世界のシステムを書き換える最強能力「管理者権限」を手に入れたので、日常をハッキングして無双します! 作:Laggliches
「遍在の器」というよくわからない術式が庄司にあると判明した今、庄司はどのように無双をするのか……?
余談ですが、「捲土重来」と『峻烈』『錬成』という独特なタイトルは呪術廻戦の章(?)を真似た結果、こうなりました。
「…………んあ?」
再び自分の瞼を開いた庄司。
視界に飛び込んできたのは、真昼の太陽に照らされた青々とした草木。いまだ遠くで響き続ける蝉たちのやかましい鳴き声と、夏の終わりの風で擦れ合う葉っぱの和やかなハーモニー。
背中に感じるゴツゴツとした巨木の感触とともに、彼はここが間違いなく地獄のような精神世界ではなく、元の「現実世界」だと直感で理解した。
「……『遍在の器(へんざいのうつわ)』ってなんだ?」
庄司はゆっくりと上体を起こしながら、脳裏に刻まれたその不気味な名前を反芻した。
『遍在』
確か「どこにでも存在する」とか、そういう意味だったはずだ。以前、一ノ瀬さんから何かの雑談のときに教わった記憶が、ぼんやりと脳の引き出しから引っ張り出される。
どこにでも存在する? どういう術式なのか、自分の脳みそではいまいち想像ができない。
……いや、待てよ……遍在と一緒に、あいつは確かに『器』とも言っていた。どこにでも存在できる器。
どんな形にでもなれる、あらゆるものを盛り付けられる器。ーーそれってつまり、『あらゆる術式の器』になれるってことか!!
「分かったぞ……! 俺の、本当の術式!!」
パズルのピースが完璧に噛み合い、庄司は己の右腕を握りしめて確信した。
《……フン。案外、気づくのが早かったようだな》
「うわっ!? びっくりした……。まだそこにいんのかよ」
突然、脳の奥底から直接響いてきた主の声に、庄司は本気で肩を跳ね上げて驚いた。
《当然だ。そうだ、我が術式の本質は「他者の術式の完全なる再現」……だが、我と貴様との間で縛りが課せられたことにより、一度の戦闘につき「三回」の再現が限界になってしまった》
「さ、三回!? 少なっ! スマホのガチャかよ!」
《黙れ……不服そうにするな。だが、その三回のストックは貴様の自由と考えても良い。それに、もし貴様にこの先、並外れた知能が備わることがあれば、その呪術廻戦とかで貴様が言う『領域展開』すら可能になるかもしれないのだぞ?》
「マジで!? 領域展開までできんの!?」
《それが何かは知らんが……それでいい……。さあ、我が呪いを注ぎ込んだその右腕で、思う存分暴れるがいい。我も退屈なこの世界で、少しは楽しませてもらうとしよう》
「よしっ……! 待ってろよ、絶対に勝つ!!」
庄司は不敵に笑うと、地面を強く蹴って立ち上がった。
「レガシー、クソ長々と待たせたな!」
爆炎の煙が晴れた中心。
そこに立っていたのは、最初にここへ来たときとはまるで別人のような、圧倒的な余裕を全身から漂わせた庄司だった。
もちろん、戦闘特化型レガシーにはそんな標的の変化をお構いなしに、ただ冷徹に、次の砲撃のロックオンを完了させる。
庄司はそんな銃口を正面から見据え、どこか悪辣で不気味な笑みを浮かべた。
(まずはーー最初の一スロットを消費する!)
深く息を吸い込み、胸いっぱいに呪力を充満させる。
両手を大きく広げ、迫り来る鋼鉄の怪物に向かって、彼は喉が張り裂けんばかりの声量で大きく叫んだ。
「ーー壊れろ!!」
それは、先ほど彼が『呪術廻戦』の検証として試して、見事に大失敗したはずの『呪言』本来その術式を持たない庄司にとって、ただ大声を張り上げただけのハッタリのはずだった。
しかし、次の瞬間、彼の予想を遥かに超える現象が起きた。
庄司の言葉が届いた刹那、レガシーの巨大な砲台が、まるで見えない超高電圧に晒されたかのようにビリビリと不快な放電音を立てて激しくショートし、そのまま内側からボカンと爆発したのだ。
庄司の放った「言葉の呪い」が、現実の物理世界に本当に干渉し、叩き落としたのだ。
「よっしゃ、効いてる! ーー続けて、ぶっとべ!!」
攻撃手段を一つ失ってよろめくレガシーに対し、庄司は勝利を確信して立て続けに二発目の呪言を発しようとする。
ーーが、今度は風が吹き抜けるだけで、『何も起こらなかった』。
「……は? なんでだよ! おい!」
まるで弾詰まりを起こしたような感覚に、庄司は流石にキレ気味に声を荒らげる。
すると、彼の身体の奥底から、またあのあきれたような主の声が聞こえてきた。
《馬鹿め、呪言……言霊の再現は、主に貴様の「喉」の器官へと我が呪力を急激に集中させる。そして、貴様が発した単語の命令通りに呪力を変質させて操り、相手の構造へ直接ぶつけるシステムだ。だから術者の肉体への反動は相殺されているが……理解しろ。この「擬似・呪言」は呪力の消費量が異常に激しい。一回のスロットにつき、使えるのは「ひと単語」だけだ》
「やっぱ、お前って微妙にケチやな……って、うおっと! 危ねぇ!!」
会話に気を取られていた一瞬の隙。
いつの間にか庄司の至近距離まで肉薄していたレガシーの巨大な鋼鉄の脚が、上空からスタンプのように振り下ろされた。危うく肉片に変えられるところを、庄司はとっさに後ろへと大きく跳躍し、間一髪でその踏み潰しを避ける。
ドォォォォン!!
凄まじい質量攻撃が地面を叩き、レガシーの太い脚がアスファルトの地中深くまでブスリと突き刺さった。
あんなものを直撃されたら、自慢の筋肉ごと消し飛ばされていただろう。
しかし、あまりにも深く地面を抉りすぎて刺さってしまったのか、レガシーは脚を引き抜くのに若干手こずり、その巨体を拘束されている。
庄司の鋭い眼光が、その決定的な隙を見逃すはずがなかった。
(チャンスだ……! 敵の動きが止まってる!)
庄司は脳細胞をフル回転させ、残された攻撃札を必死に考え出す。
(残りの攻撃回数は、あと二回……。呪言は確かに強力だけど、そもそも機械のレガシーに対してどの程度『言葉の命令』が通じるのかは正直言って微妙だ。それに、相手の全身はガチガチの超硬質鋼鉄でできてる……。だったら、何かあの鋼鉄の装甲すら、内側から消し飛ばして貫通できるような最強の術式……)
庄司の脳裏に、かつて漫画のページで見た、あの最悪で、最強の術式のイメージが鮮明に浮かび上がる。
(あれなら、いける……!!)
「『擬似・御厨子』!」
『御厨子』
両面宿儺の生得術式であり、「斬撃を飛ばす術式」である。宿儺の御厨子は使用名は違うが、特級呪霊はもちろん、ビルすら両断できるほどの威力を誇る最強と名高い術式である。
庄司ができる『擬似・御厨子』は文字通り偽物の御厨子で呪力の衝突を極限まで細くして斬撃を飛ばす。呪言に比べて呪力消費量は少ないが、制限はある。
『一回につき、発動可能時間は二十秒間。秒読みは、最初の斬撃を放った瞬間から開始される』
その制限は、庄司が斬撃を飛ばした瞬間から二十秒のカウントダウンが始まる。二十秒の間ならどれだけでも斬撃を飛ばしてもいいので、がむしゃらに撃っても二十秒という制限は変わらないのである。
レガシーは鉄の装甲から複数の銃火器を取り出した。しかし、呪力は未知のエネルギー、そんな存在しないエネルギー源を作られた機械は判別できるわけがなく、機械のレーダーは庄司を『一般人』と捉えていた。ーーウィィィンと機内のモーターがフル稼働し今にも発射されんとしていた。
「『解』!」
片方の手を、突き進むようにレガシーに向けて一閃する。
刹那、現実世界の物理法則を無視した「不可視の絶佳」が空間を走った。
ガガガガガンッ!!!
激しい火花とともに、レガシーが展開した最新鋭の銃火器や砲身が、まるでバターか包丁を入れた豆腐のように、すべて根元からスパッと切断されて地面に転がった。
現代の最高峰の装甲すら容易く寸断する不可視の刃。
《残りは、十五秒だ》
「オラァ! まだまだいくぞ! 『解』! 『解』! 『解』!!」
庄司は獰猛な笑みを浮かべ、右手を乱暴に何度も振り抜いた。
空気を引き裂く甲高い風切り音が重なり、ギチギチと音を立てていた強固な前面装甲が、斜めに、横に、十文字に、見るも無残にスライスされて崩れ落ちていく。
レガシーが誇る絶対の防御壁は、庄司の前ではただの薄い紙切れも同然だった。ついにすべての攻撃手段と防壁を失ったレガシー。その剥き出しになった胸部の奥から、あの戦闘のときと同じように、赤黒く淀んだコアが絶望を体現するように露出した。
ーーここまで、僅か十五秒
あと五秒、斬撃の乱射時間は残っている。
(………待てよ、)
庄司はトドメの一撃を放とうとした手を、ふと止めた。目の前には、すべての武器をもがれ、ただの鉄屑の抜け殻となったレガシーが佇んでいる。
レーダー代わりの赤黒いコアの光は、怯えるように弱々しく点滅を繰り返していた。
このまま「解」をあと一発放ち、コアごと真っ二つに叩き切って戦闘を終わらせてもいい。だが、庄司の手元には、まだ最後の「もう一回」のストックが残されている。
(残りは一回……遊ぶにしても次でヤツを消滅させないと後々、めんどくさそうだな。多分、蓮もそろそろ来るしさっさと倒したほうがいっか……そうだ!あれやりたい!)
もはや遊び道具と化したレガシーは心なしか泣いているかのように壊れかけたエンジンを鳴らしていた。
「『擬似・赤血操術』!」
赤血操術は呪術廻戦の加茂家相伝の生得術式であり、『呪力を込めた自身の血液、血液の付着した物体を操作できる術式である。
攻撃、防御の他に拘束、身体強化にも転用でき、さらに遠中近と、どの距離でも対応できる汎用性、応用性に特化した『バランス型』である。なお、擬似の場合でも庄司の血は使うが、一回でも使ったら庄司は失血死してしまう。なので呪力を使用して血を錬成する。
赤血操術は一回で「三回」の赤血操術が可能である。
「………百斂」
彼は静かに、しかし力強く両の掌を合わせ、掌の位置を僅かにずらした。そして、それに呼応するように彼の周囲から呪力で作られた血液が出現し両手の隙間へと吸い込まれていった。彼の百斂が始まった。偽物の血液なのか、鉄臭い匂いは無かった。
ギシッ、と嫌な軋み音が響いた。周囲の数リットルはあっただろう血液が目にも止まらぬ速さで両手に凝縮されていく。
掌の間で押し潰される血は、逃げ場を求めて暴れる猛獣のように熱を帯び、鉄の塊を思わせる重圧を放ち始めた。限界まで高められた内圧。指先から滴る鮮血すらも呪力の重力圏に囚われ、さらに密度を増していく。
ーー完成だ。
掌を僅かに開けば、そこにはどす黒い紅の「核」が、解放の瞬間を待って激しく脈打っていた。両の手の平を合わせ、渾身の呪力で押し潰す――「百斂」によって、数リットルの血液は豆粒ほどの高密度な核へと変貌していた。
ギチギチと空気が軋み、合わせ目からは逃げ場を失った赤黒い火花が散る。掌の内側で、圧縮された血の塊が、今にも爆発せんとする心臓のように激しく、そして重く脈打った。
ーー今!
目標はレガシーのコア、中心。彼は一点の隙間をあつらえるように、わずかに指先を緩める。次の瞬間、溜め込まれた内圧が牙を剥いた。
「穿血」
鼓膜を震わせる「ドンッ」という衝撃音とともに、深紅の閃光が奔る。呪力のレールに乗った血液の矢は、音速に近い速度で空気を切り裂く衝撃波を撒き散らしながら一直線に目標を射抜いた。
ーー着弾。
解放されたばかりの熱を帯びた細い血線が、標的の背後の木々までをも容易く貫き、その威力に遅れて凄まじい風圧が周囲を薙ぎ払った。音速に近い血の矢は抵抗を許さぬまま獲物を貫き、その魂を瞬時に断ち切ったのだ。
巻き上がった粉塵がゆっくりと彼の周囲を包み、落ちていく。荒い呼吸一つない。ただ、指先に残ったわずかな熱を確かめるように、掌を軽く開き、握る。
崩れ落ちた鉄塊を見下ろすその眼差しには、憎悪も、あるいは高揚すらもない。あるのは、計算通りの結果を手にしたという、冷徹なまでの確信だけだった。
「……俺は、『呪術師』に成ったぜ。」
彼は、乱れた前髪を無造作にかき上げると、右腕に語りかけた。ビリビリと感じていた呪力が今は凪のように感じなくなっている。
《……反動が無いだけ素晴らしい術式だろう?こんな闘いをしたのは江戸…室町以来か、面白かったぞ?》
「……素直に感謝はしとくよ。」
《フフフ、それで良いぞ「桐乃庄司」。感謝されるのはいつの時代も悪くない。………しかし、もう呪力は無い。次の闘いも呼ぶといい。》
そう告げると右腕の僅かな、呪力がスッと一気に消えたのを感じた。消えたのを感じた庄司は深いため息を吐く。そして服に付いた砂埃を払い、ゆっくりとレガシーに歩み寄る。激戦の爪痕が刻まれた戦場にあって、彼の歩調だけが、まるで静かな廊下を行くかのように、ひどく理知的で、そして残酷なほどに余裕に満ちていた。
ーードンッ!
彼の背後から何者かが降り立った音がした。しかし、彼の目は少しの揺らぎもしていない冷静な目だった。それもそのはず、舞う砂埃の中、右腕に無機質なアームを生やしていた蓮がそこにいた。
「庄司、成ったんだな……術者に」
蓮は目の前にあるコアの中心が不自然に貫かれたレガシーと、綺麗な切断面が残っている木々、赤い付着物を見た。庄司の努力に感嘆して、目を細めて微笑んだ。
庄司もその瞳に宿っていた冷酷なまでの集中力は、仲間の顔を見た瞬間に、陽だまりのような温かさへと霧散した。
「チョコミントアイス、そろそろ在庫切れるらしいから買いに行こうぜ」
彼は術者になった事を実感………そんなことよりチョコミントアイスの方が気になっているらしい。
蓮は彼の切り替えように呆気に取られていた。目の前の鉄塊を見ながら、あのヒンヤリとしたアイスを気にする彼に心底、呆れていた。しかし、庄司らしい言い分に内心、ホッとしていた。
「そうだね。僕もそろそろ食べたい気分だ」
「よし決まり!食いに行こうぜ!」
彼らは涼しさを求めて、どこまでも日常を追いかけていった。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
まさかのまさかの!「遍在の器」→「術式の再現」だったなんてびっくりですね!庄司くんにいる「主」は色々チョロすぎる気もしますが……。
そういえば呪術廻戦の乙骨くんの術式も再現……『模倣(コピー』でしたね。かぶってるんじゃないか!?と思いましたが、庄司の術式はあくまで『擬似』の再現……ということにしました。