世界のシステムを書き換える最強能力「管理者権限」を手に入れたので、日常をハッキングして無双します! 作:Laggliches
蓮:「いや……ただの買い物だよ。本当に」
リ:「私も連れていってください。……マスターと一緒に居たいです。」
蓮:「……リリスは良い子だからお留守番できるかな〜?」
リ:「っ!?」
蓮:「あ〜あ、リリスは悪い子なのかなぁ?良い子はお留守番くらいできるはずなんだけどなぁ?」
リ:「私は良い子です!!お留守番します!!」
蓮:「よし!じゃあ、準備してくるよ」
「じゃあ、行ってくるよ」
「……マスター、お気をつけて。戸締まりは私のシステムが24時間体制で厳重にロックいたします」
「二十四時間って……ただの買い物だよ。あ、案内人。今日は休憩してて良いよ」
【ーー休憩アプリ、インストールありがとうございます。三時間スリープモード、オン】
蓮が日用品の買い出しのためにアパートを出てから、およそ十分後。
六畳一間の静寂を破るように、ピンポーン、と間の抜けた電子音が鳴り響いた。
「……?マスターの帰還にしては早すぎますね。通信によると、現在の蓮の座標は駅前のドラッグストアのはずですが」
リリスは怪訝そうに首を傾げた。
案内人のセンサーが【不審者ではない、知人である】とログを返したため、彼女はゆっくりと玄関のドアを開ける。
そこに立っていたのは、いつになく落ち着かない様子で、自分の服の裾を何度も弄っている春輝だった。
「あ、あの……その……っ」
春輝は顔を真っ赤にして、視線を泳がせている。リリスがじっと無言で見つめると、彼は意を決したように、ぎゅっと目を瞑って叫んだ。
「さ、散歩に、行きませんか!」
「…………え?」
リリスの脳内システムが一瞬、フリーズした。
脳内にインプットされた蓮の『恋愛シミュレーション』のデータを使い、凄まじい速度で検索を開始する。
(ログ:主人公の留守中に訪れる、気弱な男友達ーーこれは、もしや一ノ瀬結衣の『幼馴染属性』を越える、新ルートの解放。……世に言う『略奪』のイベントですか……!?)
そんなリリスの壮大な勘違いなど露知らず、春輝は耳まで真っ赤にしてモジモジしている。
こうして、元組織の経歴を持つ2人の、どこか噛み合わないドギマギしたお昼のお散歩が始まるのだった。
「灰原春輝、あれはなんですか?[検索……ト◯タの車]……車ってなんですか?新たなレガシーですか?」
「リリスさん!あれは車っていう乗り物で、突撃してくる魔獣じゃないから構えなくて大丈夫です!あとあっちの赤い箱はポストっていって、爆発物じゃなくて手紙を入れる場所だからビーム打とうとしないで……!」
「なるほど、マスターの住む街は一見平和ですが、擬態した罠が多いのですね。油断なりません」
「いや、そうゆうことではなく……」
マザー組織の検索機能という便利すぎる能力があったが、リリス自体の記憶がごっそり抜けているので全てが新鮮だった。
初めて見る外の世界に、リリスは右を向いては目を輝かせ、左を向いては警戒システムを稼働させ、とにかく一秒たりとも落ち着きがない。
「この鉄の塊、複数のボタンに対して色とりどりの液体を内蔵しています。マザーの毒物供給端末ですか?」
自動販売機の前にこれば、システムアイを光らせる。
「違います! お金を払えば冷たいジュースが買えるオアシスです!」と春輝が慌てて100円玉を投入し、缶コーラを握らせる。
リリスは「……未知の炭酸刺激、脳の演算速度が0.002%向上しました」と静かに感動していた。
さらに歩けば、クレープの移動販売車を見つけてピタリと足を止める。
「リリスさん、クレープ食べたいの?」
「……蓮さんの恋愛メモによると、現代の異性交遊において『クレープを半分個する』という行為は、親愛度を急速に上昇させるバグ技と記録されています。春輝、私とバグを起こしますか?」
「な、なな、何言ってるんですかリリスさん!?」
距離感の近さにずっとドギマギしている春輝は、心臓が爆発しそうになりながらも、彼女にいちごチョコクレープを買い与えた。
リリスが幸せそうに口の端に生クリームをつけたのを見て、ハンカチを差し出すべきか3分間脳内で葛藤したりと、春輝にとっては幾多のコミカルな試練の連続だった。
そんな賑やかな迷珍道中を経て、二人は大きな木陰にある公園のベンチに腰を下ろした。
賑やかな街の喧騒から少し離れ、夕暮れの心地よい風が吹き抜ける。春輝はしばらく、買い直した冷たい缶ジュースを見つめていたが、意を決したように、静かに本題を切り出した。
「……リリスさん。僕たちが組織の『アーカイブ』で、非人道的な改造実験を受けていた時のこと……覚えていますか?」
「ええ。思い出したくもないログですが、私のメモリーから消去することはできません」
「あの時……僕のすぐ横のポッドに、囚われていた子がいましたよね」
リリスは、缶を握る春輝の指がわずかに震えているのに気づき、クレープを食べる手を止めた。
「……どうして……それを知っているの?被験者同士の視覚共有は、システムの壁で完全に遮断されていたはずですが」
「僕も酷い改造を受けて、感覚が狂いそうになっていたんです。でもその時、激しい拒絶反応の熱の中で、壁の向こうから聞こえる女の子の微かな呼吸の音が、ずっと気になっていて……。今日、近くを歩いて確信しました。やっぱり、あの時の隣の子は、リリスさんだったんですね」
「…………」
リリスの瞳が、驚きに小さく揺れる。彼女の頭脳が、厳重にロックされていた最深部のログを解凍していく。
「『M-100』……まさか、あの暗闇の中で、私の微弱な生存シグナルを拾い続けていた隣の子が、あなただったなんて……知らなかったです」
「僕のコードは『M-100』で、リリスさんは『M-101』……。ただの通称に過ぎないと思ってたんですけど、まさか本当にお隣同士だったとは……。世界って、不思議なところで繋がっているんですね」
かつて冷酷な研究所で、ただ苦痛に耐えていた隣り合わせの二人が、今はこうして、蓮のくれた温かい世界で並んで笑い合っている。
「……今日チョコミントアイス売り切れだった……って、あれ? 二人で何してんの?」
ビニール袋を提げた蓮が、きょとんとした顔でベンチの後ろから現れた。
「あ……あの、その…これは」
「……お友達とのお散歩交流です。」
「はは〜ん。春輝、そういうことね……」
「ち、違いますっ!!」
「……違うんですか、春輝くん……」
「……っ! …………蓮さん、散歩してました」
「………良かったね。仲良くなって」
二人の間にあったぎこちない距離感は、いつの間にか、とても心地の良いものへと書き換わっていたのだった。
蓮:「そういえば春輝、どうやってリリスを誘うことが出来たんだ?」
春輝:「え、蓮さんの家に行って誘ったら普通についてきましたよ?」
蓮:「リリス、お留守番は?」
リ:「………あ、」
蓮:「これは、悪い子だねぇ」
リ:「いやっ、嫌です!!私は蓮さんにとって良い子でいたいです!」
春輝:「……リリスさんが取り乱してる……」
リ:「……っ!?」
蓮:「まあ、冗談だよ。リリスは良い子良い子……ま、今日は大目に見てあげるよ。次は僕に教えてから行ってね」
リ:「ありがとうございます!」
春輝:「……良いんだ………」