ブラック・ブレット 贖罪の仮面   作:ジェイソン13

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日向鈴音のウワサ
6年前(原作当時)、蓮太郎の顔を「好みです」と言っていたが、今でもそうらしい。

日向美樹のウワサ
蓮太郎の顔は「悪くないけど、暗いしなんか色々とめんどくさそう」と思っているらしい。


今更ですが、Twitterでは更新の数日前に次回予告SSを投稿しています。興味がありましたら是非。(活動報告にもまとめています)


共犯者

 天童殺しの木更

 

 東京エリア犯罪史上最悪の連続殺人鬼を人々はそう呼ぶ。彼女は呪刀“雪影”一振りで親族たる天童家を滅ぼし、彼らの悪行に加担した有力者を殺戮していった。

 警察も、民警も、果ては海外から来た傭兵ですら彼女を止めることが出来なかった。

 里見蓮太郎が彼女を殺した時には、52名が雪影の錆となっていた。

 その殺戮によって、数百件に及ぶ汚職や不正が明るみになり、数多くの人間が人身売買や違法労働から救出された。

 殺人というほとんどの文化圏で悪とされる行為を賞賛する者はいなかったが、彼女を義賊と呼ぶ声は今も絶えない。

 

 義搭壮助の目に映る美女――グウェン・チ・リエンも殺戮の女神によって救われた少女の一人だった。

 

「彼女の姿は今でも覚えているわ。残酷なまでに強くて、美しくて、優しかった。正義なんていう一度も私を助けなかった大義名分ために殺されたのが残念だわ」

 

「俺に何をさせたいんだ? ウィッグと美和女のセーラー服で木更のコスプレでもやれってか? 」

 

「それはそれで魅力的な提案ね」

 

 両頬に当てられるリエンの手から温度が伝わる。涼しげな白い肌とは裏腹に奥底から沸き上がる熱が壮助の顔を熱くさせる。感情の昂りが抑えられないのか、彼女の瞳が赤く輝く。

 

「だけど、姿形は大した問題じゃないの。聞かせて頂戴。貴方はこの件の黒幕をどうするつもり? 」

 

「……お前は何が目的なんだ」

 

 天童木更の話を踏まえると何が正解なのかは明白だ。例え嘘でも演技でもリエンが求める回答を口に出せば、誰にだってこの場面をクリアすることは出来る。運が良いのか、それともリエンが最初から狙っていたのか、壮助は既に正解を持っている。

 

「下手に勘繰る必要は無いわ。貴方は思った通りのことを言えば良いの。そうでしょ? 勾田町刑事惨殺事件の犯人くん

 

 壮助にまつわる悪評の中にある数少ない()()、メディア沙汰にされなかったが裏の人間はよく知る義搭壮助の罪。リエンがそれを口に出した時、壮助はようやく彼女の目的に気付いた。気を張るのを止め、溜め息を吐いて肩を下ろす。

 

 ――ああ。そうか。これは質問じゃない。確認なのか。

 

 “答え”を思い浮かべた時、壮助はリエンに感謝した。この密室で、2人きりという状況で、誰にも聞かれたくなかった“正解”を口に出すことが出来る。

 

 

 

 

 

「俺は……あの家を、あの幸福な一家をガストレアの血肉で穢した奴らが許せない。連中が今ものうのうと心臓を動かし、呼吸していることが許せない。絶対に落とし前をつけさせる。法の裁きなんて生易しいものだけじゃ足りない。殺しても足りない。奴らが過去に積み上げたものを、未来に繋ごうとするものを、否定して、踏み躙って、辱めて、汚物の中に沈めてやる。そして連中の同類に教えてやるんだ。()()()()()()、畜生の餌がお似合いだ』ってな」

 

 

 

 

 

 

 この時、壮助は天童木更(殺戮の女神)と同じ眼をしていたのだろう。5年前に失った絶対悪の英雄が目の前に現れた。リエンは恍惚とした笑みを浮かべ壮助を抱きしめる。

 

「期待した通りね。外の2人が許すなら今すぐにでも押し倒して可愛がってあげたい」

 

 

 

 殺して、殺して、殺して、もっと、たくさん、悪を殺し尽くして。

 

 その果てでいつか、もう一度私に絶対悪(ヒーロー)を見せて。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 植物園の密室の外、小鳥の囀りとそよ風で揺れる木々の音を聞きながら、詩乃とエールは15分を待っていた。

 詩乃は足を広げ、掌底を前に出し、拳を引く。天童流神槍術の攻めの構えを槍なしでアレンジしたものだ。彼女は目を赤く輝かせると腕の筋肉が収縮し、血管が浮き出る。

 

「エール。15分経ったよね」

 

 エールは呆れた顔で画面の割れたスマホで時間を確認する。

 

「まだ10分だ」

 

「エールのスマホは壊れて当てにならないし、多分15分経ったし壊すね」

 

「まだ10分っつってんだろ! ! このやり取りもう5回目だぞ! ! 」

 

 扉のロックが外れる音がした。自動扉が開き、壮助とリエンの姿が見えると詩乃は目を生来の濃藍色に戻した。

 

「お待たせ~」

 

 リエンがニコやかに手を振る。それに対してやや後ろに立つ壮助はばつが悪そうに斜め下を向き、悪態を吐いていた。

 

「壮助、どうなったの? 」

 

「交渉成立だ」

 

「……そう」

 

 詩乃の疑念に満ちた視線が壮助を心を突き刺す。交渉が成立したのは結構なことだが、その対価として彼が何を失ったのか、それが気になって仕方がなかった。

 

「何をお願いされたの?」

 

「……後で話す」

 

「壮助からあの女の匂いがする点も含めて、説明お願いね」

 

 壮助は「へいへい」となげやりな返事をした。

 2人が話している間にリエンは密室の奥にいた。内部のライトが付き、部屋の全貌がようやく見えるようになる。

 壁と天井がコンクリートで覆われ、部屋の各部を配管が通っている。機械の稼働する音が響き、心なしかひんやりとしている。壁には温度を表示するパネルが埋め込まれており、そこには「マイナス58℃」と表示されていた。この部屋の涼しさはその余波だろう。植物を栽培するための部屋とは思えないほど内装は無機質で、それは実験室のようだった。

 

「これがタウルス・チルドレンよ」

 

 リエンが我が子のように撫でるのは大量のケーブルで繋がれた分厚いガラス製のポッドだ。その中にタウルス・チルドレンは入っていた。虹色の花弁と全体から溢れる液体――その姿は死龍のUSBに入っていた文書の画像と一致していた。

 

「何だ? そのポッドは? 」

 

「インキュベーターよ。この子、マイナス50度以下の環境でしか生きられないの」

 

「マイナス50度! ? 」

 

「これ、冷凍機の音だったんだ……」

 

「そういう訳で一株プレゼントすることも葉や枝だけ渡すことも出来ないわ。インキュベーターも開けられるような設計にしていないしね」

 

 壮助とエールは頭を抱え、大きく溜め息を吐く。これでは屋敷まで足を運んだ意味も、黒幕を皆殺しにする約束をした意味もなくなったからだ。

 

「それ、どこで手に入れたんだ? 」

 

「鷲頭組のおクスリ係よ。『ガストレアすら支配した禁忌の植物』なんていう宣伝文句に乗せられて、ドールメーカーの製法と一緒にアメリカのバイヤーから仕入れたの。こんな面倒な植物を仕入れるあたり、かなり期待していたんでしょう。――だけど、出来上がったのはただの毒だったわ。人間に使えば確実に死亡し、呪われた子供も廃人になった。良いドラッグは客を壊さず依存させるドラッグよ。いかにリピーターを確保できるかで利益が決まる。たった1回で客を壊すドールメーカーはドラッグとして最低の粗悪品だったって訳。結果、ドールメーカーとタウルス・チルドレンは廃棄されて、この子だけは観賞用として私が機材と一緒に引き取ったの」

 

「ちなみにガストレアには試したのか? 」とエールが冗談めかしながら尋ねる。

 

「ガストレアがお金を出してくれるなら試したかもしれないわね」

 

 リエンの話を聞き、壮助は黒幕に繋がる情報を整理する。まずタウルス・チルドレンとドールメーカーを仕入れた鷲頭組が最初に黒幕候補として上がるが、すぐに払拭する。かつてエールが話したように薬物売買を主産業とする彼らはドールメーカーによって大打撃を受けている。金ヅルを壊され、市場も粗悪品の流通によって明らかに売り上げが落ちた。そんな彼らがドールメーカーをばら撒くとは考えにくい。

 

 ――鷲頭組じゃないとなると、アメリカのバイヤーか。

 

「そのアメリカのバイヤーは誰か分かるか? 」

 

「分かるけど、調べようとしても無駄よ。彼、シカゴエリア在住だったの」

 

 シカゴエリア――その地名を聞いて、壮助達はバイヤーを調べるのは不可能だと理解した。シカゴエリアは里見事件の少し前、エリア内部で同時多発感染爆発(パンデミック)が発生し、住民の95%が死亡またはガストレア化したからだ。北米初の大絶滅は東京エリアのニュースでも大きく取り沙汰されていた。

 

「鷲頭組はおそらくシロ、バイヤーも駄目か……」

 

 壮助が「どうしたものか」と腕を組んで唸ると詩乃が手を挙げる。

 

「リエンさん。質問いいですか? 」

 

「どうぞ」

 

「タウルス・チルドレンの栽培、ドールメーカーの精製に()()()()()()()()()()とかもあったら教えてください」

 

「良いわ。後でリストに纏めてエールのスマホに送っておいてあげる」

 

「ありがとうございます」

 

 リエンはふぅを息を吐き、肩を下ろす。

 

「これで私が話せることは全部ね。それ以上のこととなると鷲頭組のおクスリ係に話を通さないといけないのだけれど、どうする? 」

 

 リエンが壮助のことをじっと見つめる。もうこの3人の中で判断する者(リーダー)がエールではなく、壮助であることを悟っていた。

 バイヤーの正体やタウルス・チルドレンの出所を知るには実際に取引したおクスリ係に繋いで貰うのが一番だろう。しかし、灰色の盾は仕方ないとして、姉妹を表社会に戻す上でこれ以上の犯罪組織や反社会組織の直接的な関与は好ましくなかった。

 新しい情報を得た。黒幕を推理する上で参考になる情報も貰えるようになった。今回はそれで良しとしよう。

 

「いや、これで十分だ。ありがとう」

 

「どういたしまして。私からの()()()、忘れないでね」

 

 リップクリームで艶を出している唇の端が上がった。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 植物園でリエンと別れ、執事に連れられて壮助達は屋敷の廊下を歩いていた。入った時のルートをそのまま逆戻り、行先は屋敷の正面だ。

 

「なあ。執事さん。トイレってどこ? 」

 

 おもむろに壮助の口から飛び出した質問に全員が振り向く。

 

「男性用でしたら、今の道を戻って左手にございます」

 

「サンキュー」

 

 壮助は踵を返すと全力ダッシュで廊下を駆け抜ける。「やべーもれるもれるー」という必死さが伝わらないわざとらしいセリフと共に角を曲がった。

 壮助は男子トイレの扉を開けると、入らずに力強く閉めた。自分がトイレに入ったと音で伝わるようにするためだ。その後、リストバンドに偽装していた超バラニウム合金繊維を斥力フィールドのコーティングで動かし、鍵穴に入れる。ピッキングの要領で外側から鍵をかけると再び廊下を走り抜けていった。「トイレに行きたい」「漏れそう」というのはなのだ。

 

 壮助の行先は植物園だった。屋敷の使用人に見つかることなく植物園に戻った彼は人影を見つける。土で汚れた白色の作業着を着た少年、タウルス・チルドレンを見せて貰う直前、植物園ですれ違った庭師の少年だ。

 壮助は庭師の少年めがけて走る。トップスピードまで行くと、一切減速することなく背中にドロップキックをかました。現役武闘派プロモーターの脚力と体重で庭師の少年は背中に足跡を付けられ、前方に転がって地面に顔面をぶつけた。

 

「テメェ! ! いきなり何しやがる! ! 」

 

 庭師の少年が立ち上がって振り向く。怒りに身を任せて帽子を脱ぎ捨てる。仕返しに殴りかかって来そうな勢いだったが、彼は壮助の顔を見て、硬直した。

 

「お前……やっぱり、そうだよな……」

 

「久し振りだな……井上清二(イノウエ セイジ)

 

 6年振りに口にした名前――彼は義搭壮助の小学校時代の親友。

 

 両親と姉をガストレアに殺され、ガストレアと呪われた子供を憎み、

 

 

 

 

 

 そして、藍原延珠がクラスから追い出される原因を作った壮助の()()()だった。

 




オマケ 前回のアンケート結果

質問文 どのママに育てて貰う?

(4) エールママ
  →性別問わず漢気溢れる子を育てそう。
(2) リエンママ
  →子供の性癖や貞操観念をぶっ壊しそう。
(2) 詩乃ママ
  →旦那が好き過ぎて自分の子供に嫉妬しそう。
(4) ティナママ
  →子供が日曜朝の特撮やプリキュアを卒業しても自分だけ見続けそう。
(8) 朝霞ママ
  →しっかり者のママでいようとするがポンコツ部分は子供にバレていて、逆にフォローされそう。
(3) 鈴音ママ
  →でろでろに甘やかして子供が自立できなさそう。
(2) 美樹ママ
  →普通に心身ともに健全な子を育てそう。

しまった。弓月ママと小比奈ママを入れるの忘れてたぜ……。




次回「永遠の罪人」

壮助「俺にコスプレでもやれってか?」リエン「それは魅力的な提案ね」←誰のコスプレをさせる?

  • 蓮太郎
  • 木更
  • 延珠
  • ティナ
  • 影胤
  • 小比奈
  • 聖天子
  • 玉樹
  • 弓月
  • 彰磨
  • 火垂
  • 悠河
  • ユーリャ
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