ネコミミあるだけでマチアプ楽勝時代は終わった~獣人がいる日本で彼氏を作りたい~ 作:棗の
「ママ! 全然いいねこないんだけど!」
わたしはママの部屋のドアを開けて叫んだ。
夜の11時ごろ。パパはもう寝てる。ママはお仕事が遅い時間だから起きてる。
ママの部屋はマタタビのお香が焚かれてる四畳ぐらいの小さな部屋。
登って遊べる大きなキャットタワーとか、ママとわたし専用の大きな丸いクッションがある。
わたしがLoftで買った爪とぎ用のカリカリまで置いてた。
勝手に持って行かれるのはいつものことだけど、買ったばかりなのに!
「えぇー? そんなわけないのに」
ママはクッションに仰向けに寝そべって、タブレットで動画を見てた。ママの頭の上のネコミミがぴょこぴょこ動いて、両耳についた金のリング状のイヤリングが音を出してる。
「全然って言ってもぉ50件とか100件とか、それぐらいはついてるでしょぉ?」
ママがふわふわした口調で言ってる。
マタタビの匂いで気持ちよくなってるからだ。わたしも半分だけどネコだし、この部屋に長くいると気持ちがふわふわしてくるからわかるけど……いまは真面目な話をしたいの!
「ゼロだよ! 誰もいいねしてくれてないの!」
わたしはママに近づいて、ママのタブレットを押しのけてスマホを見せた。
ママの金色の目がきゅっと細くなって、口の横のひげがぴこぴこ動いてる。
「……あらぁ。やっぱり写真だけじゃだめかしらぁ」
ママはタブレットを置いて、わたしのスマホを取って上下にスワイプさせてる。
「ママのアドバイス通りに作ったけど全然だよ。ほんとに合ってるの? ネコミミがあるだけで楽勝~とか言ってたけど」
ママはスマホを置いて、顔を手の甲で舐めて「ほんとよぉ」と言った。
「ママがパパを射止めた時だって、ネコミミだけでイチコロだったのよぉ。同じ村出身の子みんなすぐに彼氏ができたし、ご飯食べに行ってるときに知らない男の人からネコミミ触らせてくださいって——」
「その話はいいから! 知らない人に触られるのやだよ!」
ママとわたし。全部ネコ獣人と、半分だけネコ。
ちょっと違うせいか、こういう話題だとママがちょっと常識ないって思っちゃう。
「
ママは酔っぱらってるふわふわ口調で、クッションの横の台に乗ったマタタビのお香をわたしの顔の前に持ってきた。
「ふわぁ……」
子どもの時からずっと嗅いでる香りで、ちょっと胸の奥のトゲトゲが取れた気がする。
ふうっと息をついて、「ありがと」とママに言って、ママの横に座った。
「今の時代の人間の男たちって見る目ないわねぇ。こんなにかわいい子なのに。ミミもこんなにふかふかで、しっぽもふわふわ。ママのかわいいとこを全部受け継いでる」
ママのしっぽが、わたしのしっぽに触れた感覚。ちょっとくすぐったいけど安心する感じ。
「……そう言ってくれるのは嬉しいけど。いいねゼロ件なの。何がダメなのかな……」
ママはわたしのスマホの画面を上下にスワイプさせて眺めて、わたしの手元にスマホを戻した。
「やっぱりネコっぽさが足りないのよ! 人間の男はネコ大好きだし、もっとネコに寄せたプロフィールならばっちりよ!」
ママは立ち上がって、部屋のドレッサーからメイク道具を取り出して並べていく。
獣人向けの有名ブランドのやつだけど、わたしもよく使ってる。人間も獣人もどっちも使えるやつが最近増えてきて、インスタの広告でもよく見かける。
「麗奈おいで。メイクしてあげるから」
「えっ? 顔出すのやだよ。恥ずかしいし……」
「麗奈はかわいいんだから大丈夫! ほら座って」
わたしは渋々ママのドレッサーの前に座った。ママの明るい茶色の毛がいっぱい落ちてる。
ママの仕事はスタイリストだ。
依頼があった時にメイクのお仕事をするんだけど、主に夜に働く同じ獣人の人とか、人間向けのメイクをしてるんだって。
ママはネコの獣人で夜の方が動きやすいからって理由でそうしてるみたい。
ママのメイクは芸能人の人とかにもしてる一流だし、疑ったりはしてないんだけど……ネコっぽさが足りないって、どういうことなんだろう?
そんなことを思いながら座って、マタタビの香りでちょっとふわふわしはじめた頃。
ママの嬉しそうな声がした。
「うん、ばっちり! 麗奈のいいとこを伸ばした感じのメイクよ!」
鏡に映ったわたしは、いつもよりずっとネコっぽかった。
金色の目の下にアッシュグレーの縁取りがあって、わたしにはないヒゲっぽくみえる黒いラインが何本もほっぺたに引かれてる。ただ「描いてる」ように見えない、ちょっとワイルドな感じ。
睫毛もしっかり引かれて、ママの顔みたいなネコっぽい模様に見えるよう、髪の色に似た色味を重ねたメイクをしてる。
わたしの顔にはママと違ってネコのふわふわ毛はないけど、まるでふわふわした毛皮で覆われてるみたいな感じ。
いつものわたしはどっちかといえば人間っぽい顔だと思うけど、いまのわたしはだいぶネコっぽい感じだった。
良く言えばワイルド、悪く言えば特殊メイクっぽい。
「ほんとにこれでいいの……?」
「すっごくかわいいわよ! 人間の男なんてみーんなネコ好きなんだから、これでいいね一億件間違いなしっ!」
ママが親指をぐっと立ててちょっと古いリアクションをしてる。
「じゃ、写真ねー。タワーの上とかちょうどいいわ! ほら登ってほら!」
ママがすっごい鼻息荒く言ってる。
わたしはメイクが落ちないように気を付けて、部屋の隅のキャットタワーを登って頂上に座った。
「そうじゃなくて! ほら、もっとネコっぽい感じで座って!」
「どんな感じなの……」
キャットタワー登るのも高い所も好きだけど、ネコっぽい感じの座り方って何……?
そんなことを思っている間にママがするするとタワーを登ってきて、わたしの横に座った。
両手を床板につけて、両足を立てる感じの座り方。ママの長くてふわふわの足がエアコンの風で揺れてる。
「こんな感じ! やってみて」
わたしがとりあえず真似してみると、ママはぴょんと飛び降りて、両手で着地して、くるっと回って立ち上がって、スマホでわたしを撮った。
「うーんばっちり! じゃあ次はプロフィールね。音楽と読書……ちょっとありきたりねぇ。『日なたでごろごろすること』とかどう?」
「……だらしないひとっておもわれない?」
ママからスマホを受け取って、とりあえず趣味の部分を変えてみた。
「ネコが日なたでごろごろなんて普通のことよっ! ママがお昼にサンルームでくつろいでるだけでパパは幸せだって、結婚前によく言ってたわぁ」
ママの悪い癖。すぐにノロケる。
昔っからこうだし、パパも照れるだけで怒ったりしないからずっと言ってる。
そんな感じでプロフィールも写真も変えて、出来上がったものがこちら。
Rei さん
15歳
高校生
趣味:日なたでごろごろすること
得意なこと:光るものを追いかけたりする
一言コメント:にゃー!
「…………これ、本当に大丈夫?」
本物のわたしとだいぶ違うんだけど。
一言コメント、見る人をバカにしてない?
わたしは鳴いたりとか、そんなにしないし。
わたしの写真も、前の顔が分からないやつじゃなくて、ネコっぽいメイクをしてキャットタワーの上で座ってるやつになってる。
ネコなのか人間なのかよくわからないわたしから、だいぶネコ寄りのわたしに変わってる。
時間はもう2時過ぎてる。
ママはすっごい満足してお仕事に行っちゃった。
「にゃ……ねむ……」
わたしは部屋のベッドに寝転がって、ふとんをかぶって眠った。