終宿主 作:学マスオタク
偶然秦谷さんと再会を果たした後も、変わらず俺はアイドルのプロデュース業に精を出していた。
しかし、かつて一番星のプロデューサーとして期待を受けていた俺は、思いの外学外でのプロデュース業に苦戦を強いられていたのである。
経験を元に組んだレッスンメニューをこなしてもらっているが、思うように結果が出ない。
担当に持つアイドルたちは、非常に真面目で前向きだ。まだ始まったばかりですから、とフォローを入れてくれるばかりか、俺を信頼して精力的に取り組んでくれている。元々100プロに所属していただけあって、素材も良いし基礎もできている。それでも、当初の計画からすればあまりにも亀の歩みだった。
彼女たちと過ごす中、脳裏に黒い影が刺す。かつての担当は、このメニュー、このスケジュールで、俺とともに一番星の称号を手にした。
無論、細かいレッスン計画こそ個人の個性、能力に合わせて変えてはいるが、大まかなレッスンメニューや仕事の取り方は初星学園で学び、実践してきた通りだ。
今俺の指導を受けて動く彼女たちは、秦谷美鈴ではない。分かっては、いる。
それでも俺は脳内で気落ちし、担当する彼女たちとかつての担当に、才能という残酷な差を感じてしまっていた。
それと同時に覚える、微かな絶望。
気づかないふりをして蓋をしていた。事実を突きつけられるのが怖くて、見ないふりをしていた。聞かないふりをしていた、当時から投げかけられていた外野の声。
俺は──秦谷美鈴という傑物によって実績を手にしただけの、ただの凡人だったのではないか。
たまたま彼女に選んでもらった、たまたま彼女を選ぶことができた、その幸運だけで今までやってこれたのではないか。
そうして、秦谷さんとの再会した思い出もまた記憶の片隅に追いやられ始めた初夏の朝。
ようやく担当アイドルたちを軌道に乗せ始めることができ、薄ら脳裏に同居していた絶望感も影が薄くなってきていた。
自宅で仕事の準備をしていると、スマートフォンの液晶に表示される、メッセージアプリの通知。社長からの、呼び出しの声だった。
出社一番社長に呼び出された俺は、一体何事かと不安を覚えながらも、社長室の扉を叩いた。
「失礼します。社長、おはようございます」
「おはよう。いきなりの呼び出しですまないが、まあ適当にかけたまえ」
「ありがとうございます」
指示を受けた通り、適当な椅子に腰掛ける。
冷房の効いた部屋で、ひたいにかいた汗が頬をつたり、俺の顔を急速に冷やしていく。
社長はおもむろに三枚の紙をファイルから取り出すと、俺の前に置いた。
目を落とす。見出しに大きく記載された、解約書類という文字。
さらに視線をすべらせ記載内容を読み進めると、それぞれ俺の担当アイドルたち──俺が受け持つアイドル全員が、俺との契約を解除したいという旨の書類であった。
「社長、これは一体……本当なんですか?」
社長は、こんな悪質な冗談を言うタイプでは決してない。
冷え切った部屋で、とめどない汗が流れ出る。心臓が早鐘を打ち、これが現実であると訴えかけてくる。
「見たままだよ。君にはこれまでの子とは違うアイドルを担当してもらうことに決めた」
「しかし……」
「分かっている。私の目から見ても、君の働きは悪くなかった」
芽が出るまで少し時間はかかったようだがね、と付け加え、社長は再度卓上の資料に目を落とした。
資料には、契約解除に至る理由までは明記されていない。
結果が出始めるまで、確かに想定より時間こそかかったが、俺は彼女たちともそれなりに信頼関係が生まれ始めていることも感じていた。その彼女たちが、一体なぜ。
「それであれば、なぜ……」
「……君は、彼女たちに何をしたんだ?」
俺の疑問に対して、社長が問いかけを返してくる。
俺が、何をしたか?
これまで同様、コミュニケーションを取って彼女たちの特性や人となりを知り、それを活かす形でレッスンの計画を組み上げた。ふさわしいテレビ番組やライブの仕事を取ってきて、初星時代に比べれば亀の歩みでも、着実に彼女たちを成長させてきていた。
「彼女たちは、酷く怯えているようだった。何があったかまでは打ち明けてはくれなかったが、アイドルを辞めるか、君の担当を外してもらいたいと……、その一点張りだ」
俺は一体、彼女たちに何をした?