

 

 

 

 

「これ……葬式らしいです」

 

 ティナを讃える歓声で騒がしい中、鈴音の声が耳に入った。彼女に目を向けると沈む夕日と共に表情が暗くなっていく。その笑顔も無理をして作った仮面のように見えた。

 

「知り合いが死んだのか? 」

 

「はい……。昔、一緒に遊んでくれた友達でした」

 

「そうか……」

 

 壮助は閉口した。誰かを殺すことも、誰かが死ぬことも、生き残った者が涙を流すのも、飽きるほど見て来た。経験を蓄積すれば、遺族にかける言葉だって数パターンは用意出来るようになる。しかし、鈴音には何て声をかければいいのか分からなかった。

 

 

 

「鈴音。もうご飯食べた? 」

 

 

 壮助の悩みを知ってか知らずか、詩乃が能天気な質問を飛ばす。

 

「え? いや、まだですけど」

 

「だったら下に行こう。なんか焼肉パーティやってるみたいだし」

 

「詩乃。お前こんな時に何言って――」

 

 詩乃は手を伸ばし、諫める壮助の口に指を当てて黙らせた。

 

「笑って死者を送るのがここの流儀なら、私達もそれに従おう。誰かが泣くと、その人は心配して天国に行けなくなるんじゃないの? 」

 

 

 

 

『新入りー。そんなところウロウロしてどうしたんだー? 危ないぞー』

 

『え? 靴を片方落とした? 靴探しなら、このルリコ様におまかせー! ! 』

 

『ごめえええん! ! スズネええええ! ! 見つからなかったああああああ! ! 』

 

 

 

 

 かつての記憶、暗闇の中で聞こえたルリコの声が脳裏で浮かび上がる。母に買って貰った靴を失くし、探し回っている時に声をかけてくれた彼女は半日かけて探してくれた。そんな彼女なら詩乃の言った通り、泣いていると心配して天国に行けなくなるかもしれない。

 

「そう……ですね。行きましょうか」

 

 詩乃と鈴音が手を繋いで階段に向かう。

 詩乃は壮助が付いて来ないことに気付いて振り向いた。

 

「壮助は行かないの? 」

 

「2人は先に行っててくれ。

 

 

 

 

 

 ――――俺は、ちょっとエールに話がある」

 




未成年飲酒 ダメゼッタイ!!



オマケ カットした会話

壮助「お前、普通に俺のパンツとかも洗ってたんだな。男のパンツとか普通嫌じゃないか? 」

鈴音「同じ洗濯機で服や下着を洗った仲じゃないですか。今更ですよ」

壮助「間違ってないけど、その言い回しは誤解を生むからやめろ。俺が鈴之音ファンに殺される」




次回「法の外側 ②」

詩乃ちゃんの手をゲットした。

  • あんなことやこんなことに使う
  • 詩乃ちゃんの代わりとして肌身離さず持つ
  • 捨てる
  • とりあえず冷凍保管
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