世界のシステムを書き換える最強能力「管理者権限」を手に入れたので、日常をハッキングして無双します! 作:Laggliches
「もし現代社会に管理者権限を扱う能力者がいたら?」そんな妄想から生まれた、理系主人公による異能バトルファンタジーです。圧倒的な演算能力……のはずが、あんまし使いこなせてない……。
そんな計算外の日常と非日常を楽しんでいただければ嬉しいです。
西日に照らされた放課後の教室。
九条蓮(くじょうれん)は、手元のノートに複雑な数式とか難解な図形とかでもなく、放課後に寄るコンビニの「新発売のアイスが売り切れていない確率」を計算していた。
「おーい、蓮。またそんな無駄な計算してんのか?」
声をかけてきたのは、幼馴染の庄司(しょうじ)だ。
蓮とは正反対の体育会系で、何かと彼の「無駄な思考」に首を突っ込んでくる。
「いいか庄司。不確定要素の多い現代社会において、予測こそが唯一の武器なんだよ。3割あれば、賭ける価値は十分にある」
「はいはい、わかったから。その生存戦略とやらで俺の分のガリガリ君も確保してくれよな」
二人は賑やかな廊下を抜け、夕焼けに染まる通学路を歩き出す。
蓮はポケットに手を突っ込み、のんびりと歩きながらも、数日前から感じている「奇妙なノイズ」に思考を巡らせていた。
視界の隅で時折、世界を記述するコードのような文字列がちらつく。だが、蓮はそれを「ブルーライトによる疲労、あるいは脳の演算処理のバグ」として処理していた。
「庄司、もし庄司に特殊能力があったら何が良い?」
気づけば意味のわからないことを述べていた。「特殊能力」なんてとても叶うわけないはずだが、それでも気になるのが男のロマンというものなのだろうか。
「……特殊能力?」
拍子抜けした顔で庄司は復唱する。
「……まあ、賢くなれるような能力になれたらなんでも良いかな?」
「へえ……庄司ってそういうことなんだ」
「は?」
その後も中身のない会話をしたままお目当ての商店街へとたどり着いた。商店街の入り口、喉の渇きを覚えた二人は、古びた自動販売機の前に立ち止まる。
「庄司、奢ってやるよ。この自販機の賞味期限切れ間近の在庫が出る確率を計算してやろうか?」
「縁起でもねーこと言うな。俺は普通にコーラがいいんだよ」
蓮が160円を投入し、コーラのボタンを指先で弾くように叩いた。その瞬間だった。
【ーーシステム『管理者権限』承認。ルート・バイナリを再定義します。……3……2……1………GO!】
脳内に、重厚で無機質な音声が直接流れ込む。
同時に、蓮の視界が完全にデジタル化された。自販機の内部回路、フロンガスの圧力、そして在庫のストック状況……。
そのすべてが三次元の構造図(ブループリント)として空中に展開される。
「……え?」
ガコンッ! と凄まじい音が響き、取り出し口からコーラが溢れ出した。一本、三本、十本…!?
「おい蓮、お前、何ボタン連打してんだよ!?」
「いや、一回しか押してない……待て、止まれ!止まれって!」
焦った蓮が自販機の側面に手を触れた瞬間、彼の右腕から幾何学的な紋様が浮き上がり、空気を裂いて無機質な金属アームが実体化した。
「うわぁっ!?なんだこれ、僕の腕から重機が生えた!?」
「機械じゃねーか!魔法とかじゃねーのかよ!つーかコーラ出しすぎだろ、水害レベルだぞ!」
溢れ出すコーラの噴水と、腕から生えたアーム。
カオスな状況に庄司のツッコミが冴え渡る。
しかし、そんな『日常の延長線上にある騒ぎ』をーー
暴力的な破壊音が塗りつぶした。
ーードオォォォォン!
商店街の反対側で爆炎が上がり、悲鳴が響く。
砂埃の中から現れたのは、四本の強靭な脚を持つ、戦闘兵器だった。
頭部のレーザ砲が不気味な赤い光を溜め、夕焼けを切り裂くような音とともに発射される。
商店街が突然現れた機械によって、灰へとなろうとしていた。赤い光が商店街を包むたびに鉄臭い匂いが蓮の鼻を襲う。
逃げ遅れた人や瓦礫で動けない人々が必死に助けを求めていた。
「だ、誰か……助けて……」
感情のない機械はプログラム通りに動いて、その人たちに砲台を向ける。
それを見た瞬間、蓮の頭の中から「おちゃらけ」が消えた。
脳内の演算速度が急激に跳ね上がり、周囲のあらゆる物体が『武装の素材』として認識され始める。
「……庄司、下がってろ。俺が倒す」
「はぁ!?お前そんな変なアームで戦うつもりか?」
「……僕がこれだけで戦うとでも?」
蓮の左手が、空間を掴むように握り込まれる。そこには物理法則を無視した「真なる魔法」の波動が渦巻いていた。そして右手には緑色に蠢く幾何学的なオーラが滲み出ていた。
『科学と魔術』
その両方を掌握した賢者の瞳が、夕闇の中で幾何学的な光を放つ。
「身体から、力が溢れてくる……僕の魔法、教えてあげるよ」
商店街の石畳を震わせ、四脚の自律兵器が前進する。瓦礫を踏み、レーザーを無差別に放つ。それは動く城そのものだった。
頭部のセンサーが赤い光を放ち、逃げ遅れて腰を抜かしている老人にレーザーの照準を合わせた。
「おい、蓮!あのおじいさん、危ねぇぞ!」「ああ!もう分かっている!」
【ーーシステム『身体強化 脚』、アンロックしました】
ーー飛べっ、僕の足!
連は叫びながら地を蹴った。その勢いは地面に穴が開くほどだった。
脳内に流れ込む膨大な情報量は、既に数秒前のパニックを通り越し、冷徹なまでの「解」を求め始めている。
「今なら出来る!」
右腕に生えた無骨な機械アームを前方に突き出し、彼は頭の中でイメージ叩きつけた。ーー盾だ。弾丸を弾き、熱を遮断する強固な壁。
「防御システム、展開(デプロイ)!」
そう叫んだ刹那、蓮の右腕から青白い光の粒子が噴き出し、空間に六角形のタイルを形成しようとする。だが、そこで予期せぬエラーが起きた。
【ーー報告。出力同期不全 ラグ発生、構造定義に失敗しました】
展開されたのは強固な盾ではなく、なぜか『巨大なホログラム製のパラソル』だった。それも、どこかのリゾート地にあるような可愛らしいフリル付きのやつだ。
「……は?」
「おい蓮!お前、この状況で何ビーチ気分味わってるんだよ!日焼け対策か!?」
「違う、バグだ!計算がズレた……っ!」
自律兵器の砲弾からの光が強くなる。もうレーザーが放たれる。直撃すれば老人の命はない。
蓮は無我夢中で、今度は「左手」を突き出した。制御不能の、本物の魔法。
「あっちに行けっ!!」
ーーキィィィィイン!!
蓮の左手から放たれたのは、暴力的なまでの「空間のうねり」だった。それはレーザーを弾くどころか、老人の背後にあった民家の壁ごと、レーザーを空間の彼方へ強引にねじ曲げて消し飛ばした。
あまりの破壊力に自分自身も反動で後ろへ数メートル吹き飛ぶ。
【ーー告、『空間魔法』を解放】
「がはっ……!? っく、なんだよこの威力……!」
煙が立ち込める中、蓮はなんとか立ち上がり、自分の左手を見つめて戦慄した。助かった老人がガタガタと震えながら彼を見上げている。
庄司もまた、開いた口が塞がらない様子で蓮と、完全に消失した民家の壁の跡を交互に見ていた。
「い、家が消えたぞ!お前の魔法、敵より被害デカくねーか!?」
「……まだ調整中なんだよ!……待て、今直す」
蓮の瞳が高速で点滅した。彼の視界には、エラーログが滝のように流れている。
【身体損傷四件、出カエラー五件、その他数件。マザーコンピュータへの接続困難】
普通の人間なら一瞬で脳が焼き切れる情報量だが、蓮はそれを、まるでパズルを解くように冷徹に仕分けていった。
「……なるほど。機械の出力が魔力より大きすぎて、制御系(OS)が干渉を受けてるのか。なら、両者を独立させるんじゃなく、魔法を『燃料』としてシステムに組み込めばいい」
蓮は立ち上がり、スッと右手をかざした。彼の脳内で、新しい術式のコードが完成する。
【ーーエラー解析完了。解、新スキル『機械魔法』アンロック】
「庄司……十秒やるから、耳を塞いでろ」
「え、あ、おい!何する気だ!?」
蓮の右肩から背中にかけて、幾何学的な紋様が爆発的に広がった。
周囲の瓦際、放置されていた自転車、そして先ほどの自販機から溢れた大量のアルミ缶ーーそれらが『素材』として分解され、蓮の周囲を旋回し始める。
「管理者権限、開放。想像力の限界を見せてやるよ」
蓮の声が、これまでの軽薄なものから、芯の通った絶対的なものへと変わる。
空中に、巨大な黄金の設計図が展開された。それは商店街の空を覆い尽くすほどに巨大で、緻密な幾何学模様の集合体だった。
「新技解禁ーー『ホログラフ防衛システムズ(H.D.S)』」
直後、空を埋め尽くす光の粒子が形を成した。
現れたのは、一機一機が鋭利な刃のような形状をした、百八機の「浮遊砲台」である。
「ターゲット、ロックオン……効率的に、潰す」
【ーーシステム照合完了。対象の識別情報を開示します。】
【[個体識別名称:多脚型自律殺戮兵器『レガシー(LEGACY-04)』][動力源:旧世代型魔導熱核ジェネレーター装甲][材質:劣化対魔チタン合金][主要兵器:頭部:20ミリ口径集束魔導レーザー砲(出力:B+)脚部:高衝撃油圧式クロー×4][脅威度判定:カテゴリー「災害級」]】
ロックオンした標的、自律兵器は「レガシー」という名前だった。
レガシーはあの攻撃にも耐えてこちらを迎撃しようと再びレーザーを放つ。
だが、百八機のビットは物理法則を無視した機動でそれらを回避。むしろ、敵のレーザーが通過した空間をビットが「食らう」ようにしてエネルギーを吸収していく。
「…お前のレーザーなんか浮遊砲台の充電にもならないね」
「お、おいおい……。マジかよ……」
庄司が呆然と見上げる中、蓮は指先をピアノの鍵盤を叩くように動かした。
「掃射(ファイア)」
百八の光が、夕闇を昼のような白光で塗りつぶした。
一発一発がピンポイントでレガシーの関節部と動力源を貫き、巨大な鉄の塊を、文字通り「塵」へと変えていく。
ーー爆発音すら起きない、あまりに精密で、圧倒的な力。
数秒後、熱気が引いた後に残っていたのは、完全に消滅した敵の残骸と、未だに宙を舞う百八機のビット、そしてーー
「ふう……よし、計算通り。チョコミントアイス、まだ間に合うな」
何事もなかったかのように、ビットの一機に自分のカバンを持たせている蓮の姿だった。
「いや、計算通りじゃねえだろ!!お前、さっき家一軒消し飛ばしたからな!?あと、その浮遊砲台にカバン持たせんのやめろ!あと、区別つかんわ、魔法か機械か!!」
庄司の絶叫が、ようやく静まり返った商店街に響き渡った。蓮はいつものおちゃらけた笑みを浮かべ、右手のビットが差し出したコーラ(さっき自販機から出たやつ)のプルタブを開ける。
「いいだろ別に。これも立派な『防衛』だよ。俺の肩の凝りに対するな」
こうして、九条蓮の「機械魔法」に彩られた、非日常な日常が幕を開けたのである。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!もし「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら嬉しいです。高校生が書く超厨二病作品ですが…これからも頑張ります!次回はヒロイン(?)が登場する予定です。これから「Laggliches」をよろしくお願いいたします。