リズムゲームで「ALL PERFECT」以外のスコアを出したことがないらしい。
エールの発言に全員が硬直する。10代後半の男女で構成された空間の中で「身体を売る」という言葉はあまりにもセンシティブだった。
「それって……売春ってことですか? 」
全員が目を丸くする中、恐れ知らずの鈴音が尋ねた。エールが「身体を売る」と言って濁したものを彼女は空気を読まず、堂々と口にする。
「……スズネ。お前、どこでそんなの覚えたんだ? 」
「えーっと……、多分テレビだと思います」
「なんつーもん流してるんだよ。内地のテレビは」
「私らも同じ電波拾ってるだろ」
ミカンはノートPCを動かす手を止めるとエールを睨む。どんな無理難題にもふっと笑みを浮かべ、片腕としてエールの意志を肯定してきた彼女が反抗の意を示す。
「……なんだよ? 」
「いや……大したことじゃない」
「あー、とりあえず、俺から説明するぞ」
場の空気を壊し割り込むかのように壮助が挙手し、全員の視線を集める。
「『ガーデン』は指定暴力団・
呪われた子供を扱った性産業の存在は2020年代後半から囁かれて来た。親に捨てられた呪われた子供を暴力団や半グレといった反社会組織が拾い上げ、裏社会で商品として売り出すことで利益を得る――ガストレア大戦前の人身売買や児童売春を呪われた子供に置き換えた産業が登場するのは火を見るよりも明らかだった。「病気にならない」「死ににくい」といった
「なにがトップクラスだ。オッサンに抱かれて札束を数えることしか出来ねえくせに」
「戦車を衝動買いしたボスはもう少し金勘定を気にした方が良いっすよ~」
トオルがエールを茶化す。周囲のメンバー達もボスの金遣いの荒さには心当たりがあるのか笑いを堪えている。
「問題はリエンは俺達の敵なのか、それともただ同じ植物を持っているだけなのか。お前らはどう思う? 」
壮助の問いにエールは微妙な顔をして黙る。リエンのことはクソ女と呼んで嫌っているが、敵と呼べる根拠が無いのだろう。その沈黙が答えだった。
「おそらくリエンはシロだ」
代わってミカンが答えた。
「あいつは、あいつなりに赤目を守ろうとしてガーデンを作った。身寄りのない赤目、保護政策の手が届かない赤目にとって、ガーデンの嬢は一番
内地の乙女たちが「初めては好きな人とがいい」と恋に恋して理想を語る一方で、外周区の子供たちは“乙女が大切にしているもの”を商品として売っている。そうしなければ普通の生活を望むことすら出来ない現実に全員がやりきれない気持ちになる。
第三次関東会戦を経験したティナと朝霞は、「数多くの流血と散華の果てに得た“平和”がこれなのだ」と人間嫌いの神様に見せつけられるような想いだった。
「敵じゃないなら話は早いな。タウルス・チルドレンを一株……無理なら葉っぱか樹液だけでも貰っちまおう。――――誰が行く? 」
壮助が尋ねた瞬間、ミカン含む灰色の盾メンバー全員がエールを指さした。事前に打ち合わせしたかのように、寸分違わぬ息とタイミングだった。
「お前ら……ボスを顎で使おうとは良い度胸じゃねえか」
「エールさん、リエンの電話番号とメールアドレス知ってるじゃないですか」
「こういうのはボスが直々に出向くのが良いと思うんですよー」
「リエンの奴、お前のこと気に入っているしな。むしろお前じゃないと頼めないだろ」
エールは部下たちから言葉で背中を押される。眉間に皺が寄り、手の動きがぎこちなくなり、「断りたいけど、ハッキリと断れない」という彼女の心情を見事に表した顔になっていた。
「エールさん、お願いします」 「お願い、エール姉ちゃん」
鈴音と美樹の視線がエールに刺さる。カーテンを閉め切った暗い部屋の中、姉妹の人形のような顔がプロジェクターの灯りに照らされる。光が反射し、瞳が潤い星空のように煌めく。彼女達は祈る様に手を合わせ、両手の指を絡ませた。
「―――――――――――――! ! 」
エールは葛藤し、椅子の上で関節の錆び付いたアンドロイドのように悶える。そして、どうにもならなかったのか、頭がパンクして机に伏せた。
「…………行くよ……行けば良いんだろ……どうせ私が行くしか無いんだろ……? 」
エールは顔を上げると壮助に視線を合わせる。
「義塔。お前も付いて来い」
「俺が? 」
「お前をリエンに会わせておきたい。あと、そこで判断して欲しいんだ。リエンとガーデン、引いては鷲頭組をどこまでこの件に噛ませるのか」
「俺で良いのか? 」
「良いもクソもあるか。この件を
なんとなくそうは感じていた。しかし、エールに言われ改めて自分がリーダーなのだと壮助は認識させられる。ティナ、灰色の盾、小星ペア、朝霞が一室に集まる状況を作り、日向姉妹を救う為の協力者として纏めた。皆の集めた情報を全て頭に入れ全体を把握している。今まで誰もハッキリと言葉にしなかったが、壮助はそういう立場に立っていた。
「分かった……。俺も行く」
壮助の一言がその会議の締めとなった。
その後、エール、壮助に加え、護衛として詩乃、運転手と車の見張り番を兼ねて小星ペアがリエンのところへ向かうこととなった。
*
午後5時――まだ太陽が昇っている真夏日の道路をレクサスLXが走る。場所は東京エリア西部の内地――と言っても地理的にはほとんど外周区だ。道は整備が間に合っていないのかひび割れており、周囲の住宅も廃虚化・無人化が進んでいる。
上下に振動する運転席では常弘が腑に落ちない顔でハンドルを握っていた。
「なんか重いなぁ……」
「どうしたの? 」
助手席でスマートフォンを使い、ナビゲートしていた朱理が尋ねた。
「やけにタイヤの乗りが悪いんだよね。凄く重い荷物を積んでるような感覚」
朱理は振り向く。後部座席では壮助、詩乃、エールの3人が各々の姿勢でリラックスしていた。常弘の疑問には意に介さず、エールは窓の外を眺め、詩乃は眠り、2人に挟まれた壮助はスマホでリエンと鷲頭組の情報を漁っている。
「そういう性能なんじゃない? 借り物だし普段の感覚とか分かんないでしょ」
「そういうものかなぁ……」
その疑問が解消されることは無く、レクサスは“植物園”ことリエンの自宅へ向かう。エール曰く、事業で成功し莫大な財産を手にしたリエンは手放された植物園と周辺の土地を買い取り、そこを自宅として使っているらしい。
「そろそろ着くよ」
常弘の爽やかな声と共に壮助は外の風景に目を凝らす。旧・国道沿いに広葉樹林が生い茂る土地が見えてきた。まだ高い陽光に照らされた小さな森はフェンスで囲まれており、数十メートルおきに設置された防犯カメラが首を振ってレクサスを凝視する。
敷地をぐるりと回り半周したところで正門を見つけた。鉄製のゲートと共に武装した少女達が出迎える。警備として雇われた赤目ギャングかイニシエーターだろう。
「ちょっと話してくる」
エールが車から出ると警備の少女たちの表情が柔らかくなる。お互いに顔見知りのようで少し談笑した後、車に戻って来た。
彼女に車から出るよう言われ、全員がボディチェックを受ける。護身用に持っていた拳銃が見つかったが、「この程度のもの、武器の内に入らない」とそのまま携行が許された。
車に戻ると電動のゲートが開いた。フェンスで見えなかった内部が一同の目に映った。外の寂れた景色とは打って変わり、コロニアル建築の豪邸と整備された庭園が出迎えた。日差しが降り注ぐ中で芝生が輝き、スプリンクラーと噴水の水が煌めく。とても外周区付近とは思えない別世界のような空間に常弘たちは舌を巻いた。
屋敷の前に車を停め、エール、壮助、詩乃の3人が降りる。夏用の執事服を着た男装の麗人が扉を開けて出迎えた。
「お久し振りです。エール様。義塔様、森高様。リエン様が中でお待ちです」
「相変わらず、堅苦しい格好してんな」
「これが正装というものです」
「知ってるよ」
運転席のウィンドウが下がり、常弘が顔を出す。
「執事さん。車はここで構わないのかな? 」
「裏に駐車場がありますので、そちらにお願いいたします。後ほど、デザートとアイスティーをご用意いたしますが、アレルギーはございませんか? 」
「「大丈夫ですよ」」
「かしこまりました」
常弘は窓を閉めるとレクサスを屋敷の裏へと向かわせた。
男装の麗人に連れられ、3人は屋敷の廊下を歩く。欧風の外観通りの内装で壁には木製の扉と絵画、台に乗せられた美術品が点々と並んでいる。3人とも芸術はよく分からないのでそれらの価値は分からないが、少なくとも3人の年収を合計したものよりは高いだろう――と思っている。
最奥の扉の前で執事が止まり、ドアをノックする。
「リエン様。お客様をお連れしました」
向こう側から「入っていいわよ」と女性の声が聞こえた。
執事が扉を開くと、花の香りが漂ってきた。木製の家具をベースに作り上げたヨーロピアンとアジアンが融合した空間が目に広がる。天窓から陽光が射し込み、小鳥の囀りが聞こえてくる。森の中にいるような感覚にさせられる。
部屋の3人掛けソファーに腰掛け、一人の女性が待ち受けていた。
――あいつが、『ガーデン』のリエン。
アジアンビューティという言葉がお似合いの美女だった。器量の良い白い顔と薄茶色の瞳、艶のある亜麻色の髪が頭頂部から肩にかかる。ベトナムの民族衣装・アオザイを着ており、白い布越しでも彼女の体格ははっきり見えていた。そのボディラインは呪われた子供――16歳以下とは思えないほど大人びていた。本人もそれを理解し、強みとしているのだろう。姿勢も表情も煽情的で、男の注目を惹き、篭絡させんとしていた。
「久しぶり。エールちゃん。あの夜のことが忘れられなくなったかしら? 」
エールの目が険しくなり、眉間に皺が寄る。
「会いたくねえけど、仕方なく会いに来てやったよ。リエン。今、テメェの頭に真っ赤な花を咲かせてやれねえのが残念だ」
「あら? 赤い花の髪飾りでもプレゼントしてくれるのかしら? それは楽しみね」
「テメェの頭にド弾ぶち込めないのが残念だって言ってんだよ」
――おいおい。いきなり喧嘩腰かよ。
エールから一方的にふっかけた口喧嘩を見て、壮助は不安になる。これは、交渉役として早々に自分が出るべきではないかと考えるが、2人の雰囲気を見てその考えを捨てた。エールとリエンは悪友というか、腐れ縁というか、そういう憎めない関係なのだ。
「はぁ~。相変わらず物騒ねぇ。そんなんじゃ嫁の貰い手が見つからないわよ」
「んなもんいらねえよ」
「その強がりがあと何年持つのやら……。で、今日はどんな要件? 」
リエンがエールの隣にいる壮助と詩乃を一瞥する。
「あ、もしかして男娼の売り込み? でもごめんね~。もう間に合ってるのよ~」
「そういうのじゃねーよ。つーか、片方は女だし」
壮助が「女の子はこっちです」と指さし、詩乃は腰に手を当てて「I am lady.」と言わんばかりに胸を張っていた。張る胸などないのだが。
「あら、ごめんなさい。綺麗な男の子だと思ったわ」
「それに今日は真面目な話だ。テーマは『ドールメーカーの原材料について』」
リエンの表情が変わった。微笑んでいた口は閉じられ、視線が3人に突き刺さる。表情の変化だけで壮助は慄き、冷や汗を流す。彼女がヤクザであり、赤目ギャングのボスであることを思い出す。
「……良いわ。長話になりそうだし、座ってちょうだい」
アオザイを着たおっぱいもお尻も大きい女の子は好きですか?はい!大好きです!
オマケ 前回のアンケート結果
質問文
あっ!真夏の太陽の下で女の子がキンキンに冷えたコーラを配ってるよ!誰から貰う?
回答
(6) 鈴音
(1) 美樹
(2) 詩乃
(5) ティナ
(7) 朝霞 ←
(0) 朱理
(3) エール
(0) ナオ
(1) ミカン
(イカサマありの)ポーカーでボロ負けした朝霞は罰ゲームとして球場のビアガールコスでバンタウにいる全員にコーラを配ることになったが、頑張って作った営業スマイルを「恐い」と言われて凹んで泣いた。
一方、ティナはビアガールコスの朝霞を撮影しまくり写真を弓月に送った。
次回「ミナミの女帝」
鈴音・美樹「「お願い」」エール「駄目だ……。いくらお前達の頼みでも――
-
天誅レッドのコスプレなんてやらないぞ!
-
天誅ブルーのコスプレなんて(略)
-
天誅イエローのコスプレなんて(略)
-
天誅グリーンのコスプレなんて(略)
-
天誅ピンクのコスプレなんて(略)
-
天誅ブラックのコスプレなんて(略)
-
天誅ホワイトのコスプレなんて(略)
-
天誅パープルのコスプレなんて(略)
-
天誅バイオレッドのコスプレなんて(略)
-
天誅クリスタルのコスプレなんて(略)
-
天誅クイーンのコスプレなんて(略)
-
天誅プリンセスのコスプレなんて(略)
-
天誅アマゾネスのコスプレなんて(略)
-
天誅ダークネスのコスプレなんて(略)
-
天誅プリティーのコスプレなんて(略)
-
天誅キュートのコスプレなんて(略)
-
天誅ビューティのコスプレなんて(略)
-
天誅レッドカスタムのコスプレなんて(略)
-
天誅フルアーマーのコスプレなんて(略)
-
天誅ファイナルのコスプレなんて(略)