世界のシステムを書き換える最強能力「管理者権限」を手に入れたので、日常をハッキングして無双します!   作:Laggliches

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第十五話 後半 シックス・マニピュレーター

「……さて。くだらない痴話喧嘩とお散歩の報告会はここまでよ」

 

朝食を終え、一ノ瀬が、空になったお皿を脇に避けて真剣な眼差しでテーブルを叩いた。

彼女の瞳の奥で、再び赤い紋様が静かに脈打ち始める。

 

「九条くん、そしてリリスさん。私たちは、のんびりアイスを食べて寝ている暇なんてないわ。……これを見て」

 

一ノ瀬がスマートフォンをテーブルの中央に置いた。画面には、見たこともない無数の数式と、世界中の電子信号が複雑に絡み合う立体的な暗号ログが投影されている。

 

「マザーの直轄組織『アーカイブ』……世界をシステムの裏から支配している、あの非人道的な研究所の『中枢施設』……。私の『観察眼』で世界の電脳流を逆探知したけれど、あまりに強固なプロテクトのせいで、組織の正確な物理座標まではどうしても特定できないの」

 

その画面を覗き込んだ庄司が、ふん、と鼻を鳴らす。

 

「さすがの世界を管理するAI様だな。居場所を徹底的に隠してやがる」

「……この暗号、見覚えがあります」

 

じっと画面を見つめていた春輝が、ぽつりと言った。

 

「僕たちが『アーカイブ』にいた頃、実験室のモニターにいつも流れていました。研究所の人たちの服にもこんなマークがありました」

 

「はい……マザーのプロテクトパターン『タイプ・オメガ』ですね。外部からのハッキングに対しては、空間消去プログラムが自動起動する仕組みになっています。……ですが、内側からなら話は別です」

 

リリスが、そっと自分の小さな右手を春輝の前に差し出した。

「春輝……あなたのコード『M-100』のアクセス権限と、私の『M-101』の演算能力を同期させます。かつてのお隣さん、共同作業といきましょう」

「うん、やろう、リリスさん。僕たちの過去を、今ここで役立てるんだ」

 

春輝がリリスの手をぎゅっと握り返す。

その瞬間、二人の周囲の空間が微かに青く発光し、六畳一間のリビングに凄まじい密度の魔力と電脳データが渦巻き始めた。

 

元・組織の実験体である連番の二人が重なることで、マザーのセキュリティを「身内のアクセス」だと誤認させる、命懸けの偽装パスワードの生成が始まったのだ。

 

【ーーシステム起動。個体名『M-100』および『M-101』の精神リンクを確認。現在、二人の脳内演算速度は通常時の450%に達しています。警告:九条蓮、二人の脳細胞の活性化、および精神的オーバーヒートを検知。演算終了と同時に、まとめてお疲れ様でしたと伝える準備を開始します】

 

「案内人!不吉な実況はいいから、二人のデータ処理のバックアップを全力で手伝え!」

 

【了解。マザーの暗号隔壁のデリートをアシストします。3、2、1……GO!!】

 

案内人の冷徹なシステム音声が響くと同時に、スマートフォンに投影されていた無数の暗号が、ガラスが割れるような音を立てて次々と弾け飛んでいった。

 

ーーバシィィィン!

 

眩い光が収まった画面には、大破したプロテクトの奥から、一つの日本地図が鮮明に浮かび上がっていた。

 

「……特定、完了しました」

 

リリスが少しだけ息を荒くしながら、僕の正面に座る一ノ瀬を見つめる。

 

「マザーの組織、その絶対的な本拠地はーーこの街の地下に広がる『廃隔離セクター』です。私たちを非人道的な改造を施した……あの始まりの場所です」

「見つけたわね、マザー……」

 

一ノ瀬が冷たく微笑み、立ち上がろうとしたーーその時。

 

スマートフォンの画面が突如として真っ赤に染まり、新たなエラーログが滝のように流れ落ちた。

 

【ーー緊急警告。九条蓮、ぬか喜び、誠にお疲れ様でした。『アーカイブ』の周囲に、通常の物理法則では干渉不可能な『高次元位相障壁』を検知。接近した物質は分子レベルで別の次元へ消去されます】

 

「何だって……!?案内人、入れないのか!?」

 

【はい。マザーの真の役割は『世界の管理』だけではありません。この世界が他次元の干渉を受けないための『次元の管理』……つまり世界そのものの境界線を握るシステムです。現在、本部へのアクセス権限は、日本各地に点在する6つの『サブ拠点(サーバー)』によって分散管理されています】

 

案内人が淡々と表示した地図には、北海道から九州まで、日本を囲むように6つの不気味な光点が浮かび上がっていた。

 

「なるほどね……」

庄司が腕を組み、苦々しく舌を鳴らす。

 

「つまり、その6つのサブ拠点をすべて物理的に『再起不可(クラッシュ)』しない限り、地下の本部には指一本触れられないってわけか」

 

「6つの拠点……。マザーが世界の次元を固定するために配置した、錨(アンカー)のようなものですね」

春輝が地図の光点を見つめながら、拳をぎゅっと握りしめる。

 

「日本全国、6箇所をめぐる長旅になりそうね」

彼女が、むしろ楽しそうに髪をかき上げた。その瞳の赤い紋様が、戦意を証明するように激しく明滅する。

 

「リリス。まずは最初のターゲットをロックオンしなさい。私たちの手で、マザーのシステムを一つずつ引き剥ぎに行くわよ」

 

 

「了解しました、一ノ瀬結衣。……マスター、最初の目的地を設定します。比較的攻略可能な、第一のサブ拠点ーー北海道『絶対零度廃坑』へ。これより、マザーの支配から世界を直す、私たちの旅のログを開始します」

 

 

六畳一間の狭い部屋から、日本全国、そして「次元」の境界線を巡る壮大な戦いへ。

 

僕がただ静かにアイスを食べて寝られる平穏な日常を取り戻すための、本当の長旅が、今ここから始まろうとしていたーー。

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