ジェリーフィッシュ戦の決着です!!(今度はマジ)
いつもの倍ぐらいの文章量になっていますので時間にお気を付けください。
ジェリーフィッシュが埋もれた場所から数百メートル離れたビル、そこの陰で壮助・常弘・朝霞の3人は1台のスマホを共有する。スマホのスピーカーから聞こえてくるティナの声に耳を傾ける。その間、詩乃と朱理はジェリーフィッシュとドローンの動向を注視していた。
『以上が未織さんからの情報と私が立てた討伐プランです』
ティナからの説明が終わる。ジェリーフィッシュの性能、未織がそれを知っていること、灰色の盾が10式戦車を持っていること、驚愕の情報が次から次へと明らかにされ、頭の中で整理するのに時間がかかった。
「あいつら戦車なんか持ってんのかよ……」
「どうりで僕達の仕事が減る訳だ」
常弘が肩を落とし、ため息を吐く。東京エリアにおけるガストレア侵入の通報件数は減少傾向にある。それは侵入するガストレアが減ったわけではなく、裏社会で売買されるガストレアの血や臓器、民警に売る討伐実績を目当てに外周区の赤目ギャングが狩っているからだとされている。法と社会の機能不全によって生まれた彼女達が対ガストレアの防波堤として機能しているのは皮肉な笑い話としてよく語られている。
『どうしますか? 』とティナが問いかける。
「それしか手が無いのであれば致し方ありません」と朝霞は即答する。
「俺も乗るっすよ」と壮助は挙手し、「右に同じく」と常弘も手を挙げる。
『分かりました。それでは手筈通りにお願いします』
*
『逃ゲた! ! 里mi蓮タ郎がこの僕から逃げたぞぉ! ! あHAはハはは! !逃げるなぁ! ! 』
ビルの瓦礫と煙を斥力フィールドで吹き飛ばし、ジェリーフィッシュは廃ビル群の中をホバリングする。低空飛行し、前方に付いているカメラでビルの隙間や中を覗き込む。狭い所に入れる戦闘機型ドローンがあるにも関わらず、彼は
弾丸が斥力フィールドと衝突し、ジェリーフィッシュの側面装甲に燐光が瞬く。戦闘機型ドローンが一斉に旋回、遅れてジェリーフィッシュがその巨体を旋回させ、カメラの照準を銃弾が来た方角に向ける。
「また負けに来たんですか? ポンコツ機械化兵士」
ビル街の隙間を通り抜けてティナの声が届く。彼女はエールがハンドルを握る大型バイクの後部座席に跨り、硝煙の上がるH&K MP5を向けていた。
『ティナ・スプラウトオオオオオオオオオオオオ! ! 』
戦闘機型ドローンがスラスターを吹かせて前進、ジェリーフィッシュ本体もローターの回転数が上がり加速する。
「鬼ごっこだ。しっかりケツに喰らいつけよ」
V型4気筒エンジンが唸りを上げる。クラッチレバーを握ると同時にバイクが爆発的に加速し、エールは廃墟都市に風を作る。ティナは振り落とされないよう必死にしがみついた。
*
「釣りは成功したみたいだな」
義搭ペアと小星ペアは地上からビルの陰からジェリーフィッシュの動向を見ていた。ティナの作戦通り事が進むのを確認すると聞き慣れた走行音が近づいて来る。常弘のジープ・ラングラーだ。
壮助達の前に止まると運転席の窓が開き、トオルが顔を見せる。
「ヘーイ。お客さーん。乗るかい? 」
「乗るも何も僕の車だよ」
「運転代わってくれ。私がナビする」
トオルが助手席に移り、常弘が運転席に座る。シートやミラーの位置を再調整し、スイッチを押して電動開閉式サンルーフを開く。
その間に朱理は後部座席のシートを倒し、収納スペースから自動小銃SIG SG550を出す。弾倉を装填し、
「じゃあ、行ってくるよ」
「ああ。先生のこと頼む」
壮助と常弘は互いの拳を当てる。常弘が両手でハンドルを握りジープは走り出した。その行先はティナとジェリーフィッシュが追走劇を繰り広げる廃墟都市だった。
「それでは、私も参ります」
朝霞は壮助と詩乃に一礼すると常弘たちに続いて廃墟都市へ去っていった。足の親指に力を入れただけで彼女は十数メートル跳躍。麒麟の如く、軽やかに割れたアスファルトと雑草の生い茂る道を駆け抜ける。速度も機動力も自動車のそれを遥かに上回っていた。
――パワーもスピードもテクニックも兼ね備えたイニシエーターって反則だよな。
「どうする?
ティナが立てた作戦において、灰色の盾と小星ペア、朝霞は明確な役割を与えられ、今その遂行に動いている。しかし壮助と詩乃だけは「貴方達は遊撃隊です。独自の判断で動いてください」と投げやりな指示を出されたのだ。
――高く評価されてるんだか、されてないんだか……。
壮助は頭をかきながら思案する。ティナの作戦は即席で考えたにしては悪くない。セカンドプランも用意してある。自分と詩乃がいなくても成立するだろう。しかし、そこに粗がないわけではない。
作戦の穴を見つけて壮助はニヤリと笑みを浮かべる。同時にティナはこのことを見越して遊撃隊にしたのではないか、今考えていることもこれからとる行動も全て彼女の掌の上ではないかと思うと少し癪だった。
「良い案が思い浮かんだみたいだね」
「ああ。作戦にちょっと保険をかけにいくぞ」
*
割れたアスファルトと生えかけの雑草を踏みならし、エールとティナを乗せたヤマハVMAXが駆け抜ける。片方が崩れた歩道橋の下を潜り抜け、廃ビルの中を突破し、地下鉄の出入口まで使う。西外周区を自分の庭だと自負するだけあり、逃走ルートの選択肢は下手なアトラクションよりもバラエティに富んでいた。
『貴様noせイで! ! 貴様のSEいデ僕はああああアアアああ嗚呼あaaa! ! ! ! 』
ジェリーフィッシュが叫びながら追いかける。B-2爆撃機を彷彿させる姿だがその飛行はジェットエンジンではなく、ヘリコプターと同様に機体中央部の同軸反転式ローターで飛行している。速度もそれほど出せないようで追走劇は追い付きそうで追い付けない塩梅を維持していた。
3機の戦闘機型ドローンがアフターバーナーを吹かせてエール達を追い越す。前方の上空で旋回し、腹部のウェポンベイを展開。小型の空対地ミサイルが切り離され、エンジンが点火する。
「ヘルファイア来ます! ! 」
「あんなのどうすんだよ! ! 」
ミサイルがエール達に目がけて飛翔。着弾まで数秒の距離だったが、ティナがホルスターからフレアガンを出して明後日の方向に撃ち出す。ミサイルの先端にある赤外線ホーミング誘導装置は突如現れた熱源に対する情報処理と目標の再設定を強要される。
混乱したかのようにミサイルは空中でループしたが、距離も時間も足りなかった。ヘルファイアはエールから数メートル離れた地点に着弾。成形炸薬が炸裂し、熱と圧力、それによって砕かれ砲弾と化したアスファルト片が2人に襲い掛かる。VAMXは倒れ、慣性で2人は灼熱の道路の上で身を転がす。
トップスピードからの転倒により骨は折れ、肌は道路との摩擦で焼ける。呪われた子供の治癒力ですぐに治るものだが、それでも痛いものは痛い。その苦痛に悶えながらもティナは目を開き、肘を立てる。自分だけ遠くに飛ばされたのだろう。倒れているエールとVMAXからかなり離れている。
浮遊していたジェリーフィッシュがローターを停止。接地アームを展開して着陸し、前面のカメラをティナに向ける。エールには一切興味を示さない。彼女は死んでしまったのか、それとも死んでいるとジェリーフィッシュが勘違いしているのか。
『やハりバラニウム弾でなケれば死にniくイな』
ティナは腕から流れる血を抑え、骨折した脚の痛みに耐えながら立ち上がる。全長30mのモノリスが近くにあるせいで傷の治りが遅い。心なしかモノリスの近くに立った時のような吐き気もある。
『一つ生物学的実験をシないka? 『赤目』は
ティナの脳裏に6年前の光景がフラッシュバックする。
「貴方は……! ! 」
照準を合わせたEP加速砲に光が収束していく。逃げようにも片足が動かない。
「掴まって! ! 」
朱理の声と共に常弘のジープ・ラングラーが飛び出した。ドリフトで急接近すると後部座席のドアを蹴破った彼女が手を伸ばし、ティナを掴んで車内に放り込む。
ジェリーフィッシュはカメラでジープを捉える。高精度な顔認証システムがティナ、朱理、トオル、そして運転席の常弘を捉えた。
『見つけタぞ! ! 里mi蓮太郎! ! ハハHAハハ! ! そウいうこtoか! !
ジェリーフィッシュが再びローターを回転させ浮上、接地アームを折りたたんで再び空飛ぶモノリスになる。3機の戦闘機型ドローンも再びカタパルトから射出される。
見計らったようにビルとビルの隙間から朝霞が飛び出した。壁を走り高さ30mまで跳躍した彼女は空中で双刀を振るい、射出された直後のドローンを切断。更に返す刀を虚空に振るい、飛ぶ斬撃で既に遠く離れたドローンのウィングを斬り落とす。高度を維持できなくなったドローンはビルの壁に激突し、爆散する。
『赤目風情が僕no邪魔をスるなあああaaあアあ! ! 』
ジェリーフィッシュがカメラで朝霞を捉える。接地用アームの一つを展開、空中で身動きが取れない朝霞を殴り飛ばし、ビル2棟を貫通させて彼女を地上に叩き落とした。しかし、一矢報いるかのようにアーム先端のマニピュレーターが彼女に斬り落とされた。
朝霞に斬り落とされたアームをボディに格納したジェリーフィッシュは再びティナを、そして合流した蓮太郎(と誤認した常弘)を追いかけた。
*
朝霞が稼いだ時間で常弘のジープはジェリーフィッシュから距離を取る。しかし、逃げてしまっては意味が無い。ティナとエールが動けなくなった今、自分達が「釣りの餌」として動かなければならないからだ。
作戦の第一段階は指定のポイントまでジェリーフィッシュを連れて行くことだった。ティナとエールは餌として引き付け、もし2人が餌として機能出来なくなったら、
逃げられるが、逃げ切れてはいけない。時間はかかるが確実にジェリーフィッシュに捕捉されるポジションを考えながら、戦況を見守っていた。
「ドローン残り1機! ! 朝ねぇはふっ飛ばされたけど、たぶん大丈夫」
朱理はサンルーフから身を乗り出し、ジープに揺られながら双眼鏡で朝霞の空中戦を見ていた。状況を車内の常弘、トオル、ティナに報告する。
「本体と残りの動向は? 」
「こっちに気付いた。ドローンが先行。本体はちょっと遅い」
「了解」
常弘はサイドミラーで迫るドローンを確認するとギアを切り替え、加速する。朱理からの報告、トオルのナビゲートを同時に頭に入れながら、巧みなハンドル捌きで外周区の廃墟都市を駆け抜ける。瓦礫のスロープを登り、倒れたビルの内壁を走り、もはや道ですらない悪路を走破する。
しかし、ジェットエンジンを積んでいるドローンがスピードでは圧倒的に勝っていた。幹線道路に飛び出すと目の前でウェポンベイを展開し、M61バルカンをぶら下げたドローンがこちらに向かっていた。
「待たせたな! ! 」
ビルの2階から傷だらけのピックアップトラックが飛び出した。それはサスペンションの軋む音と共に着地しすると、キャビンに立つタトゥー少女が積んでいたブローニングM2重機関銃を掃射する。
晴天にばら撒かれた12.7×99mmNATO弾が奇跡的にドローンのウィングに直撃。飛行を維持できなくなり、ボディを削りながら着陸する。
続いてハイドラ70、カールグスタフ無反動砲などを搭載したテクニカル仕様のトラックが飛び出し、着陸したドローンを撃って爆散させる。そして、嘲笑うかのようにバンパーで残骸を轢き飛ばした。
総勢8台のテクニカルが集まる。自衛隊や旧在日米軍の武装を流用したトラックが陣形を組んで走る姿は昔ネットの動画で見た中東やアフリカの紛争地帯のようだった。
「悪ぃ。色男。遅くなった」
運転席の窓からアキナが顔を出す。今は彼女がテクニカル分隊のリーダーだ。
「グッドタイミングだったよ。アキナさん」
「そりゃどうも。もしかして、今の最後か? 」
「2機は朝霞さんが落とした」
「
キャビンにいるタトゥーの少女が常弘のジープに目を向ける。
「ねぇ。ボスはどうしたの? 」
全員が口を噤む。エールを観たのはジェリーフィッシュの脚下でバイクと一緒に倒れている姿が最後だった。バイクで転倒した程度で呪われた子供は死なない。しかし、打ちどころが悪く、ジェリーフィッシュから出る磁場で治癒能力が阻害されていたとしたら、生きている保障は出来なくなる。
「ハル。余計な心配はするな。あいつはそう簡単に死なねえよ」
「う……うん」
キャビンの少女――ハルは気を取り直して銃座に戻り、アキナは両手でハンドルを握る。今にもハンドルを切ってエールを助けに行きたいという気持ちが表情から滲み出ていた。
『雑魚が徒党を組んで何をすRuつもリだァ! ? 』
ジェリーフィッシュが追い付き、車列の中央、常弘のジープにEP加速砲の照準を向ける。
「
周囲のテクニカルから銃弾やロケット弾が一斉に発射される。ジェリーフィッシュは自身とEP加速砲を包むサイズまで斥力フィールドを拡大させる。最強の盾を前に銃弾は地上に向かってポロポロと小雨のように落ち、ロケット弾は虚空で爆発する。
「小星! ! もうすぐだ! ! 」
トオルが指さす先に橋が見えた。大戦前に川を渡るためにかけられた二車線のアーチ橋、長さは100メートルほどだ。人のメンテナンスが途絶えてから久しく、各所にヒビが入っている。下に青々とした水が流れていることは大戦前と変わらなかった。
トオルの指示のまま常弘はジープを走らせ、橋を渡ろうとする。しかし、途中で橋が崩れていたのが見え、ジープはドリフトブレーキで急停止する。
『アはハハhahaハ! ! 自ラ袋小路に入ったZO! ! 馬鹿めぇ! ! 』
常弘たちの状況を嘲笑いながらジェリーフィッシュが迫る。灰色の盾の掃射も虚しく傷一つないボディをホバリングさせ、EP加速砲の照準をこちらに向ける。
EP加速砲が駆動音を立てる。ジェリーフィッシュ内部のジェネレーターから供給されたエネルギーが砲身内部に収束していき、その一部が光として漏れだす。
「今です」
ティナがスマホに吹き込んだ声と共に砲声が轟いた。
向こう岸で待機していた切り札――10式戦車から放たれた
――ティナちゃん。現状、ジェリーフィッシュを倒せる方法は一つ。ぶら下げとるEP加速砲や。砲身の中間にはエネルギーを線形に制御する装置が入っとる。発射直前にそれを破壊すれば本来制御されるはずやった500ポンド爆弾20個分の熱エネルギーと運動エネルギーが暴発。昔懐かしのEP爆弾に早変わりや。
ジェリーフィッシュの直下で目も眩む激しい閃光と火の玉が発生する。それは川の水と触れて水蒸気爆発を起こし、熱線と共に衝撃波で周囲の建造物を吹き飛ばす。10式戦車も灰色の盾のテクニカルもひっくり返りそうになり、一番近くにいた常弘のジープは衝撃波をもろに受け、橋から落下し、何度も衝撃波に転がされる。
辺り一面を蒸気が包む。常弘は打ち付けた頭を労り、横転したジープの窓越しから様子を窺う。6年前にアルデバランを消滅させた決戦兵器の威力を目の当たりにし、興奮気味になる。あの空飛ぶモノリスは見事に消し飛んだだろうかと目と耳の感覚を研ぎ澄ます。
『R jkp@穢gfgx後rgさjfp@亜sjgjb盤sdjfj肆gj! ! ! ! 』
最早、言語として成立していない音と共にジェリーフィッシュが姿を現した。EP爆弾のダメージは確かに通ったのだろう。光沢を放っていた超バラニウム合金装甲は傷だらけになり、8本あった接地用アームのうち3本が崩れて地面に落ちる。EP加速砲は塵一つ残っていなかった。
ジェリーフィッシュが旋回し、前面のカメラを10式戦車に向ける。その光景をモニターで見ていた草間、瀧、津名の自衛隊くずれ三人衆は戦慄する。
「こっち向いたぞ! ! 走れ! ! 走れ! ! 」
ドローンとEP加速砲を失ったジェリーフィッシュに攻撃能力があるとは思えない。接地用アームで殴りかかろうにも距離がある。しかし「それがジェリーフィッシュの全ての装備だ」という保障は無い。嫌な予感しかしなかった。
10式戦車は時速60キロで河川沿いの道路を駆け距離を取る。車体が動いても砲口はジェリーフィッシュに向かって固定され、スラローム走行射撃でAPFSDS弾を発射する。侵徹体が斥力フィールドを突破、侵徹体が超バラニウム装甲に突き刺さる。しかし、その先には進まなかった。ジェリーフィッシュにとっては皮膚を針でチクリと刺されたぐらいだろう。金属装甲の液状化を起こすには
立ち込める水蒸気が動き、斥力フィールドの形状が肉眼で見えた。ジェリーフィッシュを囲む球体の一部から突起物が生まれ、槍のように射出される。10式戦車に直撃し車体が宙に浮いた。空中で1回転すると90度に倒れた状態で着地する。そのはずみで砲身が折れ、履帯が外れた。
『gdfj;五百濟hkopser屡穢gerrg井jが;fjsdjfg! ! 』
ジェリーフィッシュが常弘のジープを捉える。それを槍状に射出した斥力フィールドで吹き飛ばした。乱暴に遊ばれるオモチャの車のようにジープは堤防に叩きつけられる。
ローターが生み出す風と斥力フィールドで水蒸気を消し飛ばし、クリアになった視界でカメラの照準をジープに向ける。――そこに乗員はいなかった。
レーダーが人影を探知する。側面のカメラをレーダーの探知に合わせると、トオルが負傷したティナを、朱理が常弘を抱えて遠くに走っていた。
『jsd;ぃf着おr;府bぃ衰rdfポgr;pmリオdhjfgkzf! ! ! ! 』
ジェリーフィッシュが方向転換し、河川に沿って朱理たちを追いかける。最早、怨敵であるティナや蓮太郎の名前すらまともに叫べない。槍状に変形させ射出した斥力フィールドも照準が狂い、周囲に被害を撒き散らす。
「おい! ! 民警! ! 何か手は無いのかよ! ? 」
「そんなの私が教えて欲し―――――」
朱理とトオルに日差しがかかる。雲でもかかったのだろうかと思ったが、見上げるまでもなく、それが雲ではないと分かった。普通の雲なら、錆びたボルトやナットの雨は降って来ない。
1輌の在来線が2人の頭上を越え、ジェリーフィッシュを叩き潰した。
数十トンの砲弾と化した在来線はその重量で斥力フィールドを破壊。ジェリーフィッシュの装甲に直撃し、地上に落とす。
朱理とトオルが逃げる先にある鉄道橋の上に詩乃がいた。彼女は2輌目の在来線を持ち上げ、投擲。再び錆びたパーツの雨を降らせながらジェリーフィッシュに直撃させる。
「壮助! ! 」
詩乃が同じ鉄道橋に立つ壮助に向けて叫ぶ。
黒膂繊維斥力加速投射砲
壮助は超バラニウム合金繊維を斥力フィールドでコーティングし、繊維を編み込んで大型ライフルを形成する。天候は晴れ、無風、距離200メートル、初めて射出する弾頭の重量を計算に入れ、照準を合わせる。ティナの特訓に比べれば、外す理由がない好条件だ。
極点濃縮斥力点、開放――
――発射
圧縮された斥力点の解放と共にAPFSDS弾が大型ライフルから射出される。秒速1800メートル――音も大気も置き去りにし、戦車砲に匹敵する運動エネルギーを得たそれはジェリーフィッシュの超バラニウム合金装甲に直撃した。
詩乃の無人在来線砲弾で斥力フィールドを砕かれ、その隙に撃ち込まれたAPFSDS弾の侵徹体は生の速度で超バラニウム合金装甲に衝突。侵徹体と装甲が流体として振る舞い、相互侵食を起こす。先端を液状化させながら装甲を突き破った侵徹体は内部に到達。貫徹した侵徹体と内部に飛散した超バラニウム合金装甲が暴れ回り、内部を蜂の巣にしていく。
飛行を維持できなくなったのか、ローターが止まり、ジェリーフィッシュは接地アームを展開し辛うじて着地する。
言語ではない譫言をスピーカーから漏らし、生まれたての小鹿のようにアームを動かし、ティナと蓮太郎(と誤認中の常弘)を背負うトオルと朱理に迫る。
「クソッ! ! まだ生きてやがる! ! 」
「でも斥力フィールドが完全に消えてる。後はタコ殴りにするだけだよ」
詩乃は鉄道橋から跳躍。爆発的なスピードでジェリーフィッシュに迫ると前面のカメラにしがみついた。赤い目を輝かせ、右腕の筋肉を凝縮、拳をカメラレンズに叩き込んで破壊し、内部からコードや情報処理機器を引き抜く。
まるで目をくりぬかれた生物のようにジェリーフィッシュがのた打ち回る。その間に詩乃は壮助がAPFSDSで開けた穴に手を突っ込み、装甲板を掴んだ。彼女は金属の軋む音と共に超バラニウム合金装甲を引き剥がす。
ジェリーフィッシュは接地アームの1本を持ち上げ、詩乃に向けて振りかぶる。しかし、アームは関節から切断され川に落下した。同時にジェリーフィッシュを支えていた残り4本のアームも切断され、本体が地に墜ちる。
「私ら抜きで楽しんでんじゃねーよ! ! 」
詩乃が河川敷に目を向けるとバイクに跨るエールと双刀を振った直後の朝霞がいた。ここに来る途中で合流したのだろう。
「申し訳ありません。遅くなりました」
「ありがとう。遅れた分は仕事で取り返して」
「……承知いたしました」
詩乃の素っ気ない言動にやや不満を抱きながらも朝霞は跳躍し、ジェリーフィッシュに双刀を突き立てる。手足を捥がれ、飛行ユニットも潰されたジェリーフィッシュに対し、詩乃は装甲板を剥がし、内部機器を朝霞が双刀で破壊していく。
2人が暴れている間に壮助はAPFSDSの次弾をバラニウム合金繊維のライフルにリロードする。自身が切り札のスペアとして機能するため、10式戦車から事前に貰っていたものだ。斥力フィールドを濃縮させ、照準を合わせる。
その時、小型のユニットがジェリーフィッシュから分離するのが見えた。長方形の箱に4本の脚がついた簡素なものだ。巨大な本体を破壊するのに夢中で詩乃と朝霞は気付いていない。
――成程な……。それがテメェの本体か。
壮助は照準を走る小型ユニットに合わせた。濃縮斥力点を開放――砲弾を射出した。的が小さく、小刻みに動くせいでAPFSDS弾そのものは当たらなかったが、ソニックブームで吹き飛ばし、ビルの壁に叩き付けることに成功する。
足裏に作った斥力点で自身を飛ばし跳躍。両足でブレーキをかけながら小型ユニットの目の前で停止する。
小型ユニット――ジェリーフィッシュの本体はビルの壁に叩きつけられ、活動を停止していた。4本の細い脚は折れ、長方形の箱は外装が外れて中身が漏れだしていた。
その姿を見た壮助は吐き気を催した。サイズからして予想はしていた。しかし、実際に目の当たりにすると予想以上の気持ち悪さが胸の中でこみ上げる。
ジェリーフィッシュの本体、長方形の箱の中に入っていたのは人間の脳だった。生体組織の劣化を防ぐ溶液に浸され、各部には指示を伝達するためのコードが繋がれている。「人体という脆弱なパーツを最大限削ぎ落した機械化兵士の極致」という開発者の設計思想が窺える。
壮助は目の前に転がる本体を前にして脚を上げる。ビルに叩き付けられた衝撃で脳はグシュグシュに崩れている。外気に晒され組織も急速に劣化しているだろう。止めを刺さなくても勝手に死ぬ。
それでも、本体を踏みつぶそうと足が上がる。目の前の機械化兵士が日向勇志と日向恵美子をガストレア化させ、鈴音と美樹に濡れ衣を着せ、あの家族を破壊した敵の一人だと思うと、
そして、ジェリーフィッシュの生命活動は停止した。
「クソッ……靴が汚れたじゃねえか」
オマケ① 灰色の盾の愉快なメンバー紹介
・新参組
トオル(15歳)
鈴音と美樹が離れた後に加入した新参組のリーダー格。生まれも育ちも外周区。強盗で生計を立てていたが、灰色の盾を用心棒として雇っていた店を襲った際に返り討ちにされ、チームに勧誘される。
カナコ(13歳) 本名:
倉田の助手をしている新参組の少女。赤目であることを隠して学校に通う普通の少女だったが、家庭科の授業のケガが原因で正体が周囲に発覚。両親の自殺と迫害によりストリートチルドレンとなり、紆余曲折あって灰色の盾に入る。
ハル(12歳)
新参組の少女。元イニシエーター。心配性かつ臆病すぎる性格が災いして初仕事で敵前逃亡。プロモーターからペアを解消され、路頭に迷っていたところをアキナに勧誘される。肩のタトゥーがシールなのは公然の秘密。
・自衛隊くずれ三人衆
草間
元海上自衛官・航海科所属。6年前、天の梯子がステージVガストレア・スコーピオンを撃ち抜いた際、飛び散った肉塊に潰されて負傷。それが原因で退官するも再就職先が見つからず、就職アドバイザーに騙されて灰色の盾に入れられる。真面目で良い人なのだが、運が悪い。
瀧
元航空自衛官・航空機整備担当。「赤目ギャングに入ってハーレム作るぜ」と意気込んで退官し外周区をブラブラしていたところ灰色の盾と遭遇。自身のスキルをアピールして入れて貰うことに成功したが目論見が全部バレたため、今はメンバー全員に白い目で見られている。ちなみに現在も童貞。
津名
元陸上自衛官・音楽科所属。過去については「大戦前も大戦中もラッパを吹いてた」とだけ語っており詳細は不明。娯楽として灰色の盾のメンバーに楽器を教えている。いずれ彼女達でガールズバンドを作り、プロデュースしたいと思っている。
オマケ② 前回のアンケート結果
ナオ『こんなもん(10式戦車)買って何に使うんだよ! ! バカ! ! 』エール「 」←なんて返した?
回答
→(9) デカくて強そうだったから
(7) 隣町のチームの拠点を吹っ飛ばしに行く
(3) これで大型ガストレアが来ても安心だろ?
(7) 電装品とかナオが欲しがるかなと思って
ナオ(前々から思っていたけど、エールって財布を持たせちゃダメなタイプの人間だよね)
翌月以降、エールだけお小遣いが大幅に減らされた。
次回「怨敵の名は」
エール「鬼ごっこだ。しっかりケツに喰らいつけよ」←誰のケツを追いかけたい?
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エール
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ティナ
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常弘
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朱理
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トオル
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朝霞
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アキナ
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ハル
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詩乃
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壮助