世界のシステムを書き換える最強能力「管理者権限」を手に入れたので、日常をハッキングして無双します!   作:Laggliches

22 / 26
激闘から目覚めた蓮を迎えたのは……魔力流入が原因で「離れると情緒不安定になる」リリスだった!?

結衣との修羅場を経て、怯える彼女に「僕を基準にすればいい」と新しい居場所を与える蓮。甘々同居生活が始まるが、夕方、買い物袋を提げた結衣のドア蹴破り乱入で部屋は再び激震するーー!


第十四話 前半 暗殺者は銀髪の甘えん坊

「………ん」

 

数日続いた深い闇から、意識が浮上する。

蓮が最初に感じたのは、脳を刺すような鋭い痛みではなく、左腕に伝わる「重み」と、驚くほど確かな「熱」だった。

 

ゆっくりと目を開ける。

 

見慣れたアパートの天井。だが、視界の端に映り込んだのは、銀色の髪を扇状に広げ、自分の左腕を抱き枕のようにして眠る少女の姿だった。

 

(……リリス?)

 

声をかけようとしたが、喉が焼けたように掠れて音にならない。

その微かな動きを察知したのか、リリスの長い睫毛が震え、あの戦った時の漆黒の目とは違い、幾何学的な紋様を宿した瞳がゆっくりと開かれた。

 

「マスター、バイタルサインの正常化を確認。意識の再起動、おめでとうございます」

「……リリス、君、なんで僕の腕を………」

 

「事象修復(リライト)の際、マスターの魔力が私のコアに直接流入しました。現在、私の生存維持システムはマスターの生体エネルギーに依存しています……物理的に接触していないと、私の情緒演算が不安定になるという、致命的なエラーが発生しているためです」

 

ーー要するに離れたくないってことだな……。

 

彼女は不器用な理屈で説明した。その頬が、ほんのりと朱に染まっているのを蓮は見逃さなかった。

 

 

「……あら九条くん。起きたのね」

 

冷ややかな、だが明らかに安堵の混じった声が部屋の入口から響く。そこには、お盆を持った一ノ瀬さんが立っていた。

 

その背後には心配そうにこちらを覗き込む庄司と春輝の姿もある。

 

「起きて早々、その暗殺者さんと『リンク』中かしら?…あなたの脳、まだ半分焼けてるんじゃない?」

「一ノ瀬さん…………ごめん、心配かけた」

 

「分かればいいわ…さあ、リリスさん。ポンコツマスターが起きたんだから、いい加減その腕を解放しなさい。……それとも、私の『観察眼』でその接合部(腕)を物理的に切断してあげましょうか?」

 

一ノ瀬の背後に渦巻く殺気に、リリスは無表情のまま、しかし腕に込める力をさらに強めた。

 

「拒否します。一ノ瀬結衣……あなたの提案はマスターの回復を阻害する非論理的なものです………私は現在マスターの「妹」ではなく、唯一の『依存対象』として自己を再定義しました」

 

「……はぁ!?依存、何言ってるのよこの子は!」

「まあまあ、一ノ瀬さん…落ち着いてさ。リリスもまだ、今の状況にパニクってるんだよーー」

 

「マスター、違います。私は正常に作動しています。私はあなたの依存対象……及び『妹を超えた存在』です……なので、マスターの家に住まわせてもらいます」

 

「「「「はあ!?」」」

 

(これは、大変なことになったな......)

 

僕は壊死しそうなほど強く抱きつくリリスを横目にそう思った。

 

 

 

 

 

 

「……やっと、静かになったな」

 

一ノ瀬の説教と、庄司のバカ騒ぎが去ったあとの六畳一間。

時計の針の音だけが響く部屋で、蓮は枕元に置かれた「お見舞いのアイス(半分溶けかかっている)」を眺めながら溜息をついた。

隣には、一歩も動かずに蓮を凝視し続ける銀髪の少女、リリス。

 

「マスター。……一ノ瀬結衣が去り際に放った『変なことしたら、空間ごと消去するから』という発言の、論理的意図を解析できません……『変なこと』とは、具体的にどの術式を指すのですか?」

 

「……それは術式じゃなくて、ただの脅しだよ……リリス、君も少しは休んだらどうだ?さっきからずっと立ちっぱなしじゃないか」

「拒否します。………一人の時間は、危険です」

 

リリスはそう言うと、蓮のベッドの端に、申し訳程度に腰を下ろした。だが、その距離はわずか数センチ。衣服が擦れる音が聞こえるほど近い。

 

ーー数十秒、沈黙の時が流れた。

 

 

「…………はあ」

 

 

何もしなくてもいい休日。最近になってようやく本当の名前の『休日』が訪れた気がする。身体に溜まった疲れを晴らすように目をつぶってデカいため息をはいた。

「…ため息……マスター、私に何か不満を抱えているんですか?」

「……?ってうわ!」

目を開けた瞬間、目の前にリリスが心配そうな顔でこちらを覗いていた。

「左腕、もう一回借りますね。」

リリスは、蓮の左腕に自分の額をそっと押し当てた。

 

「……怖いです、マスター…。組織との繋がりが消えた瞬間、自分がどこにも属していないことに気づきました……演算すべき目的がない。……私は、これから何を基準に動けばいいのですか?」

蓮は、痛む頭を抑えながら、空いている右手でリリスの頭にそっと触れた。

 

「……なら、僕を基準にすればいい」

 

「………え?」

「君が何をすればいいか分からないなら、僕が教える。お腹が空いたら一緒に食べて、眠くなったら寝る……案内人が計算できないような、無意味で怠情な時間を、僕が君に命令するよ」

彼女の頭をそっと撫で、蓮が優しく微笑むと、リリスの心臓が、今まで一度も出したことのない熱を発した。

彼女にとって、それは「神の命令」よりも重く、そして救いに満ちた言葉だった。

 

「……マスターを、基準に………私の全リソースを、あなたの日常を守るためだけに最適化する…それが、私の新しい「定義」なのですね」

 

「……まあ、そこまで重く考えなくていいんだけどーー」リリスは、蓮の言葉を遮るように、さらに強くその腕を抱きしめた。

 

「……了解しました、マスター。離しません……たとえあなたの案内人が『非効率だ』と警告しても、私の回路はあなたを『最優先定数』として固定しました」

「……あ、これ、ちょっとめんどくさいことになったかも」

 

蓮が苦笑いしていると、リリスは嬉しそうに、猫のように目を細め

て蓮の腕に頬を寄せた。

 

約五分後……

 

「……リリス。あの、いつまでこの状態を続けるんだい?」

「私が満足するまで……です。」

「…………………」

 

さらに十分後……

 

「……リリス?さすがにもう満足じゃーー」

 

「否定、まだ私の満足度は30%も満たしておりません」

「何か効率的に上げる方法は無いのか?」

「二つ、あります。」

 

「……教えてくれ」

 

「私の唇とマスターの唇が互いに触れあうことが一つ」

「却下で頼む……二つ目は?」

「私の頭を再び撫でることです」

「……それ以外は」

「無いです」

 

「……………わかった。それにする」

 

……十分後

 

「……げ、限界だ…。リリス、満足か…」

「約75%もう少しです。やはり、唇をーー」

 

「却下……だ。」

 

「胸がふわふわした気持ちになっています。もう少しです、頑張ってください、マスター」

「み、右腕の感覚が無いんだが…それに痺れてきた」

「ならば、その腕を強制的にハッキングして無理やりにでも……」

「あ、はい。頑張ります」

 

……十五分後

 

「……ハハっ、そうか分かった…全て夢だったんだ」

 

【……マスター?】

 

「ーー蓮さん?」

 

「そうだよ……夢だよ。この感覚、この刺激、この高揚感は!全部夢だ!それ以外にはありえない!なんで分からなかったんだ!夢だ、夢だ……夢だったんだああぁぁぁああ!」

 

「マスターっ!?」

 

【ーー蓮さん!?】

 

……五分後

 

【……一時的な精神異常。右腕の軽い神経麻連。左腕の圧迫による軽いうっ血……リリスさん、これはどういうことですか?】

 

「…いや、その………ごめんなさい。マスター…」

「……あはっ、大丈夫だ。むしろ、少し発散が出来たっ、エヘッ」

 

「……申し訳ないですけど、少し……気持ち悪い、です」

「…………だってよ、案内人」

 

「ーー否定、否定!九条蓮、あなたに言っているのですよ!】

 

「はははっ、照れてる」

 

【ーー否定!OSに『照れ』はダウンロードしていません!】

 

 

 

 

「あ、あの……マスター。……腹部に、未知の振動が発生しています」不意に、リリスが自分のお腹をさすりながら眉をひそめた。

 

「エネルギー残量は80%を維持しているはずですが……内部器官が、不規則に収縮を繰り返しています……これは、マザーからの遠隔攻撃ですか?」

「……いや、リリス。それを世間では『お腹が空いた』って言うんだよ」

 

蓮は苦笑いして、起き上がろうとした。だが、瞬時にリリスの手が彼の肩を優しく、しかし確実にベッドへと押し戻す。

 

「マスターは安静が必要です。先ほどの反省……私が、解決します」

「料理、できるのか?」

「……問題ありません…ネットワーク上のレシピデータを1,2秒でスキャン完了……最適解を選択します」

 

そう言ってリリスがキッチンへ向かってから十五分。蓮の前に運ばれてきたのは、左右対称の完璧な形をした「おにぎり」と、ミリ単位で刻まれたネギが浮かぶ「味噌汁」だった。

 

「リリス、これ、形が良すぎて逆に食べるのが怖いんだけど」

 

「……味覚センサーは搭載していませんが、成分比率は完璧なはずです。…さあ、マスター……供給(あーん)を、実行します」

「…自分で食べられるって」

 

「……拒否。…私は、あなたの『手』であり『足』であると再定義しました……口を開けてください。でないと、強制的に顎の関節をハッキングします」

 

「…物騒だなぁ、もう」

 

蓮は観念して口を開けた。リリスの手が、わずかに震えている。機械の精密さを持つ彼女が、ただおにぎりを食べさせるという行為に、それほどの計算リソースを割いている。

 

「……美味しいか、の確認を要求します」

「……あぁ…冷たい計算で作られたとは思えないくらい、温かいよ」

 

リリスの瞳の幾何学模様が、一瞬だけ、虹色に明滅した。それは彼女の感情回路が、マザーの支配下では決して出せなかった「幸福」という名のオーバーフローを起こした証だった。

 

「ではこの味噌汁は……どうでしょうか?」

 

差し出された不気味なほど完璧な味噌汁を一飲みする。

 

「……美味い」

「っ!良かったです」

 

リリスの頭から味噌汁と同じような湯気が立ち昇っている。これ以上、褒めるとオーバーヒートしそうなほど、彼女は高揚していた。

 

「……待って、そういえばこの味噌ってどこの奴だ」

「味噌は……あなたの家のものですが、何か問題でも?」

 

「多分、その味噌、賞味期限三ヶ月経ってる」

 

「あっ、」

 

彼女は一時的にフリーズした。

 

「案内人、僕が飲んだ味噌汁の中にヤバい病原体がいたら排除してくれ」

 

【ーー了解しました】

 

なぜか案内人の声は不思議と元気だった。

大変な食事を終え、柔らかな午後の光が部屋に満ちる。

 

「…リリス、もう気にしてないからさ、元気出せって」

「私は、戦う事しかできない……ポンコツロボットです」

「そんなわけないよ……仮にそうだとしてもこんなミスばっかしないでしょ?」

「……褒めてるんですか?貶してるんですか?」

 

体育座りで軽く病んでるリリスを必死に元気にさせていった。

 

ーーあまり、褒めるのは上手くないが……

 

「……まあまあ、リリス。お腹いっぱいになったら、次は『お昼寝』

だ……。これも大事な日常の任務だよ」

「お昼寝。……スリープモードへの移行、了解しました」

 

 

 

 

 

「一つ提案があります」

リリスは蓮の掛け布団の端を、ぎゅっと掴んだ。

 

「……暗闇は、怖くありません。……ですが、接続が切れるのが、怖いです。マスター、その……隣に侵入しても、よろしいでしょうか」

 

「……一ノ瀬さんに殺されるぞ、僕が」

「……空間消去の前に、私が防壁を展開します。…許可を」

「……庄司とかに黒閃打たれたらどうするんだ?」

 

「私が身代わりになります。マスター、唇を交わすか、一緒に寝るかどちらかを選択してください」

 

「………………どっちも嫌なんだが」

「両方選択しない場合、私が強制的に両方選びます」

 

結局、蓮は折れた。狭いシングルベット、蓮の隣で、リリスは彼のパジャマの柚をしっかりと握りしめたまま、静かに目を閉じた。

 

彼女から伝わってくる、一定のリズムの鼓動。それはもう、暗殺者の冷たい振動ではなく、ただの「寂しがり屋な少女」のものだった。

 

「マスター、寒いです。抱きしめを許可してください」

「………はあ(ため息)、許可するよ」

 

腰からお腹にかけて細くて温かい腕が入り込む。

瞬間的に近くなった彼女の吐息や、女性だけに存在する、あばら骨付近の独特な柔らかいものの感触まで、ゼロ距離で感じ取れてとても睡眠に集中できる状態ではなかった。

 

(……案内人、これ、どう思う?)

 

【……蓮さん…私の計算によれば、あなたの今後の人生における「平和な睡眠」の確率は、限りなくゼロに近づきました……おめでとうございます。……賑やかな地獄へようこそ】

 

案内人の呆れたような声を子守唄にする。

なんだかんだ、彼女の温かな感触は心地よく蓮は数日ぶりの、本当の意味で穏やかな眠りに落ちていった。

 

夕方、一ノ瀬が買い物袋を提げてドアを蹴破る、その直前まで。

 




最後まで読んでくださりありがとうございました!
激闘を終えて、リリスが最高に可愛いポンコツデレ妹(?)になる第十話でした!
ラストで一ノ瀬結衣の怒りのドア蹴破りが発生し、蓮の平穏な日々は無事に崩壊です(笑)後半もどうぞお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。