ブラック・ブレット 贖罪の仮面   作:ジェイソン13

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次回予告からサブタイトルをかえてますごめんなさい定期



大角勝典のウワサ

1年前、腕相撲で詩乃に瞬殺されたことを未だに気にしているらしい。


秒速1800mの徹甲槍 前編

 旧神奈川県――西外周区の廃ビル群の中に入り、壮助、詩乃、常弘、朱理の4人は幹線道路だった通りを駆け抜ける。背後からジェット噴射した戦闘機型ドローンが追尾、更に後方から空飛ぶモノリスことジェリーフィッシュが迫る。

 最後尾を走る壮助が斥力フィールドの相反するベクトルを調節し自身の向きを反転。スケートの後ろ滑りのような体勢になる。

 ドローンからの銃撃を弾き、ジェリーフィッシュのレーザー砲の向きを確認する。いつ発射されても避けられるようにするためだ。今までフィクションだと思っていた兵器に対して斥力フィールドが防御装置として通用するかどうか分からない。避けるしか今のところ対抗手段がなかった。

 マーケットでの戦いから連続発射は2回まで、それ以降は20分ほどの冷却インターバルが必要になる。今のカウントから考えて、あと1発は即座に発射出来る状態だった。

 ジェリーフィッシュの下部に提げられたレーザー砲が動き、光が収束する。

 

 それはチャンスだった。

 

 斥力フィールドはその名の通り斥力=引き離す力を展開することでバリアを形成している。その性質上、「外部からの攻撃を弾く力」「内部からの攻撃を弾く力」が同時に作用しており、防御と攻撃を同時にすることは出来ない。それは同じ能力を持つ壮助がよく知っていた。

 

「やれ! ! 詩乃! ! 」

 

 単独で走っていた詩乃が反転。逃げる途中で拾った「徐行」の道路標識を握り、投げの構えに入る。目を赤く輝かせ、右腕の筋肉を一気に収縮――そして解放。音速のミサイルと化した道路標識が砲口(マズル)に飛翔する。標識は衝撃波を伴い、周囲の空気を巻き込んでいく。

 発射直前になって気付いたジェリーフィッシュは急速旋回。標識は砲口から少しずれて斥力フィールドと衝突、燐光を瞬かせる。詩乃の腕力が斥力フィールドの出力に勝った。圧殺の壁を破った標識はレーザー砲の側面を掠め、十数センチの装甲板を抉り取った。

 本体の旋回中に4度目のレーザーが放たれる。急激な回避運動で射線は壮助たちから数メートル右に逸れたが、アスファルトを溶かしながら軌道が修正されていく。

 

 「させるか! ! 」

 

 女の声と共に大気が動いた。空間を切断するかのように周囲の塵や埃を巻き込み、鎌鼬が斥力フィールドと衝突、轟音と燐光が瞬く。圧殺の壁が敗れ、鎌鼬がジェリーフィッシュの装甲板を打った。その衝撃でレーザーは修正と真逆の方角を向き、薙ぎ払う。射線上の建造物を消し飛ばし、自身の右隣りにある高層ビルを溶断。上半分が地面に滑り落ち、ジェリーフィッシュは数機の戦闘機型ドローンと共に瓦礫の雨の中に消える。

 粉々になったコンクリートが煙のように舞う。少し距離を取った壮助たちからはジェリーフィッシュがどうなったか見えない。

 晴天の中で藍色の衣を靡かせながら、壬生朝霞が駆け寄ってきた。

 

「すみません。遅くなりました」

 

「よく俺達の居場所が分かったな」

 

「小星さんから詳しい状況は窺っていましたから」

 

 壮助が常弘に目を向けると、彼の耳にマイク付きイヤホンが装着されているのが見えた。3人が自分の足(または斥力フィールド)で走っていた中、真人間の彼もただ背負われていた訳ではなかった。朝霞が迷わず来れる様にスマホで位置や状況を逐一報告していた。

 

「グッジョブ」

 

「どういたしまして」

 

 砂煙から銀色の金属板が飛び出した。それは奇跡的なバランスで地面をバウンドし、電動丸ノコギリのように回転しながら壮助の眼前に迫る。

 あわや顔面が真っ二つになる寸前で詩乃が金属板をキャッチした。

 それはジェリーフィッシュの下部に搭載されているレーザー砲の装甲だった。詩乃の攻撃で剥がれ落ちたものがビル倒壊の衝撃で飛ばされたのだろう。

 

「大丈夫? 」

 

「ああ。大丈夫――! ? 」

 

 詩乃が掴んだ金属板を見た瞬間、壮助は驚きのあまり目を見開いた。詩乃からそれを取り上げて両手で掴み、自分の顔の前に持って来て確かめる。

 

「これ、レーザー砲の装甲だよな……? 」

 

「うん」

 

「おいおい。マジかよ。何がどうなってんだ? 」

 

 一人で困惑し頭をかく壮助に周囲が不思議がる。それを尋ねる間も無く彼はポケットからスマートフォンを出し、ピザ製造機に電話をかけた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

「ウチに戦車あるぜ」

 

「マジですか」

 

 ティナは驚愕した。構成員30名ほどの中規模ギャングが自衛隊の戦車を持っているとはにわかに考えられなかったからだ。エールは自慢げに腕を組んでいるが、ティナは何かしらの解釈違いではないかと疑念を払拭できなかった。

 

「あの、エールさん。それトヨタのピックアップトラックに無反動砲を乗せたテクニカルでは無いですよね? 」

 

「自衛隊のえーっと、なんだっけ? ヒトマル式って奴。闇オークションで買ったんだよ」

 

 10式戦車――27年前に陸上自衛隊に配備された第3.5世代主力戦車である。44トンという軽量ながら高腔圧に対応した44口径120mm滑腔砲、炭素繊維やセラミックスを用いた複合装甲と増加装甲モジュールによって同世代の主力戦車に引けを取らない性能を誇る。最大の特徴はC4I(指揮・統制・通信・コンピュータ・情報機能)による情報の共有・連接であり、陸上自衛隊のネットワークに組み込むことでその真価を発揮する。自衛隊以外の組織で運用するためC4Iは使えないが、滑空砲と弾があれば十分な戦力になる。

 

 ティナはこめかみに手を当てる。現在も陸自の主力として活躍する10式が横流しされたとは考えにくい。大方、先のガストレア大戦か3度の関東会戦で放棄されたものを誰かが動かせるようにして売り捌いたのだろう。

 

『こんなもん買って何に使うんだよ! ! バカ! ! 』ってナオさんにガチギレされましたね」

 

 運転席でシートとミラーの位置を調整するトオルが茶化す。

 

「弾はあるんですか? 」

 

「ダーツみたいな奴が中に入ってたな。なんだっけ? エーピーなんとかって奴」

 

装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)のことですか? 」

 

「そう。それ。陸自くずれのメンバーが言ってたな」

 

 装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)――タングステン合金や劣化ウランの侵徹体を射出することで着弾時に装甲と侵徹体を流体化させ相互侵食を起こす運動エネルギー弾だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()能力を持っており、超バラニウム合金装甲のジェリーフィッシュにも十分な効果が見込まれる。

 お誂え向きの装備を目の前の犯罪組織が揃えている状況にティナは思わず笑みを浮かべる。残るは作戦ポイントの選定だが、ティナは既に場所を思い浮かべていた。

 ティナのポケットの中でスマートフォンが振動する。SNSやアプリの通知だったら無視するつもりだったが、数秒続くと電話だと分かり手に取る。

 

『ティナ先生。今すぐ司馬未織に電話してくれ』

 

 単刀直入に告げられた壮助の言葉にティナは困惑する。

 

「あの、どういうことですか? どうして未織さんに? 」

 

『あいつのレーザー砲、司馬重工のロゴが入ってるんすよ! ! 』

 

 

 

 *

 

 

 

 司馬重工第三技術開発局イクステトラ――局長室のデスクで未織は頭を抱え、「嗚呼」と小さな嘆きを口から零す。その様子を目の前で見ていた遊馬は両手を上げて肩をすくめる。

 

「司馬のお嬢さん。“例のあれ”とは何かな? 」

 

『エキピロティック・アクセラレーター』……通称『EP加速砲』や」

 

 その単語を聞いた途端、飄々としていた遊馬がぎょっとする。

 

「まさか6年前の……」

 

「御明察。6年前の第三次関東会戦、そこでアルデバランに使ったE()P()()()()()()()や。500ポンド爆弾20倍に匹敵する成形炸薬を砲身内部で爆縮させて、その熱と圧力を線形に制御して撃ち出す兵器や」

 

 6年前の第三次関東会戦で使用されたEP爆弾は爆縮反応による高圧状態の形成と爆発後に一定の空間内に熱エネルギーと力学的エネルギーを閉じ込める特殊な制御技術で成立している。それは司馬重工のみが持つ技術であり、グリューネワルト嬢を擁し、次世代バラニウム兵器を世界で唯一開発している博多黒膂石重工も持ち合わせていない。

 博多黒膂石重工を含む各国の企業や研究機関がEP爆弾の再現すら出来ていない中、司馬重工は発展型のEP加速砲を開発し、更に差を広げた。その事実は遊馬にとって()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「大層なものを失った割にはあまり深刻な様子ではないな」

 

「あれを1発撃つだけで1200万キロワット、原子力発電所が3時間かけてつくる電力が必要やったさかい技術流出はあっても本体の運用は不可能やと考えとった」

 

「なるほど。ジェリーフィッシュの動力ならそれをクリア出来る」

 

「それにしても――――」

 

 未織がノートPCを回して遊馬に画面を向ける。ジェリーフィッシュの基本スペックが掲載されたページが表示されており、ジェリーフィッシュの動力源と出力の数字に未織が指さす。

 

「これ、ほんまにこのスペックなん? 計算やら入力やら単位やら間違うとらん? 」

 

「その数値で間違いない」

 

 未織は睨み、遊馬はポケットに手を突っ込んで余裕の笑みを浮かべる。未織にもたらされたデータには動力源に関する部分が削除されている。彼女にはまだ明かすべきではないという博多黒膂石重工の意図が透けて見えた。

 おそらく、ここで問い詰めても答えを出しては貰えないだろう。未織はため息を吐くとノートPCのディスプレイを自分に向ける。

 

 デスクに置かれたスマートフォンが鳴る。画面には「ティナちゃん」と発信者が表示されていた。

 

「失礼するで」「お構いな――「もしもし、ティナちゃん? 」

 

 遊馬が応え終える前に未織はスマホを耳に当て通話に出た。

 

『未織さん。今、レーザー砲を持った機械化兵士に襲撃されています。司馬重工製です』

 

 結果だけを端的に述べたティナの言葉はあまりにも分かり易かった。

 悪夢が現実となり、未織は苦い顔をして額に手を当てる。十中八九、その機械化兵士はジェリーフィッシュだろう。本来は無人攻撃機空母として設計されていたそれに無理やりEP加速砲を搭載して戦闘用として運用しているのだろう。

 未織は博多の機械化兵士に関する情報を話して大丈夫なのか逡巡するが、遊馬の顔色を窺うまでもなく吹っ切れる。

 

「……ティナちゃん。それ、空飛ぶモノリスみたいな機械化兵士とちゃう? 」

 

 遊馬の方をチラリと見る。未織の決断を悪く思っていないようで「どうぞ」と小声を出す。

 

『そうですが、どうして未織さんがそれを? 』

 

「説明は後。そっちの状況と装備を教えてくれへん? 」

 

『場所は西外周区です。装備は10式戦車1輌、弾はAPFSDSが8発。あと義塔さんと森高さん、朝霞さんもこっちにいます』

 

「灰色の盾は? 」

 

『エールさんがメンバーを2個分隊に編成。装備はアサルトライフルがメイン。あと輸入物の機関砲や無反動砲を乗せたテクニカルを4台用意しています』

 

「敵の状態とEP加速砲――レーザー砲の運用を教えて」

 

『本体は無傷で健在。クモ型のドローンは殲滅しましたが、戦闘機型のドローンが3~4機ほど随行。レーザー砲は本体の下部に搭載。目測ですが有効射程は500メートル、発射は連続2回まで。それ以降は20分ほどの冷却インターバルが必要のようです。動画送ります』

 

 ティナの名義でメッセージアプリに着信が入る。言葉通り動画が添付されていた。そこには西外周区の廃ビル群を遠くから写した情景とSF映画のUFOのように何かを追い回すジェリーフィッシュの姿が映されていた。下部に搭載されたEP加速砲もしっかりと確認できる。

 

「ティナちゃん。まず、APFSDSだけでその機械化兵士――ジェリーフィッシュを落とすのは無理や。フィールドの出力が蛭子影胤のそれとはレベルが違い過ぎる。フィールドを貫通できても侵徹体の相互侵食が起きない速度まで落とされて終わりや」

 

『だったら、どうすれば……良いんですか……』

 

 未織は、自分が何を求められているのか理解している。敵の性能と味方の戦力を完全に把握しているのは自分だけだ。電話の向こうの彼女達を救う鍵を握っているのは自分だけなのだと。

 遊馬も助け船を出す様子はない。「お手並み拝見」と言わんばかりにポケットに手を入れて未織を見る。

 未織は深呼吸し、自身を落ち着かせる。頭の中で情報を整理し、ティナ達の装備でジェリーフィッシュを倒す算段をつける。

 

 

 そして、彼女の中に答えが見えた。

 

 

 ――首を洗うて待ってな。五翔会。司馬重工を……いや、()()を怒らせたらどないなるか、教えたる。

 




ごめんなさい。思った以上に長くなったのでジェリーフィッシュ戦決着は次回に繰り越しです。


第二回ブラブレ短編杯をやるそうです。
貴方もこれを気にブラック・ブレット二次創作者になりましょう。

詳しくは紅銀紅葉さんの活動報告をご覧ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=254286&uid=198071



オマケ 前回のアンケート結果

詩乃「ごめん。ガストレアとの戦いで一等地のビルを崩しちゃった」壮助「 」

 (10) 今晩から飯抜きな。
 (3) もう無理。ペア解消する。
 (1) 気にするな。ビルなんてまた建てればいい。
 (1) そんなことより天誅ガールズの話しようぜ。
→(16) 朝霞がやったように偽装しよう。

翌日の松崎民間警備会社

フルアーマーヘヴィーウェポン朝霞(※)「義塔壮助はどこですか! ! 隠れてないで出てきなさい! ! 」

ティナ「『ガストレアの謎を解いてくる』と言って七星村に行きました」

※装備
全身:司馬重工製外骨格(エクサスケルトン)先進技術実証試験型
右手:バラニウム双刀
左手:アサルト火縄銃
背中:アンチマテリアル火縄銃・高出力レーザー火縄銃


次回「秒速1800mの徹甲槍 後編」

次こそジェリーフィッシュ戦を終わらせるっ!!

ナオ『こんなもん(10式戦車)買って何に使うんだよ! ! バカ! ! 』エール「 」←なんて返した?

  • デカくて強そうだったから
  • 隣町のチームの拠点を吹っ飛ばしに行く
  • これで大型ガストレアが来ても安心だろ?
  • 電装品とかナオが欲しがるかなと思って
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