世界は腐っているので私がぶっ潰す 作:NTR絶対ぶっ殺すマン
私は、理想だけは高尚だった。
実力はその理想を叶えるほど、高くはなかったのに。
「痛っ……」
教官から打たれた傷がしみる。
私がドジで失敗ばっかりするから、いっぱい叩かれて背中はもうまっかっか。
「ち……
パチンと背中と手の間に稲妻が走る。
────また失敗。
「もう……なんでできないの……」
みんなできてたのに、なんで私だけ。
治療魔法が使えないと戦闘ではお話にならないので、私は叩かれた傷を魔法で治せるまで毎日居残り中。
「あと6日しかないから頑張らないと……!!」
また詠唱へと取りかかる。
自分の魔力はもうすっからかんで、魔法を試そうとするたびに代償で身体じゅうが痛くなるけど、そんなもの知ったことではない。
パチン。
パチン。
────────パチン。
「もう……もういっかい……」
泣き言は言わない。
それはもう学院に置いてきたから。
それにこんなところでへこたれてたら、エミリに顔向けできない。
「まだ……」
私はいつも落ちこぼれだった。
だから、いつも魔法を勉強する時はいつも人の倍努力する。
「もっと────もっと魔法の核から……正確に」
解像度を上げろ。芯まで魔法のコードを理解して、それを身体に叩き込め。
「へえ、まだやってたんだアイツ」
集中……
「おいおい俺たちのことは無視か?」
「
「おい!」
「あっ────」
手を取られ、不意ながらも魔法は中断される。
「よぉ、元気にしてんのお前?」
「……あ」
振り向くと、同じ班のレンド君とリュード君が私の前に立っている。
「まだ魔法の練習やってんの」
「うん、まだコツが掴めなくて」
「……あのさ、さっき教官が呼んでたぜ?伝えたいことがあるって」
「えっ」
「ほら、さっさと行くぞ。早くしないと俺らも怒られちまう」
「あっ……ちょっ」
レンド君は半ば荒っぽく私の手を掴み、早足で私を連れていく。
そして捕まれたその手を、潰れてしまうくらいに痛く握りしめて。
……その態度で、もう何を”される”のか分かってしまった。
またか。
「ね、ねえ」
「あ?なんだよ」
「教官室って……こっちじゃなくない?」
一応、聞いてみる。
「あー」
「ほら、教官室はあっちだから……早く行こ?」
「なあ、もう良いだろ」
「まーそうだな。十分兵舎から離れたし」
「え────
質問虚しく、胸に大きな衝撃が来る。
「げほっ……かっ」
胸が呼吸出来ない程痛くなる。
「俺たちさぁ、お前のせいで居残りで訓練させられてたんだわ」
再び、今度は右頬に一撃。
「っ────は────」
始まってしまった。
こうなったらもう一時間くらいは耐える覚悟をしとかないと。
「お前さ、マジで邪魔なの。一週間経っても魔法はロクに使えないし、体力もないし、かといって他に何か出来るわけでもないしさ」
「っ……」
「なんかちょっとは喋れや!!」
倒れ込んでいた私に蹴りがモロ腹に入り、胃がびっくりしちゃって入っていた内容物が全部でてしまう。
「うわ、気持ち悪っ」
「でも似合ってんじゃん、アイツに」
そして彼は私の髪を掴み上げて、倒れた私を強制的に立たせる。
「ホラ立てよ、なんか俺らに謝罪の言葉とか無い訳?」
「ごめ…んね……わた……魔法使えるよう……頑張るから……」
「あぁ!?聞こえねぇからもっと大きな声で喋れよ!!」
そして今度は左胸部に拳が入って、ぼきっと骨の折れる音が聞こえる。
「おー何本逝った?」
「うーん、俺の手応えでは3本」
痛い。
身体中全部が本当に痛い。
「にしてもさ、コイツ俺らが来ても来なくてもどうせ魔法で身体ぼろぼろになるからどんだけ殴ってもバレないの最高過ぎるわ」
「それな、治療部も少しは不信に思えばいいのに」
もうこれで五日目。
それも最初ははたかれる程度だったのに、段々と過激になってる。
「なんで……こんなこと……」
「ははっ、そんなん分かりきってるだろ。どうせ戦場じゃきっと直ぐ死んじまうんだから、今のうちにやりたい事全部やってるだけさ」
そして彼は質問のお返し、とか言ってまた私を殴る。
「おいおい、お前にとってコイツはストレス解消道具かよ」
「そりゃ訓練中アイツ殴っても何も反撃とかしてこねぇし。それに『これであなたの気が晴れるなら』って、進んで身を差し出すような奴だぜ?」
「まあ確かに」
それからは散々だった。
今日は特にストレスがたまってたみたいで、いつもよりいっぱい殴られたし、言葉にできないような酷いこともたくさんされた。
「ふぃーすっきりしたな」
どうやら終わったらしい。
もう骨が何本折れたかも分からない。
「おいお前!明日も来るからな!今日の傷は治し────」
「……どうしたよ?」
「…………」
いつもは激痛に悶えながらもよろよろと身体を持ち上げるのに、今日はそれが出来なかった。
あと、息をするたびに、身体が破裂しそうなくらい痛くなる。
「あー」
「やっちゃったか、これ」
息を吸うと、ゴロゴロと激痛と共に肺へと血が入っていく音が聞こえる。
どうやら折れた骨が肺に刺さってるらしい。
「ゴプッ……げほっ」
それが気管までやってきて、口から窒息するくらい大量に血が流れ出てくる。
「流石に痛めつけ過ぎちゃったか」
動けない。
と言うか、もう動けるほど身体が無事じゃない。
「……殺す?コイツ」
「っ!お前殺すって────」
だけど不思議なことに、少しずつ痛みは引いていく。
代わりに意識が遠のくことを代償として。
「もうコイツほっといても死ぬだろ、それに万が一生きても俺らの班にいたところで何も出来ないじゃねぇか」
「ま、まあ……」
「それによ、人を殺す感覚ってのも、ちょっと感じてみたかったんだ」
「で、でも、俺らが殺したってバレたら……」
「大丈夫大丈夫、バレやしないさ。死体が見つかった所で魔法の代償に命を懸けた哀れな衛生兵、ってことになるさ」
私は、いつも不幸な人間だと。みんなに言われた。
確かに他人から見れば、両親を戦争で失くし、学院に魔法の才能もなく孤児同然で引き入れられた身を鑑みれば、その表現は適切だったのかもしれない。
でも、私は今の今まで、そんな感じで自分を悲観したことなんて一回もなかった。
あの、十年前、両親を手に懸けた魔族の兵士が、少しだけしたあの顔。
怒りと悲しみが果てしなく混ざったような、そんな顔。
きっと同じような事を、何回もやっていたんだろう。
捕虜となり公開処刑となった時よりも、どこか虚ろな目をしていたその顔。
前線の兵士はみんな、戦争なんてやりたくないって思っていたんだ。
そんなものを見てしまったから、今の自分のことなど、全く不幸にも思わなかった。
寧ろ自分は恵まれている方だとすら思った。
……だからこそ、私は外交官になりたかったんだ。
必死に学院で勉強して、頑張って卒業して、また頑張って外務大臣とかになって。
そして戦争を終わらせてあげたかった。
力じゃなくて、会話で。
相手が力を振りかざしても、私はただ受け止める。
そうすれば、そうすればきっと、いつかは話を聞いてくれるだろうって信じてたから。
「ま、さくっと殺ってやるから安心しな」
だけど、夢を叶えるにはいくつか才能も必要だったみたい。
ごめんね、エミリ。
私、そろそろ死んじゃいそう。
だってもう目を閉じた方が楽になれる気がするもん。
「……ん」
……最期の幻覚ってやつなのかな。
エミリがそこに立っているように見える。
死ぬ前に親友の姿を見せてくれるなんて、神さまも粋なことしてくれるんだ。
でもさ、そんな時間はもう長く続きそうにないや。
だって目が、閉じてしまいそうなくらい限界で────