ネコミミあるだけでマチアプ楽勝時代は終わった~獣人がいる日本で彼氏を作りたい~ 作:棗の
「ただいま!」
学校から帰宅。
鞄を床に投げて制服を脱いで、お風呂場でばさばさしてわたしの毛を落として、ブレザーを部屋に引っ掛け、下着のままベッドへ。
ママから取り戻したカリカリで右手の爪をかりかりしながら、ふうっと一息。
今日の学校はずっとマチアプのことが気になってた。
学校で他の子に見られたくないし、一応スマホ禁止だし、通知も切って気にしないふりをずっとしてた。
その方が楽しみだし!
起き上がって、学校の鞄からスマホを出して、マチアプを開く。
いいね:3件
「少なすぎない!? なんで!?」
なにが一億件間違いなしよ!
いいね一覧を押して、中を見てみる。
緊張で手が震えてる。
ぜんぶ知らない人ばかり。
名前しか書いてないから、どういう人か分からない。
怖そうな名前の人はいない。
このアプリ、年齢確認もされてるから、怖い人とかはあんまりいないはず。
大丈夫、って念じて、一人目の『ゆっきー』さんを開く。
ばっちり顔が映ってる男の人。流行の韓国アイドルっぽい髪型の高校生ぐらいの人。わたしと違って、完全に人間のひと。
すっごい加工してるけど、少なくともわたしが最初に撮った写真よりはどんな人かわかる。
「顔は……まあ、うん、普通」
画面をスワイプさせる。
年齢は17歳。
趣味が……『猫吸い』
「むりむりむり!! きもちわるい!」
わたし猫じゃないし! 吸われたくないし! 一緒にしないで!
震える手でブロックして、二人目。
「あ……ネコの人だ」
ママと同じ完全なネコ獣人の人。グレーの毛色で、上から撮った写真でふわふわの首筋の毛がきれい。目はわたしと同じ金色。
ちょっとかっこいいかも。
インスタでフォローしてるネコ獣人のアイドルに似てる。最近デビューしたばかりだけど、グッズ買おうか悩んでる人。
「いいかも」
さっきよりちょっと緊張が和らぐ。
たまたま変な人にいいねされただけ。
年齢は23歳。
趣味が……『大食い』『ネズミの解体』
「うっ……」
指が止まるけれど、顔いい人だしもうちょっとスワイプする。
得意なこと……『だめになった食べ物はぼくのところに持ってきてくれたらすぐにわかるよ!』
「……ごめんなさい。ナシです」
やっぱり完全にネコ獣人の人ってちょっとわたしと違う。
ママが特別なんじゃなくて、獣人の人って少し考えてることが違うんだよね。
ネットでもいっぱい言われてるし、クラスにいる子もちょっと変わった人が多い。
悪い人じゃないんだけど。
小学校で習うけど、獣人の人と人間は育った世界が違うから、考え方も違う。
お互いに認め合うことが大事だって。
だけど。
ダメになった食べ物がわかるって、わたしもできなくはないけど……わざわざ得意なことに書くってことがちょっと無理かも。
二人目を見ないふりして、三人目。
わたしと同い年ぐらいの韓国マッシュヘアの男の子の写真。上から撮った写真だった。
見た感じ、完全に人間だと思う。
髪染めOKの学校の子なのかな。インナーカラーでグレーが入ってる。
ちょっと筋肉質で、タンクトップ着て胸元がちょっと見えてる。
「顔は……まあまあ」
とりあえずスワイプしてみる。
年齢は18歳。わたしの三個上。
趣味……『筋トレ』『スマホゲーム』
筋トレはともかくスマホゲームならわたしもやってる。
得意なこと……『短距離走です。陸上部入ってます』
「いいかも。わたしと似てる」
わたしは長距離だけど陸上部だし。
一言コメント……『猫好きな方、友達になりませんか。僕も猫飼ってます』
「猫飼ってる……猫好き……あり、かも?」
”話せないほうの猫”ってママとかパパは呼んでる猫は、ママが日本に来るずっと前からペットとして飼われてる動物。
だから好きな人もいっぱいいるし、別に珍しいことじゃない。
一緒にされたくはないし、小学校の授業でも一緒にしちゃダメって習うはず。だから大丈夫。
画面上のいいねボタンをタップすると、画面に『さっそくメッセージを送ってみよう』って出てきた。
『みちまろ』さんって名前みたい。
『よろしくおねがいします わたし長距離のほうですけど陸上部入ってますよ』
初めて見るこのアプリのメッセージ画面。LINEと似たような感じでちょっと安心。
わたしのメッセージに既読がすぐについた。
緊張で体がむずむずして、ベッドから起き上がって勉強机の椅子に座った。
部屋のタブレットでお気に入りのピアノの曲を流してみる。ちょっと疲れたときに聞くと落ち着くやつ。
『よろしくおねがいします! 猫のハーフの人ですよね!? 見た瞬間いいねしちゃいました!』
数分でメッセージが来た。
よかった。ハーフだってわかってる人だ。
テンション高いなぁ。
『そうですよ メイクしてますけど』
『してたほうがいいですよ! 猫っぽくてすごいかわいいです! ネコミミもふわふわでかわいいですよ!!』
『ありがとうございます わたしも気に入ってるんです』
メイクはともかく、ミミを褒められるのは嬉しい。ママが言ってることはあってたのかも。
たまたま昨日、そういう人がいなかっただけだよね。
『ネコミミは自前ですよね!? 日なたでごろごろするって、すごい猫っぽい(笑)』
『半分ネコですからね 気持ちいいですよ』
これは本当。ママもわたしも晴れた日にサンルームでごろごろするのが好き。
『やっぱり気持ちいいんですか! ハーフの人って話すと面白いんですよね ネズミとか取ったりするんですか?』
わたしの指が止まる。
『取らないですけど』
『ねこじゃらしとかお部屋にたくさんあるんですよね! その日の気分でカリカリ変えたりとかするんですか?』
違う。
そんな話したいわけじゃない!
陸上やってる同士だし、部活の話とか、ゲームの話とかしたいのに。
なんだろう、この気持ち。
カリカリはたくさん持ってるし、ねこじゃらしのおもちゃもあるけど。
なんでだろう、まったく嬉しくない……。
『持ってますけど』
『やっぱり! うちの子もすごいかわいいんですよーお気に入りのカリカリがあるみたいで新しいのがいいってわけじゃないらしくて』
においとか、肌触りとか、音とか全然違うし、メーカーでも全然違う。
だけどなぜだろう。答えたくない。
『どこのがお気に入りとかあるんですか?』
『髪とかふわふわしててきれいですね! 猫みたいでかわいいです!』
ちがう。
わたしとこの人しかこのトークルームにいないのに、わたしに話してない気がする。
わたしはスマホを机に投げて、ベッドにもぐりこんだ。
なんだか胸の奥がすごいもやもやしてて、右手の爪が勝手に出ちゃって、枕を引っ掻きそうになったからカリカリを持ってきてずっと押し当てていた。
それから一時間ぐらい経ってパパが帰ってくるまで、ずっとそうしていた。