世界のシステムを書き換える最強能力「管理者権限」を手に入れたので、日常をハッキングして無双します! 作:Laggliches
蓮たちの学校には林間学校という「お泊まり会」的な行事があって、そのの回になります。
蓮たちのドタバタっぷり。そして、それを狙うレガシーの魔の手……お楽しみにお願いします!
「いいかお前らー!明日は朝が早いからな!しおりを最低でも3回は読み直して、忘れ物のないようにすること!あと、何度も言うが、トランプや携帯ゲーム機の持ち込みは一切禁止だからな!見つけたら即没収だ!」
教壇の上で担任の先生が声を枯らして注意を呼びかけているが、中学2年生の教室を満たす圧倒的な熱気の前に、その言葉は完全に虚空へと消えていた。
明日は待ちに待った林間学校。
親の目を離れてクラスメイトたちと一泊二日の共同生活(お泊まり)に行くという一大イベントを前にして、浮き足立たない14歳などこの世に存在するはずがない。
教室のあちこちから、おやつの上限金額の計算や、夜の自由時間に誰の部屋に集まるかといった計画のヒソヒソ話が飛び交い、ガヤガヤと騒がしい音が鼓膜を震わせていた。
「おい蓮! お前、おやつ何持っていく? 300円という国家予算の限界に、俺と一緒に挑戦しようぜ!」
前の席からガタッと勢いよく振り返った桐乃庄司は、すでにジャージの袖を腕まくりし、鼻息を荒くして目を輝かせていた。
その手にはクシャクシャに丸まった林間学校のしおりが力任せに握りしめられている。
「……うるさいな、庄司。声を張らないでくれるか? 僕は今、脳内の演算領域の約12%を割り割いて、明日の移動中のバスでいかに『隣の席の人に迷惑をかけずに爆睡するか』のシミュレーションの真っ最中なんだよ。僕の貴重な静寂を邪魔しないでほしいな」
窓際の特等席で、九条蓮は机に突っ伏したまま、気怠そうに片目だけを開けて文句を言った。
もちろん、その姿勢のまま蓮の右手は机の下で、案内人の『オート・ライティングモード』によって先生が黒板に書いた重要な連絡事項を、完璧な美文字でノートへ写し終えている。
「それの何がシミュレーションだよ!お前はいつもいつでも寝てんだろ! そんなことよりおやつだよ、おやつ!俺はさっき購買で『ラムネ』を大量購入してきた。これぞ脳の演算と筋肉の代謝効率を限界まで高める、我がチームの最強の補給リソースだ!」
「……庄司くん。あなたのその無駄に発達した大腿四頭筋の消費エネルギーを計算すると、バスが発車して最初のサービスエリアに着く前にそのラムネは全滅するわよ。資源の無駄遣いね」
冷ややかな、しかし鈴の鳴るような澄んだ美しい声が、二人の頭上から降ってきた。
クラスの委員長であり、その圧倒的な美貌と冷静沈着な佇まいからスクールカーストの頂点に君臨する少女、一ノ瀬結衣。彼女はしおりの束を胸に抱いたまま、冷たい『観察眼』の瞳で庄司のポケットをじっと見つめていた。
「う、一ノ瀬さん……。何でそんな的確に俺の明日の行動予測を視切るんだよ……」
「視えるも何も、あなたの『大胸筋の緊張度』と『胃の消化活動の心拍数』が、さっきから『早く唐揚げ食わせろ』っていう非論理的なコードを周囲に叫び散らしているのよ。あなたの筋肉、プライバシーの欠片もないわね」「怖っ! 俺の筋肉、そんなことまで一ノ瀬さんにテレパシーで喋ってんのかよ!?」
庄司がガタガタと自分の太ももを押さえて怯える横で、蓮がふぅ、と小さくため息を吐いてようやく体を起こした。
「……まあ、一ノ瀬さんの言う通りだよ。それに庄司、僕らの本当の課題は、僕らの『留守番』がちゃんと家でお利口にしていられるか、だろ?」
蓮のその言葉に、庄司も一ノ瀬も、一瞬だけ冗談っぽさを消して真面目な顔になり、目線を交わした。
まだこの一般の学校には入学の手続きができておらず、戸籍や身元の整理を案内人たちと裏で進めている最中の、彼らの可愛くて健気な仲間。
「……春輝くんのことね」
一ノ瀬が、少しだけ声音を柔らかくして呟いた。
「そうそう……あいつ、昨日も『庄司くん、僕、お留守番がんばります!』って、両手を赤くしながらプロテインのボトルを一生懸命振ってたからな。なんか、俺たちだけ楽しむために置いていくの、ちょっと胸が痛むんだよなぁ」
庄司が複雑そうに頭を掻きむしる。彼らにとって、林間学校はただの楽しい行事ではない。
世界を記述する超常のシステムや能力を宿した者たちの、初めての『全員揃わない、少し歪な日』の始まりでもあった。
翌日、林間学校へ向かうバスの中……
林間学校の大型バスが発車してわずか15分。車内は中2男子たちのエネルギーで早くも沸騰していた。
「いいかお前ら! 林間学校の移動時間こそ、日頃の鍛錬の成果を見せる時だ! 題して『右腕プロテインシェイク大会』を開催するッ!」
バスの後部座席で、桐乃庄司がジャージの袖をまくり上げ、プロテイン入りのシェーカーを掲げて雄叫びを上げた。
「おい庄司、バスの中でそれ振るなよ!」「お前、腕の筋肉どうなってんだよ!」と周囲の男子たちが大爆笑しながら群がり、車内は一瞬でガヤガヤとしたお祭り騒ぎに包まれる。
「うるさいわよ、後ろの男子たち! 静かにしなさい!」
最前列の席から、一ノ瀬結衣がしおりを丸めて立ち上がり、冷たい『観察眼』の瞳で睨みつけた。
その美貌から放たれる圧倒的な威圧感に、男子たちが「ひえっ、委員長が怒った!」と一瞬で静まり返る。
「……はぁ。庄司、声を張らないでって言っただろ」
その喧騒の真ん中で、九条蓮は窓ガラスに頭を預け、気怠そうに片目を開けた。
車内の誰も気づいていないが、蓮は案内人の『空間固定システム』でバスの微振動を完全に相殺し、自分だけの『絶対安静空間』を作って爆睡する準備を整えていた。
そして物語の舞台は、緑豊かな山々に囲まれた林間学校の宿泊施設(少年自然の家)へと移る。
宿泊施設に到着し、裏庭の飯ごう炊飯場で行われた夕食のカレー作り。ここでも3人の個性が大爆発していた。
「おらぁぁぁ! 薪割りなら俺に任せろッ! これが毎日鍛え上げた筋肉による、薪の粉砕効率化だぁあ!」
ーーパコォン!!!
と、庄司が斧すら使わずに生身の手刀で太い丸太を真っ二つに叩き割るたびに、周囲の男子から「庄司すげぇ!」「お前ガチのゴリラかよ!」と大歓声が上がる。
「庄司くん、目立ちすぎよ。一般人に擬態する気がゼロね……いや、元々異常者だったかしら?」
フリルのついたエプロンを少し恥ずかしそうに身に纏った一ノ瀬さんが、冷たい瞳でジャガイモを刻みながらため息を吐いた。
だが、彼女の『観察眼』の瞳の奥には、火加減の熱量や野菜のカットサイズが「最適な美味の数式」として完璧に視え切っていた。
「……一ノ瀬さん、そのエプロン似合ってるよ。でも、人参の切り方が1ミリ単位で精密すぎてちょっと怖いな」
蓮が火の粉を避けながら気怠そうにつぶやく。
もちろん、蓮の周囲では案内人が『熱気ハッキング』を施しており、煙や灰が蓮の服に一切つかないよう自動カットされていた。最強能力のズボラな無駄遣いである。
学校行事の定番である『夕食の飯盒炊飯・カレー作り』がようやく終わり、周囲の生徒たちが自由時間の解放感に騒ぎ始めている、美しい夕暮れ時のことだった。
「はあ〜カレー美味かった……」
クラスメイトは自分たちで作ったカレーを食べて、満身創痍の状態だった。
「……九条くん。そういえば、あなた、移動中のバスから今の今まで、一歩も自分の足で歩かずに重力制御で浮いて移動してたでしょう」
「人聞きが悪いな、一ノ瀬さん。僕はただ、案内人の『空間固定システム』の隠蔽率を99.9%に設定して、自分の歩行に必要な運動エネルギーを完全にカットしていただけだよ……エコロジーの時間さ」
施設の裏庭の木陰で、蓮は相変わらず気怠そうにジャージの土を払っていた。
「それを世間一般では『一歩も歩いていないズボラ』って言うのよ。あなたの怠惰への情熱、本当に脳の演算の無駄遣いだわ」
一ノ瀬はフリルのついたエプロンを少し恥ずかしそうに外しながら、冷たい瞳で蓮を睨みつける。
少し離れた広場では、庄司がクラスメイトと一緒に(もう使わないはずの)薪割りをしていた。
「さっき自分の部屋で『恋バナしようぜ恋バナ! 一ノ瀬さんのあのフリルのついたエプロン姿、ぶっちゃけ蓮はどう思ってんだよ!』って、心臓の鼓動を1.5倍にして騒いでた奴とは思えないほど馴染んでるな」
「へえ………ちょ、ちょっと九条くん!? 今なんて言ったの……!?庄司くんの心拍数を今すぐ永久停止させてきなさい!」
「別にいいじゃん。僕もその姿可愛いと思ってたし……」
「な、な、何言ってるの!?」
顔を真っ赤にして激怒する一ノ瀬さんを蓮が平然となだめていると、彼らの脳内に、冷徹な機械音声が突如として響き渡った。
【ーー警報。周囲500メートル以内に、不規則な魔力波形および金属生体反応を感知。……意図的な待ち伏せと推測します】
蓮の脳内の案内人の警告。
一瞬で、二人の間の甘酸っぱい空気が、戦闘のそれへと鋭く張り詰める。一ノ瀬がすぐさま『観察眼』の焦点を山の奥へと合わせ、赤い瞳の奥に幾何学的な光を浮かべて息を呑んだ。
「……嘘でしょ? 山の斜面に、デジタルなノイズが走ってる。完全に一般生徒の死角ね。でも、あんな巨体が動いたら、宿泊施設のみんなにバレて大騒ぎになっちゃうわ!」
「おーい!庄司、行くぞ!!……アイスの売り切れ確率を計算するより、面倒なことになった」
「おうよ! 待ってましたぁ!」
蓮の低い声の合図に、さっきまで一般人に紛れて薪を割っていた庄司が、一瞬で鋭い『呪術師』の眼をして合流する。
三人は先生たちの目を鮮やかに盗み、夕闇に包まれた夜の山へと静かに滑り込んだ。
一般生徒にバレたら一発アウト。
先生に見つかってもアウト。
そんな極限のスリルの中、彼らが山の開けた不気味な広場へと辿り着いた瞬間、その巨体は姿を現した。
ゴゴゴゴゴ……
地面を揺らして現れたのは、かつて戦った『タイプゼロ』のデータを基に改変されたような、無数の鋭い鉄翼を持つ鳥型の大型レガシー。
「ハッキング無効の、戦闘特化型か……!案内人、僕の『機械魔法』の出力を空間歪曲に全振りしろ!一般人に音と光が届かないよう、目隠しを張る」
蓮の右腕が緑色のオーラで溢れ出し、アームが展開される。周囲の空間を強引に固定する。
「私が座標を見切るわ! 庄司くん、右斜め上、3秒後にレーザーが来る!」
「おう! 一スト消費ッーー爆ぜろォオオ!!」
庄司の『擬似・呪言』が響き、鳥型レガシーの右翼の銃口が火花を散らして爆発する。
「……そういえば、庄司。お前の術式ってなんなんだ?」
「えっと……『遍在の器』っていう乙骨みたいな術式で……」
しかし、敵は1機ではなかった。
山の影からさらに2機の同型レガシーが駆動音を立てて飛び出し、蓮たちの退路を完全に断つように包囲した。
「しまった……! 囮の配置が不完全だったわ!九条くん、バリアの展開が間に合わない!」
一ノ瀬の悲鳴が夜の山に響く。敵の強力な電磁レーザー砲が、防壁の薄い蓮と一ノ瀬に向かって一斉に放たれようとした、その絶体絶命の瞬間ーー。
ーーキィィィィン!!
上空から、夜の暗闇を切り裂くような凄まじい『白銀の閃光』が、耳をつんざくほどの衝撃音と共にレガシーの頭部に直撃した。制御不能になった鳥型レガシーは力無く墜落し爆発する。
「……遅くなって、ごめんなさい!庄司くん、蓮さん、結衣さん!」
激しく巻き上がった土煙の向こう側。蓮が昨晩仕込んだ『電磁収束手甲』からパチパチと青白い電化を散らし、肩で息を荒くしながらママチャリに乗っているのはーー留守番をしているはずの、彼らの仲間、灰原春輝だった。
「春輝……!? お前、なんでここにいるんだよ!?」
驚愕する庄司の目の前で、春輝は少し顔を赤らめながら、しかし力強く左腕のレールガンを構えた。
前半を読んでくださりありがとうございました!林間学校のイベントは自分の学校にはなかったので、上手くできてるかは不安ですが……。
さて、庄司は普通のように術式を使いこなしていますね!庄司にとってやはり『呪言』は使いやすいのでしょうか……?そして最後にママチャリに乗ってきた春輝くんの登場!四人の戦闘が激化していきます!