世界のシステムを書き換える最強能力「管理者権限」を手に入れたので、日常をハッキングして無双します! 作:Laggliches
【ーー警告。これより当列車は、最下層『コア・セクター』の防衛隔壁、および大型兵器へと激突します。ーー3、2、1……戦闘準備をどうぞ、不合理なマスター】
案内人の冷徹なカウントダウンがゼロに達した瞬間、暴走する特急列車は、敵の巨躯と最下層の扉を目指し、大爆音とともに突撃した。
ーーゴガァァァァァンッ!!!
天地を揺るがすような衝撃が一行を襲う。H.D.Sの障壁と『レガシー・ギガント』の赤黒いプラズマ砲が正面衝突し、視界が真っ白な光に染まった。
列車は限界を超えた軋み声を上げながら、巨大蜘蛛の肉薄する巨躯を文字通り「轢き潰し」、防衛隔壁を強引に突き破って最下層の凍結空洞へと滑り込む。
しかし、マザーの最高峰兵器はそれだけでは止まらない。
「キャッ……!?」
「リリスさん、危ない!」
激しい揺れの中、春輝がリリスを庇って身を伏せる。直後、バリバリと耳障りな金属音が響き、列車の天井が紙のように引き裂かれた。
車内に侵入してきたのは、レガシー・ギガントの鋭利な鋼鉄の脚だ。家一軒ほどの巨躯を列車の屋根に乗せたまま、蜘蛛型戦車は車内へとその凶刃を突き立ててきた。
そして、引き裂かれた天井から、廃坑の極限の冷気と共に奇妙な幾何学数式が降り注ぐ。
マザー直轄の防衛コード『絶対零度・論理凍結』。
「ッ……く、そ……!?」
蓮の顔から血の気が引いた。右腕に変形させたアームの駆動光が明滅し、車外のH.D.Sが次々とシステムフリーズを起こして消滅していく。
脳内の論理演算回路が、寒冷コードによって完全にフリーズを起こしていた。指一本動かせない。
無防備な蓮の脳頭頂部めがけて、蜘蛛の鋼鉄脚が槍のように振り下ろされる。
「九条くんッ!!」
結衣の悲鳴が響く。間に合わないと誰もがそう確信した瞬間ーー
「おいおいおい! 俺の大事な親友に触んじゃねえよ!!」
凍りつく空間を割り込んで、一人の男が蓮の前に躍り出た。『桐乃庄司』
その瞳には、恐怖など微塵もない。あるのは、最高に昂っている闘志だけ。
「これで最後だ……! ラスト一スロット消費!!」
庄司が刻まれた生得術式を強制起動する。
「再現ーー『連鎖紋』ッ!!!」
バチィィン!と不気味な雷鳴のような音が響き、庄司の右拳、そして振り下ろされた蜘蛛の鋼鉄脚に、禍々しい「紋様」が同時に浮かび上がった。
「おらぁぁぁぁッ!!」
庄司の渾身の右ストレートが、鋼鉄の足に刻まれた紋様と激突する。
ーードガァァン!!
『連鎖紋』で強制的に作られた弱点『紋様』を連鎖的に叩くことで威力が倍増するのである。
中学生の肉体から放たれたとは到底思えない質量の一撃が、レガシー・ギガントの脚をピキリと歪ませた。そして拳が接触した瞬間、敵の脚に「2つ目の紋様」がネズミ講式に強制発生する。
「……まだまだぁ! 二連撃ォ!!」
引き絞った左拳が、吸い込まれるように2つ目の紋様をぶち抜いた。
「どんどんいくぞおぉぉ!!!」
三連、四連、五連……庄司は弱点を的確に貫いていった。
列車の床板が衝撃波だけで消し飛び、火花と暴風が車内を狂ったように吹き荒れる。
「すごい……! 庄司くん、そのまま押し潰してください!」
背後で春輝の目が輝く。庄司はその声に応えるように、バキバキと音を立てる自身の右腕をさらに大きく振りかぶった。
連鎖紋が何重にも重なり、敵の装甲が耐えきれずに悲鳴を上げている。
「これで、終わりだぁぁあ!!俺の特大を見せてやる!!」
庄司が全体重を乗せ、この日一番の咆哮とともに拳を突き出した。
「くらえぇ!超多層連鎖ーー『黒閃』!!!」
実際にはただの連鎖紋による『超絶ゴリラパンチ』である。
しかし、本人が言い張るその虚妄の威力は、現実の物理法則を容易く凌駕した。
ーーバキィィィィィィンッ!!!!!
鼓膜を破らんばかりの衝撃音が坑道に炸裂する。
黒い火花は出なかったが、家一軒ほどもあったレガシー・ギガントの巨躯が庄司の拳一つから放たれた圧倒的な衝撃波によって、列車の屋根ごとまとめて車外へと派手に弾き飛ばされた。
自慢の鋼鉄脚は根元から粉々に消し飛び、蜘蛛型戦車は激しく火花を散らしながら線路へと転がっていく。
ーーボンッ!!!
すると、何かが暴発したような音が列車内で響いた。蓮がその方向を見ると視線の先にはやっぱり庄司がいるが、その手にはどこから現れたのか分からない『刀』が握られていた。刀身は熱を帯びたように赤白く発光している。
「……庄司、その刀は何?」
「はぁ、はぁ……術式が切れたときに一時的に呪具がパージする仕組みらしい。……厄介だが、攻撃手段が生まれるのはありがたいんだ!」
庄司が親指を立ててニカッと笑う。
だが、弾き飛ばされたレガシー・ギガントの傷口から、不気味な銀色のナノマシンが噴出し、秒速で脚を再構成し始めていた。
マザーの自己修復システムだ。
「嘘、もう直っていくの……!?」
結衣が歯噛みする。庄司の術式はもう使えず、刀だけでは心許ない。蓮の演算はいまだ凍結したままだ。
しかし、戦闘困難の庄司の背中を通り抜け、今度は一ノ瀬結衣が前へ出た。その瞳は、すべての軌道を見通す『観察眼』によって、赤く、妖しく輝いている。
「……いいえ、見えたわ。あの蜘蛛、再生する一瞬だけ、中央コアの暗号化が完全に解除されてる!」
結衣は迷わず、未だ硬直している蓮の元へ駆け寄ると、彼の冷え切った頬を両手で強く包み込んだ。
「九条くん、私の目を見て……見なさい!!」
「一ノ瀬さん……?」
「私の瞳は世界を見通す。だから、私の視界にあるすべての情報を、あなたのシステムに直接同期させてあげる!!」
結衣の瞳から、視線を通じて純粋な視覚ログが、蓮のフリーズした論理回路へと濁流のように流れ込む。
敵のコアの座標、暗号が解けるコンマ数秒のタイミング、そのすべてが完璧に同期された。
結衣の『観察眼』という最高のバフを受け、蓮のシステムが爆発的に再起動する。
「ーーリブート完了。一ノ瀬さん、最高の観測ログをありがとう。リリス、もう一回僕に帯域を開いて!」
「……はい、マスター!」
蓮がリリスの手を強く握る。
「もう一度、アップデートだ!!!」
ハッキング能力4000%ブースト。
蓮と案内人の管理者権限とリリスのAI演算が瞬時に融合し、レガシー・ギガントの自己修復ナノマシンの制御権を秒速で強奪。
それを『自己崩壊コード』へとリライトしていく。
「お返しだ。みんなのアイスの時間を邪魔した罪は重いよ……消えちゃえ、レガシー!」
蓮が手をかざすと、復活した108機のH.D.Sが一点に集束し、結衣の指し示した『暗号の解けたコア』へと、極太の熱線を一寸の狂いもなく撃ち抜いた。
ーーードガァァァァン!!!
自己崩壊コードと熱線の直撃により、レガシー・ギガントは内側から大爆発を起こし、光の塵となって完全に消滅した。
爆発の凄まじい推進力を受けて、サボり特急はさらに加速し、ついに最下層のマザーの寒冷地サブ拠点を統括する『メインサーバー・コア』の部屋へと防壁ごと突っ込んだ。
キィィィン……と不気味な電子音が鳴り響く。
部屋の中央には、数万本の光ファイバーと凍てつく冷却液に満たされた、巨大なタワー型のメインサーバーが鎮座していた。
これこそが、この街への障壁を維持している北海道アンカーの本体だ。
「よし、あそこが心臓部ね!九条くん、ハッキングでシステムの機能を完全に停止させて!」
結衣が鋭く指示を出す。蓮はリリスの手を握ったまま、サーバーの前に一歩踏み出し、瞳に無数のバイナリコードを走らせた。
「……分かった。……これだけの規模のサーバーだ、マザーの最高暗号を解除して内部から内部ログを消去する。少し時間がかかるよ、リリス、演算の補助をーー」
蓮が『管理者権限』のシステムを展開し、超高速ハッキングを開始しようとした、その瞬間だった。
「あー、クソ!寒いし、刀重いし、なんか画面がチカチカしてて、見てるだけで頭痛くなってきな!」
すべての術式を使い果たし、完全にやることがなくなって暇を持て余していた庄司が、めんどくさそうにサーバーのコントロールパネルへ歩み寄った。蓮が反応する時には、既に刀身をパネルに向けていた。
「刀でぶっ刺せば解決でしょ!オラァァ『突き刺し』!!!!!」
ーーガキィィィィィン!!!
「……あ」
蓮の動きがピタリと止まった。庄司の馬鹿みたいな筋肉と、刀の恐ろしい鋭さも相まって、数億通りのハッキング防護壁を誇っていた超高精密メインサーバーは、信じられない角度でメキメキと真ん中から折れ曲がった。
内部の基盤が火花を散らして全損し、最高級の冷却液がブシャァァッ!と間欠泉のように噴き出す。
チカ……チカチカ……プスン
世界を脅かす人工知能マザーのサブ拠点が、「突き刺し」によって完全に物理ショートした瞬間だった。
「……え?」
蓮の口から間抜けた声が漏れる。
隣でリリスが[検索……刀によるサーバーの破壊:検索結果無し]と虚空にログを出している。
「よし! 画面消えたな! 直ったぜ蓮!」
「直ってないよバカァァ!!!壊れてるよ!!完全に物理的にクラッシュしちゃったよ!!僕のこれまでの論理演算の格好よさを返して!?」
蓮が頭を抱えて絶叫する。しかし、ツッコミを入れている余裕は一秒もなかった。アンカーの完全沈黙に伴い、拠点を維持していた『高次元位相エネルギー』が完全に暴走。
周囲の空間がガラスのようにパリパリとひび割れ始め、凍りついていた坑道の壁が凄まじい勢いで崩落し始めたのだ。
ーーズズズ、グラグラグラグラッ!!!
「ちょっと庄司くん!!何やってんのよこの脳筋男!!廃坑全体が崩れていくわ!!」
「わわわ、天井から岩が降ってきました!庄司くんのせいで生き埋めです!」
結衣が怒髪天を突き、春輝が頭を抱えて悲鳴を上げる。
【ーー警告。北海道アンカーの物理的、完全大破を確認。……お疲れ様でした、不合理極まりないマスター。これより当セクターは30秒以内に完全崩壊します。各自、気合いで脱出してください】
「案内人さん投げやりすぎない!?」
背後でゴゴゴゴゴと映画のワンシーンのように崩れ落ちてくる巨岩の嵐。
蓮は涙目になりながら、リリスを小脇に抱え、狂ったように叫んだ。
「もうこうなったらヤケクソだ!一スロット消費……違う違う!『全自動・強制サボりエスケープ』フルチャージーー!!!」
蓮の『管理者権限』が暴走気味に発動し、一行の足元に巨大な魔法陣が展開される。
ドガァァァン!という大崩落の音と共に、廃坑が完全に地中に沈み込む直前、蓮たちは光の粒子となってその場から強引に転送(強制サボり)されたのだった。
ーー数分後
北海道の、とあるのどかな温泉街の裏路地。
「……ぶふぇっ!?」
空間からゴミのようにポロッと吐き出された蓮、庄司、結衣、春輝、リリスの5人は、雪の積もった地面に綺麗に頭から突っ込んだ。
「痛たた……ひどい目に遭ったわ……」
結衣が髪についた雪を払いながら起き上がる。
「……お、刀が引っ込んだ。……さっきの冷却液で刀が冷えて術式が戻ったんかな?」
その視線の先では、庄司が「温泉街」の看板を見上げて、何事もなかったかのように爽やかに笑っていた。
「おう、みんな、結果オーライだろ!サーバーも壊れたし、温泉にも着いた! 完璧じゃねえか!」
「お前は一回、その右腕をプロテインごとにバラバラに解体されてこい!」
蓮が息も絶え絶えに愚痴をこぼす。すると、リリスがトコトコと蓮の隣に歩み寄り、雪で冷え切った蓮の手をぎゅっと握りしめた。
「……マスター、寒いです。[検索……『温泉』:冷えた身体をマスターと混浴で温めるイベント]を実行することを強く要求します」
「なっ、何言ってるのリリス!?」
ピキッ
一瞬にして、周囲の降り積もる雪すらも凍りつくような『真の絶対零度』の気配が漂う。
一ノ瀬結衣の瞳が、ジワリと赤く、過去最高に不穏に輝いていた。
「……へえ。九条くん、北海道の温泉って、随分と『開放的』なところなのね?まだ余力はあるわよ……サーバーの次は、あなたのその不届きな倫理回路を、私の手で物理的に台パン(ショート)させてあげましょうか?」
「ひぃっ!? 一ノ瀬さん、目がガチだよ!?庄司助けて!」
「おう蓮、男なら前へ出ろ!これぞ日頃の鍛錬の成果を見せる時だ!」
「僕、庄司くんが買っておいてくれたポテトチップス開けますねー!」
【ーー報告。北海道アンカーの完全消去ログを記録。……お疲れ様でした。マザーの脅威からは救われましたが、九条蓮の命の灯火は、一ノ瀬結衣のヤンデレツンデレ領域によって残り数十秒と予測されます。簡易領域で中和することを勧めますが、無理ですね……南無三】
こうして、バグり散らかしたカオス空気のまま、一行の「北海道編」は、ある意味での大ピンチを迎えながら幕を閉じるのだった。
庄:「やったぜ!旅館に行けるんだ!!!」
蓮:「……すぐワープして行くよ。もう疲れたから」
結:「賛成だわ……」
春:「……リリスさん、何してるの?」
リ:「………………んぐんぐ(雪に顔を埋めている)」
結:「コラ、リリスさん。風邪引くわよ。」
庄:「雪合戦ならまたやろうぜ!!!」
蓮:「…………庄司とやると顔陥没するから無理」
庄:「Σ(゚д゚lll)」