世界は腐っているので私がぶっ潰す 作:NTR絶対ぶっ殺すマン
最近、授業が退屈で仕方がない。
二人で一緒に楽しく受けていた授業も、一人だとこんなにもつまらなくなるのか。
……徴兵された生徒は二週間の実践的な魔法訓練を受けた後、戦場に派遣されるとどこかで聞いた覚えがある。
なので今頃エルはきっと訓練先の先生にでも怒られてる頃だろう。
「で、この戦いで我々は数的不利を覆し勝利したことで────」
エルが居なくなって一週間。
世界は何事もなく時間を奪っていく。
……正直言うと、私はまだエルがいないことを受け入れられないらしい。
もうわざわざ時間をかけて上手くノートを纏める必要なんかないのに、誰かに見られることを期待していつもよりも分かりやすく出来たかなって、そう無意識のうちに思ってしまう。
「もう、終わったことなのにな」
私って結構メンタル強い方だと思ってたのに、実際はこんなにも弱かったんだ。
もう自分が嫌になってくる。
もちろん一刻も早く気持ちを切り替えて、エルの分まで勉強して、私はもっともっと強くならないといけないんだって、そんなことは百も承知で分かってるのに。
でも、授業に集中しようと教科書を見ていると、自然と彼女のことを思い出してしまって手が止まってしまう。
「────リ…………おい、エミリ・リディア!」
「あっ……は、はい!」
「この戦いによる戦術の変化について答えられるか?」
「え」
やばっ、何も聞いてなかった。
「えっと、それは────」
立ち上がったは良いものの、問題に答えられる訳がないので数十秒間黙ったままの気まずい時間が流れる。
「分からないか?」
「……すみません」
「じゃあ代わりに誰か答え分かる奴いるかー?」
くそ。
何やってんだよ私。
☆
「っともうこんな時間か、じゃあここら辺で今日は終わりにする。分からなかった所は各自復習しておくように」
授業が終わった。さっき三限だったのでこれからは休憩時間。
昼食や帰宅のため、皆一斉になるはやで教室を出ようとするから私はいつも少し遅れて教室を出る。
時間にして五分程度は待つことになるが、人混みに押されて暑苦しい思いをするよりずっと良い。
「んっ────」
身体を伸ばすよう椅子にもたれかかる。
最近は授業も多いしテストもあるしで、予習復習で毎日机とにらめっこだ。
この時くらいは身体を労わってあげないと。
「あと三コマ……がんばろ」
そんなこんなで大体二、三分ぼーっとした後、頃合いを見て教室から────
「お前まだいたか」
「あ……リース先生」
リース・ガルデュラム先生。先ほど授業をしていた歴史学の先生で、引退上がりの将校であるせいか口は悪いものの、生徒一人一人に本気で向き合って指導をしてくれる、本当に良い先生。
そのお陰か、生徒に尊敬する先生は誰かと問うと大多数がリース先生の名前を挙げるくらい人気で人望がある。
無論私もその一人だ。
「最近の授業は理解できてるか?分からない所があれば遠慮せず聞けよ」
「はい、ありがとうございます」
「感謝される筋合いはねぇよ。教えるのは教師の仕事だからな」
そして、先生はもう話は終わりと言うように、荷物を持って教室の出口へと歩を進めていく。
────と、
「あと……そうだな、言うか迷ったが一応言っておくわ。友達がいなくなって寂しいのは分かるがもうソイツの事は忘れろ。酷な事かもしれないが、そうしないと思考のドツボにはまって抜け出せなくなる。俺の経験談にゃなるがよ、お前みたいに思い詰めてる奴の大半は成績下がって兵隊行きになってたぜ?」
「……っ」
「今日はもう休んどけ、担当の先生には俺から連絡しといてやる」
「いやっ、でも────
「お前は完璧であろうとし過ぎなんだよ。人間、たまにはサボる位が丁度いいのさ」
そう言うと、先生は一枚の紙を魔法によって私の手元へと運ぶ。
「俺が得意になってる古本屋のチラシだ、やる事がないんなら昼飯ついでにそこに立ち寄って時間を潰しときな。あそこの店主のジイさんなら立ち読みしてても怒らないから」
「んま、じゃそゆことで」
────行ってしまった。
「古本屋……か」
なんか買う本とかあったかな。
料理本とか……買ってみるか?
◆◆◆
「卵と調味料と……あ、牛乳もそろそろ足りなくなるから買っておかないと」
この都市最大の商店街、イヴェル街。
ここには食料品から魔導書、更には武具の類まで実に様々な物が売られている。
「にしてもあのおじいちゃん、めちゃくちゃサービスしてくれたな」
二、三冊安いのを買ってそれで済ませようと思ってたのに、気付けば紙袋一杯に本が詰まってる。
それにお古の魔導書とかくれたし、それでいて代金は新品の本に少し色がついたくらいなんだから逆に申し訳なくなってくる。
「これか……どんな料理に使うのかと思ってたけどまさかアレに使えるとはね」
で、今は買った料理本を片手に材料をかき集め中。
どうやら本によると前の世界で言う”味噌汁”が出来るとのことらしい。
これはもう作っておく他ない。
「っと、後はこれか」
学院から一応手当は貰っているけど生活費や魔道具の購入とかでどんどん無くなっていくので、節約するため一人で食べる時はいつも自炊。
ちなみに腕には結構自信がある。
エルに料理を教えてくれとせがまれたこともあったっけ。
……まあともかく、この世界には娯楽と呼べるものがそれほどないため、自ずと数少ない娯楽に力が入ってしまうのだ。
「全部で銀貨十枚です」
げ、ちょっと買い過ぎたか?
いやでもこのくらいないとなぁ。
そう心の中で思いながらも、バッグから財布を取り出した、正にその時。
「痛っ────」
肩の僅か下からの衝撃。
あまりに突然来たものだから、思わずよろけてしまう。
「あっ、ごめんなさい」
ふと声がした方に目をやるとそこにはフードを被った子供……どうやら前を見ておらず私にぶつかったらしい。
「気をつけます────」
そう言いながら、きちんと謝らず逃げるように小走りで駆けていく。
「……はぁ」
困ったものだ、自分のせいでぶつかったなら普通立ち止まってもうちょっと申し訳なさを見せて欲しいんだけどな。結構痛かったし。
まあ、でも子供だ。
これくらいで大声を出し怒鳴って る程私の性格は終わちゃいない。
それに曲がりなりにもあの子は一応私に謝っていたし、ここは寛大な心で許そうではないか。
「……って、あれ?」
唐突に手に持った財布の感覚がないことに気付く。
「あ、あの、お客様」
店員が震えながら指を指している。
指した方向目をやると、走って逃げていく子供と────その腕に持っている私の財布が。
まさかさっきのぶつかった時に盗られて……!!
「
脳が決断をするより早く体が動いた。
「あっ、このっ、放せよ!」
浮遊魔法。
対象の人物と地面との魔力の反発を利用して宙に浮く魔法。
ずっと人に使う魔法ではないだろと思っていたけど、まさかこんなところで役に立つとは。
「おい!何見てんだよさっさと戻せよ!」
魔族……か?
体色が少し灰に近い色をしているのを見るに、きっと魔族系統。それもしっかりとした会話が成立している事から、魔族の中でも上位種っぽい。
「食いモンなきゃ俺は死んじまうんだよ!だけど金ねぇし……だから少しくらいいいだろ!」
魔族は先の戦争で敗北した後かなり没落したと聞く。
講和条約で国家は大幅に領土を削減され、元々住んでいた魔族は土地を奪われ奴隷同然となり今も強制労働させられている。
きっとこの子もその中の一人なのだろう。
「くそっ!なんなんだよこれ!」
ぼろぼろのシャツとズボンに、ところどころ痣のある身体。きっとこれまでも同じようなことをしてその度に客や店主から制裁を受けているらしい。
「────っおい!見てないで少しは何かしゃべれよ!」
「なんだい五月蠅いねぇ、喧嘩は他所でやって……ってアンタは」
「あ、店主さん」
騒ぎを聞きつけたのか、店主のおばちゃんが出てくる。
「また人様のものを取ったのかい!あれだけやったのにまーだ懲りてないとはね」
「げ」
「あの、お知り合いなんですか?」
「知り合いも何も、コイツはスリの常習犯さ。最近現れるようになってウチも迷惑してんのよ」
「はっ、金持ちのモン取って何がワリぃんだよ!」
そう言いながらまたじたばた暴れるのだが、いかんせん宙に浮いている状態なのでそのもがきは悉く無駄だ。
「まあここで色々話すのもなんだ、詳しく話すからちょっと来てくれるかい?」
そうして、私はすぐそこにあった店員専用の応接室に子供と一緒に通される。
「────で、コイツどうするよ?店の商品を盗ったからアタシがしばいてやったが……今回の被害者はエミちゃんだ、望むならアタシの方から再教育施設にでもぶち込んでやるわよ?勿論配送料諸々はアタシが出すわ」
「施設ってふざけんな!あんなとこ二度と行きたかねぇよ!」
取りあえずうるさいのでちょっと黙らせよう。
「
「大体お───!──!!!────!」
これで幾分かは静かになるだろう。
にしても魔法の通りいいなこの子。今まで見た中で一番かも。
「まあ……そうですね。好きにして良いと言うことなら、施設に入れて頂けると」
「──!────!!」
「そうかい、じゃあちょっと待ってな。今配送用の箱出すから」
「ありがとうございます」
店主のおばちゃんが立ち上がって物が沢山ある所をガサゴソと探す。
「お、あったあったこれこれ。エミちゃんソイツをこの箱に入れて貰えるかい?」
「はい」
「────!」
何か言ってるがこの際無視しよう。
下手に喋らせて面倒起こしたくないし。
子供を入れた瞬間、あらかじめ箱に付与されている魔法が自動的に発動し包装が始まる。
「良し、これで終わり。迷惑かけてすまなかったね。お詫びと言っちゃあなんだが今日買った物のお代は要らないよ」
「あ、ありがとうございます……」
「それにしてもここ最近はこんな輩が頻繫に出る位にはここも治安が悪くなってるねぇ。エミちゃんみたいな力で威圧できる学院生徒や国から派遣されてる兵士が少なくなって来てるのが原因だろうけど……まあ、そんなことを考えてても仕方ない。エミちゃんもまた掏《す》られないよう気を付けときな」
あれからもう少し店主さんと話をしてたけど、何故だか居心地が悪くなって、早々に話を切り上げて店を出てしまった。
空を見ると、あれだけ真上にあった陽も今は傾いていてもう夕暮れ。
「早く帰らないと」
歩き出す。
────が、その足取りは少し重い。
「……っ」
何考えてる。
なぜ、こんな時に、エルの顔が浮かんで来るんだ。
『ねえエミリ!私はね、将来は外交官になりたいんだ!』
『私は暴力じゃなくて、会話で世界を動かしてみたい』
もう何年も前の古い記憶が、私の思考を奪おうとする。
そんな話は今の事とは関係ない、と切り捨てたい。
けど、何処かでそう思えないような自分がいる。
「……ははっ、何考えてるんだろう。まったく」