世界のシステムを書き換える最強能力「管理者権限」を手に入れたので、日常をハッキングして無双します! 作:Laggliches
「……僕、不安です。蓮さんの学校をよく知らなくて……」
そんな春輝の不安を蓮たちは見過ごすはずはなかった。
……ということがあって、休日に蓮たちはこっそり侵入して『春輝の体験入学』を行うことにしました。でも、そんなほのぼのした展開に水を差すものがいることを蓮たちは知るよしもありませんでした。
「わあ、すごいです!! 蓮さんたちはこんなに良いところでお勉強をしてたんですね……!」
晴れ渡った日曜日。
休日の静寂に包まれた校舎の廊下に、灰原春輝の純粋な歓声が響いた。
編入試験から数日。
「一足先に、俺たちの学び舎ってやつを目に焼き付けとこうぜ!」
まだ正式な入学前である春輝のために、庄司が発案した、こっそり校内見学ツアーである。
当然、休日の校門や昇降口は施錠されていた。
庄司が「よし、俺の術式でフェンスをぶち破る!」と息巻いたが、蓮が「非効率だし普通に犯罪だよ」とため息をつき、案内人を使って昇降口の電子ロックを0.002秒で遠隔ハッキング。
「カチリ」
とスマートに解錠して侵入したのだった。
「どの部屋も綺麗で、とっても楽しそうです!」
「すごいわね春輝くん。ただの廊下や教室でそこまで感動してもらえると、不法侵入した甲斐があるわ」
「一ノ瀬さん、それを言うなら『先取り見学』って言ってくれよ!ほら春輝、あそこに見えるのが図書室だ。あそこはな、テスト前に筋肉を休ませるために静かに仮眠をとる聖域だぜ」
「えっ、図書室って本を読む場所じゃないの……?」
「違うわよ春輝くん、庄司くんの頭が筋肉でバグってるだけだから真に受けちゃダメよ。あそこは静かに勉強する場所。お昼休みはあっちの購買部がパンの争奪戦で戦場になるから、そっちの方がよっぽど筋肉が必要ね」
一ノ瀬が生真面目かつお姉ちゃんのように学校生活のリアルなコツを教え、庄司が相変わらず筋肉を絡めたデタラメなガイドを送る。
その後ろを、蓮はポテトチップスを齧りながら気怠そうに歩いていた。
「そんなことより、歩くの疲れた。早く終わらせて帰って『呪術廻戦』の続き読みたいんだけど。そもそも日曜日くらい、全人類ベッドから一歩も出るべきじゃないよ」
「九条くん、主役の春輝くんがこんなに喜んでるのよ?少しは先輩らしくシャキっと歩きなさい。あなたの『機械魔法』があれば、歩く速度を二倍にするくらいの演算、一瞬でできるでしょう?」
「嫌だよ、そんなことに脳のリソース使うくらいなら、まぶたの開閉を自動化するシステムに使いたいね」
「それ、ただの居眠りじゃないですか、蓮さん……!」
春輝が思わずクスリと笑う。みんなの後ろを歩きながら、春輝は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
組織の冷たい実験室しか知らなかった自分に、こんな風にくだらないことで笑い合いながら、未来の居場所を案内してくれる仲間がいる。
それだけで、胸のポケットに入れた編入試験の受験票が、なんだかとても特別なものに思えた。
「よし! じゃあ最後は、俺たちの本拠地である『二年B組』の教室を案内してやるよ!俺の席、一番前の窓際で、授業中にプロテイン振るのに最適なポジションなんだぜ」
「それ、先生に一番怒られる席でしょ。……あ、でも、蓮さんの席はどこなんですか?」
「あいつの席は俺の隣だ。授業中はナノマシンで動くペンに『オート・ライティング』させて、本人は机に突っ伏してガチ寝してる。ある意味、プロテイン振ってる俺より悪質だ」
「効率化を極めただけだよ。サボりじゃない、最適化だ」
庄司がフンスと鼻を鳴らし、階段を上がって最上階の教室へと向かう。
だが、その目的地である『二年B組』が近づくにつれて、一ノ瀬の『観察眼』が不自然な明滅を捉えた。
「……待って。何かおかしいわ。学校中の微細な電力と情報コードが、全部『あの教室』に吸い上げられている……?」
「案内人、スキャンをーー」
蓮の瞳の奥で、黄金の幾何学模様が冷徹に回転を始める。脳内に、案内人の警告アラートが鳴り響いた。
【警告ーー二年B組の室内にて、未知の高エネルギー生命体の構築データを感知。……既に完了しています】
「おい、なんだこれ……!?」
庄司が引き戸をガラガラと開けた瞬間、四人は息を呑んだ。そこは、日差しが差し込むいつもの教室ーーではなかった。
黒板いっぱいに、見たこともない幾何学的なエラーコードが発光しながらびっしりと記述され、数十個の机や椅子が物理法則を無視して、床から一センチほど宙に浮いて静止していたのだ。
正式な入学を前に、彼らが一番「日常」を実感するはずの聖域が、すでに異界と化しているーー。
そして、教壇の真ん中に、ちょこんと腰掛けている一人の小柄な少女がいた。銀色の長い髪を揺らし、場違いなほど無邪気な表情で、彼女はゆっくりと振り返る。
その瞳は、全てを吸い込むような「漆黒の虚無」だった。
『ーー「M-100」。入学前のサンプルデータの収集、完了』
リリスと名乗るその自律型情報生命体は、鈴を転がすような合成音声でそう告げた。
彼女の背後に、物理的な素材を一切必要としない、空間そのものをハッキングして実体化した光り輝く『機械の翼』がガシャガシャと展開される。
「初めまして、イレギュラーたち……私は「M-101」、リリス。あなたたちの温かい日常を、今から最高に不適合な数式で塗り替えてあげる」
リリスの瞳が妖しく光った瞬間、一ノ瀬の『観察眼』に強烈なノイズが走り、蓮の『機械魔法』の演算回路が一時的な妨害電波を受けて火花を散らす。
「くっ……『管理者権限』、強制奪取……っ!」
蓮が左手を突き出し、部屋全体の空間を強引に記述変更しようとした、その刹那。
リリスはクスクスと笑いながら、自らの身体を粒子状に分解し、空間の裂け目へと消えていった。
「……消えた? いや、今のは私たちの能力の『波長』を読み取るための罠よ! データを取られたわ!」
一ノ瀬が悔しそうに声を荒らげる。
机や椅子がガシャガシャと床に落ち、教室は元の静けさを取り戻した。しかし、残された四人の間には、拭いきれない戦慄が走っていた。
「……「リリス」。あいつ、完全に僕たちの能力の限界値を計算しようとしてた。今回は挨拶代わりってわけか……非効率な真似を」
蓮は冷たい汗を拭いながら、リリスが消えた教壇をじっと見つめた。
あいつは確実に、近いうちにまた現れる。
それも、僕たちの能力の裏をかく、完璧な対策を引っ提げて……春輝は、自分のせいでみんなの日常が脅かされていることに恐怖し、拳を強く握りしめた。庄司がその肩をガシッと叩く。
「気にするな春輝。どんな奴が来ようが、俺の術式でぶちのめしてやるよ」
ーーしかし、その不敵な笑みが、リリスの計算通りであることに、この時の四人はまだ気づいていなかった。
そして数日後。
放課後の誰もいない教室で、リリスは完璧な「イレギュラー対策術式」を完成させ、再び蓮の前に姿を現すことになる。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
春輝くんの体験入学にほのぼのしていたが、ラストのリリスの登場で一気に変わりましたね……。
攻撃特化ではなくハッキングや精神攻撃特化のめんどくさいタイプの敵に蓮たちはどのように対策を取るのか……十三話をお楽しみに!