ネコミミあるだけでマチアプ楽勝時代は終わった~獣人がいる日本で彼氏を作りたい~   作:棗の

5 / 6
第五話

「うーん……」

 

パパと話して数日後のお休みの日。

わたしはベッドに転がってスマホを眺めていた。

 

マチアプの画面。

いいねしてくれた人とやり取りしてるけど、今もやりとりが続いてるのは一人だけ。

 

『エピソード2から出てくるあの子はわたしも好きです 早くくっついてほしいって思ってます!』

 

唯一やりとりが続いてる人に送ったメッセージ。

送ったのは昨日の夜。いまは朝の11時。

既読は付いてない。

 

寝てるだけかもしれない。

たまたま朝から忙しいのかも。

 

そんなふうに思っているうちに”自然消滅”する人が何人もいる。

 

話題が続かなくて、わたしも話題を続けられなくて、そのままどっちか……ほとんどの場合向こうから既読がつかなくなって、わたしのメッセージで終わる。

 

 

調べてみたけど、マチアプではよくあることなんだって。

趣味とかでちょっと盛り上がったけど、話題が続かなくてそのまま離れちゃう。

 

だからわたしが変わってるわけじゃないし、わたしのせいじゃないと思う。たぶん。

 

ちょっと気が合わない人ってクラスにもたくさんいるし、たまたまそういう人と会っただけ。

そもそも話す気が無い人とか、完全なネコ獣人の人とかはあれから一度もマッチングしてない。

 

確かに、進んでいるとは思うんだけど。

 

 

「……どう思ってるんだろう?」

 

いまやり取りをしてる『ふみすけ』さんのプロフィールを見てみる。

わたしとおなじ15歳の、人間のひと。陸上部で、わたしと同じ長距離走メインの人なんだって。

趣味がボルダリングとスノーボード。わたしはどっちもよく知らない。

 

ふみすけさんの写真は、陸上の練習中に男の子の友達と二人で撮った一枚。

友達っぽい人が映ってる所だけ、顔文字のスタンプで隠してる。

 

 

率直に言えば……優しそうだけど、かっこいいって感じじゃない人。

 

 

わたしが地区大会で優勝したってことはネットに出すの怖いから、『地区大会入選まで行った』ってことにしたけど、それでもすごい褒めてくれた。

 

陸上の話題からAmazonPrimeの恋愛バラエティの話になって、わたしが誰を応援してるかの話でちょっとすれ違って。

 

わたしがちょっと空回りしてる気もする。

ふみすけさんは男の子だから、男の人のほうに感情移入しちゃうのかな。

 

表面だけで、まるで服のお店の店員さんと会話してるみたいな感じ。

 

ふみすけさんがわたしのことどう思ってるのか、よくわからない。

 

 

マチアプの会話が止まった時は、さっき何してたとか、そういう話題を出すのがいいみたい。

人間用のだけど、マチアプ攻略サイトに書いてた。ハーフ向けのやつはなかった。

わたしより年上のハーフの人ってあんまりいないからかな?

 

「ひとこと呟き機能とかあるんだ」

 

マチアプのメニュー画面に、そんな機能があった。

写真をつけてつぶやくインスタのストーリーみたいな感じ。

 

ストーリー上げたことなんてほとんどない。

元々インスタなんて見る専で、学校の友達ぐらいしかフォローしてない。

 

「なんかキラキラした写真とか上げたら見てくれるかな……」

 

 

 

そうして、わたしは外に出て近所のスタバにいた。

 

お店に入って列に並ぶ。列の横のメニュー立てをちらっと見る。

 

『アレルギー特定原材料等に加え、 カフェインを含む飲料を取り扱っております。

体質・種族特性(しゅぞくとくせい)により摂取にご懸念のあるお客様は、 ご注文の際、お気軽にスタッフまでお声がけください』

 

最近こういうふうに書いてる食べ物のお店が増えた。

 

 

わたしはあんまりスタバに行ったことがない。

ママがコーヒー飲めないから家族で行くことがないし、ちょっと高いし。

 

だけど、インスタに上げやすくて話題になりやすいキラキラしたものっていったら、スタバの限定フレーバーのフラペチーノが一番手軽みたい。

これも人間の女子向けのサイトだったけど。ハーフ向けのやつはやっぱりなかった。

 

 

「お待たせしましたー。ご注文お伺いします」

 

メニューの一番上にある限定フレーバーを見た。

今は二種類あって、ミント系のやつと、バニラのやつ。

ミントのにおいは好きじゃない。

色が可愛いしボリュームあるし、バニラのほうがよさそうって当たりはつけてた。

 

「えっと、バニラ&シトラスフラペチーノをひとつ」

 

「かしこまりました!」

 

お金を払って、ずっしり重たいフラペチーノを受け取る。

青い模様の入ったカップに、ふわふわのクリームがたっぷり。ちょっとだけ黄色っぽいつぶつぶのフレーバーが散ってる。

 

甘くておいしそう。

 

そういえば、シトラスって何なんだろう? スタバのフレーバーってよくわからないのが多いけど、甘いのは共通のはず。

 

 

わたしは店内の奥の方、目立たない席にフラペチーノとスマホを置いた。

ネコミミからネコ用のイヤーカフ型イヤホンを取った。ミミの根元に引っ掛けて内側に固定して使う、ピンク色のかわいいやつ。

しっぽをまきこまないように腕で横に押しのけて座った。

 

しっぽがある人用の、後ろ部分が空いてる広い席もあったけど、イヌ獣人のひとが座ってたからダメだった。

よくあることだし気にしない。スカートの後ろにあるしっぽを出す穴のところがちょっとだけ窮屈なぐらい。

 

 

「スマホのインカメで撮るんだよね、たしか」

 

こんなの撮るのはじめてかも。ちょっと恥ずかしい。

メイクもちゃんとしてるし、暑いから髪を後ろで縛ってる。

 

左手でインカメにしたスマホを持って、右手でフラペチーノを持って、笑って、顔に近づけてシャッターを切ればOK。

 

左手のスマホにわたしの顔が映る。がんばって笑顔を作った。

 

 

顔に近づけたフラペチーノから、()()()()()()()()()()()――

 

 

「ひゃっ!?」

 

思わず右手を勢いよく顔から離してしまった。

慌ててフラペチーノを見たけどこぼれてない。ちょっと形が崩れただけ。

 

なんかすごいイヤなにおいがした!

 

ゆっくり近づいて、鼻をすんって鳴らすと、バニラの香りと一緒にすごくイヤな――ツンとしてキツい臭いがする!

 

「なにこれ……ダメになってるわけじゃないよね?」

 

そんなわけない。今作ってもらったばかり。

 

左手のスマホを見た。

すっごいイヤな顔をしてフラペチーノを持ったわたしが映ってた。

どう見ても楽しそうには見えない。

 

ネットで見た写真と構図は似てるけど、表情がどうしようもなく違う。

パパがむかし撮った、予防接種のときのわたしの顔みたい。

 

わたしの鼻がおかしいだけかも。

 

もう一回やってみたけど……顔に近づけた途端に、自分でもわかるぐらいに顔がぎゅっとゆがんで、スマホ画面にさっきより顔をしかめたわたしが映る。

二枚目の使えない写真が保存された。

 

なんかおかしい。

これって、わたしのせいじゃないかも……?

 

「バニラがだめわけないよね……シトラス……?」

 

 

調べてみた。

 

『シトラスとはミカン科ミカン属の果物の総称です』

『ネコ獣人の方は苦手です。ハーフの方でも苦手な場合があります。贈り物の際は気をつけましょう』

 

「うわ……みかんなんだ……これ……」

 

わたしは生まれつきみかんが苦手。グレープとかレモンもダメ。ママも同じくダメ。ネコはみんなそうなんだって。

においがすごくイヤで、ツンと鼻の奥を突く感じがする。みかんのアロマとか、柑橘系の紅茶とかもダメだから、うちにある紅茶は全部そういうのを避けてる。

”みかん”ってちゃんとメニューに書いといてよ!

 

「どうしよ、写真……」

 

パパが甘いもの好きだし飲んでもらうとして。

マチアプ用の写真、撮らないと。

 

 

それから何回かやってみたけど、わたしの身体はフラペチーノが顔に近づくたびにぎゅっと顔をしかめたり、尖った上の歯が見えるぐらい口が開いちゃったりして、かわいい写真なんて撮れなかった。

一応、顔に近づけないよう手前に置いて撮ってみたけど、テンションが下がりすぎて、ミミもぺたんとしてて楽しそうに見えない。

そんな写真見ても、誰も楽しくなさそう。

 

 

何分経ったか分からないぐらい格闘して、ちょっとフラペチーノのクリームが溶けてきて、わたしはスマホとフラペチーノをテーブルに置いた。

 

「なんなのもう……人間の真似も、ネコの真似もダメって」

 

マチアプの通知はきてない。既読もついてない。

 

マチアプのつぶやき機能の写真ボタンをタップすると、カメラロールが出てきて、しかめっ面のわたしの写真がいっぱい出てくる。

段々ミミがしおれてきて、フラペチーノが溶けてる以外は大体一緒の写真。

 

アプリを閉じようとして、パパの言葉を思い出す。

 

 

――麗奈(れいな)がどういう人なのかを見せてあげればいいと思うよ

 

 

映ってるのはわたし。

限定フラペチーノで映え写真撮ろうとしたら、においがキツくて無理だったわたし。

 

慣れないことしたのがよくなかったのかも。

 

 

「……いいや。これで」

 

せめて払った560円分は無駄にしたくなかった。

 

一番マシに見える最初の一枚を貼り付けて、『スタバさんごめんなさい 柑橘類が苦手でうまく撮れませんでした』って書いて投稿した。

わたしとマッチングした人しか見えないし、大丈夫。たぶん。

 

「帰ろ……」

 

イヤホンをつけて、左手でフラペチーノを持って立ち上がって、右手でスマホのSpotifyを開いて、『落ちこんだ時用』のプレイリストをタップした。

 

『ふみすけさんがあなたの投稿にいいね!しました』

 

『ふみすけさんからメッセージが届きました』

 

そんな通知が連続でスマホに出てきて、思わずわたしは立ち止まってしまった。

 

 

『投稿見ましたよ! カワイイですね笑』

 

『すみません からかってるわけじゃないんです すごく自然でかわいかったです』

 

『スタバのフレーバーってにおいキツいやつたまにありますよね 見た目に騙されて僕もよく買っちゃうんですよ 僕はミント系がちょっと苦手で笑』

 

 

わたしとふみすけさんの間で、何かが繋がった気がした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。