世界は腐っているので私がぶっ潰す 作:NTR絶対ぶっ殺すマン
また一人、この学院からいなくなった。
「……皆さんも、常々敵国からの襲撃には備えるように」
そう言って、先生は亡くなった生徒が入っている棺桶に祈りを捧げる。
もう見慣れてしまった光景。
最初の頃は仲間が、クラスメイトが死ぬたび涙を流して悲しんでいたと言うのに、今ではただ、ああそうなのかと、最早何も感じなくなってしまっている。
「毎日毎日朝っぱらからこんな暗い話されて、ホント嫌になっちゃう」
そう私に話しかけるのは、同級生であり親友のエル。
「ええ……そうね」
魔王が死に、魔族との戦争が終わってもこの世界が平和になることは無かった。
ただ標的が魔族から他の種族へと変化しただけで、戦争と言うものは今も絶えることなく続いている。
「はい、では黙禱も終わったので授業に移りましょう。皆さん教科書の────
そうして半ば義務的とも言える黙禱が終わった後、また、いつも通りの1日が始まっていく。
私の名前はエミリ・リディア。周囲のみんなからは愛称でエミと呼ばれてたりする。
私はどういう訳か、前世の記憶を持ったままこの世界に生まれた。
所謂転生と言う奴だ。
ま、とは言っても前の世界では10年も生きられず病気で早死にしてしまってるので前世の記憶とかあってないようなものだし、『転生したら強くなってニューゲーム!』となった訳でもないのでわざわざ前世の記憶持って生まれる必要あったか……?とは薄々感じている。
そのおかげ……かどうかは知らないが、前の世界にはなかったこの世界特有の『魔法』と言う概念は割とすんなり理解できた。
『魔法』は一言で表すとエネルギーの変換。
電気で電球が点くように、石油で車が動くように、『魔法』は魔力を原動力に様々なものを動かす。
『魔法』はこの世界におけるインフラだ。この世界には電気も車を動かすエンジンもないけれど、『魔法』がその代わりに全ての役割を果たしてくれる。だから、前の世界では電気が無ければ生活していくことが出来ないように、この世界は『魔法』が無いと生活することができない。
学院でも「魔法の歴史は人類の歴史」と教えられたようにこの世界では魔法が人間にとって最も重要な役割を果たしているのだ。
「エミリ・リディア、この問いついて答えられますか?」
そしてその魔法をより良いものするために研究をしたり、戦闘でそれを使用する人々は
「はい、魔石と液化硫黄から生じる触媒は非常に高い耐熱性を持ち、炎を扱う魔法において優秀な補助魔道具となります」
「はい、正解です」
私たちはそんな魔導士見習いで、魔導士養成機関の『学院』で研鑽を積み、いずれ前線に駆り出されることになっている。
「では、次。その触媒を用いて使用される魔法の総称は何と言うでしょうか?答えを────エル・ローレンス」
「はっ、はいっ!」
学院に入学した生徒の進路は、大きく分けて二つ。
一つは、後方での魔法の研究や軍を指揮する参謀本部の司令官、現場を指揮する将校になる為、勉学でいい成績を残して幹部候補生になること。
所謂エリートコースであり、基本的に学院の生徒は幹部候補生になることを目指し日々勉学に励んでいる。
「えと、なんだったけ……すみません、少し調べ────」
「はぁ……予習して来なさいと言っていたのに何故貴方は答えられないのですか?それにこの程度の知識、そもそも予習していなくても直ぐに答えられなければ
「うっ……」
出た、先生お決まりのいびり。
間違えたなら間違えたで正しい答えを教えてあげればいいのに、この先生だけは毎回間違ったことに対して執拗に問い詰めて来る。
先生も先生で職場のストレスが溜まっているのはまあ同情しなくもないが、そのストレスを生徒に当てるのはどうなんだろうか。
(錬金魔法だよ、エル)
見てられないので、小声でそうつぶやいておく。
「は、はい!れ、錬金魔法です!」
「……正解です。座りなさい」
「ふぁぁ危なかったぁ」
へなへなと無気力にエルは倒れるように姿勢を崩し、椅子に座るのかと思いきや自分に抱きついてくる。
「ちょっ、エル!?」
「ありがとうだよエミリ、エミリがいなかったらわたしもう……」
「そっ、それ後で!今はみんなの視線あるから!」
強引にエルを引き剝がす。
「ほら、今は授業に集中して!」
「むぐぅ……」
と、
【あーあ、また助けられてるあの子】
【エミも早くあんな子見捨てればいいのにさ】
周りから聞きたくもないような陰口が耳に入って来る。
「あっ……」
「みんなも陰湿だよね、そんなに思うところがあるなら私に直接言えばいいのに」
「──っ、ごめん、エミリ」
「いいのいいの、別に私は何も思わないし」
いつものことだ。
ネジが外れた故障品が普通のこの世界では、ネジのはまった正常品の考えが歪になるだけ。
「わたしなんて、エミリと違っていつまでここにいれるのか分かんないのに……」
学院に入学した後のもう一つの進路。
それは軍に徴兵され、戦闘補助や兵士の治療などの戦場の最前線に行くこと。
もちろん最前線とだけあって、死亡率はとんでもなく高い。
……だから、その不利な役は見込みのない成績不振者に回す。
前線では常に人員不足であり、最低限の回復魔法や
使い捨ての駒として扱われることを除けば、結構良い待遇だと言える。
そうやって魔法の才が無い者を前線に行かせて切り捨て、その子たちが命を懸けて稼いだ時間が才のある
だからみんな必死だ。
自分のことしか考えられなくなるほどに、この学院は殺伐としている。
「私は、エルの考え方が好きなの。だから、エルにはずっとここに残ってて欲しいってだけ」
「またその話……あんな考え他のみんなからは笑われてるのにさ」
『種族も人種も関係なしに皆が手を取り合って争いのない平和な世界を作りたい』
エルが話してくれた夢。
先生からは理想論を語るなと怒鳴られ、他のクラスメイトからは何馬鹿な事を言っているんだと嘲笑の的になっていたけど、私はまだこんな壊れた世界にも彼女のような考えがあったんだと、まだこの世界は完全には狂いきれてないんだと、彼女から感じたんだ。
「では今日の授業はここで終了にします。各自、出された課題を次の授業までには終わらせてくるように」
あれから大体一時間ほど授業をして、先生は授業終了の号令と共に教室を出ていく。
「ふぃ~ようやく終わった」
「おつかれエル、今からお昼だけど……一緒してもいいかな?」
「もちろん!」
☆
「ふぁぁ美味しかったぁ」
昼食を食べ終え、しばしゆったりとした時間が流れる。
「よし、食べ終わったことだしちょっと勉強でもしときますか」
「ええっ、今からはお昼寝タイムじゃないの!?」
「……そんな訳ないでしょ。ほら、さっき出来て無かった魔法学を教えてあげるからノート出しなさい」
「うげぇ」
この世界の勉強科目は国語や数学といったものに加えて魔法学というものがある。
魔法学とは文字通り魔法について学ぶものだけど、実技とは違って魔法そのものの理論や体系について学ぶ教科。
まあ、科学と歴史が混じったような感じの教科と捉えてもらって構わない。
「そうだね、その魔法を使うと副産物として水を生み出すのに適した触媒が出来る」
「おーなるほど!こうやってエミリは覚えてるのね!」
「そう、だからこの問題は────」
魔法そのものの理解に対して言えば、エルは学年一番と言っていい。
みんなと授業するのが合わないってだけで、1対1となると私をも越えるスピードで成長していく。
「凄いなぁ、エミリは筆記と実習完璧にこなして、更にはわたしに勉強も教えちゃうんだもん」
「そんなそんな、褒めることじゃない。私には
「うわーまた出たよその謙遜、どうせめっちゃ点数高いくせに」
そんなことはない。
事実、実習の点数は平均よりちょい上くらいだし、魔法考察のレポートに至っては圧倒的な差でエルに負けてる。
ただ自分は点数の公表される筆記が得意だから優秀に見えるだけで、全体的に見たら自分は取り立てて優秀って訳じゃないんだ。
「エミリが学院を卒業したら、きっと優秀すぎて戦争なんてすぐに終わっちゃいそう!」
「……私を褒めても何もでないわよ」
「じゃあ、何か出るまで褒めるってのが筋ってもんでしょう」
あはは、とエルは笑みを私に向ける。
その何気ない行動に、私は胸を射抜かれそうになる。
「────戦争なんて、早く無くなってしまえばいいのにね」
「え~なに急に」
「ん……いや、ただずっと二人でいたいなって」
……いや、実はもう既に射抜かれているのかもしれない。
「じゃ、私は午後も授業があるから学院に戻るけど……エルはどうする?」
「あー私はなんか先生から呼び出されてたから、エミリと一緒に行く!」
学校へと行く道中、私たちは他愛のない話で盛り上がる。
学校は重々しい空気が流れててとても世間話が出来るような雰囲気じゃないから、割とこの時間は貴重だ。
「でね!それでさぁ!」
エルは普通の人ならどうでもいいと思うような事をさも大事であるかのように雄弁に、そして面白
「ふふっ────」
ああ、楽しい。
もうずっとこんな時間が、長く続けばいいのに。
◆◆◆
「エル・ローレンス、貴公を帝国陸軍第23師団第23大隊衛生部への配属を命ずる」
それは、あまりに突然に。
「兵役の任、拝命致しました。国の為、全力を尽くす所存です」
頭の中が真っ白になっていた。
行事が終わって話しかけられるまではただぼうっと、何も考えられず遠くを眺めていたような気がする。
「えへへ……結構緊張しちゃった。やっぱり私にはお堅いのは合ってないよね」
「……ぁ」
声が出なかった。それ以前に何と声をかければ良いのか分からなかった。
走ってもないのに身体は汗を出して、脳はどうにかしてその事実を否定しようとエルに目を合わそうとはしてくれなかった。
「ねえちょっとー!聞いてるー?」
なんで、なんでエルが戦場に行かなければならないんだ。
だってエルはあんなにも努力家で、優しくて、私にとってかけがえのな────
「エミリぃぃ!!!!」
「うわっ!?」
ぐわんぐわんと揺さぶられて、エルは私が視線を逸らぬよう、ガッチリ両手で私をサンドして向き合わせる。
「もう、エミリは心配しすぎ!兵役に行くことになったからって別に私は死ぬ訳じゃないんだよ!だからそんなにめそめそしない!」
「い、いや……でも────」
「でももなにもないよ!」
「っ……」
凄い気迫に、思わず押し倒れそうになっていた。
「とにかく、エミリは無駄な心配はしない!それに私の配属は衛生部だから、よっぽどのことがない限り死なないよ。……まあ疲れ死にはしそうだけど」
そうして、エルは私を強制的に立たせる。
「さあ!じゃあ行くよ!」
「え、行くって何処に……」
「任官祝いにエミリのおごりで買い物!」
「ああ……って、どういうこと!?」
エルは私の荷物を持ち上げ、ごそごそとその中をまさぐる。
「私知っちゃったんだよねー確かここらへんに……ほら、出てきた」
「ちょっ、なんで私の財布の隠し場所知って……っておい逃げるな!」
やばい、アレの中身を使われたら明日自分の命はないぞ。
「へっへ、財布を使われたく無かったら捕まえてみな!」
「ああもう……!」
私はそう言ってエルを追いかける。
こんな鬼ごっこをする時、いつもエルはすぐに捕まえられるんだけど、今日だけは少し時間を掛けた。
これがエルとの最後の思い出になるだろうと思って。
……だって、前線での新米衛生兵の死亡率は、八割を超えているから。